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01 異能のサリーシュ

一話は短編版と同じ内容です

既読の方は二話目からお読みください


 その光景を目にした瞬間、自分でも何が起きたのか分からなかった。

 真っ白なまばゆい光が、大きく広がって私の目を刺したのだ。


「いたっ」


 だから思わず、目を押さえて叫んでしまった。


「誰だ!」


 本当に痛いくらい眩しくて、私は泣きそうだった。

 場所は王宮の広大な中庭。

 久しぶりに王都にやってきた法服貴族の娘である私は、パーティー特有の恋愛遊戯や社交にかこつけた情報戦から逃れて、暗い夜の中庭に出たところだった。

 綺麗に刈り込まれた庭木によって迷路が形作られる庭園に、一時の休息を求めたのだ。

 ところがどうして、その迷路にしっかり迷い込んでしまい、無事この庭から出られるだろうかと不安になりかけていたところだった。

 そして角を曲がったところで、不意に巨大な発光体と出くわしたのだ。

 光は白い。

 私は慌てて庭木の影に引っ込んだ。

 そして強烈な光から逃れた私は、ようやく自分が置かれた状況が非常にまずいことになっていると察した。

 誰だと誰何していることからして、例の光の正体は人間なのだろう。

 私には他人の能力を体を覆うオーラで判断するという厄介な能力があり、親からはその力を悪用されないよう決して油断するなと言い含められて育った。

 そもそも領地を持たない法服貴族の娘でありながら田舎暮らしをしているのも、特異なこの能力のせいなのだ。

 私はオーラの色でその人が持つ魔法の属性を知ることができる。

 例えば炎なら赤。水なら青。その両方なら紫という具合だ。

 普通、自分の適した属性を知りたければ教会に多額のお布施を払って聖水晶に触れ、ようやく知ることができる。

 なのに水晶を介さずそれを知ることのできる私の能力は、人の中で普通に暮らすには厄介極まりない力だった。

 なので何を見ても態度に出さないよう訓練し、今日も万全の心構えで臨んだのだが、ダメだった。

 だって光が眩しすぎるのがいけない。

 普通の人は、体の周りを色のついたオーラが微弱に纏っている程度で、決してこんなことになりはしない。そもそも色のついた光なので、それほど眩しくもない。

 ではどうしてこうなったのかと言うと、迷路の中にいた人物が今までに出会ったことがないほど規格外の力を持っているということだ。

 この光の強さということはとんでもない魔力量だし、なにより光が白い。ということは全ての属性の力を兼ね備えているということである。

 こんな人物には今まで出会ったことがない。

 だから思わず取り乱してしまったのは、仕方のないことだと思う。

 けれど私のそんな事情を先方は知る由もないし、どうしたのかと尋ねられても私だって説明できない。

 一体これからどうしたものかと思っていたら、がさりと音がして人の気配が近づいてきた。

 先ほどの轍を踏まないよう、恐る恐る薄目を開ける。

 すると先ほどのような眩しすぎる光ではなく、冷たそうな水色の光を纏った人影が目の前にいるのが分かった。

 これなら目を開けても大丈夫そうだ。


「貴様、一体どこから入り込んだ?」


 目の前に立っていたのは、やけにきらきらしい顔をした男性だった。瞳はアイスブルーで、髪の色も青みがかった銀色だ。

 水色の光ということは氷の魔力を持っているのだろう。非常に攻撃力の高い能力だ。

 まるで彼自身が氷でできているのではないかと思うほど、その雰囲気は冷たく尖っていた。

 私はこの迷路の奥に入り込んではいけなかったのかと焦り、事情を説明した。勿論自分の能力のことは除いて。


「ええと、中庭に散策に出たのですが迷い込んでしまって。こちらは入り込んではいけない区域だったのでしょうか……?」


 できるだけ無害な小娘を装ったつもりだが、通じるだろうか。


「もっとましな言い訳があるだろう。まさか中庭からこの離宮にまで入り込んだと?」


 通じなかった。

 通じないどころか余計に相手の不信をあおったらしい。

 男は腰に下げていた剣に手をかけた。

 なんで王宮内でそんな物騒な物を下げているんだ。この男は騎士なのか。

 私は自分の方向音痴っぷりに泣きたくなった。

 王宮の周りに離宮はいくつかあれど、どれも王宮とは完全に別棟である。むしろどうやって迷い込んだんだ。私にだって意味が分からない。

 とりあえず精一杯の謝罪と反省を表すため、私はその場に膝をついた。ドレスが汚れてしまうが、今はそれどころではない。本当に首を飛ばされても文句は言えないレベルのやらかしだ。

