第39話 残念すぎるよ。榕。
「『霊門。開門』」
仕込みが中途半端だったけれど、なんとか上手くいけた。
私の目には透明な鳥居が出現している。実は釘を打ったところの下には鳥居の足がそのまま埋められており、それと呪いのような釘を干渉し合わせることで、目に見えない鳥居を作ったのだ。
そして目には見えない道が真っすぐ伸びていく。これによりここに溜まっていたモノたちが霊山に昇ることができるだろう。
「真白。これはどうした?」
「え?」
鬼頭に右手を取られて手の甲を指された。そこには皮膚がぷくりと膨れ、赤くなっている。
なんだろう? 蚊に刺された?
でも痒くないしなぁ。
「なんだろうね? 特に変な感じはしないから、蚊に刺されたのかな?」
まだ、真夏ではないけれど、暑い日差しの中で動いているから、虫にでも刺されたのかもしれない。
「後で、薬でも塗っとくよ」
それよりも若月と大津がどうなっているか探さないといけない。
「真白」
突然、鬼頭に名を呼ばれ、抱きかかえられてしまった。
何? 周りを視ても先ほどと何も変わっていない。
だけど、鬼頭は問題の家の玄関を気にしている。
すると突然勢いよく扉が開いた。
中から転がり出るように若月が飛び出してくる。
「やっと出られましたわ」
「流石に五十も解除させられると疲れますね」
その後から疲れると言いながらも、いつも通りの笑顔で中から出てくる大津。
家の中でも何かあったらしい。
「そっちも何か仕掛けられていたの?」
「誰ですの!」
あ……隠遁の術を鬼頭に使ってもらっていたのだった。私を抱えている鬼頭の肩を叩いて、術を解除してくれるように頼む。
「ちっ」
何故にそこで舌打ち!
「真白だよ。依頼の件は解決したから、車に戻ろうか」
「真白様! アコウが何処かに行ってしまって見つからないのですわ」
いつも口喧嘩しているけど、榕とやっぱり仲がいいじゃない。そんな若月に後ろにある駐車場を指し示した。
「たぶん榕は玄関に入る前に排除されたみたいだね」
「はぁ、良かったですわ」
フェンス越しに、こちらの様子を見ている榕を見つけたのだろう。若月は力なくへたり込んだ。
「ワカツキ! 大丈夫か!」
先程まで駐車場の車の側にいた榕が、瞬間移動したように現れた。たぶん、鬼頭と同じようにフェンスを飛び越えて来たのだろう。
「だ……大丈夫ですわよ!」
赤い顔をした若槻が榕に向かって叫ぶ。
ん? これは……はは〜ん。
「榕。若月は疲れているようだから、車まで運んであげるといいよ」
「わかりました! 真白様!」
「自分で歩けますわ!」
抵抗する若月を軽々と両手で持ち上げた榕は……何故か米俵を運ぶように若月を肩に担ぎ上げた。
「またですの! 下ろしなさい! アコウ!」
「え? でも疲れているんだろう?」
「自分で歩くと言っているのです!」
これは……以前、若月に同じ抱え方で運んだのか。それを若月は根にもっていると。榕……残念すぎる。
「榕。それは鳩尾に肩が食い込むから、別の抱え方にしたほうがいいよ」
「え? そうなのですか? 父に抱えられると十環姉と俺は両肩に担がれるのですが?」
「うん。十環はいいだろうけど、若月にはやめようか」
十環なら『たかーい! たのしーい!』って言っているのが目に浮かぶけど、普通は怒ると思う。
「わかりました」
そう言って若月を肩から下ろした榕は、脇に抱えて駐車場に向かっていく。
「どっちも変わりませんわよ!」
文句をいう若月。
榕。残念すぎるよ。
「それで大津。今回のことは不可解すぎるのだけど」
「はい。昨日の時点では何もございませんでした。最初の情報通り、行き場を失った霊魂が溜まっているという状況です」
「こっちは、南側の庭に生きたカラスを使った呪詛が仕掛けられていて、そこの門柱に札が仕掛けられていたのだけど、二重に貼られていて、これは結局何の呪だったのかは解読できなかった。それでそっちは?」
私は得た情報を大津に告げる。その大津の様子に変化が見られないか観察をしながらだ。
私の目は物を視ることに特化しているけど、人の心は読めないからね。
「もしかして、何か疑われています?」
「それは嘘の報告をしたからだね」
「そうでもしないと、寿さんを回収してくれないと思いましてね。はっきり言って、あのような『自分はできている』と思い込んでいる人が側にいると危険ではないですか」
危険。確かに結論からいけば、この不可解な事件に寿を巻き込まなくてよかったとは思っている。
そう、状況を理解していないにも関わらず、騒ぐだけ騒ぐ足手まといは必要ないからだ。
「でも、真白様の疑いもわからないことではありません。こうもタイミングが良いと、身内の仕業と思いたくなりますね」




