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クロイツと風の精霊  作者: 志染
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第十一話 収穫祭の舞と求婚

 ファルソ村で毎年行われる祭りの中で、人々が心待ちにするものがいくつかある。その一つが今日の収穫祭だった。

 収穫祭というだけあって、この時に用意される食事は豪華であり、ワゾク長老の作った種々の酒が振舞われるのもこの祭りならでは。そして、今の時期に咲き誇る花々をちりばめた祭りの趣向は美しく、何より楽しみな余興もあった。


 村の中央にある四本の柱で屋根を支えたシンプルな構造の集会所には、収穫された麦をはじめ、森で取れた果物やお酒、無数の花々が供えるように並べられ、その集会所を背にして立つルドキュ村長の前には、今は轟々とした火が、組み木から立ち上り村を明るく照らし出している。

 そして、それらをU字に囲むように人々が集まり、それぞれが地面に座りながら祭りが始まるのをいまや遅しと待っていた。


 そろそろ頃合と、ルドキュ村長が声を上げた。


「皆、今日はよう働いてくれた。例年よりも早い開催となったが、収穫祭をこれより始める」


 皆を見渡しながら声高らかにそう告げると、村人から歓声が上がる。

 

 それを聞き終えるとルドキュ村長は集会場へ振り返った。


「今年も変わらぬ恵みを与えてくれた精霊とこの地の自然に感謝を」


 頭を下げながら、両手を合わせ恵みをもたらした精霊と自然へ祈り始めた。村人達もそれに習って、目をつぶって感謝の祈りを思い思いに捧げ始める。

 あまり格式ばった儀式ではない事に驚きながらも、クロイツは同じく祈りを捧げた。


 しばらく祈っていた村人達がそれぞれに祈り終えた頃、ルドキュ村長もこちらを向き直り朗らかな笑みを浮かべながら、声を張り上げた。

 


「今年の舞の巫女。ルシャ。サフイ。こちらへ」


 おっ。クロイツは楽しそうな余興に心に湧き上がるものを感じながら事の成り行きを見守った。

 集会場の脇にある家から、二人の少女達がしずしずと出てきた。それを見た村人からは歓声があがり、クロイツはその少女を見つめて息を呑んだ。


 

 最初に出てきたのはルシャだった。健康的で調った顔立ちと碧く大きい瞳はそのままに、その良さを際立たせる程度のうっすらとした薄化粧と、結い上げられた美しい銀色の髪。服は淡く白く薄い衣が重ね着されており、赤い袴がそれに映えている。

 彼女の着ている衣から、光が湧き出ているのではと思うほどの神秘的なオーラが発せられており、普段見慣れているはずにもかかわらず、思わず目を奪われてしまっった。


 次に出てきたもう一人のサフイさん。ルシャよりも一回り年上の妙齢の女性でヤドの奥さんだった。結い上げても、尚もスラリと腰までおろされた細く長い銀色の髪は、その歩みと共にふわりとゆれてキラキラと光を放つ。深い蒼に染められた瞳は、くっきりと力強く、優美な物腰はワンランク上の上品さを醸し出している。

 ルシャとはまた一味違う、対照的な大人の女性の魅力を有していた。



 クロイツは、二人が集会場の上にゆっくりと歩いていくのをただ呆然と見送った。



 集会場に並んだルシャとサフイ。それに呼応するように、中央の組み木の炎は小さく弱まり、代わりに集会場が魔鉱石の明かりによってパァァと照らし出された。

 集会場に並べられた花々も生彩をおびて、まるで二人を彩るように闇の中に色鮮やかに浮かび上がる。

 クロイツも村人も、息をするのを忘れたようにそれに見とれていた。



 ヒューヒュー。


 隙間風が戸を抜けてくるような、細く淡い音が、沈黙していた人々の耳に届いた。その音は数を増やし、折り重なるように織り込まれ、いつしか、神秘的な一つの音色を奏で始める。


 四方から響く音色が一体何処から聞こえてくるのかはクロイツには分からなかった。ただその音色が自分の心に直接響き、少し切なく、それでいて温かい気持ちを感じさせた。


 二人の巫女は滑らかに、その動きを合わせながら、音にあわせて舞い始める。ふわりとした巫女の服が風を凪ぎ、静かな衣擦れの音をさせる。それに合わせるかのように、淡い光を帯び始めた二人からは、光の筋が舞に合わせて四散しながら尾を引き、村人達は息をするのも忘れてただその幻想的な姿を目に映していた。


