第12話 長老、旅立つ
翌朝、目を覚ますと長老が旅の支度を整えてくれていた。僕が準備した保存食も最初の半分くらいになっていたので、食べ物を恵んでくれたのはありがたい。数日分の食料と水、そのほかにもいろいろと持たせてくれた。
「ありがとうございます。大変ありがたいです。」
「あー、あー、気にせんでいい。儂もそろそろ旅に出ようと思っておったところじゃ。そうじゃ、儂を連れていけ。長年1人寂しく暮らしておったからのぉ。どうじゃ、礼として儂を連れていっておくれ。」
僕は長老の狙いは最初からこれだったのかと驚きながら、特に悪いことはなさそうなのでありがたく申し出を受けることにした。
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
こうして僕らは3人になった。遂に大人との遭遇を果たしたわけだが、僕の心の隙間は未だ埋まらない。どうやら家族と再会するまでずっとこのモヤモヤした気持ちを抱えていくしかないようだ。僕たちは歩き出す。壊れてしまった社会を、人間関係を取り戻すために…。
やはりついていく黒い影。あいつは結局何なんだ…?賢一も長老も気づかない。摩子は…何か感じるようになったみたいだ。しかし、確信するまでには至っていない。何が目的なのだろうか…。
3人は歩を進め、集落のそばにそびえたつ大きな山へと近づいていた。
「これ、登るの…?」
摩子が不安げに聞く。
「まあこの山でなくてもよいが、この先へ行くにはこれくらいの高さが連なる山脈を超えんといかんからのぉ。」
この地域に住んでいただけあって地理に詳しい長老が答える。
「もう少し低いところを探しましょう。多分これを超えるのは厳しいですね。」
僕が提案すると2人とも頷いた。僕たちは山脈沿いに歩き、少しでも低い山を越えることにした。