VSベヒモス 後編
第8話 VSベヒモス 後編
「くそっ!なかなかままに為らないもんだな!おらぁああ、喰らいやがれ!!」
俺はベヒモスに大砲をぶっぱなした。吸い寄せられるように飛んでいった砲弾は、ベヒモスに直撃しグラつかせるもすぐに『灼熱化』により溶かされ、ベヒモスの足元に溜まった溶岩の一因となった。
先程から繰り返される光景であるが、俺は止めることなく続けた。たった1つの策に向けて。ベヒモスを倒すために。シェルナを悲しませないために。
「こんなところで死ねるかぁあああああああ!“錬成”“錬金術”」
俺は砲身を崩し、通常サイズの槍を数多に作り、ベヒモスに放った。槍はベヒモスを穿とうとする物と足元や関節に当て、体勢を崩そうとするのに分けた。
直撃したのはすぐに溶かされるも、体勢を崩そうとしたのはまだ形を保持していた。関節の辺りも「灼熱化」は弱くしているようだ。
だが形を保持していても、半分以上溶けているのでベヒモスが歩くだけで砕け溶岩だまりに沈んだ。
「まだ足りないか。いいぜ、いつまでも付き合ってやるさ」
「グゥオアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ベヒモスは雄叫びをあげ溶岩だまりからぬけると、俺に突進してくるでもなく、その場に留まり、角と角の間に魔力を溜めだした。
「おいおい嘘だろ!?」
見た目はバスケットボール程の大きさしかないのだが、籠められている魔力は尋常ではなく、魔力玉の周りは空間が歪み、その周りを紅いスパークが、バチバチっ!と走っていた。
どうやら魔力だけでなく『灼熱化』の力も籠められているようだ。
見るからに臨界点を超えかかっている魔力玉のおかげでどんな攻撃でも傷の浸けることが出来なかった角と顔の鱗に、ピキッ!とひびが入った。
「どんだけ魔力を籠めてんだよ。まさか自分ごとこの部屋を消し飛ばす気じゃないだろうな!?」
俺は避けるために縦横無尽に走りだしだが、ベヒモスは逃がすまいと俺を正面に向き続けた。
先程回復したマリナがベヒモスに対して斬りかかっているものの、それを意に介さず、瞳は俺を見続けていた。
「ちょっと無視するんじゃないわよ!『天秤操作』鱗強度反転!」
マリナが鱗の強度を固かったものを柔らかくし、弾かれ続けた刃をすんなり入るようにした。
マリナが脚に傷を作るが、ベヒモスは気にしなかった。なぜなら斬られた直後に傷が塞がってり、回復してしまったからだ。
「なんて回復力!」
「マリナ!とりあえず攻撃をつづ……!まっずい!」
恐れていたことが起きてしまった。ベヒモスが魔力玉を放ったのだ。だがどうやら砲撃のように放つのではなく、部屋の中央に緩やかなスピードで発射した。
俺は「これなら破壊を!」と思ったが、そんな考えはすぐに消えた。それは魔力玉の異常な魔力量となぜか焦りもしないベヒモスの態度によってだ。
俺は脚に全魔力を送り込み、脚力を最大強化すると、まず近くにいたシェルナに向けて跳んだ。脚は跳んだ衝撃で骨が粉々になり、ぐにゃぐにゃに折れ曲がったが、直ちに回復した魔力で癒魔法を発動、骨は粉々のままだが外見だけを治すと、また脚に強化を施し、今度はマリナに向けて跳んだ。
「ぐっ!グボハァ!」
マリナの下に到着するも、今度は脚の骨がないため衝撃が上半身にまで伝わり、外からはわからないがアバラ骨が何本か砕け、盛大に吐血した。
だがそんなことはこの際些細なことだ。今は早く、
(2人を守るために急がないと!!)
