第15話 消える街
肌寒くて目が覚めた。夏とはいえ朝方は少し寒い。ふと周囲を見回すと、そこには…何もなかった。確か昨夜は街にある宿のふかふかのベッドで眠りについた。しかし今、僕たちは山々に囲まれた盆地でただ地面に寝転がっていたのだった。
「街は、どこにいったんだ。」
心の声が漏れる。僕はあっけにとられていた。不安や怖さではなくただただぽかんとしていた。
しばらくして2人も起きた。2人はまだ現状を把握できていないようだった。
「あれ?なんで何もないところで寝ているんだっけ。」
摩子が違和感に気づいたようだ。
「どうやら街が消えてしまったみたいだ。」
僕自身も何が起こったのか分かりかねるので、曖昧な返答しかできない。摩子はふと気に病んだような表情をしていたように見えたが、特に気に掛けることはしなかった。
「…街が……なんだって?」
長老は朝が苦手なようだ。起き上がるとマイペースで髭をくしでとかしながらのんびりとした口調で問いかけてきた。
「昨夜過ごしていた街がすっかり消えてしまったみたいです。起きたら何もなくなっていました。」
僕がそう返答すると長老は真剣な表情になってこう言った。
「なるほど。我らはどうやら何らかの仕業によって化かされたようじゃな。」
「化かされた…?」
「そうじゃ。古くからこの国にはとある伝説があるのじゃ。その昔、神々が集まる地域があった。その地域では神々が酒を飲んだり各地の特産品を持ち寄って食べたりする、神の宴が度々開かれていたんじゃ。そんでな、いろんな遊びも同時に行われていたそうじゃ。」
「遊び…。」
「神々の遊びじゃ。現世にいる人々を招き入れて誰がいちばん上手にもてなせるか比べたり、人々に霊体を見せて驚かしてみたり、時には幻を見せたりしていたようじゃ。」
そこまで言うと、話を止めた。
「じゃあ神様たちが幻を見せていたということですか。でも幻とは思えないほど現実味がありましたね。お風呂も入ることができて疲れもとれましたし…。」
神々の宴…。僕は神様の存在を信じているわけではないが、大事なことの前には祈ったりしている。だから否定はしていないのだが…。
「でも信じられませんね。あの規模の街が一夜にして消え失せてしまうなんて。」
「そうじゃ。まさに神の仕業としか言えまい。」
ここまで話して、消えた街について何か結論が出せるわけもなく、とりあえず神様が長旅に娯楽を与えてくださったということにしておこうということになった。なぜかこの話の間、摩子はずっと下を向いていたのだが、僕たちは特段気にすることはなかった。
「とりあえず、旅再開といきますか。」
2人の同意を得て、僕たちは歩を進めることにしたのだった。