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VSベヒモス 前編

第7話 VSベヒモス 前編


「よし2人とも、準備はいいか、ここを開けたらボスを倒すまで出られない。戻るなら今だぞ」


念を押す俺に、溜息と苦笑をしながら2人は決意に満ちた目で見てきた。


「オッケーよヤクモ君。私は2人がいなかったら死んだままだったわけだし、それに……ヤクモ君は負ける戦いはしないんでしょ?だったら私が戻るなんてしないわ。みんなで勝つの」


「私も、なにもしないけど負けるなんて許さない。今回は……ううん、これからずっと勝ち続けるんだから。みんなで」


「…………わかった。確かに俺は負ける戦いはしないし、今回だけ勝つなんてしない。永遠に勝ち続けるのが俺だ。だからこれはただ前進するために段差を超えるみたいなことさ」


そうさ、こんなの人生の壁なんかじゃない、段差程度のことなんだ。こんなところでつまづいてなんていられない。つまづいたなら段差なんか壊していけばいいんだ。


心なしか先程より体が軽くなったみたいに感じた。どうやら知らず知らずのうちに恐怖と緊張で固くなっていたようだ。


(いつも気楽に考えた緊張何てしないと思っていたが、やっぱり命が懸かると普段通りにならないか)


だけどマリナとシェルナが見せてくれた決意が、俺の浅はかな気持ちに渇をいれてくれた。


もう大丈夫、もう迷わない。俺はもう立ち止まったりしない。これから先どんなことがあろうと進み続ける。


確固たる決意を胸に宿した俺は扉を両手で開け放って中にはいった。


すこし覚悟をしたのだがミンチはこなかったので、暴発はしていないようだ。部屋の中央には先程まで考えていた最悪が鎮座していた。


「……あれがボス」


「まさかあれがボスだったとは、シェルっち教えてもよかったんじゃない?」


「マリナあいつを知っているのか?……どうしたマリナ!」


俺は警戒しつつマリナに聞きながら横を見ると、マリナが青い顔になりながら汗をかいていた。 よく観察すればわかったと思うが体中が小刻みに揺れていたのを。


「……通常がSランク魔物、『歩く災禍』ベヒモス。だけど、魔力を以上を越えて畏怖が来るくらい吸収している。……確か過去に一度だけ出現して、大国3つが通っただけで壊滅仕掛けたビヒモスの異常個体ベヒモス・ギカントににてるけど、大きさがあと色も違うと思う」


確かにボス部屋が広いとはいえ、見た感じ野球のコートが2つ分程しかないように思える。


「ギカントってことは巨大なのか。それにしてもよく知ってるなまさか見たことあるとか?」


「そんなわけないでしょ。受付嬢は全部の魔物を覚えないといけないの、それがもう現れない者だったとしても。覚えるときに見た図鑑の絵に似ていたから。でもギカントはたしか城塞級の大きさだからもっと巨大なはず」


たしかに、目の前にいるのは城塞というより平屋くらいの大きさしかないように見える。もしかしたら遠近法で近づいて行ったら大きくなるかもしれないけど。そんなことは起きなさそうだ。


「でも姿は似ているのか?それだったら縮んで弱くなった……とかになったらいいなぁ~」


「それだったらどんなに楽だろうねぇー」


「間違いなく力を圧縮したらあぁなったに決まっているでしょ」


俺達は揃って息をはいた。


ギシッ……ギシッと音聞こえてきた。慌てて音がした方、ベヒモスを見ると黒目の部分が赤く、白目の部分が黒く染まった瞳がこちらを射ぬいていた。ベヒモスは瞳を俺達を射ぬいたままゆっくりと立ち上がった。


その間俺達は動くことができなかった。……正確には動けなかったのだ。隣にいた死の気配にすこしでも動いた瞬間に連れていかれるかもしれなかったからだ。


(なんだよあれ、Sランクはあんなのばっかなのかよ!)


(そんなわけないでしょ!私も何度かSランクを見たことあるけどこんなにやばくないわ!噂に聞いたSSやSSSクラスに届いているかも)


(絶望的ね)


口を動かしたらダメかもしれなかったのでマリナとシェルナに念話を送って話すことにした。どうやらマリナの見解ではSランクは越えたらしい。


俺はすぐさま鑑定をベヒモスにかけた。暫くして絶望が表示された。


名前 ベヒモス・コア(ベヒモス特殊異常変異個体)


レベル 1671(常時上昇中)


スキル 魔法無効・魔力妨害・ダンジョンコア・吸収・灼熱化




(フム、とりあえず……マリナダンジョンコアってスキルなのか?)


