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僕何もしてないからね?





 それから明くる日のことでした。

 憂いが減ったからでしょうか。珍しく早起きが出来たのです! 


「ふふふ、ギギもまだ寝てますね」


 私の顔の隣で、ギギが寝息を立てています。だけど、カミュさまはすでにいらっしゃいません。


「ずいぶんと……お早いんですね……」


 まだ陽も昇ったばかりだろう時間です。ギギを起こさないようにそっとベッドから降りた私は、羽織物をかけて部屋を出ます。クロの手伝いは渋られてしまいますが、カミュさまの手伝いなら出来ることがあるかもしれませんからね。


 下にネグリジェしか着てないからかもしれませんが、朝は空気が冷たいです。シャッキリ目を覚ましつつ階段を降りていると、どこからかキンキンとした音が聴こえました。


「何ですかね……?」


 好奇心の赴くまま音の方へ向かえば、庭に出ました。水は出ていませんが白亜の噴水が見事です。ですが花は全く見られず、茶色い土が目立ちます。その理由は、カミュさまお一人ではさすがに手入れが間に合わないからとのこと。そりゃそうですよね。お一人でここまで綺麗にお屋敷を保っていただけでも素晴らしいです。あんなにお忙しくしているのに。


 そんな働き者すぎるカミュさまが、剣を振り下ろそうとしていました。その相手を確認するやいなや――私は慌てて駆け出します。


 クロが、クロが殺されてしまいますっ!


「やめてくださいっ!」


 私は二人の間に身を滑らせ、両手を広げます。カミュさまの剣先が私の目の前でピタッと止まり――叱責が飛んできました。


「何をしている⁉ 危ないだろう⁉」


 いつの間にか閉じていた目を開けば、カミュさまがいつになく怒っておられです。だけど、今だけは引けません!


「カ、カミュさまどうかお許しください! クロの代わりに、どうか私を――」

「はぁ⁉」


 心臓が止まるとはまさにこのこと。カミュさますぐに剣を引いてくださいましたが、今でも鼓動は早鐘のように打っています。だけど、そんなことはどうでもいいんです。


 クロ……カミュさまに処罰されるほどの失敗をしたなら、どうしてお姉ちゃんに相談してくれないんですか? いくらでも一緒に謝るのに。それで許して貰えなくても、クロが罰せられるくらいなら、お姉ちゃんがいくらでも代わりに罰を受けるのに。


 クロ、どうか健やかに生きてくださいね。私がいなくても、無理しちゃダメですよ。一生懸命勉強して、どうか幸せになってください。私はお空の上から見守ってますからね……。


「姉さん」


 何でしょう、肩がトントン叩かれます。ごめんなさい、今はそれどころじゃないんです。

 カミュさまにどうか私の命で怒りをお鎮めいただけるよう、説得しなければならないんです。


「姉さん。何を勘違いしているか見当がつくけど、僕何もしてないからね?」

「ク、クロ……?」


 カミュさまはいつになく大きな溜息を吐かれて、剣を鞘に納めています。私が振り返ると、クロが苦笑していました。あれ、クロも剣を持っていたんですか?


「朝時間がある時はね、カミュさんに剣の稽古を付けてもらってるんだよ。授業でこういうのもあってさ。僕、変な癖が付いているみたいなんだけど、なかなか直せなくて」


「我流でここまでなら大したものだけどな。実際、試合ではそうそう負けることはないんじゃないのか? 余裕で騎士団に入れる腕だぞ」

「それでも、やっぱり型からずれていると成績には響くみたいですから」

「あの教師、相変わらずの堅物か」


 お二人は比較的和やかに学舎のことについて話されているようですが……これはどういうことですかね?


「えーと……カミュさまは、クロを殺さないのですか?」

「どうして俺が有能な小間使を殺さねばならん。家事の負担がだいぶ減って、これでも喜んでいるんだぞ」


 カミュさまは真顔ですので、どうやら嘘ではないようです。だけど、どうにも受け入れられません。


「でも……クロはいつ剣を扱えるようになったんですか?」

「姉さん、誰が猪とか獲ってきたと思ってたの?」


 ごくまれに、我が家でもご馳走が机に並ぶ時がありました。普段は湖の魚や村で分けてもらった鶏肉がメインなのですが、その時は猪や鹿のお肉を食べられたんです。シチューに入れても良し。そのまま焼いて食べても良し。二人で無我夢中でお肉を貪って笑いあった時のことは、今でも記憶に新しいです。


「奮発して……買ってきたのではないのですか?」

「僕が森で狩ってきてたんだよ。たまに森に迷い込んでくるのがいたからね。家の近くを住処にされたら大変でしょう?」

「で、でもそんな所、今まで一度も……」

「だって動物とはいえ、死体を見せたら姉さん失神しちゃいそうだし。血抜き作業とか、けっこう凄いことになるよ?」

「うぅ」


 た、確かに、血まみれの動物を想像するだけで、気持ち悪くなってきます。


 私が口元を押さえると、クロがケラケラと笑いました。もう、笑い事じゃありませんよぉ。


「クロはお姉ちゃんに内緒ばかりして! お姉ちゃん、本当にビックリしたんですからね! 本当に、クロが殺されちゃうんじゃないかと……」

「はいはい、ごめんね」


 クロが私の頭をヨシヨシしてきます。うぅ、私がお姉ちゃんなんですよぉ。私がクロをヨシヨシしないといけないのに!


 そうして二人で撫で合いっこしていると、カミュさまが呆れ顔で踵を返しました。


「今日はここまででいいな。朝食の準備は?」

「はい、昨晩のうちに」

「ならせっかくだ。皆で食べよう。あんたもそれでいいな?」


 カミュさまに話を振られ、私は頭をブンブンと縦に振ります。すると、カミュさまが少しだけ笑いました。


 うわぁ、早起きはお得です! みんなでご飯なんて初めてですよ。どんな会話を致しましょう? 今からすごく楽しみです!




 

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