第四話 ファルソ村
村は広大な緑野の中にあった。
緩やかに下る山の裾野に、色鮮やかなペンキを零したような空間は、遠目からもひときわ目立ち生彩を放っている。
山を背後として広がる平野は、見渡す限りの緑野が地平線まで続いていた。
緑野の中を、灰白色の街道がか細く延びているのが見える。
一方は南の奥へ。もう一方は低く連なる山々に沿うように西へ。
「なるほど」
低い山の頂。少し開けた崖の上から村の景色を眺めていたクロイツは呟いた。
「聞いてはいたけど、ずいぶん目立つなぁ」
花の村と謳われるファルソ村は最初に訪れる村としてはなかなか悪くない。
村の景観の美しさに自然と顔がほころんだ。
『ずっと森の中を抜けてきましたから。よりそう感じるのかもしれませんね』
単調な緑と木々の茶色が支配していた森。
朝のユングの一件で警戒をしていたが、その後は何の動物にも会うこともなかった。
軽く汗ばんだ額の汗を手で拭う。村まではあとほんの少しだ。
日はまだ高く、少し折り返したところ。
降り注ぐ日差しは初夏に相応しく晴れやかに強かった。
そんな山の頂には、平野からの清々しい風が通っておりとても心地が良い。
クロイツは一息ついて、改めて風景を見返した後、山を下って村へと延びる街道へと向かった。
村から西へと延びる街道へ出ると、クロイツは久しぶりに安堵した。
風の鎧を解き、両脇に木々が生い茂る街道を、村のほうへと歩いていく。
この先には人がいるはずだという喜びがあった。と同時に異世界人に初めて会う不安もよぎる。
せめて今日の晩飯くらいは松茸エリンギ以外で祝いたいと強く思うことで不安を相殺していた。
上から眺めたときには分からなかったが、街道は緩やかに勾配しながら村へと続いていた。
しばらく歩き、街道の起伏の頂上。小高い丘を折り返すと、木々がまばらとなり、低い草原が広がっていた。
そこを過ぎると、辺りには黄金色をした麦畑が広がっており、人がどのような生活をしているのかをぼんやりと教えてくれる。
両脇に麦畑が広がる街道に入ると、街道の脇には黄色い花が植えられて村へと続いていた。
柔らかそうに茂る葉っぱから、かわいく覗く薄く細長い数十枚の花びらが出ており、花びらの中央には薄紅色の果肉のようなものが盛り上がっていた。
『ルドベキアですね』
道を歩きながらキュアラが教えてくれた。
「さすが、花の村?」
クロイツは街道を歩きながら花々を堪能していく。街道の脇には他にも花が植えられており、スラッとした細長い茎に青色の小さな花がびっしりとついたものや、大きな葉っぱにピンク色や白の花びらが5枚ついたものがあった。『ベロニカに、ニチニチ』キュアラの解説も忙しそうだったが楽しそうな風だった。森の中よりも幾分生き生きとしているのが分かる。
村は、中央に居住区となる家々を据えられ、その周りを2mほどの木の柵で覆われていた。
中に少し見える家は高床式の木造の家になっており、屋根は藁葺き屋根のようになっている。
その居住区を取り囲むように花畑が広がり、それをさらに取り囲むように麦畑が。森が広がっていた。
近くに来ると、思いのほか大きい村だなという印象だ。
家々への出入り口である正門の前は、少し幅広の道になっており、今は道の左右に布で作った簡易な出店が並んで人で賑わっている。
その光景に不安を覚えながら、クロイツは意を決して正門への道へと進んでいく。
すると、賑わっていた通りが静かにざわめき、皆が皆、クロイツを見つめ警戒した。
それもそのはず、クロイツの装いは彼らとはあまりにもかけ離れていた。
元いた世界では主流ともいえる黒の髪や瞳は、この村に見える限りはいなかった。