(はぁ?なにいってんのよ、そんなわけないでしょそれにダンジョンコアはベヒモスの後ろに佇んでいるでしょ)


たしかにベヒモスの後ろの壁際に黒い球体が浮かんでいる。マリナが言うにはあれがダンジョンコアなのだろうが、ではベヒモスのスキルにあるのはなんなんだろうか。


(アラタ、鑑定を1つの項目に集中させると、それの詳細がわかるわよ)


俺はシェルナからきた念話をすぐさま試した。


ダンジョンコア…………元々はボス部屋に設置されていたのだがベヒモスが捕食し体内に取り込んだせいでスキル化してしまった。現在ベヒモス・コアがダンジョンコアの能力を自在に操れるが、吸収により魔物は生成されていない。(後ろにあるのはダミー)


うわぁおー、さすがにやばくないかこれ?これって将棋でいうと王以外全部取られて、周りを固められている状態かな?つまり絶体絶命みたいな。……なのにどうして、


(ヤクモ君、なんでベヒモスは動こうとしないんだろうね)


そんなのだ、こちらは臨戦態勢だがベヒモスはそんな俺達をすぐに一挙できるはずなのに、こんなに長々と話ができている時点でおかしい。ならばどうしてベヒモスは先程動いたのか分からない。


(なにか法則てもあるのかね。シェルナはどう感じる)


(もしかして……動く者に反応するとか)


(ベタだねぇー。でもそれが妥当かな)


(となると、左右に別れたらどちらかが初撃をかわせるけど、それはヤクモ君の方がいいか。なにか策があるみたいだし)


たしかに、シェルナと考えた策が嵌まれば一撃で倒せるかもしれないが、ただ1つ気になることがあった。


(魔法無効で弾かれたらそれで終わりだ。それに生身にも効かなかったらそれこそ)


(それに関しては大丈夫、1回だけだと思うけどチャンスがある)


(……わかった、マリナが言うチャンスに賭ける。タイミングは教えてくれよ)


(もっちろん)


穴だらけの作戦が決まった。ぶっつけ本番過ぎて爆笑したいがベヒモスに今襲われたら終わりのためできないのがもどかしい。


(1…2の3!)


俺達は同時に思考加速と並列思考を発動させた。マリナが先に動き俺がコンマの差で動き出し、左右に別れたのだが、ベヒモスは地面を蹴った体勢の状態の俺達の前にいつの間にか移動していた。


「「なっ!!」」


標的として狙われたのは、先に動いたマリナだった。だが俺達は近かったためベヒモスの角の射程圏内にいた。


「まずっ!」


「させないよ、ライブラ『天秤操作』地面の硬度反転!」


マリナは腰のライブラに触れずに能力を使い、ベヒモスが立つ地面の固さを反転し柔らかくした。


ベヒモスは突然起こったことに混乱し、柔らかくなった地面に肩まで浸かり、首だけ出す形になった。


「ヤクモ君お願いね!『天秤操作』もう一度硬度反転!」


先程までベヒモスが暴れる度に激しい揺らぎを起こしていた地面が、ガキッ!と音と共に元の地面に戻った。たが、


「グルォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


雄叫びと共にベヒモスが再度暴れだすと地面に亀裂が走り、部屋全体がン揺れ始めた。脱出されるのも時間の問題だったが、


「完璧だぜマリナ!……“錬成”“錬金術”!……偽器『死神の大鎌』!」


俺は地面に転がっている石や鉱石を地魔法でかき集めると、錬成と錬金術を使い、収束させ、形を作り記憶にあるシェルナが持っていた大鎌を作ってみた。


ほぼほぼハリボテなのだが、刃先にかき集めた鉱石を凝縮させ、錬金術で鉱石を変質させることで、この異世界でトップランクの硬度を持つオリハルコンに匹敵するまでになっていた。


