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処刑が決まったよ



 ◆ ◆ ◆



 この部屋で生活を始めてから、こんなにぐっすり眠れたのは初めてでした。夢を見ることもなく、気が付けば朝も通り越して。時計を見ればもう夕方のようです。


「カミュさま……?」


 目を擦りながら部屋を見渡しても、騎士様の御姿も、脱ぎ捨てていた装備なども、何もありません。


 カミュさまは……いつまでいてくれたのでしょうか。私が寝て、すぐに帰られたのでしょうか?


 少しでも長く一緒にいてくれたなら。


 そう願うのは、私には過ぎた願いですよね。視線を落とせば、私の脚の上いるギギがこちらを見ています。ギギも呆れて何も言えないですよね。こんな未練がましい、強欲な飼い主なんて……。


 そんなギギの首が扉の方に向きました。次の瞬間、扉がノックされます。


「サナさん、今開けても大丈夫すか?」

「レスターさん? 大丈夫ですよ」


 レスターさんなら、多少は。乱れた髪をパッと手簪で解かして返事をしたことを、私はすぐに後悔します。


「サナさん、お客様」


「やあ! サナちゃん、元気かい?」

 開いた扉の先には、レスターさんと……へ、陛下です。ね、寝巻きで陛下と対面ですか⁉  ダメですよね、それって不敬ですよね!


「す、すみません! 今起きた所で私――」

「あー大丈夫だよ、そのままで」

「で、ですが……」


 私がワタワタしながら、視線でレスターさんに助けを求めます。ですが……あれ? レスターさんと全く目が合いません。


 何かレスターさんにも失礼なことをしてしまったのでしょうか? ふとそんなことを考えていると、陛下がベッドの側まで椅子や運んできます。そして私が何か言うよりも前に、椅子に腰掛けてしまいました。あれ、そういえば陛下とも目が合いませんね。


 少し重たい雰囲気に、わたしはギギを抱きしめます。すると、陛下が小さく笑いました。


「あのね、サナちゃん。これは、本当は君に話すべきことじゃないんだけど……」


 陛下が目配せすると、レスターさんが一礼して部屋から出ていきます。扉がゆっくりと閉められた後、陛下が震える声で言いました。


「今日今しがた、ミュラーとの平和条約会議で……カミュの処刑が決まったよ」

「え?」


 何も言葉が頭に入ってきません。今、何とおっしゃいましたか?


「正確に言えば、平和条約継続を条件に、カミュをミュラーに引き渡すことが決まった。カミュはミュラー皇国にとって前国王を殺した憎き敵というやつだからさ」

「そ……それって、陛下をカミュさまが守ったという事件のことですか?」

「そうだね。ミュラーの前皇帝自ら俺を殺しに来るとか、なかなか面白いことしてくれたなと思っていたんだけど……」


 以前、レスターさんから聞いたお話です。とても自慢げに話していたことをよく覚えています。それがきっかけで、若くして小隊長に出世したとも。


 確かに視点変われば、ミュラーにとってカミュさまはとても忌むべき存在になるのかもしれません。ですが、政治など素人にすぎない私にだって納得できない話です。


「そ、それでも急すぎやしませんか⁉ いくらミュラーにとってカミュさまに恨みがあろうとも……それって昔の話なんですよね?」

「向こうの新皇帝いわく……自分が新たに創建派として帝国と友好的な国に導いていく以上、再建派を宥めるだけの材料が欲しいということだ。彼の言い分もわからないわけでもないんだけどね。今まで行方知れずだった皇子が急に即位するとなって、反発する輩はいくらでもいるだろうからさ」


 新皇帝――その単語に、私は固唾を呑んでから尋ねました。


「その新しい皇帝って……クロのことですよね?」

「……そうだね」


 伏し目がちに答える陛下ですが、私は両手に力を込めます。


「クロと……話すことは出来ませんか?」


 クロだったら、きっとわかってくれるはずです。確かに、クロはカミュさまを毛嫌いしている様子でしたが――それでも善悪はわかる子です。カミュさまが死ぬべき人でないことくらい、わかっているはずです。だから、これは何かの間違いなんです。もしかしたら、クロも誰かに脅されてそういう条件を出さざる得なかったのかもしれません。


「クロは、クロはどこにいるんですか⁉」


 それなら、私がクロを助けてあげなくちゃ。何が出来るかわかりません。クロには否定されてしまいましたが――それでも、私はクロのお姉ちゃんなんです。クロが困っているなら、私が助けなきゃ。二人で考えたら、きっと名案が浮かぶはずです。


 私はベッドから降りて、クロを探しに行こうとします――が、腕を陛下に握られてしまいます。


「ダメだよ。君がこの部屋から出ることは許さない」

「ですが――!」

「……この話の前に、条件に出されたことがあるんだ」


 陛下は顔をあげようとしません。私がどんなに腕を引いても、痛いくらいに掴まれた手を離してくれません。が、椅子に座ったまま語る声は、とても暗いものでした。


「スタイナー帝国が保持する魔女を引き渡すこと」


 私の足が止まります。


「それは……私のことですか?」


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