 いつしかクロイツは、その瞳に自分でも気が付かない涙を浮かべながらルシャの華麗な舞に心を奪われていた。


 風が頬を撫でるように、やさしく奏でられる旋律。それだけでも十分なほど感情を揺さぶられていたが、そこに、光を纏ったルシャが音色に誘われるように体を動かすと、クロイツの心の中には、神秘的な生命の息吹とその力強い鼓動が伝わってきていた。



 心の内にから湧き出るざわめき。声を枯らすほど叫びたくなる。

 生きているということ。

 自分の中の熱い思い。

 

 虚無と喜びがない交ぜになりながら、その世界に浸った。



 生まれた旋律は生命の誕生。


 そして、それらを育み、伝え、繋げる力。強く、激しく、時には滅び、そしてまた生まれ、燃え上がる。


 消えそうで消えないその炎は、やがて広がり世界を包み込む…………。





 舞の終わりは静かに、フッと火が消えるように終わった――――。



 言葉を失っていた村人達は、ルドキュ村長も含めて、ただその舞を終えた二人を見つめていた。

 そして、少し置いて湧き上がる雄叫び! 村人全員が、叫び、踊り、二人に大歓声を送った。


 クロイツも声を上げた。先ほどの気持ちをそのまま、感動を声に乗せた。

 


 村人の歓声と喝采が響く中、二人の巫女は頭を下げて軽く目をつぶり、静かにその場に座っていた。





 

 村人の歓声が一息ついたところで、ルドキュ村長は人々をなだめると満面の笑みを浮かべながら叫んだ。


「宴の準備をぉー!」


 両手を掲げて力強く手を二回強く打ち鳴らす。

 

 パンパンと乾いた音が村に響くと、感動冷めやらぬ村人の中から、ぞろぞろ戦士達が立ち上がり、各家に消えていった。

 そして、出来立ての豪華な食事を次々と人々の前に並べ始めた。


 久しく忘れていた感動に身を置いていたクロイツは、我に返ると自分も何かしたい。出来ることがあるならやりたい。と、興奮を抑えるように立ち上がった。


「ヤドさん。自分も何か運ばせてください。」

「あぁ、そうだな。よろしく頼む」


 ふふっと笑うヤドから、手渡された食事を気持ちを抑えるように運び出した。



 配膳作業によって、幾分冷静さを取り戻しながら人々の間に料理を運んでいると、


「あらあら、本当に働き者ですね」


 顔を上げると、目の前にルスイさんが座っていた。


 先ほどまで涙を浮かべていた自分が気恥ずかしく思いながら、クロイツは「あはは」と笑顔で返した。


(ルシャ)の舞。すごかったでしょ?」

「ええ」


 微笑むルスイの表情は喜びに満ちていた。その誇らしいような気持ちもわかる気がする。


 舞は見事としか言いようがなかったし、受けた感動をどう言葉では言い表わせばいいか分からない。


「ふふっ。毎年この舞は年に二度だけ行われるのよ。成人した村のわかい娘の中から選ばれるの。ルシャは今16歳だから、去年も踊ったんだけど……」


 ルスイさんは誇らしげに笑う。


「わが娘ながら今年は本当に綺麗だったわ」

「ほんと――綺麗でした」


 ルスイの気持ちに共感して、クロイツは素直に笑顔でそう返した。






 ルスイは見た目には表れていないがやはり気分が高揚しているのだろう。


「これはヤドさんのところの料理ね。今年はみんな時間が余ったものだから、みんな腕によりをかけた様子だわ。こんなに豪華な料理が並ぶなんて、私ももうちょっとがんばればよかった」