俺はまた脚に回復及び強化をすると、ベヒモスの真後ろの壁に向かった。
その間も、先程まで好戦的だったベヒモスは動くことはなく、ただじっとその場に鎮座し続けていた。が、『灼熱化』を解くことはなく、逆に絶対に解かない!という意志すら感じられた。
俺はその態度でますます直感が確信に変わっていった。
「ヤッヤクモ君!一体どうしたの!?いきなり!」
「そうよ、説明をもとむ……」
「今はそれどころじゃねぇえええええええええ!!」
俺はマリナとシェルナを無視して、『錬成』『錬金術』で俺達3人を包むように5つの防壁、さらに癒魔法を除く属性魔法による障壁(順番は外側から、炎、風、土、水、光、闇、雷、樹である)、癒魔法は俺達3人に纏わせた。
準備が完了した瞬間、見計らったかのように魔力玉が臨解点を突破、籠めらていた絶望が解き放たれた。
ボス部屋ないを太陽が覆ったのごとく光に染まった。
いつもは空から人々を見守っていたが、現在ボス部屋に現れた太陽は見守るどころか全てを消し去っていった。
いや全てではない、ボス部屋内のニ部分が、死の光に抗い続けていた。
1つは言わずもながらベヒモスであった。魔力玉から解き放たれた極光は『灼熱化』を圧縮したものなので、現在『灼熱化』をしているベヒモスはノーダメージだった……はずなのだが、籠めすぎた力と膨大に魔力を消費する『灼熱化』の維持をし続けたられず、極光が弱まりだした最後に呑まれた。
「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ベヒモスの絶叫が木霊するなか、ベヒモスの後方の壁で極光に抗っていた者達がいた。八雲達である。
極光が部屋を呑み込むなか、八雲は手の中にいる2人を護るために全力を注いでいた。
最初に魔力玉が弾け極光が解き放たれたとき、まず外側に設置いた多重属性障壁及び『錬成』『錬金術』で作った防壁の三枚が意図も容易く蒸発した。残りの二枚も間髪入れず溶解しだしたが、俺は『錬金術』で溶けた防壁をそのまま防壁の穴を覆ったが、極光はあろうことか溶けた物をさらに蒸発させながら向かってきた。
「くそっ!多重属性障壁再展開!結界構築……五重結界、さらに三重、光魔法障壁最大、“フォートレス”!闇魔法障壁最大“デモンコロッサス”!」
俺は悪態を浸きつつ、もう一度属性魔法の障壁を構築、僅かな時間の内に結界魔法をぶっつけ本番で試してみることにした。
結界魔法とは魔法陣を作り、陣内部を護るための結界を構築する放つのではなく魔法らしい。
俺は足元に魔法陣を作った。魔力で。陣は俺を中心に5回広がり、五重結界を作った。そのあと五重結界を囲むように三重結界を作った。
さらに五重結界の内側に光魔法最強防御魔法の“フォートレス”に加え、闇魔法最強防御魔法の“デモンコロッサス”を展開した。
本来は長ったらしい詠唱プラス高魔力が必要なのだが、俺は魔道具を使っているので詠唱を必要とせず、魔力に関しても現在は減っても常時最大値まですぐに回復するので問題はなかった。
……やっぱ『使徒権限』は反則だなこりゃ。うん。
だが瞬時にこれだけの結界と障壁を張るも、極光は最初だけ拮抗するもだんだんと結界を溶かしていった。
時間が絶つにつれ極光の威力も減ってはいたが、まだ3人を殺すだけの威力はあった。
俺はまた結界を張ろうとしたがそうは問屋が下ろさなかった。どうやら結界魔法にも代償があったみたいだ。マリナ、教えてしかった。
代償はすこしの間結界魔法を使えないだけみたいた。見た感じ。違ったらあとで聞こっ。
俺は結界を諦め、属性魔法の障壁にしようとしたとき、思いもよらないトラブルが起きた。それは、光魔法の障壁が極光を攻撃ととらえず素通りさせてしまったことだ。
「えっ?」
えぇええええええええええ!!!と絶叫したかったが、それよりも次にまたも予期せぬことが起きた。
今度は闇魔法の障壁が極光とせめぎあい……をすることなくあっさり破られてしまったのだ。