「おぉおうらぁあああああああああああああああ!!!」


俺はベヒモスの激しく動く首の、更に外殻と外殻の間に狙いを定め、一気に振った。


ザクッ!と音とともに大鎌は刃が半分ほどまで刺さった。そして刃先に全魔力を使った死魔法が発動…………せず、そればかりかスキルを解除したわけでもないのちに、大鎌もボロボロと崩れ始めた。


「なんで……!しまっ……グハッ!」


俺はベヒモスの前で止まってしまった。そして角でかちあげられ、放物線を描きながらぶっ飛ばされ壁に叩きつけられた。


「ヤクモ君!このっ!はぁあああ!」


マリナは即座に『天秤操作』でベヒモスの足元の地面を柔らかくし、足首が埋まったところで解除、抜け出される前に接近して、ベヒモスの体を時計回りしながら、肩や腕の関節部分を重点的に切り裂いた。


「ぐぅうううっ……グルォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


「ウソッ!きゃあああああああああ!!」


ベヒモスは煩わしそうにしたあと、特大の咆哮をあげた。マリナは接近していたため、咆哮でおきた衝撃波をもろに喰らい激しく転がった。


咆哮後埋まっていた足を何事もなかったかのように抜くと、地響きをたてながらマリナに近づいていった。


どうやら自分に深手を多く与えた方を先に倒すようだ。


(くそっ!どうする、まさか生身にまで魔法が効かないなんて、しかもさっきの攻撃と防御で魔力が半分を切った。打つ手がない。このままじゃマリナが!)


俺はどうすることもできない自分が不甲斐なかった。


何が勝つ戦いしかしないだ、これじゃ惨敗じゃないか。


何度も何度も立ち上がろうとしても足に力が入らなかった。心では戦いたいのに体は恐怖ですくんでいた。


こうしている間にもベヒモスは起き上がれないマリナに近づいていた。マリナもダメージのせいで動けないようだ。


「俺は……無力だな。仲間が目の前で死にそうなのになにもできず、あまつさえ動くことさえ出来ないとは……こんなんじゃただの腰抜けだ」


俺は悲惨な光景をみたくなくて俯いた。


(もうこのままでいよう。マリナのあとは俺なんだから)


俺が俯いていると、いつの間にか飛んできていたシェルナが小さな手で、パシッン!とおもいっきりビンタしてきた。顔を涙でクシャクシャにして。


「たった一度失敗したくらいでなに諦めているのよ!このままじゃマリナ死んじゃうのよ?!いいの!それでも私の使徒なの、それでも男なの!」


「……でも無理だ。もう魔力だって、あったとしてもどうすることもできない」


「そんなのやってみないと分からないじゃない!ここではすぐに諦めて、なんで私の願いを聞いたときは諦めなかったのよ!」


「それは……」


そうだ、あのときだけなぜか不可能なことは思えなかった。ベヒモスを倒すより難しいのに、なんで……


「なんでこんなに怖いんだ?なぜ……なぜ……」


(なんか前に見たラノベで、恐慌状態になったやつに似ている?でもベヒモスにそんなスキルは……)


俺は思考加速をしながら考えた、ベヒモスはお約束のように歩いて向かっているので、まだマリナは大丈夫だったが早くしなければならない。


「ベヒモスのスキルはあれで全部のはず……?なんでレベルの低い俺がレベルが格上のベヒモスのスキルの全部見ることができたんだ?」


なぜ疑問に思わなかったのか、格上のベヒモスがあんなあっさりと鑑定を受けたことを!ベヒモスなら軽く弾くことができたはずなのに。


「シェルナ、もう一度鑑定する。手伝ってくれ」


「任せなさい」


まだ恐怖はするが、先程よりはましになっていた。俺は残りの全魔力を鑑定のため瞳に集中させた。


鑑定をすると、ベヒモスが足を止めこちらを睨み付けてきた。そして先程は通した鑑定を妨害してきたのだ。


(くっ、やっぱりそうか。ベヒモスはなにかを隠していた。スキルを隠蔽かその部分だけ見せなくしたかだか、今はそれを解除している。だから妨害してくる。だから)


「ここで負けるわけにはいかないんだよぉおおおおお!」


すでに瞳は充血し、血の涙が流れ、額には血管が浮き出ていた。それでも俺は止めなかった。ここが最後のチャンスであるのと同時に、また逃げたらシェルナに愛想をつかされると思ったのが一番の本音だった。