村には、色白の肌に、透けるような銀色の髪、深い青い瞳をした者が圧倒的に多く。ついで、褐色の肌に、渋めのオレンジで、金色の瞳をした者達がいた。よくよく見れば、微妙に違う者達も幾人か混じっているのが見える。
髪や瞳や肌の色だけならば、少々変わっているで済まされそうだが、残念なほどに服装が決定的に違っていた。
人々の服装は、言ってしまえば古代日本の服装だった。
歴史の教科書で見たような大和朝廷の時代に似ていると言っていいだろう。
銀色に青い瞳の人々は、上下に白い着物のような服を着ており、その上にはベストのような獣の皮を羽織っている者や、腰に巻きつけているものがいた。
オレンジ系の髪を持つ人々は、赤の着物のようなものを着ており、幾人かは深い緑色をした鎧をつけていた。
クロイツの服装はというと、上は灰色のプリントTシャツ、下は典型的なインディゴブルーのジーンズ。茶色の革靴。腰には黒のレザージャケットを巻いていた。
……そして背には松茸エリンギを詰め込み膨らんだボーダー柄のTシャツを背負い、両手には二本の牙を持っている。元の世界でも、後ろの記述は十分なほどの不審さを漂わせる。
静まった通りの異変に気がつき、村の正門に立っていた銀髪の男が二名、クロイツに近づいてきた。クロイツよりも一回り大きく、引き締まった筋肉が村の戦士であることを伺わせている。
ねめつけるようにクロイツを見据えながら、ゆっくりと腰にあてた剣を引き抜きこちらへと向けた。男の一人が覇気をたたえつつも、静かな声で問うた。
「何者だ?」
○●○●○●
銀髪碧眼の男達が繰り出した滑らかで淀みない美しい抜刀。
白銀の刃を突きつけられながら、クロイツは映画の観客のようにそれに見入っていた。
向けられた刀は、剣先に向かうにつれて幅広になっており、刃先が尖った大きめの鉈を思わせた。
山の民と呼ぶに相応しい彼らは、神秘的ともいえる様も相まって、実に異国らしい雰囲気を醸し出している。
辺りがやけに静かで、気持ちが少し空にあるような、そんな心地に浸るところで観ていたクロイツは、左側の男が発した言葉を、間おいてようやく理解した。
「何者だ?」
あらかじめ想定していた、異国、いや異世界の人との接触で起こるであろう事柄。
刀を突き付けられることも、言葉が理解できたことも、クロイツの想定の範囲内。
森を走りながらキュアラから聞いていた時から、それら事は考えていた。
しかし、現実に向き合うと、自分が想像していた以上に、相手が纏う雰囲気に呑まれて体が固まった。
村に近づくにつれて高まっていった緊張が、刀を突き付けられたことで弾けてしまった。
だが、その間が奇しくも、クロイツに彼らを視る時間を与えてくれた。
怯えることなく。臆することなく。内に秘められた殺気をこぼすことなく、敵意を感じさせない純粋で真っ直ぐな瞳。
ただただ、クロイツを敵か否かを見極めようと向けられている二人の瞳。
クロイツは自分を見据える瞳から感じ取った。嘘偽りのない答えが彼らの求めるものであることを。そしてその瞳をかいくぐり、欺き演じることは今の自分には出来ないことを。
森の中を走りながら考えた、陳腐なストーリーを言うつもりだった自分がほとほとバカらしくなっていた。
自嘲的な笑みが出ないよう表情を抑えつつ、クロイツは意識を現実世界へと向けた。
「言葉が通じぬか?」と左側の男がさらに問う。
「いえ。分かります」
「クロイツと申します」
間をおきながら、問いかけに返事を返した。
クロイツは荷物を置き、ゆっくりとした動作で両の手のひらを相手に向け、相手を見つめ返した。相手に対して敵意はないという気持ちの表れ。
しかし、自分でも分かるほど顔は無表情を貫いた。刀を向けられて笑顔をつくれるほうがよほど警戒に値するだろう?
