第2話 変わらない日常、変わっていく世界
世間はいたって穏やかだ。今日も大勢の人々が行きかい、街は熱気にあふれている。テレビも相変わらず猛暑のことばかり報道している。
「行ってきます。」
今日も僕はいつも通り学校へ向かう。玄関を出て、痛い日差しを受けながら駅へ向かった。
<1番ホームに快速電車が参ります。黄色い点字ブロックの内側へお下がりください。>
普段と変わらない自動アナウンスを聞き流しながら僕は電車へ乗り込んだ。
車内では疲れた顔のサラリーマンや友達と仲良く話している大学生、買い物に行くであろう女性など、様々な人たちが乗っていた。僕もいつも通りスマホを見ながら立っていた。友達や有名人のSNSを眺めたり、推しの配信動画を観たり、ネットニュースを読んだりして過ごす。ネットニュースもほぼすべての見出しが「猛暑」と入っていてさすがにうんざりする。しかし次の瞬間、僕のスクロールする指が止まった。
[ノースアイランド連邦国が核ミサイル発射実験 セントリカ合衆国は激しく反発]
どうやら世界では物騒な兵器が作られているらしい。僕は詳しく知らないが、数十年前に大規模な核戦争が起きて世界が混沌の時代へと突入した。それにより人類が滅亡の危機に陥ったことを受け、世界核兵器禁止条約が発効して核兵器は完全に禁止となった。ここまでは歴史の授業で習う話だ。しかし、この報道で新たに核兵器の開発が行われているということが明らかになった。僕が生まれた時には復興していたが、戦争後の復興は自然災害からの復旧よりも遥かに大変だったらしい。一度、人が人を滅亡させかけた同じ過ちを再び犯そうとしているのか。僕はこの日、とてもモヤモヤとした気持ちを抱えながら過ごした。
夜、ご飯を食べた後、僕はテレビの報道を見ていた。話題はミサイル実験だ。僕はなぜ国際的に禁止されている核兵器をいまさら新たに開発し始めたのか疑問だった。
「…のため、現在も多くの核ミサイルを所持しているセントリカ合衆国の囲い込み政策に対抗する力として核兵器開発を新たに開始したとの声明を発表しています。」
僕は驚いた。世界核兵器禁止条約には「新たな開発」を禁止する効力があるだけで、既存の兵器を廃棄する義務はなかったのだ。これは兵器がない国は武力において一向に強い立場に立てない。それでは経済活動においても足元を見られてしまうかもしれない。そういう懸念が生じてしまったのではないだろうか。そしてニュースによるとセントリカ合衆国はノースアイランド連邦国の周辺海域を勝手に占領しているらしい。これはノースアイランド連邦国にとって脅威に感じられても仕方がないことだろう。セントリカ合衆国は別目的の警備だと主張しているが、両者ともだんだんヒートアップしていきそうだ。頼むから大人げない国同士のけんかにならないでほしい。そう強く感じたのだった。