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日比谷あずまは絶対に友だちにならないといけない

普通に最新話を投稿しています。

今回は短めです。


前回、前々回の割り込みで話の前後がごっちゃになってしまった方がいたらすみません。

 土曜日の今日は午前中で授業は終わる。あずまは何だか得した気分になっていた。


「おはよう千堂くん」


 気分がいいので昇降口の前で彼を待っていた。教室で待つよりも早く会えるし、話せる時間だって増える。

 何より昨日の今日なのだ。宿題を共にし、夕食も共にしたのだ。あずまはにこやかに挨拶を返してくれるのを待った。


 涙鬼は下唇をぐっと突き出して梅干しのように顎のしわを作ると、半ば早歩きで教室に向かいだす。あずまは夕べのチヨの表情としゃきしゃきとした歩き方を思い出し、笑いを堪えながらちょこちょことついていく。


「笑うな。きしょくわるい」


 階段の踊り場で涙鬼は立ち止まり言葉を尖らせる。あずまははにかむ。


「えーだってなんだか、ニワトリとヒヨコみだいだなって」


 涙鬼は「はあ?」と気の抜けた声を漏らす。


「千堂くんがニワトリで、僕がそれを追いかけるヒヨコ」

「お前ナルシストか」

「ん? どうして?」

「自分のことをヒヨコに例えるってことはそれくらいかわいいって思ってるんだろ」

「かわいい?」


 あずまはきょとんとするも、すぐさま納得の顔をする。


「僕ね、お母さん似なんだよ。お母さんはすっごく美人でかわいい人だから、そうだね。少なくともブサイクだとは思ってないよ」


 予想を超えた返答に、涙鬼は何も言わなくなった。ただ頬をぴくりと上に引きつらせ眉間のしわを何本も作った。そして階段を上った。


 教室前の廊下で高矢が気だるそうに戸に寄りかかって立っていた。


「マザコン」

「何?」


 自分のことだと、あずまは立ち止まる。涙鬼は見向きもせず奥の戸へと進む。


 高矢は眼鏡をかすめ取った。あずまはつま先立ちで手を伸ばすが、高矢の方が腕は長いので届かない。


「返してよ」

「じゃあ昼休みに返してやるよ」

「うん、わかった」


 あっさり承諾して奥の戸へ歩きだすので、高矢は舌打ちする。


「お前妖怪と仲良くすんなよなー」


 そう投げかけても、あずまは笑顔で頷くだけで教室へ入っていった。


 高矢は眼鏡のフレームにあった『OLIVER PEOPLES』という文字を目ざとく見つけると、上級生も怯む攻撃的な目つきになる。


「金持ちが」


 犬が唸るかのように声を絞り出す。


 あずまが予備の眼鏡をランドセルから取り出している。それが同じブランドのものなのかはわからないが、おそらくは……。

 彼の余裕がある顔にいよいよ怒りを隠しきれず、ぎりぎりと奪った眼鏡を握りしめた。


 大柄で高圧的な幅屋と比較して、高矢は細身で大人しそうに見える。だが実際は幅屋よりも短気で暴力で物事を訴えがちだ。垂れ目でありながらナイフで刺すかのような凶悪なまなざしで物に当たる姿はよく見かけることができる。


 だが一番の特徴といえば細く短い眉といえるだろう。彼は眉一つで印象がガラリと変わるのを理解していた。小学校四年生でありながら整髪料で前髪を上げ、自分の納得がいく形に眉を抜いている。


 眉の手入れをしている子なんて探せばいくらでも見つかるだろう。それでも菜の花小学校の生徒の中で眉尻を青くしているのは高矢しかいない。

 それゆえに、たかだか眉でありながら整えられたそれは周囲にとっては異様なパーツであり、高矢という少年の恐ろしさの象徴となっている。


 そして高矢と幅屋は恐ろしい組み合わせだ。幅屋と唯一といってもいいほど対等であるために、饗庭が毎日のように顔色を窺っているのはクラスの誰しもが知っている。

 せっかく身を守るために幅屋の腰巾着になったのに、高矢という爆弾を抱えてしまっているのは自業自得である。


 高矢は両腕をだらりと下げて軽く左右に振ると思いきり戸を蹴った。

 その物音に教室にいた誰しもがびくりとなったが、饗庭の「ハなァーッ」という情けない叫び声と、『ラブ・ストーリーは突然に』のCDジャケットさながらの跳び上がり方のせいで、誰しもがそっちの方に目を向けてしまった。


「見んじゃねえッ。スーッスーッ」


 饗庭は慌てふためいて、前歯の隙間を鳴らしながら威嚇した。


 結局、喜劇とも言うべき饗庭のそれを最後に、幅屋が朝の会の直前になって現れるまで誰も言葉を発さず、幅屋は教室の物静かさに顔をしかめたのだった。

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