ベヒモスはなかなか諦めない俺に苛立ちがつのり、首だけでなく体ごと向こうとしたとき……


「頑張ったねヤクモ君。……『天秤操作』」


いつの間にか意識を取り戻していたマリナがライブラの『天秤操作』を限定的に使った。そしてなにやら、俺の心境がわかっていたような労いを言って。


ズボッ!とベヒモスの前足の片側の地面だけが液体化したので、ベヒモスは体勢を崩してしまい、同時に鑑定の妨害も解除してしまった。


俺はこのチャンスに一気に畳み掛けた。そして見つけた。ベヒモスが隠したスキルを……


『恐慌の威圧』……自身よりレベルが低い相手を恐慌状態に陥れ


る。ただし徐々に効果が衰えていくので注意。


威圧をかけるごとに耐性が付く。


「見つけた……片眼を犠牲にだが」


俺の右目が魔力の集中とベヒモスの抵抗に耐えきれず、パンっ!と弾けとんだ。左目はなんとか耐えきったが、充血がひどく、視界が真っ赤に染まり、なにも見えなかった。


「ヤクモっ!しっかり、早く逃げないとベヒモスが!」


シェルナが襟を掴んで動くように引っ張るが、俺は『恐慌の威圧』になんとか勝って動けるようになっていたが、魔力が底をつき脱力感に襲われ、まともに立ち上がることができなかった。


(くそ、やっとなんとかなりそうだってのに、こんな中途半端で終わりなのかよ)


ベヒモスの地響きが近づいてくるのがわかる。だけど攻撃するにも魔力がない。


(魔力か……ないなら他から代用か、一瞬のチートみたいなことが起きればいいんだか)


まぁそんなことが起きれば、今こんな状態でいないわけだが、と苦笑した。


「ヤクモ…ヤクモぉ、はやく……はやくぅ……してよぉお~」


見えないが、どうやらシェルナは泣きじゃくりながら必死に襟を引っ張っているようだ。


「バカ、お前は逃げろ、巻き添え食うぞ!」


俺はシェルナに手を当てて遠ざけようとしたが、シェルナは頑なに抵抗した。どれだけ押す力を強くして、離してもすぐに戻ってきて引っ張る。


「なんでそんなに、俺なんていままでの使徒と何ら変わらないぞ!どうしてそこまで必死になる!?」


「バカァ!そんなの好きだからに決まってるじゃん!ヤクモはそんな気なくても、私はヤクモが使徒になってくれたあのときからずっとずっと好きなんだからぁあ~!」


あのときはただの方便でプロポーズしたが、シェルナはそれでずっと俺を思っていたことを知って罪悪感がくるのと同時に、とても嬉しかった。


どうやら俺は心の奥底ではシェルナを好きだったのだろう。いつからかはわからんが、なら尚更……


「俺は、死にたくないと同時に、シェルナ、お前にも死んでほしくないんだよっ!」


「えっ?……きゃあああああああああ!」


俺はシェルナを掴むと、ベヒモスの地響きが聞こえる方向とは別の方にシェルナを投げた。


「あばよ、シェルナ」


「ヤクモっーーーーーーーーー!!」


俺はシェルナの心にまた傷をつけてしまうことがいやだったが、こうするしかないことをわかってもほしかった。


だから最後にシェルナにたくさん伝わるように、この短い間で起きた様々なことをたくさん思い浮かべた。すると頭の中に声が響いた。


《死の女神シェルナと、使徒朧八雲との一定以上の接近、及び信頼関係が超過しました。これにより朧八雲に使徒権限が与えられます。それにより、使徒が女神の側において魔力超回復、超速再生、使徒天使化が与えられます》


「なんだいまの?」


「なんでお母様の声が?」


どうやらシェルナにも聞こえたようだ。それにお母様って、創造神ってことなのかな?


