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君のことはしっかり管理させてもらうよ



 ◆ ◆ ◆



「みゃう!」


 重たい瞼を開けると、ギギが私の胸の上に乗っていました。相変わらずフワフワです。モフモフして温かいです。そしてちょっと重たいです。


「どうしましたか? お腹でも空きましたか?」

「みゃあ!」

「待っててくださいね。今ミルクを――」


 起き上がる前に窓の外を見ようとしました。だけど、ここには窓がありませんでした。厳密に言えば――窓は木の板で封鎖されていました。外の様子は全く見えません。だけどお部屋自体はとても豪華です。小さな箪笥も机も絨毯もどれもお高そうで、私の寝ていたベッドもフカフカです。


 そしてベッドの隣には、異国風の高貴な格好をした美少年がいます。


「サナ……?」


 クロです。だけど、少しオドオドした様子。


「クロ……ここはどこですか?」

「うん。スタイナー城の一室だよ。具合はどう? どこか痛い所ない?」

「それは大丈夫ですけど、どうして私がお城で――」

「良かったぁ……もしも、母さんみたいに……」


 大きく息を吐いたクロの青い瞳が、泣きそうに潤んで。

 そんなクロに、私は寝たまま手を伸ばします。そのあたたかい涙をそっと拭いました。


「クロ……大丈夫ですよ。私は生きています。死んだほうが……良かったのかもしれませんが」

「そんなこと言うなよっ!」

 

 急な怒鳴り声に、びっくりです。私は反射的に手を引っ込めます。

 すると、クロは気まずそうに視線を逸して。


「ちょっとごめんね。サナが起きたこと、陛下に伝えて貰わないといけないから」

「あ、はい。どうぞ……」


 クロが、私のことを『サナ』と呼びます。胸がズキリと痛むけど、ギギはいつもどおりポカポカですね。


 私が許可すると、クロはそそくさと扉に向かいました。扉の外には兵士さんがいる様子。クロが少し話すと、足早にどこかへ向かいます。そして、クロはすぐに私のそばに。


「えーと……余計な人が来る前に、確認しておきたいんだけどさ」

「……何でしょう?」


 クロの様子がどこかよそよそしいです。だけど、その原因はすぐにわかりました。


「サナは……広場でのこと、覚えてる?」


 ……そうですよね。あれは夢ではないんですよね?


 私はギギを撫でます。黒毛の長い、ずっと私たちの側にいてくれた家族です。ギギが心細そうに鳴きました。大丈夫ですよ。大丈夫、大丈夫……。


 私が深呼吸すると、クロもギギを撫でていました。


「あの時、近くにいた十三人の人が倒れた。あの日から三日経っているんだけど……幸い、全員目を覚ましたよ」

「そう……ですか……」


 すると、ふとクロの手と触れます。まぁ、一緒にギギを撫でていたのですから、ぶつかりますよね。いつものことのはずなのに……なぜか、私はとっさに手を引っ込めて。


「姉さん」

「ご、ごめんなさい! あの……えーと……」


 何を話せばいいのでしょう?

 クロに告白されて。それに私は答えられなくて。


 あげくに、困惑しすぎた私は大変な騒ぎを――


「みゃあ」


 気が付けば、手が擽ったい。犯人はギギ。手をペロペロと舐めてくれています。

 そんな時、


「失礼する!」


 扉がバンッと開かれました。そこに現れた人物に、私は目を見開きます。


「カミュさま⁉」

「はは、俺もいるんだけどね」


 確かにその後ろにはアルベール=スタイナー陛下もいらっしゃいました。が、先陣を切ってカミュさまがズンズンと歩いてきます。真顔です。いつになく険しい顔で、私に詰め寄ってきます。


「体調は?」

「あの……えーと……」

「あんたが魔女だということも、その力が暴走し、使い魔が治めたことも報告を受けている。だから案ずることはない。なんでも包み隠さず話せ」


 えーと……そう言われると、余計に話しにくかったりするのですが……。


 それでも、カミュさまの言葉に疑問が浮かびました。


「使い魔?」


 リィーリは私以外に見えないはずですし、魔物はひとり一匹だと聞いているのですが……。


 その時、ギギが「みゃあ」と鳴きます。その得意げな顔、まさか!


「まさか、ギギが私を止めてくれたのですか?」

「みゃっ」

「ギギ~!」


 私はギギをギューッと抱きしめました。もう、なんて良い子なのでしょう。これはご褒美をたくさん用意してあげないといけませんね! お魚がいいですか? 美味しいミルクがいいですか? これはクロにも相談してご馳走を――と思ったんですけど、クロの顔はどこか複雑そう。


「クロ、どうかしましたか?」

「いや……姉さんは、やっぱりギギのこと知らないんだなぁって」

「ギギのこと?」


 私が首を傾げると、クロは慌てて手を振ります。


「ごめんごめん。なんでもない。でも本当、ギギはすごく良い子だったんだ。いっぱい褒めてあげて」

「はい、もちろんです!」


 ちょっとクロの様子が気になりますが、今、あまり追求する勇気はありません。


 それを誤魔化すようにギギと頬をすりすりしていると、やたら眉間にしわを寄せたカミュさまと目が合います。


 あう……そうでした、カミュさまとお話の途中でした……。


 困って視線を逸らせば、今度は後ろにいらっしゃる陛下と目が合います。陛下はニコリと笑ってくださいました。


「サナちゃんごめんねー。そいつ、ずーっとサナちゃんのこと心配しててさ。勘弁してやって?」

「そ、それはとても有り難い限りです……」

「そんなことで感謝される筋合いはない。で、どうなんだ?」


 うぅ、私に逃げ場はないようです。

 堪忍して「元気です……」と答えれば、カミュさまはとても大きな嘆息を吐かれました。


「そうか。それなら良かった……」

「御心配おかけしてすみません」

「全くだ」


 そう告げるカミュさまのお顔が途端、いつになく優しくて。

 耐えきれず再び顔を背けると、立ったままの陛下が仰っしゃりました。


「いい雰囲気な所申し訳ないんだけどね……サナちゃんの処分を告げさせていただくよ」


 その言葉に、私は静かに頷きます。

 そうです、陛下はカミュさまに命じてました。私が問題を起こしたら殺せ、と。


「サナちゃんは今後、この部屋だけで生活してもらう。さっきカミュも言ってたけど、君が魔女ということを俺らはハナから承知だからね。こう事件を起こされた以上、君のことはしっかりと管理させてもらうよ」


 いわば軟禁……当然ですね。むしろ寛大すぎる処遇に感謝しかありません。私は魔法の力を暴走させたのです。こんな危ないぽんこつ魔女を死刑や牢屋で監禁しないなんて、我ながら甘い処遇なんじゃないかな、と思います。


「扉の前には兵士を置かせてもらう。食事等も当然メイドに運ばせるし、湯浴みなど最低限の外出には専属の兵士を付けるから、生活に関しては何も心配しなくていい。何か欲しい物や用事があれば、彼らに遠慮なく伝えてくれ」

「はい……ありがとうございます」


 視線を下げる私に、陛下は顔をしかめられました。クロも、カミュさまも、みんな辛そうな顔をしてくださって――そんな顔なさらないで下さい。十分です。私には勿体ないくらいの処遇です――そう言いたいのに、なぜか私は言葉が出ず。


 そんな私の手を、ギギはずっとペロペロと舐め続けてくれていました。




 


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