 離宮ならばここは王族の棲み処なのだ。王族と比べたら、法服貴族の娘なんて道端のちり芥も同じである。ごみなら風で飛んできてしまいましたで済むが、人間だとそうはいかないのだ。


「大変申し訳ありません。本当にこちらが離宮なのであれば、謝罪のしようもございません。ですがどうか、命ばかりはお許しくださいませ……」


 私は必死に命乞いをした。

 当然だ。やらかしたとはいえ、流石に方向音痴のせいで死にたくはない。

 一方で、男は私がすぐさま膝をついたことに、虚を衝かれた様子だった。

 まさかそこまでするとは思わなかったのかもしれない。


「やめてよクロード」


 すると先ほど発光体があった場所から子供のものらしい高い声がした。

 そして眩しい光が私の前に飛び出してくる。


「うぐっ」


 顔を伏せていても眩しかったので、必死に目を瞑った。

 氷の騎士は、どうやらクロードというらしい。


「そこをお退きください殿下! 危険です」


 クロードの動揺したような声がする。

 殿下というからにはやはり、この発光体は王族であるらしい。

 姿は全く見えないが、見ず知らずの私を庇ってくれているようだ。

 大変ありがたいが、同時に危ういとも思う。

 本当に私が悪者だったら、後ろから手を回せば簡単に亡き者にできてしまう。

 田舎育ちの私ですら驚くような無防備さだ。そしてここに至ってもまだ男以外の護衛が現れない警備の手薄さ。

 どうやらこの光の主は、人々に傅かれる王族の中でも随分特殊な立場にあるらしい。

 私は害意がないと示すため、ずりずりと跪いたままで後退した。むしろそのまま逃げだしたいくらいだった。

 視界はまぶしいし、頭の中では警鐘が鳴っている。

 関わり合いになってはいけない。

 殿下と呼ばれる立場の人の中で、こんな状況にある人間などおそらく一人しかいない。

 だが一方で、奇妙だとも思う。私が知るその人物は魔法を扱う能力が一切なく、近々臣籍降下されるはずだからだ。

 だが能力が一切ないどころか、この光を見れば魔法におけるすべての才能に恵まれていることが分かる。


「お退きください殿下。不審者は排除するのみ」


 不穏な言葉と共に、剣が鞘から抜かれた音が聞こえた。

 これはいよいよまずい。逃げ出したいがここで背中を向けたらすぐに切りつけられるだろう。

 クロードの能力なのか、私の足元からパリパリと薄い氷が張り始める。春先とは思えないような冷気がドレスの裾から這い上がってきた。私の足は氷によって固定され、もう逃げることすらできない。


「やめてよクロード!」


 そう叫んだかと思うと、光は私に抱き着いてきた。

 その時ようやく、私は光の中に小さな男の子が立っていることを視認することができた。ようやく光に目が慣れてきたようだ。まったくもって今更なのだけれど。

 私を守ろうとするその手の温かさに、私はいろんな意味で覚悟を決めた。

 それは死ぬ覚悟ではない。


「恐れながら!」


 私は力いっぱい叫んだ。


「ぐ……偶然迷い込んだというのは、偽りでございます」


 本当の本当に偶然なのだが、偶然だと言い張ったところでもはや助からない。

 ならば後付けでもいいから忍び込んだ理由をこじつけるまでだ。


「やはりか。一体誰の差し金か」


 予想通り、男はまず私から首謀者を聞き出そうとしてきた。

 これで、私の寿命はほんの少しだけ伸びたはずだ。


「ですが、誰の差し金でもございません。わたくしは自分の意思で、ここに参りました」


「……なに?」


 私に抱き着いている光から、困惑が伝わってくる。

 それはクロードも同じだ。


「わたくしは……テストン子爵の娘。サリーシュ・アルティア・テストンでございます。カミーユ殿下の才能を知り、この方こそ己の主に相応しいとはせ参じました!」


 この発光体ことカミーユ・グリンダル・クロフォード・リッツン殿下は、魔法の才能が全くないと、父王からも見放され、王位継承権の破棄は間近だと言われていた。

 私は心の中で父に詫びる。

 絶対後で面倒なことになるが、私の命を救うためなので勘弁願いたい。


 こうして私は完全なる成り行きで、王子を臣籍降下から救うことになったのだった。



 

 





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