それよりも先に確認しなきゃいけないことは……


「うん……動く、眼も見える、よしっ!……って近っ!」


俺はびくともしなかった手を、握る、開くを何度か行い体の調子を確認すると、超速再生でいましがた見えるようになった右目でベヒモスとの距離を確認した。


ベヒモスはいつの間にか残り5メートルまでに近づいていた。俺は指輪に魔力を流し、土壁を俺とベヒモスの間に作り、ベヒモスから俺を一瞬隠すと、立ち上がり、シェルナに駆け寄ると手に掬い上げ、そのままマリナが倒れている近くに走った。


その間ベヒモスは、壁を破壊後俺がいないとわかると、またマリナを標的にするため振り向いた。だが俺も近くに行ってしまったので、案の定すぐに見つかり、今度はなぶるのがめんどくさかったのか全速力で突進してきた


「休ませてくんないか!なら……“錬成”“錬金術”!」


俺は地面に手を着き、スキルの発動、突進してくるベヒモスの対角線上に巨大な斧を錬成し、更に刃の部分を錬金術を用いて加工すると、ベヒモスに一気に振り下ろした。


すこしの間拮抗するも、斧は逢えなく破壊されるも、ベヒモスの足元を陥没させ、突進を止めた。


俺はすぐさまベヒモスの両脇に斧を再錬成し、首に振り下ろした。


「固ってぇー、でもこれで時間が稼げる」


俺はマリナを片手で脇に担ぐと、ベヒモスから距離を取った。


「グルォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


ベヒモスは鬱陶しそうに咆哮をあげ、なんとか斧から抜け出そうとしていたが、足を陥没で動かせないため、体を揺さぶるしかできなかった。


俺はマリナとシェルナを壁に寄りかけると、踵をかいしてベヒモスに向かおうとした。


「……どこにいこうとしているの?ヤクモ君」


「起きていたか」


振り向くとマリナが、当たり前でしょ?みたいな顔をして見ていた。横を見るとシェルナも起きていた。


「死にになんて行かせないわよ、ヤクモ」


「行かないさ、それに今この瞬間こそが正念場だと思うから行くんだよ」


「だけどヤクモにはもうなにもできないでしょ!?」


確かにさっきまでの俺は恐怖と魔力減少でなにもできなかった。さっきまでは……


「シェルナも聞いたろあの声、あれが嘘なら俺はさっきの攻防で魔力ゼロ、動けなくなっていたはずだ、だけど、魔力ゼロどころか力がみなぎる感じなんだ、それにステータスにも表記されてるしな」


俺は2人にステータスを見せ、新なスキル『使徒権限』とその能力を見せた。


「なによこれ、ほぼ反則じゃない、どうしたのよこれ?」


「…………」


やはりマリナには聞こえていなかったようだ。シェルナは何とも言えない表情でステータスと俺を交互に見ていた。


「シェルナはなにか知っているみたいだけど、今はあとでお願いな。そろそろ限界みたいだ」


「限界?」


「グルォオオオオオオオオオオオオオオ!!!グゥオアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


叫び声に振り向くと、ベヒモスが『灼熱化』で斧を溶解させているところだった。足の回りも溶解しているため、ぬるりと抜け出したみたいだ。


ベヒモスは体にまとわりついた斧を、揺さぶって落としていた。


「もうちょっと稼げるかと思ったのにな、無理だったか。というわけだ、ちょっくら殺ってくるわ」


「待って!確かに今のヤクモ君は強くなっているわ!だけどベヒモスにはまだ届かないわ、なにか策はあるの?」


「…………」


「んなもん、質を埋めるのは量だけだろ。こっからさきは、俺とベヒモスの我慢競べさ。先に音をあげたほうが負けの」


マリナの言うとおり俺は『使徒権限』で擬似的に強くなっているが、ベヒモスには遠く及ばない。だけど、魔力が半無限状態の今なら、物量で押しきれるかもしれなかったからた。


「それじゃとっとと行ってくるわ。そろそろ限界みたいだ」


俺は視線をベヒモスに向けた。


「グルォオオオオオオオオオオオオオオ!!!グゥオアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


ベヒモスは鬱陶しそうに体を固定し続ける斧に対して、咆哮をあげ、『灼熱化』し斧を溶かしているところだった。


ベヒモスは『灼熱化』により、斧だけでなく足を埋めていた地面すら溶かし、悠々と歩いてきた。


「あんなのに勝てるの?ヤクモ君」


「…………」


「勝てるかどうかはわからない。こっから始まるのはただの我慢競べさ。先に音をあげたほうが負けの」


「ヤクモ」


シェルナが悲痛な面持ちで俺を見ていた。だけどこれは誰かがやらなくてはいけないことだし、どのみちそれほど時間もない。


それに、


(やっと決意したのに、シェルナに今なにか言われたら鈍っちまう)


