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せめて「母さん」と呼んでくれ!  作者: 苺雛 シュクリエ
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2.父、ダイエットを決意する

 それは楽しい楽しい夏コミの日だった。

「いや~今回もずいぶん買い込みましたな~、チョコアザラシ殿!重くないですかな?」

「あ~重いけど、早く帰って新刊読みたいから頑張るわ。たまには運動しないと腹に溜まった脂肪が減らないからな」

「おぅ、それは拙者にも刺さりますわ……」

 夏コミの帰りにオタク仲間のハンドルネーム・メロン犬さんと大崎駅のホームで歩きながら話していた。

 メロン犬さんは私、ハンドルネーム・チョコアザラシと推しカプは違うが同じジャンルで読み専オタクとして活動している。といっても、同人誌即売会に一緒に行って、新刊を読みながら騒ぐだけだが。

 メロン犬さんも私も、性別は違うが体形や性格や食べ物の好みが合うのでよく遊ぶのだ。

「インターネットだとオタクはみんな私みたいに外見のよくない人間ばかりだと思っちゃうけど、最近はきれいな人多いよな……肩身が狭いわ……」

「ソレ、今日初めてお会いしたという神絵師の猫饅頭さんのこと言ってます?あの人、Twitterで外見に自信ないとかつぶやいてたのにバリバリのイケメン外国人様でしたもんね」

「くっ……あんなにTwitterで外見に自信がない人間同士語り合ったというのに、あっちはイケメン、こっちはおデブ……今回は本当にショックだったんだよ!」

 そう、この日は初めてハンドルネーム・猫饅頭さんと会った日だった。

 猫饅頭さんは私が追ってるジャンルで私が追ってるカップリング(ただしBL)で漫画を描いている。猫饅頭さんと私は外見に自信がない同士で共感し、盛り上がり、慰めあい、熱く手を取り合った(ネット上で)仲だった。猫饅頭さんは男性なのにBLを描いている珍しい人で、周りが女性ばかりなので気後れすると言ってなかなかリアルの即売会に出てこないことで界隈では有名だった。本は通販で出してくれるので読み専的には問題はないが。

「えらい引きずりますねぇ。ネットと現実に差異があることくらいアザラシ殿ならご存じでしょうに」

「そう、だから決めたの!冬コミまでに痩せて猫饅頭さんを驚かせるって!」

「いや、別に向こうはアザラシ殿が太ってても優しく対応してくれてじゃないですか。そんな対抗心燃やす必要ないのでは?」

 そう、猫饅頭さんは中身もイケメンだった。こんなおデブのファッションのfの字すらない陰キャオタクに「会えてうれしいデス」といい、笑顔で握手を求めてきた。珍しく即売会に出てきた猫饅頭さんにそんなことを言われてうれしかった。だからこそ、身綺麗でない自分がみじめに思えてきた。

 向こうは自信がなくとも、客観的には平均以上のイケメンである。対してこちらは鏡で自分の顔も見るのが嫌なほどだ。ぶよぶよで二重顎どころか首が見えないし、顔はニキビでボロボロだ。唯一誇れるのはつやつやの黒髪くらい。

 向こうにとってはファンの内の一人でも、こちらにとっては推しカプ漫画を生み出せる神である。そんな神に気を使わせていいのか、否!だから私は決意したのだ。痩せて、せめて人並みの外見になると!

「それに最近肩こりと冷え性と頭痛と膝の痛みがひどくて……」

「あっ……拙者も健康診断の数値がやばめでしたな……」

「……一緒にダイエットする?」

「……そうしましょう、か」

 そう言った瞬間にメロン犬さんはよろけて線路へと転落した。

 まもなく電車がホームへと着く。夕方の薄暗い線路に電車の正面ライトがメロン犬さんを追いかけてやってくる。

 そして助けようとした私も誰かに背中を押されて一緒に線路に転げ落ちたのだった。

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