きずくべきだった、光があるから影ができ、光が強すぎると濃い影が出来はするが、影は光が当たらない場所にできるわけで、当たらない場所が無くなれば影が消えてしまうことを。
俺は声を出すことも出来ず、極光に呑み込まれ…………かけたのだが、腕の中の2人と背中全てに癒魔法がかけ続けることにした。
極光が晴れていき見えたのは、背中が爛れアバラ骨が2、3本見えており、今も癒魔法が輝きを放ちながら回復中の八雲、髪や軽装の端が少々やけ爛れていたマリナ、八雲に包み込まれていたため無傷のシェルナが現れた。
「グホッ、ガヒュー……ヒュー……ヒュー……」
「ヤ……ヤクモ君、ごめん、ありがと」
「ひくっ!……ヤクモォ、ヤクモォ~!ひくっ、ひくっ!」
俺は息も絶え絶えで動くことも出来なかった。マリナは謝りと感謝を述べ、シェルナは顔を涙で泣き腫らしていた。
どうやら2人ともぼろぼろに成りながらも護られたことが悔しかったようだ。別にこれくらい普通のことなんだがな。
でもこれはさすがにヤバかった。あと少し長かったら死んでいた。
癒魔法で癒しているが、動くことすら叶わなかった。それはベヒモスも同じようだ。いくらダメージを無くして最後に受けたとしても、呑まれている間は極光と同類、つまり攻撃そのものになっていたということなのだ。極光によるダメージは無くとも極光としての負担を負い続けていたことになる。体に疲労が蓄積しないわけがない。
その通りにベヒモスはふらふらとよろけたあと、ドシン!と音と共に膝をついた。
……あれ?なんで振り向いていないのにこんなに鮮明に後ろで起こったことが分かるんだろう?そんなスキル持っていたっけ?
八雲が知らないのも無理のないことだった。この力は極光に呑まれながらも周りを確認、ベヒモスの行動を知る、それだけを考え続けていた八雲に発現したスキル、『魔力感知』と『空間把握』の能力だったからだ。
でもそんなことを知れない八雲、だがこのスキルのおかげでベヒモスに対してのチャンスを知ることができた。
「マリナ!今すぐベヒモスに全力で攻撃してくれ!シェルナはマリナのサポートを!」
「っ!……わかったわ!シェルナっちお願い!」
「……ヤクモは自分のことに専念しなさいね!“身体強化”“強斬”!」
マリナは歯噛みしつつ立ち上がりベヒモスに向かって走り出した。シェルナは俺に釘を刺しつつマリナとライブラに“身体強化”と“強斬”を付与した。
マリナがひびがはいりまくった横っ腹にライブラでたたっ斬った。そして顔が向く前に脚力を強化してベヒモスを飛び越えると、先程と同じように斬りつけた。
ベヒモスが苦悶の表情になるが、それだけだった。膝を着いたとしても相手はベヒモス。この程度で倒せるわけがないのだ。
俺は背中をある程度治すと立ち上がり、辺りも見渡した。部屋内は……ハンパないことになっていた。
まず極光のせいで壁全てが表面付近を溶解させており、俺の周りと現在ベヒモスとマリナが戦闘中の場所に流れて来ていた。
「これだけあればいける!……マリナ!数十秒ベヒモスをその場に釘付けにしてくれ!」
「いきなり無茶な注文を!でも乗ってあげる、シェルナっち!振り絞って!」
「わかったわ!ヤクモ、失敗したら承知しないんだから!」
「りょ~かい!」
俺の指示にマリナとシェルナは反論もせず、すぐに答えてくれた。
その期待を裏切るわけにはいかない!俺は持てる力全てを振り絞った。
「まさか俺がベヒモス攻略のために溜めていたのが、ベヒモス自身の攻撃で満ちてしまうなんてな!」
俺は溶解した岩石液体を『錬成』で掌握しきると、マリナが足止め中のベヒモスを包み込んだ。
マリナは巻き込まれないように『念話』で撤退させていた。
「ッッッッッッッッッッッ??!!!」
ベヒモスは突然のことに動転したように暴れ、驚きの顔を浮かべていた。
さらに鱗に入ったひびを使い、鱗の内側に侵入、液体の形状を針状にしてベヒモスを突き刺していった。
それと平行して岩石液体に圧力を加えていったので、ベヒモスの鱗と半壊した角は耐えきれなくなっていき、鱗はひびが広がっていき、角は根本から折れた。
ドスドスドスドスドスドスドスッ!!
