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第4話 一週間後に戻って来た学校に私の席がなかった

「真白様。おはようございます」

「おはよう」

「真白さん。おはよう」

「おはよう」

「真白ちゃーん! 一週間ぶりぃぃぃ!」

十環(とわ)うるさい」

「へぎょ!」


 翌朝、里に戻った私は普通の学生に戻った。いや違うな。隔離された里の陰陽師養成学校の生徒に戻ったというのが正しい。


 そして私は叫びながら飛びかかってきた者に対して、結界を張って防御した。


「だって! いつもいる真白ちゃんが居ないなんて! 寂しいじゃない!」


 私が張った結界に張り付いた物体が文句を言ってきた。

 鬼頭十環。私の従姉妹だ。そう、私と同じ鬼頭の玄孫(やしゃご)になる。


「鬼頭様! おはようございます! 今日も真白ちゃん可愛いですね!」

「ああ」


 いつも思うが、何故鬼頭への朝の挨拶のとき、私が可愛いということが一緒に含まれるのだ? そして、それに対して鬼頭は『ああ』といつも返すのだが、その返答は朝の挨拶に対して返しているのか、それとも可愛いに返しているのか謎だ。


「十環も、今日も可愛いよ」


 十環は同い年の17歳。生まれは私の方が早いから学年としては同じだ。


 黒髪を顎の辺りで切りそろえたショートボブで、新緑を思わせる大きな瞳が印象的だ。


「ふふふ! 夏らしい水色のワンピースが可愛いでしょ!」


 そう言ってクルクル回ってお気に入りらしいワンピースを見せつける。そう、この学校には決まった制服は無く、私服で通っていいとなっている。


 因みに私は着物袴の姿だ。そして鬼頭は着流しの着物だ。

 この姿が目立っているかと言えばそうでもない。


 ここは陰陽師を育てる機関である。だからお坊さんの袈裟を着ている者もいれば、神主のような斎服(さいふく)を着ている者もいる。


 だからどちらかと言えば、十環の格好の方が目立つ。


「真白ちゃん! 真白ちゃんがいない間に、外から新しい子が来たんだよ!」

「ふーん」

「反応うすっ!」


 ここは京都府の山に囲まれた場所にある。四キロ四方ほどの場所に密集して陰陽庁に所属している者たちが生活していた。ここは隔離された場所であり、外部からの人は滅多に入ってこない。

 だから、この陰陽師養成学校は皆が幼馴染であり、そのまま死ぬまでこの里で暮らしていく。


 この里以外から来る人は珍しく、噂というのは一気に広まっていく。


「だってその話、朝から誰かとすれ違う度に聞いているからね」


 隔離された里の恐ろしいところはここだ。噂なんて直ぐに広まっていく。それが悪い噂なら特にだ。


「色んな子に色目を使っているって」

「やっぱり聞いていたんだぁ。朱輝(とき)が『ウザい』って愚痴っていたんだよ〜。だから真白ちゃんも気をつけてね?」


 鬼頭朱輝も私の一つ下の従姉弟にあたる。

 はっきりと言うと、鬼頭家は見た目だけはいい。そう全てが鬼頭の血筋だからだ。

 だが見た目だけで、鬼の血を引いている分色々問題がある。


「それを言うのは鬼頭にでしょ?」

「そうなんだけどぉ……」


 十環は言いにくそうに私の耳元で囁いた。


『鬼頭様を怒らせた時点で、その子に未来はないよね?』


 それには私は答えないでおこう。もし、鬼頭が本気で怒れば、相手はただの肉塊になることだろう。

 それを逃れたとしても、この里のトップは鬼頭家のジジィだ。この業界では生きにくいことになる。因みに陰陽庁のトップは別にいる。


「そう言えば、どこの家系の子か聞いていなかったけど、系統はどこになるの?」


 陰陽師として働いているものは、基本的にこの里で過ごす。だけどやはり個人差という物が存在し、素質がない者がいる。大抵は陰陽庁の職員として働くのだけど、この里を出て暮らす者もいる。

 狭い土地だから受け入れられる人数はそう多くない。


 里の外に出て暮らす者の子供が、素質を持って生まれてくることがある。その場合は、陰陽師として育てるために、この地に呼ばれることがあるのだ。


「それが(まれ)なんだよ」


 稀。それはどこの家系の者ではなく、突然出現する能力者のことをそう呼ぶのだ。


「稀ねぇ。そうすると、この里は息苦しいだろうね」

「まぁ。ジジババがうるさいからね」


 そんな話をしながら教室に入る。高等科の三年生に充てがわれた教室だ。


 並べられた机は十五ほどあるけど、この机が全て埋まったことはない。


「お! 真白じゃん! 一年ぶり!」

「一週間しか経ってないよ」

「真白。お帰り」

「ただいま」

「ま……真白ちゃん。お……おはよう」

「雀。おはよう」


 いつものように挨拶をしながら一番後ろの私の席に行く。その横にある座り心地の良さそうなリクライニングチェアーを見て固まってしまった。


 廊下側の日が当たらない場所に置かれた、学校という場には似つかわしくない椅子。そこに座ってスマホを触っている者がいる。

 髪の色を脱いているのか、生え際が黒く毛先に向かうほど金髪になっている髪の女の子。


 思わず十環を見ると、両手を合わせて謝罪の意を示していた。おそらく何度か注意をしたけれど聞かなかったのだろう。

 だから朝から私を待ち伏せするように声をかけてきたのか。


 仕方がない。


「ねぇ。そこ私の席なのだけど、どいてくれる?」


 しかし反応がない。

 え? これはどう対処すればいいわけ?



次話からは11時投稿です。

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