そんな緊張の中で声が震えなかった自分は偉いと思う。そんな気分になりながら相手の出方を伺う。
クロイツの言葉と行動が理解できたのであろう。男達の瞳が少し安堵した。ただし、それも一瞬。再び目に光を灯してクロイツを見つめ返す。
それを見て取ったクロイツは言葉を繋げた。
「私はここから遠い国の学生です。自らの見聞を広める為に、世界を旅しております。旅の途中こちらの“花の村”の話を聞きまして、こちらに立ち寄らせていただきました。運悪く、こちらへ向かう途中にユングに襲われ、着の身着のままたどり着きました。森で手に入れましたキノコもございます。どうかひと時、この村で過ごすことをお許し願えませんか?」
無表情ながらも、クロイツは相手の瞳を見据えながら語った。嘘は一切いっていない。
旅に出たのが昨日のお昼であったことが内心おかしかったが今は我慢した。TPOは大切だ。
「――ユング?」
左側の男が言葉を漏らすようにつぶやいた。
男達の表情が少しくぐもった。
クロイツを観察する瞳が、怪しい光を湛えた。
嘘を言わないと決めたクロイツは、自信を持って男達を見つめ返していた。
沈黙をしていた右側の男が、視線を牙におとしながら口を開いた。
「確かにその牙はユングのものだな。どこで襲われた? 倒したのか?」
左の男が渋いという印象の声に対し、少し高めの声色。ただし、声色には自分に対しての警戒が色濃く出ていた。
「クレイ湖の西の湖畔にて、キノコを採っていたところを襲われました。その際にユングの牙が運よく折れた為、ユングは一目散に逃げていきました。この二つの牙はその時に手に入れたものです」
詳細に言えば手で掴んでへし折ったわけだが……それは黙っておいたほうが賢明だろう。聞かれたら答えるけど。
しかし、まぁそれでも十分なインパクトを相手に与えてしまったようで、男達の顔が明らかに強張った。
構えた刀に力が込められ、警戒をより強くした。周りの空気が張り詰めたのが分かる。
ここにきて、牙を途中で捨てるという選択肢を、なんだか勿体ないよな初めての戦利品だし。と軽い気持ちで考えて躊躇った自分を悔いはじめていた。
捨てていれば、おそらく話はもっと簡単だっただろう。たぶん。
不穏な風向きが、漂い加速していくのを察して『風の鎧を纏いますか?』とキュアラが囁く。
『いつでも出来るように頼む』とクロイツは心の内で返した。
○●○●○●
村の門番。“ヤド”と“スラン”はクロイツを見極めかねていた。
村の有能な戦士でもある彼らは、相手の瞳や動作から、偽りの匂いを感じ取ることが出来た。
だからこそ門番を任されていた。もし、村へ入ろうとする者が偽りを言うのならば斬り捨てる。もしくは追っ払う。彼らの仕事は非常にシンプルだ。
だが、目の前の不審な男は、奇妙ななりかたちをしているが、やり取りの中に偽りを見出すことが出来なかった。
スランが訊いたユングの話。ユングはガンデス地方の生き物だ。本来この森にはいない。
しかし、偽りのない告白である以上、クレイ湖付近でユングに襲われ、今こうしてこの村にたどり着いた。
これは本当のことだろう。
だが、ユングに襲われたにもかかわらず無傷でこの場にいることは不自然だった。
そして、この村に住む者ならば誰もが知っている。
クレイ湖には緋猿がいる。
緋猿が話の中に出てこなかったからには、運よく出会わなかったものと考えられる。が、いずれにしてもそのような危険な森を単身で進んできたとなれば話は別だ。
ユングとあわせて考えると、得体が知れないものと評価するには十分だった。