メシメシメシッ!!…………バキンッ!
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ベヒモスは声にでない叫びをあげた。俺は雄叫びをあげ魔力を込め続けてベヒモスを負傷させていくも、
「くっそぉおおおおおお!!あと人押しがたんねぇえええええええ!!」
そんなのだ。どんなに負傷させて最大の武器の角を折っても、相手はベヒモス。戦っているからわかる、最大の『暴力の化身』なのだから。この程度では倒すことができないのだ。
「頑張ってね、人押し入れようにも、これじゃあベヒモスに触れることすらできないわ」
「ヤクモ、こんなところでへこたれてんじゃないわよ!私達2人はあんたに賭けているのよ!」
俺は2人に叱咤激励されるも(マリナからは苦情プラス)、ここからどうするか考えていなかった。
とりあえずベヒモスに脱出させないために、圧力と液体内の引力を使いベヒモスを持ち上げ、踏ん張りを効かなくさせると、包んでいたドームを拡張させ、大きくさせた。
そこからさらに今までベヒモスの体全体にかけていた圧力を右前足に一点集中、その結果右前足は数秒耐えるも、メキョッ!と音と共に見るも無惨にひしゃげた。
さらに潰され前足が体と離れてしまった。離れてしまうと圧力によりどんどん畳まれていき最後にはサイコロ位の大きさまでになってしまった。
「ッーーーーーーーーーーーーー!!!」
ベヒモス、叫ぶも声届かず。
だが潰しても脚にすぐに再生……するはずであったが、脚と分断された根本に圧力を集中、再生をさせないようにしていた。
「まず1つ」
俺は微笑を浮かべた。このままベヒモスを削っていけば勝てる!……とは思っていなかったからだ。
以前マリナに再生能力がとんでもない魔物のことを聞いていたからだ。その魔物は今の俺みたく少しつづ削っていき再生もさせないようにしていたにも関わらず、倒すことができなかったらしい。
現在のベヒモスもそれに当たると思っていたからだ。それならば強力な一撃で倒すのがベストだ。
実際聞かされた魔物も、上半身を消滅させる一撃を貰って倒されたらしい。だが、
(今の俺達にそれだけの一撃を与える力はない)
よくても首の切断だが、それでも倒すことができない気がしてならない。倒せなかったら反撃で死ぬし。ヤバイなこりゃ!
だから俺達……というか俺に残された手段は一つしかなかった。
「マリナ、このドームの制御少しだけ任せていいか。俺の奥の手を使う」
「……わかったわ。でも制御できても2分が限界よ?」
「十分!」
マリナは俺からドームの制御をゆっくり授かり、俺はマリナに慎重に渡していった。
マリナに渡し終えると、シェルナに預けていた姉妹刀を出してもらった。
ちなみに何時渡したかというと、魔力玉暴発前の防御壁展開時にシェルナに頼んで、空間収納してもらっていた。
「ヤクモ、いきなりなにを!」
「姉さんに同意、すぐにせつめ」
「時間なし!説明あと!すぐに全能力解放しろ!」
「「ちょっ!……まち」」
「待たん!」
俺は姉妹の抗議を無視して常時回復中の魔力を姉妹刀に流すと、姉妹刀からも還元で身体強化、死魔法の強化、霊の使役等の能力を使えるようになった。
俺はそこに身体強化を上乗せ、思考系能力に魔力感知と空間把握を直結、姉妹刀に死魔法だけでなく、癒魔法以外を邪魔にならないように付与、癒魔法を体……というより骨や関節、腕に強めにかけた。そのため腕や足の関節辺りが強く光り、それ以外は薄く光っていた。
「ヤクモ君!そろそろ限界、解かれる!」
「了解!こっちも準備完了です!いつでもどうぞ!」
マリナは頷くとドームから制御を手放した。
制御を失ったドームは、ドロリッ!と崩れていき、中に閉じ込めていたベヒモスを解放した。
「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーー!!…………グパァ!」
解放されたベヒモスが特大の咆哮を挙げ、すぐに吐血した。俺が切り裂いたからだ。
俺はベヒモスが咆哮を挙げる前に強化した脚で接近。
傍目からは瞬間移動したかのような速度だった。なにせ今そこにいた人が、目を離したわけではないのに消え、探すとベヒモスの目の前に立っていたのだから。
俺がベヒモスの目の前に来たとき、ベヒモスが咆哮を挙げたものだからその場に釘付けになってしまったのだ。
だが、俺は釘付けになりつつ、腕に力を溜め、咆哮が弱まりだしたところで一気に振り斬り出した。
先に喉に入り、吐血させたためベヒモスが体勢を崩したので、畳み掛けるような連撃を叩きつけた。
スパパパパパパパパパパパッ!!
