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郡司吉祥はお叱りを受けなければならない

 登場人物紹介にて、涙鬼の生まれ年の計算が少しミスしていたので90年から89年に変更しました。

 話の内容的にはほぼ意味のない設定ではありますが。

 (なか)区の白霊山(はくれいざん)は泰京市の中心にて気温が最も低くなる場所である。霊験あらたかの地とされて修験道の行者が足を運ぶ。

 中区といえば“タヌキの腹”に割り振られている陣地だが、かつて陰陽師が修行していた場であることを理由にこの山は含まれてなく、今は市の所有地となっているらしい。だからタヌキは空腹で、満たすために山を狙っているとか……。


 一般の登山ルートから外れたところに白霊氷穴、別名“タヌキの空きっ腹”があり、そこは季節とは無縁。入口は年中白い霧に隠されて、晴れて露わになる日は珍しい。当然危険なので、特別な撮影で許可されない限り、解禁されることはない。


 テレビ公開は既におこなわれている。ただし、西暦二〇〇〇年になっても全貌は明らかにはされていない。女人禁制の土地がまだ日本各地に存在しているように、人の足が踏み入れてはならない神聖な細部があるのだ。


 霊馬がここまで来るようにと言わんばかりに振り向く。彼の姿だけを頼りに、郡司は足元に気を配りながらついていく。


 白い霧がふわりと渦巻いて道を開く。神が住むとされる場所に招かれる。霊馬が氷穴の中へと吸い込まれた。


 灯はないのに明るい。立派な四角い氷の柱の群が青白い光を帯びている。郡司は肌寒かった。

 彼は寒さには強い。少なくとも菜の花小学校の誰よりも強くて負けない。けれど身の毛がよだった。初めて寒さに不安を覚えた。


 建物で例えるとここは地下一階か二階か。この洞穴は迷路のように複雑だ。腹というよりも小腸ではないか。

 耳を澄ませると、何やら音が聞こえた気がする。水滴が凍った音。氷柱と一体化した繊細な音。少しずつ、少しずつ、氷柱は現在もなお成長し続けているのだ。夏になっても衰えることなく長い年月をかけて、いずれは山頂をも貫いてしまうのではないか。そう思ってしまうほどに冷気と冷力(れいりょく)が感じられる場所に、なぜ訪れなければならなかったのか。


 立体化したオーロラのような氷柱の連なりを現実逃避とばかりに観察する。


 招待されたというよりも、叱られるために校長室に呼ばれたかのような。当事者の郡司吉祥のみここまで通されたのは多少の情けなのか。断れば両親にも声がかかりややこしいことになるのだろう。

 郡司も精霊人間とはいえ人の子と何ら変わらない精神を持っている。怒られるのは嫌だ。すっぱり勘当されたら……。


(……その時は、千堂ん()にお願いしよっかな)


 自己責任とはいえ、千堂のために自分の立場を危うくさせてしまった。けれどお願いする前に、これからお目にかかる相手をどうするべきか。

 止めることはできない歩みに、溜め息すらつけなかった。溜め息をつきたいのはきっと相手の方だから。


 氷柱の明度が郡司を導く。夜の学校の非常口のように、迷わないように、必要のない道は闇に閉ざされる。記憶力も空間認識も並の彼は既にこれまでの道筋を忘れてしまっていた。もしかすると相手は自在に内部を操れるのかもしれない。そうと信じて途中から覚えなかった。


 さらに一階分を下り、気温も一度下がった。人工的に切り出されたらしき不自然なドーム状の空間に出た。ここが“胃袋”――そう頭に浮かぶ。

 一番明るい場所にたどり着き、ハッと漏らした息が広がり消える。白霊山の山頂に神社があるのは郡司も知っていたが、まさか不安定な地下にも社殿があるなんて思いも寄らなかった。


 一体いつ誰が作り上げたのか歴史がわからない社殿の前、霊馬と寄り添い立つ大男とは面識がなかった。しかし風格と雰囲気で精霊の中でも格が高い、冬牡丹雪もよ霊精(れいしょう)だと観念せざるを得なかった。氷穴への道まで案内した霊馬はこの方の愛馬だったのだ。


 郡司家は人間の血が濃くなり過ぎた。次の代では人間に劣化するかもしれないと警鐘が鳴っている。対して雪もよ霊精は長い年月をかけて精霊としての純粋な力を蓄え続け、神に呼ばれるにふさわしい存在にまで成長した存在なのだ……。


 しかし、自分よりも遥かに格が高い相手だと肌身に理解はしたものの、神に近い存在と恐れられているにしては、何とも……失礼ながら『アレ?』と郡司は思ってしまった。思っていたのと何か違う。当然、口が裂けても本音を漏らす訳にはいかないが。


 霊馬のたてがみがギラリと鋭さを持つ。


「こいつは人の心に敏感なのだ」


 呆気なく明らかにされてしまい、郡司は恐縮する。


「お前の感覚は正しい。おれは神から遠ざかった」


 雪もよがあらわにしてみせた右手はカラカラに干からびてミイラのようだった。


「千堂魃に吸い取られてしまったのだ」

「へ」


 郡司は間抜けな声を出し、耳を疑った。その反応に、雪もよは豊かな口髭をフンと震わせる。少年はおろか、氷奴一同は牛安天神の祭りが昨晩に開催されたことを知らない。


「元に戻るのに何年かかるのか知らん」


 赤角が人間に成り下がればいいと判断を下したのが痛かった。彼らと氷奴は直接的な上下関係はないものの、菅原大天神という共通のつながりで力関係は火を見るよりも明らか。もし精霊としての権利にしがみついて噛みつこうとしても、赤角の前では手も足も出ず露と消えるのは明白。


 冬族ではない彼らに殺されたとしても、部外者が手を出すなと関係に亀裂が生じたりはしない。なぜなら雪もよがそれで構わないと。氷雪は熱で溶け消えるそれが自然の摂理だと。思っているからである。


 ただ、雪もよもいろいろと思うところはあった。

 長くなったので、今年分としてもう1話更新します。

 漢字の統一はもはや諦めています。今までのを確認すると漢字だったりひらがなだったりしてウワッとなりますが、どうせすぐ忘れてまた変換したりしなかったりするんです。文章の雰囲気で選択しているとそういうことにしておきます。

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