しかし、相手がいかに、得体が知れないといっても、こちらに害意を及ぼすつもりはまったくないようだ。となればむやみやたらと攻撃するのは、戦士としての彼らの誇りが許さなかった。相手が手練となれば、追っ払うという選択肢は危険を含む。目の前の敵……敵と仮定するならば、その動向が分からなくなるのはよろしくない。
警戒しなければならない、得体の知れない相手。しかし、相手は嘘をつかず、村にしばらく滞在させてほしいと願っているようだ。
言葉に害意が感じられない以上、彼らが判断するには手が余る。それとは別に、本来ここにはいないユングが出たという話。彼らも感じていた昨今の異変について、何かしらを相手が知っているやもしれないと思わせた。
クロイツ。ヤドとスラン。しばらく見つめあいながら時が過ぎた。村人は固唾を呑んで様子を見守った。
ふいに、通りがざわめき一人の初老の男がこちらへ歩いてくる。
ヤドとスランは刀の切っ先をクロイツに向けたまま、目線だけすばやく動かし、向かってくる初老の男を確認した。
二人は左右に動いて場を空ける。
そこに初老の男が入り込んだ。ヤドとスランが静かに男の名を言う。
「「“ルドキュ村長”」」
初老。両脇の門番よりも幾分か背は低い。しかし、年を思わせない筋肉質な体と左目に見える獣傷。いかにも歴戦の死闘をくぐり抜けた戦士としての雰囲気を纏っていた。
その顔は、今は朗らかな老人のように笑顔でこちらを見つめている。
しかし、クロイツは老人の瞳の奥に巧妙に隠した殺気を、押し込めたような覇気を感じとっていた。
クロイツは心の中で叫んだ『キュア!』
一寸おいてルドキュは動く。
右足を前に踏み出し、左腰に下げた刀を、刃面を上に向けつつ持ち上げ右手で抜き出す。
それらを同時にこなしつつ、上から振り下ろすようにクロイツに襲い掛かった。
「ツシッッッ!!!」
閃光を呼ぶに応しい抜刀。かろうじて、風の鎧を発動したクロイツは、それを左手で右へいなして左側に避ける。
ユングの攻撃と同じような速度だが、ノーモーションで襲ってきたユングとは違い、相手が人間だと動きが読みやすかった。
一撃目を避けられたのもつかの間。続いてルドキュは右足をそのまま踏ん張り、ニ撃目。そのまま水平に刀を薙いだ。
「ハッッッ!」
クロイツは、ルドキュとの距離をあけようと、後ろへ飛び下がりながら、自らのわき腹に向かってくる刃をかわす。
自身の胴の前を、風を切り裂きながら刀が通り過ぎていく。
通り過ぎた刀はシャープな円を描くようにルドキュの胸元へ戻り、左足を大きく前へ踏み出すと同時に刃先はクロイツへと突進した。
「ンンッッ!!!」
三撃目。まさか広げた間合いが、ここまで詰められると思っていなかったクロイツは、焦りから避ける時間を失う。直撃する。と思いながら、思いのほか冷静だった。
風の鎧のおかげで強化された身体能力の中では、すさまじい平突きも対処可能な速度だった。両手の手のひらを合わせるように刀の刃を覆う。
それだけでは心ももとなかったので、両指を絡めて、まるで祈るような形にしながら、テコの原理も使って手のひらに力をこめて、突進する刃を押さえた。
クロイツの喉元の前で、白刃の刃がピタリと止まる。受け止めた……のではなく、止まったということに、クロイツはしばしして気がつく。
「並みの……旅お人ではありませんのぅ」
ルドキュは刃をクロイツの喉元に突きつけながら、口元を歪め、不遜な怪しい笑みを浮かべた。
しかし、口調はまるで縁側でお茶を飲むおじいさんが語りかけるくるがごとく、ひどく穏やかな様だった。
さすがに、いきなり攻撃されカッとした怒りがこみ上がってきたクロイツが口を開こうとするが、しかしそれを制するようにルドキュが言葉を続けた。
「ふむ。そなた……名を何と?」
穏やかな声で、漂々とされた質問にクロイツは出鼻をくじかれた思いが交錯する。
