第17話 未知の存在
犬田賢一の住んでいた地域の人々が北の地域で不自由なく助け合いながら過ごしている間、彼自身は摩子や長老と出会い、旅を続けていた。そして彼らの旅路は偶然にも北を目指して進んでいたのであった。だがそんなことを知る由もない。現在、彼らはリーベンナ国中心に位置する、巨大な山脈を越えて中央リーベンナへとたどり着き、出発するところである。
僕は神に化かされたと信じたわけではないが、あのリアルな感じはどう考えても現実のものであった。巨大な街が一夜にして消え去ることなどあり得るのだろうか…。まあ考えてもわからない謎というものは存在するものだ。ひとまずこのことについてはしばらく考えないことにしようと思う。とりあえず進むべきだ。僕たちは今、どこにいるか把握できていないが、なんとなく北上しているような気がする。山に囲まれて太陽も高いので、はっきりとした方位は分からないのだが。
「…しばし止まれ。」
急に長老がそう言って立ち止まった。何やら周囲を見回している。僕と摩子は少し困惑しながらも、その並みならぬ様子から何やら起こりそうだということだけ感じ取った。
…ザッザッザッ。何かの足音だろうか。草むらの中から音がする。そちらをじっと見ていると、黒いローブをまとった怪しげな存在が姿を現した。僕たちはただ息をのんで凝視することしかできなかったが、向こうがいきなり話しかけてきた。
「…オマ…エタチノア…トヲツイ…テキタ…ズットズット…」
途切れ途切れになりながらも言葉を続ける。
「……ワタシハオ…マエタチ…ヲシュゴ…スル…ジャア…クナヤツ…ノテカラ…マモル」
よく意味が分からなかったが、どうやら敵意はないようだ。しかし人間とは思えない容姿に、僕たちは躊躇っていた。どうしたものかと悩んでいると、長老がひそひそと話しかけてきた。
「どうやら敵意はなさそうじゃな。」
「そのようですね。でも未知の存在です。どうしたものかと考えているのですが、何か良い案はありますか。」
「なあに、受け入れればよかろう。向こうは敵意がないようじゃし、未知の存在とて驚くことはなかろうよ。」
さすが年を重ねているだけあって、判断力と肝のすわり様は僕ではかなわない。長老の助言を受けて、僕は一緒に行動することを決めた。いろいろ話も聞けそうだしな。
こうして僕の旅仲間には3人目の仲間…?が加わり、4人…?となった。僕たちは着々と足を進めていくのであった。