第3話 普通の日常は簡単に壊される
ミサイル実験の報道から数週間。新たな情報はなく、僕はいつも通りの日常を送っていた。あの報道があったことすら忘れそうになるほど、世間は落ち着きを取り戻していた。僕も不安はなくなり、いつも通り電車に乗って学校へ向かっていた。
電車に乗って十数分たった頃だった。
<チャララララン、チャララララン>
突然けたたましい通知音が鳴り響いた。それも周りの人たちのスマホ全てから。緊急速報メールだった。かなり不快でビビる音だから、半分パニックになっている人もいた。ただ、こういう時は情報を得ることが先決だ。僕はメールを開いた。
[ミサイル発射! ミサイル発射! 先ほどノースアイランド連邦国周辺海域からミサイルが発射された模様です。直ちに安全な場所へ避難してください。頑丈な建物や地下に隠れてください。 ミサイル落下予想地: 国内全域]
僕が驚くと同時に電車の非常ブレーキが作動した。周りの人たちも必死で吊革を握っている。ガクンと停車すると、車掌さんによる避難誘導が始まった。僕は不安だった。街は慌ただしかった。人々はパニックに陥っていた。でも周りの状況を的確にとらえている自分がいることに気づき、僕は少し冷静になれた。
電車から降りて順番に高架橋の非常階段から地上へと降りていく。その先の大型ショッピングモールの地下に避難するらしい。避難は順調に行われているように見えた。ショッピングモールへ次々と人が入っていく。だが、ミサイル情報が出されてから早10分が経とうとしていた。もしかしたら間に合わないかも…。家族は今頃どうしているだろうか。無事に避難できただろうか。
「だめだ、あきらめずマイナスなことは考えないようにしないと。」
僕は気を引き締めた。そのとき、妙に空が明るくなっていく感じがした。ふと見上げると空に無数の光が輝いている。
「日中に流れ星…?」
そんなことを呟く人がいた。僕はハッと冷静になる。
「あれは、あれが…そう……か。」
不意に誰かが叫んだ。
「あれはミサイルだー!みんな急げ!」
その一言で、その一瞬で、パニックが起きた。
縦横無尽に地上を駆け回る人々、何を思ったか地下から様子を見ようと出てくる人々、急いで地下に入ろうとする人々、高架橋の上で立ち尽くす人々、…。僕は高架橋の非常階段から身動きさえとれない状況で立ち尽くす他なかった。次の瞬間、光が目の前に迫り、視界が奪われた。爆風を感じながら意識は消えていった。