 しげしげとクロイツが持ってきた料理を見つめながら笑うルスイはいつもよりも饒舌で、よくお話をしてくれる。


 そうこうしていると、料理の運びだしはいつの間にか終わっていた。


 クロイツはあわててルスイの右脇に身を引っ込めて座る。


「ふむ。料理は行き届いたようじゃの? これほど豪華になるとは、みな力をいれたものじゃな」


 不敵な笑みを浮かべるルドキュ村長に村人たちから笑いが起きた。


 ルドキュ村長も楽しそうにその様子を眺めながら宣言する。


「では、宴を始めてくれ」


 村人達からは歓喜の声があがった。








「お疲れ様でした」


 ルスイの脇に戻ってきたルドキュ村長に、クロイツは酒を注ぎながら労った。


「いや、ワシはほとんどなにもしとらんでのぅ。指示をだしてただけだ」


 屈託なく笑う村長の顔はいつにも増して安らいで見えた。

 ルスイとルドキュ。二人の今の気持ちはおそらく一緒だろう。


 娘の成長を、共に喜び、分かち合っているに違いない。




 二人の様子邪魔しないように、静かに脇に座りながら料理に舌鼓を打とうとしたクロイツに声がかかる。


「そこは私の席なんだがな」


 振り返ると、舞の衣装のままのルシャが、ジトっとした目でクロイツを見下ろしていた。


 毎度毎度、イメージトレーニングの中では「さっきの舞。綺麗だったよ」と冗談交じりで言葉を交わせているクロイツだったが、本物を目の前にするととたんに気の利いた言葉は四散させる奥手へたれだった。


 ルシャを見て体が固まるといったことがないほど成長はしていたが、さきほどの舞を見て、涙を流していた自分を思い出し、恥ずかしさが込みあがってくる。


「ああ、悪い。空いてる席だと思ったんだ。もう空いてる席もない様だし……狭いけど我慢してくれ」


 言葉を搾り出して、ルスイと自分との間に無理やり場所を空けた。


 ルシャはそんなクロイツを「フゥ」と少し息を吐きながらジトっとしばらく睨み付けていたが、諦めておとなしくその場所に座ろうとした。



 綺麗な衣装のまま地べたに座ろうとしていルシャを見たクロイツは、咄嗟に腰に巻いていた毛皮の上掛をルシャの座る場所に引いた。


「ッ!!?」


 躊躇いと狼狽の色を見せたルシャ。


「綺麗な服が汚れるだろ。気にしないからとっとと座れ」


 いいながら手を引っつかみ座らせた。おお、我ながら気が利いているものだ。

 男前レベルがまた上がった気がする。




 そんなクロイツをよそに、その光景を眺めていた村人たちに、ざわめきの波が広がっていった………………




 自分の引いた毛皮の上にへたり込むように座ったルシャを尻目に、クロイツは目の前の料理を口に運んでいた。


 その料理は、今までクロイツが見たことがない料理で、米粉を練って押し固めて焼いたような少しパリパリとした皮に、煮込んだ鶏肉と野菜を撒いて食べるものだった。確か、ルスイさんがヤドさんの家の料理とか言っていたな? とぼんやり思い出しながら、それにかぶりつく。

 鶏肉のしたたかな肉汁が口に広がり、野菜の歯ごたえと甘酸っぱさが爽やかに後味となって頭につきぬけていった。


「はぁー」


 料理に感嘆の声を上げたクロイツが脇を見ると、ルシャが呆然としながら座っている。


「なんだ? どうした? 舞で力尽きたのか?」


 確かにあの舞は相当な練習が必要だったと思う。

 いつ練習していたのか分からないが苦労したのは間違いない。

 それだけ立派だったのだ。やり遂げたと脱力してしまう気持ちも分かる!



 しかし、脱力したにしては少し様子が違うようだ。ルシャは大きな口を広げてクロイツに何かを言おうとあえいでいた。

 あー、ふむふむ。それを察したクロイツは、ひょいと自分が持っていたヤド家特性の『煮込み鶏肉と野菜の包み』を適当につくり、ルシャの口に放り込んだ。

 我ながら気が利いているものだ。うむ。



 クロイツの立て続けの予想外の行動に、ルシャは瞳に炎を灯しうっすらと涙を浮かべながらなぜか逆に怒っていた。

 ただし、食べ物が口の中に入っているので今はうーうーと唸ることしかできない。


 うんうん。とクロイツはその様子を見ながらルシャをからかう。傍から見れば、それは恋人同士のような光景だったわけだが……





 その様子を見て、なぜか驚いていたのがルシャを挟んで反対側にいたルスイだった。

 ルドキュのほうは既に酒で出来上がっており、よぃよぃと呂律のまわらない何語かを発して気持ち良さそうだ。



 ルスイはふるふると震えるルシャの両肩に手を置いて、「あらあら、まあまあ」と楽しそうに笑った。




 事情はよく分からないが、何やら楽しそうなのでその様子に満足したクロイツであった。


 


 ようやく食べ物を飲み込んだルシャが、口元を気にしつつクロイツに言った。


「クロイツ。――自分がしたことがわかっているのか」

「む?」


 その声は慳貪な声だった。

 ようやく異変に気が付いたクロイツはあたりを見渡すと辺りがやけに静かになっていた。


 ……なぜだろう。村人の視線が自分達に向けられているのは?