クロイツの少し脱力したような姿をみたルドキュは、刀の柄から手を離し、ひらひらと手を上げ無抵抗をアピールした。
まるで、自分が襲ったかのような錯覚に襲われ、クロイツはあわてて刀を地面に捨ててルドキュを睨み付ける。
笑顔のルドキュ。こいつは喰えないじぃさんだ。クロイツの直感が告げた。
不機嫌になりながらもクロイツは答える。
「クロイツです」
端的に名前だけ、相手を睨み殺すように答えた。
「クロイツ……。名前どおりの旅お人のようだのぅ」
キラキラと少年のような目で笑う老人を前に、クロイツは脱力し精神的敗北を味わっていた。
「魔法がつかえるようじゃの」
という言葉にクロイツの眉がピクリと動く。
「分かるのですか?」
「まぁのぅ」
ルドキュの優しげな笑みに、クロイツはそれがかまかけであったと気がつき少し警戒の色を濃くした。
「いきなり攻撃を受けたことに対して、謝罪と説明を要求します」
細心の注意を周囲に向けながらそう告げる。
「申し訳ありませぬ。ただこの方法が最も手っ取り早く皆も納得させやすい。そう思いましてのぅ。少々手荒いことをいたしましたが、クロイツ殿の武々ならばたやすいこと」
風の鎧を纏ってなければ一撃目で真っ二つだったと思えてならない。
このじいさんが言っていることは結果から判断したものだし、事後承諾といってもよいだろう。
臭いものには蓋をする。これで仮に俺が死んでいたとしてもよしとしていたに違いない。
そう思うと沸々とした怒りがこみ上げてきた。野蛮なやつらだ、と。
それを見やったルドキュは、急に真面目な顔をして真剣な眼差しを向けながら、落ち着いた口調で述べてきた。
「我らは村を守らねばなりません。怪しいものからこの村を守るのは村長の役目というもの。それを踏まえてお許ししていただきたい」
怪しいもの……俺?
なにやら決め付け的に堂々と言われてしまったが、じいさんの纏う威厳ある言葉にたじろいだ。
村を、他の者の命を背負うものの言葉。まぁ確かに自身が村人ならばその意見は至極当然で、反論が出来なかった。
結果だけ見ればまぁなんともなかったんだし……。
毒気を抜かれたクロイツは、村へ入ることを半ば諦めた。素性が怪しい自分が入れば、村が変に緊張するのは避けられないだろう。それは自分が望むことではなかった――。
無念さからため息をこぼしそうになりつつ老人を見据え、自分が持ってきたTシャツを広げてみせる。中に入った松茸エリンギを取り出してルドキュに言った。
「この白いキノコをクレイ湖の畔で採りました。このキノコとユングの牙を、他の食料と出来ればこちらの風土に見合った服と交換していただきたい」
「“ルクドノイ”ですか。それはそれは貴重な」
笑みを浮かべながら老人はふぉっふぉと笑う。門番二人……背後の人々からもようやくざわめきと共に声が戻ってきた。
沈黙していたヤドがいう。
「ルクドノイ。村長いかがいたしましょうか?」
ルドキュがまた真剣なまなざしを見せた。
「クロイツ殿。あと二つだけ……お聞かせ願いたい よろしいかな?」
何だろ? と思いながらどうぞと答える。
「クロイツ殿は私達に嘘偽りのない事だけを述べている。間違いありませんかな?」
間違いありません。とクロイツは即答した。
しかし、次の言葉にクロイツは驚く。
「この村に害意を及ぼすことを考えておありか?」
単刀直入な言葉。ピンと張り詰めた空気が周囲を覆う。時間さえ止まったとさえ錯覚するほどに……
だが、答えは決まっている。クロイツは永世平和主義者なのだから。
「ありません」
ルドキュも。ヤドも。スランも。後ろの人々も。
クロイツの返答を耳を済ませて聞き取り、そして安堵の表情が村へと広がっていった。