「!!…ヤク」


「マリナ、あとのことよろしくな!」


俺はシェルナがなにかを言う前に接近してくるベヒモスに向けて突っ込んだ。そして口元に不敵な笑みを浮かべて高らかに宣言した。


「さぁベヒモス、俺とお前どちらが勝つか勝負といこうや。てめぇを死なせてやるよ」


俺とベヒモスの最後の戦いが開始された。



「ヤクモのバカァ」


「シェルっち」


私は目の前で繰り広げられる激戦から目をそらさないで見続けていた。


隣ではマリナが私と戦いを交互に見ていた。


戦いは最初から苛烈を極めていた。


ヤクモはただベヒモスの周りを走り回っりだしたが、走った場所の地面が隆起し様々な武器へと代わり、ベヒモスに襲い掛かっていった。


正面は普通の槍から大槍が、横から巨大にした斧や戦斧がベヒモスを押さえつけるため、真上から振り下ろされていた。


だがどれもベヒモスに直撃はするが、『灼熱化』によりすぐさま溶かされていった。ベヒモスの周りはどろどろになった武器の残骸で溢れていた。


それでもヤクモは止めることなく『錬成』と『錬金術』で攻撃し続けた。斧、槍、弓矢、バリスタ、ドリル、刀、回転刃のようなもの、戦斧、槌、さらには巨大な筒状の物から鉄の物体を発射させるものを作り、ベヒモスを攻撃した。


ベヒモスも受けるだけでなく、ステータスに任せた速度でヤクモに突進していったが、ヤクモは足元に『錬成』を行い、推進力を上げ、突進を避けていった。


戦いはまだまだ苛烈を極めそうになりだしたとき、隣にいるマリナが、悲痛そうな声で呟いた。


「……ヤクモ君、勝てるかな」


「…………」


私は呟きに答えることができなかった。


現在ヤクモはベヒモスと拮抗しているように見えるが、ベヒモスはダンジョンコアを取り込んでいるため常時レベルが上昇しているため、現在の拮抗はすぐに崩されることがわかっていたからだ。


「なんで……強くなったからって勝てるわけがないってわかっているはずなのに……なんでなのヤクモ」


私は隣のマリナにも聞こえないくらいの小さい声で呟いた。


どんなに考えてもヤクモの意図がわからなかった。死に自分から突っ込んでいったのが。


「どうして……どうしてなの?また私を1人にするの?どうして…どうして」


「わからないのシェルっち」


私の呟きにマリナが答えた。


「シェルっちが大切だから。何よりカッコ悪い自分を見せたくない、負けたくない、いろいろ思っているだろうけど、どれもシェルっちが見ているから、負けるかもしれないけど、負けないために頑張っているんだよ」


……私はヤクモをどう思っていて、ヤクモは私をどう思っていたのかな。


私はマリナからの返答で、ヤクモとのことを考えた。


確かに私はヤクモのことが好きなのだろう。それが恋愛か信頼かはわからない。ただはっきりしているのは、あの時、あの場所でヤクモが私を封印から解放するって言ってくれたから、今こうしているんだ。だから、


「私はヤクモに、負けてほしくないな。1人にしてほしくないな。カッコ悪くてもいいからずっと一緒にいて欲しいな」


私の偽らざる本音だった。


「……そっか、ならヤクモ君が負けないように応援する?それとも……」


「加勢して、ベヒモスを一緒に倒すに決まっているでしょ」


私は魔力を巡らせ飛び、マリナは私の返答に笑顔で頷くと、立ち上がり魔剣を構えた。


「待ってね、今ヤクモに念話を送るから……そう……わかった、こっちもそれを補佐するようにするわ」


「……ヤクモ君、なんだって?」


「えっとね、実は……」


私は念話で聞いたヤクモを現在の作戦をマリナに教えた。


「へぇーだからあんなに……それなら倒せるかもしれないけど、確率的には低いね。最後の一押しになにかできないかな?」


「……でも今は考えるより行動するわよ。考えが思い付いたら私達に念話しなさい」


「わかったわ」


私とマリナは頷きあうと、絶え間なくベヒモスに攻撃し続けるヤクモを援護すべく駆け出した。

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