 



「知らないとは思うがな」


 恐ろしく鮮やかな笑みを浮かべたルシャが言う。


「――祭りの席で自分の着ている毛皮の上に異性を座らせるのはな」


 それは次第に毒を帯びた笑みにかわる。


「求婚を意味しているんだーーーーーーーーーーーー!」


 綺麗な軌跡を描いた右ストレートがクロイツの左頬を襲った。




 咄嗟過ぎて何も出来ないクロイツは、やはり何も出来ずそれを喰らって、料理の上を弧を描くように吹っ飛び、中央で燃えさかる炎の中へと突っ込んでいった。


 遠めに見ている村人達は、それを生暖かく見守っていた。



 殴られて意識が飛びかけていたクロイツは、火が目の前に迫ったのを感じてキュアラにSOSを出した。組み木の炎の中に入ったところで、横方向に力の限りジャンプして、何とか集会所のほうへと飛び出す。

 殴られた左頬の痛みと、ねじれた首の痛み。熱い空気が肌と肺を焼けつくすような苦しみがクロイツを襲ってきたが、次の瞬間にはキュアラの癒しの術により、痛みは引いていき完治した。

 尚もくすぶる、火がついた衣服を地面に転がるようにしてクロイツが火を消すと、村人から謎の歓声が上がった。



「……『余興じゃないぞ。これは』」


 内心舌打ちしながら、言葉を噛み殺したクロイツ。


 遠めに見えるルシャは肩で息をしながらいきり立っており、それを見ているルスイはどうしたものかと首をかしげ、ルドキュはよいよいと我関せずで酒をうまそうに飲んでいた。



「大丈夫ですかクロイツさん」


 声をかけてきたのは、クロイツの驚異的な魔法を見て間が浅いクルクだった。


「あー……大丈夫なんですが、唯一の服が」


 目の前の猛獣よりも、こげた服を気にすることができるなんて、我ながら成長していると思う。

 現に、立ち上がりながらルシャをちらりと見ると、すっごい怒っているぞ。というオーラが発せられていた。

 それをなるべく見ないようにしながら問いかける。


「俺なんかしでかしたんですかね」

「少し強引でしたけどね」


 クルクが少し困った顔をしているのに気がつき、事情は本人に手っ取り早く聞くことにした。あれ、殴り飛ばされる前に何か言っていたような?



 クロイツはルシャのほうへと歩いていくと、睨んでいるルシャの瞳に、明らかな狼狽の色を見た。

 ああ、そういえば……求婚? いや球根とかけたシャレはここでは我慢しよう。今はとても大切な時だ。



 そうだ。確かにいった。求婚を意味しているんだー! ワッツ!

 なるほどそうか。祭りの席で自分の着ている毛皮の上に異性を座らせるのは求婚になるらしい!


 上流階級でフォークを拾うと決闘の合図だとかそういうものとよく似ている。お決まりのパターンが起こったらしい。これがカルチャーショックというやつだろうか。




 いやいや、まてまて。ルシャも年頃の娘。確かにそんなこといきなりやられたら怒りますよね。 

 うーん。いや、いきなり謝るのも逆効果? 

 でもまて、求婚とか言われても、俺がそういうしきたりを知らなかったのは相手もご存知なわけだし?

 

