論文:小竜種での独翅類による免疫機構置き換え委託の記録
図解は後日追加予定。
トカゲの背中にコウモリの羽が生えている姿を想像してください。
小竜種での独翅類による免疫機構置き換え委託の記録
アンゲルス・スミス、デモニウス・スミス共著
概要
ハネフヤシの一種(haerens diaboli)は、パンゲア大陸北西部を中心に広く分布する、コウモリの羽のような形をした寄生性の動物である。同種は宿主と切り離すと宿主を死に追いやることが知られており、今までは何らかの毒とその中和抗体により宿主の生死をコントロールしていると考えられてきた。本研究は、宿主の死因が免疫不全を原因としたカビや病原菌への感染であったことを明らかにし、ハネフヤシが寄生時に宿主の免疫機構を独自の免疫機構に組み替えて拒絶反応を防いでいるという新たな知見をもたらした。さらに、一部の宿主となる種はもともと免疫機構をもたず、出生直後にハネフヤシを取り付かせることで免疫機構を代替させていることも示唆された。
序
アトランティスの森の中で発見された小型の翅型寄生生物(図1)が世間を騒がせた当時を覚えている方も多いだろう。7インチほどのトカゲに寄生していたこの生物は、ドラゴンが架空の存在ではなかったことを証明したのだ。同種は宿主となる動物の背中に寄生し、栄養を吸い取るという生存戦略をとっている。宿主とハネフヤシを切り離すと宿主の側が死亡する特性を持つことから、切除を防ぐための方策として、自らが寄生時に注入した毒を寄生している間ずっと中和し続けているのだと今まで考えられていた。
研究1. 宿主となる種族
ミッドアストラン国立公園付属研究所では、h.diaboliに寄生されたサンゴヘビモドキの一種(Atractus sp.)を研究目的で複数捕獲・人工飼育している。昨年はこの個体が産んだ卵から4匹の幼体が生まれたが、いずれも生後7日以内に死亡した。この4個体を解剖して死因を特定したところ、2個体がカビ、1個体が細菌性の肺炎、1個体がウイルス性の感染症によるものだった(鹿樫義久 81)。死因とされたカビや病原はいずれも感染力や毒性の低い種類であり、間接的な死因として免疫力の低さが考えられる。
研究2.
本年は同種の卵が17個生まれ、うち15個体が孵化した。これらの個体について血液成分を調べたところ、どちらも免疫細胞がほとんど存在しなかった(表1)。8個体を無菌室に隔離して飼育したところ、無菌室に入れなかった個体は全て死亡したが、隔離個体は2週間経過後も全て生存していた。この際に再度血液成分を検査したが、有意な差は見られなかった(表2)
なお、隔離個体の世話と国立公園のフィールドワークを兼任した研究員3名からは、幼体の世話をしていた期間は成体のみの世話をしていた時期に比べてh.deaboliの野生個体との遭遇確率が顕著に上がったと報告があった(表3)。これは、孵化直後のAtractus sp.が何らかの誘因物質によってh.diaboliを引き寄せていたと考えられるが、詳しいメカニズムは後の研究に期待したい。
研究3.
無菌室を滅菌済みのパーテーションで2つに区切り、Atractus sp.を4個体ずつ入るようにし、区切った片方の区画のみに6体のh.deaboli を放した。h.deaboli のいる区画では、3個体のAtractus sp.がh.deaboliに寄生され、その後もケージ内で生存し続けた。寄生が確認できなかった一体は、カビに感染して死亡した。比較実験としてh.deaboliのいないケージに放した4個体については、細菌性の肺炎やカビの感染によって死亡した。
死亡した個体と生き残った個体で血液成分を調べたところ、どちらにもAtractus sp.由来のDNAを持つ免疫細胞はほとんど存在しなかったが、生き残った個体からはh.deaboli由来のDNAを持つ免疫細胞が確認された。その後、生き残った個体のうち一体からh.deaboliを切除したところ、この個体は9日後に死亡した。寄生翌日以降の免疫細胞数の遷移は表4に記す。
展望
以上のことから、h.deaboliは寄生対象の免疫機構を代替しており、切除による宿主死亡は宿主が単独で免疫機能を構築できていないことによるという可能性が示唆される。サンプル数が不足しているため、来年以降も継続して研究を続ける必要がある。
誘因物質と寄生の条件が明らかになれば、免疫疾患の治療のヒントになるかもしれない。
謝辞
まずは、行動制限が多い私を無菌室担当として雇用してくれた敬愛する所長、嫌な顔ひとつせずにフラットに付き合ってくれた同僚諸君に心からの感謝を。また、この実験やそれ以前の飼育時に亡くなったヘビ達に、その献身への感謝と追悼を。君たちのおかげで、今後多くの命を救える可能性が開けた。せめてもの償いに、今度慰霊碑を建てることを約束する。
最後に、文字通り私の体の一部として支えてくれたデモニウスへ。君がいなければ、私は君に出会わなければ、この仮説を立てられなかったばかりか、今こうして筆を取ることもできなかったかもしれない。いくら感謝してもし足りない。今後も僕と共に生きてくれることを切に願う。まあ、僕が生きている限り君と一緒なのはほぼ自明なのだけれど。