スパパパパパパパパパパパッ!!
と切断まではいかなくとも、強固な鱗で護られており、先程苦戦していたのが嘘のように斬られていった。
それもあんに今も過剰に流している魔力による恩恵と付与した八属性が効果を発揮していたからだ。
まず恩恵により強斬を付与していなくともそれと同等の効果を持っているのと、八属性が上手く合わさり疑似能力『風化』、『侵食』、『弱体化』が斬りつける場所に、斬られるより先に起こっていたからだ。
この2つの偶然のおかげで俺はベヒモスと相対することができていた。
「強力な一撃ができないのなら、再生スピードを遥かに超える連撃でしとめてやらぁあああ!」
俺は雄叫びをを挙げベヒモスを切り刻み続けた。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁ!!!」
ベヒモスは逃げることもせず立ち尽くしていた……のではなく動くことができなかったのだ。俺がアキレス腱を斬ったり、神経を斬っていたからだ。四つ足全ての。
だが、ベヒモスも動かないなりに力を再生に降りきっていた。そのため斬り刻むも再生が追い付いていた。
俺は諦めずに続けた。速度も徐々に上げていくとだんだんに再生が追い付かなくなってきた。
ベヒモスは徐々に切り傷を増やしていった。
俺がもう少し周りを見ることができたのならきずいたかもし!ない。シェルナが驚愕して目を一杯に開ききっていることに。
シェルナが見たのは、ベヒモスが自身のレベル上限に到達してしまったこと。そして俺のレベルが上がり出したことに。
ここで1つ説明を。
魔物にも人にもレベルの上限を設定されている。ベヒモスはレベルが常時上昇していたため、現在の戦闘中に上限に到達、もう注文を強くなれなくなってしまい、今もレベル上昇中の俺に対応しきれなくなってしまったのだ。
だがそれでもレベル2000を超えている化け物なのだが、俺はレベル差を『使徒権限』と姉妹刀の強化の相条効果により補っていた。
ベヒモスの強さが打ち止めになった今俺はどんどんと力の差を詰めていった。
その場を離れればまだ体勢を立て直すことができたのだが、俺がそうはさせなかった。
ベヒモスにできたのは、俺が攻撃を止めるのを待つことだけだった。『灼熱化』をすればなんとかなりそうなのだが、ベヒモスはそれをしなかった。
ここで八雲達が知らないことが1つ、ベヒモスは先程の魔力玉に『灼熱化』を籠めすぎ、そのあとも自身に使い続けたので、現在使うと体が持たなくなっていたのだ。それプラス、傷が多過ぎて『灼熱化』に集中及び移行ができなかったからでもある。
そうとはしらず俺は手を休めることなく動かし続けた。こちらも限界をすでに超えていた。いつこの連撃が止まっても不思議でないくらいに。
「ズゥアッ!……ぜぇーはぁー!……ぜぇーはぁー!………ズララララララララララッ!!」
俺はすでに周りを見えなくなるくらいに視界が狭まり、ボヤけており、息も絶え絶えに、かろうじて見える範囲で動き続けていた。
(くそー、なんも見えなくなってきやがった。今ベヒモスはどんな状態だ?俺の攻撃は再生を超えているのか?なんもわかんねぇな…………あっ、音も聞こえなくなった)
俺はベヒモスの現状を知らずにただただ動き続けた。それが最善であり、唯一できることだったからだ。
そして、体の感覚すら消えかかってきたとき、すでに機能しなくなっていた耳が、マリナの声を聞かせた。もっとも聞きたくなく、そしてこの場での最善の方法である声を。