 それは求婚を意味する行為だったんだぞ! と軽くこずいてくるルシャ……はまったく残念ながらこれっぽっちも想像できないが、ようは恥ずかしさからきた行動だよなと思う。



 漂々とルシャの元へと戻りながら仕返しを考え始めていた。

 照れ隠し的なもので火の中へ殴り飛ばされたのだ。ここは仕返しをせねばなるまい。


「ひどいな。男のせっかくの求婚に対して右ストレートか? 火に入ったのが俺じゃなかったら最悪死んでたぞ?」


 頑張って微笑んでみたが、その笑みはすこし歪んでいた。


「えっ、求婚の行為だと知っていたのか」


 思いのほか顔を赤くして叫ぶルシャ。いつもならこの程度の演技を訝しむところだが、その余裕は無かったようだ。

 ふふ、と心の中で笑いつつ、少し時間を置いて焦らしながら



「いや、まったく知らなかった」


 そういい切った。


「だろうな……」


 しかしここで思いのほかルシャの態度が……クロイツの予想よりも少しばかり違っていた。

 なんだろう。なんか、少女の大切にしていた何かを壊してしまったかのようなこの罪悪感は。


「いきなり殴って悪かった」


 毒気を抜かれたルシャは、少し残念そうとも取れる声を発してそう呟き、再びその場に腰を落とした。


 村人は老若男女問わず、その余興を楽しんで見守っている。









 んーと。と考えるように口を開いたルスイ。


「ルシャ?落ち着いてるところに悪いんだけど……………………」

「あなた、求婚を受け入れちゃってるわよ?」


 ルスイが満面の笑顔で言い切った。



「「えっ!!!」」



 二人の声が計らずともシンクロする。

 そして、ルシャはハッと口元を覆うと、そのままクロイツを睨み付けた。


「とりあえず説明してから怒ってくれ」


 再び怒りのオーラがゆり戻ってきたようだ。

 ルシャらしい感じに戻ったことを安堵しながらも、自身の身に迫りくる危険を感じる。彼女は結構本気で怒ってる。



「あのね。毛皮の上に相手を座らせるのが求婚で、相手にご飯を食べさせる。もしくは食べさせられるのが求婚を受け入れた証なのよ」


 ルスイはおっとりとした女神の微笑みをクロイツに向けた。


 結婚式に神のお告げ。あなたはこの者を……以下省略 を言われた気分だぜ!



「しかし、求婚は、その、戦士の証を立てたものしか出来ない……」


 すがるように発した自分の言葉を飲み込んだルシャ――。


「……クロイツさんルクドノイ持って来ちゃってるから」


 あら困ったわ。という顔をしながら、明らかに楽しんでいるルスイ。


「しかし、クロイツは村人ではない……」


 呆然としているルシャというのは初めてだ。

 愛の告白なんて無しでいきなり求婚ですからね。分かります。


 それを見ながら、どうしたもんかと思ったが妙案はさらさら浮かばなかった。



「まぁ落ち着け」


 クロイツは再び立ち上がっていたルシャを席に座らせる。ルシャの怒りや狼狽といった気持ちをルシャ本体に押しとどめるつもりで肩に手を置きながら語る。


「こういうのは、どうとるかの気持ちが大切なんだろ? 今深く考えても分からないなら、その時が来るまで気持ちは寝かせておけばいい。俺も良く分からんからそうすることにした」


 知らなかったとはいえルシャに求婚してしまったのだ。責任は取るつもりだ。

 といっても、異世界から帰る日が、いつのひか来るかもしれない。だから最後までとるかどうかは不明だ。


 だが少なくとも、目の前の少女がいつか本当に添い遂げたい相手と出会えるまで、見守ることはできるだろう。

 仮にルシャが自分を愛してたなら……それはクロイツにも分からない。

 それでも元の世界に。と思うのかどうか。分からない。



 それでどうだ? と問うとルシャは少し考えるようなような表情を浮かべていった。


「良く分からないけとそういうことにしておく」


 一応の納得をしてみせて、気持ちを紛らわすように料理を食べ始めた。


「うん。おいしいな」


 豪華な料理を前に、ルシャの機嫌もすぐに回復されていった。






 そこから少しはなれた村人達の会話。


「いやぁ、やるときゃやる男だね。そういうとこは奥手に見えてたんだが」と笑う中年女性。

「そうじゃの、ぜひ馴れ初めをききたいものじゃ」と笑う老人。

「そういえば昼間にも同じようなことが」言葉少なめに語る大男。

「火の中に殴り飛ばされたんですか?」と驚いたような声をあげる少女のような子供の声。

「いや、あの時は水の塊につつまれてだな……」

「水……? ですか?」

「そうそう、水の癒しの魔法をかけたら暴走してねぇ。あっはっは。それがなんと森へ吹っ飛んでいったんだよねぇ、よく生きてたよ。頑丈なもんさね。」

「ほほぅ。それは初耳じゃな」と笑う声は実に楽しそうだ。

「ぜひ詳しくおねがいしますぞ」酒を進める手が伸びる。

「もう、飲みすぎないで下さいよぉ?」と老人を気遣う声を無視して楽しげな声が村に響いた……………………



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