「ーー『天秤操作』感覚交換、対象マリナ、ヤクモ」
すると、先程までなにも見えなくなりだした眼が、聞こえなくなった耳が、感覚が消えかかっていた体が、連撃前の状態になっていった。疲れも抜けて。
代わりに、ドサッ!と後ろから聞こえてきたが、振り向きはしなかった。俺はこの恩に報いなければいけないからだ。
攻撃は苛烈の一途を辿っていった。
「ずらぁーー!!出し切れぇー!“炎獄”!」
俺は魔道具が付加により壊れるほどの出力をだした。
ベヒモスの周りを炎が支配し、ベヒモスをヤキツクしていった。
「“水龍”!」
ベヒモスの頭上に水の龍が形成されると、真下へ向けて高速で下り、ベヒモスの全身の鱗を粉々に粉砕した。
「“嵐斬”!」
“水龍”により蒸発した“炎獄”での煙を纏いながら嵐がドーム状になり閉じ込めたベヒモスを切り刻み続けた。
「“地槍”!」
“嵐斬”の死角、地面から槍がベヒモスを突き上げた。すでにぼろぼろの鱗は機能せず、槍はやすやすと食い込んだが、貫通まではいかなかった。
「“光剣”!」
天井を覆いつくすように光の剣が出現。その全てが切っ先をいまだ“嵐斬”に捕われているベヒモスに向けて襲いかかった。邪魔しかけた“嵐斬”は“光剣”が到達する前に霧散、“光剣”はベヒモスをメッタ刺しにした。
「“闇圧”!」
間髪入れず闇の圧力(重力的なものだと推測)をベヒモスの関節に集中して動かないようにした。
「“雷帯電”!」
ベヒモスの周りを帯電状態したのち、雷を昇らせた。昇った雷は、天井でまた帯電後、今度は地面に帰還のため降った。
「“樹吸根”!」
至るところから煙が上るベヒモスの足元から樹の蔦が絡み付いていき、全身を包むと少し震えたのち、いままでなにも変哲がなかった体表から棘が飛び出た。棘をベヒモスに突き刺した樹根は突き刺した棘をさらに枝分かれするように棘を産み出していくと、刺したところからエネルギーを吸いだした。
「………………」
魔法の途中から微動だにしなかったベヒモスは、とうとう声すらあげなくなった。
…………というか死んでね?声どこらか動きすらしないし。…………どうしたらいいんだろ?もしかしたらまだ生きているかもしれないし。どうし、
「鑑定使いなさいよボケぇーーーーー!!」
「ヘボハァッ!!」
俺があれこれ考えていると後ろからシェルナのドロップキックを食らった。
「……いててっ!何しやがる、もしまだベヒモスが動いたらどうするるつ、」
「鑑定使えば一目瞭然でしょ!それをさっきからぐたぐだぐだぐだとして、ぶっ飛ばすわよ!」
いや、もうぶっ飛ばしているじゃん。そうツッコもうとしたとき、
「言わなくていいから早く鑑定しなさい」
「了解っす!!」
睨まれたのですぐにベヒモスを鑑定した。決して怖かったからではない!効率を考えてそうしただけだし!
心のなかで言い訳をしつつ、俺はベヒモスを鑑定した。そしたらすでにベヒモスが死んでいた。
「………………なんか達成感なくない?」
俺は壮絶な戦いの後、先程まで死闘していた相手がいつの間にか死んでいたのをしって、微妙な気持ちになった。
「…………言っちゃえば“地槍”の時にはすでに死んでいたけど、なんかノリノリだったから言えなかった」
シェルナが目を逸らしながら呟いた。できれば聞きたくなかったことだった。……………………よし聞かなかったことにしよ!
「俺は勝ったんだぁあああああああああああああああああ!!」
俺は誤魔化すように叫んだ。