駆け回って無茶して
遅くなりました
とある敵魔法使い視点
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
周りが、軍が、空間が振動するほどの歓声が辺りを覆い尽くしていた。
先程まで俺達の軍に猛威を奮っていた巨獣が倒されたのだ。まぁ、まだ煙のせいで倒せたのかどうか分からないが、十中八九倒せているだろう。
先程放ったのは俺達魔法使いの限界の魔力量の注ぎ込み、どんなものでも破壊するという思いを込めた魔法だった。それを3発同時に当てたのだ。破壊出来なかったわけがない。その思いが全員にあった。それ故の歓声なのだ。
…………………………………………………………………だが、
「……うん?」
近くの誰が疑問の声を上げた。
「どうした?」
「いやな、煙の向こうに影が見えたんだ」
「向こうのやつでも見えたんじゃないか?」
「いや、人影じゃ……それに煙晴れるの遅くないか?風は弱いとはいえ吹いているのに」
「…………あっ」
そこで俺にも見えてしまった。というか眼があってしまった。煙の向こうにいる巨影の眼と。
「た、たいっ」
俺が退避と叫ぶ前に巨影が先程までと比べ物にならない速度で突っ込んでくる。
それが俺が見た最後の光景だった。
美春視点
「即席補強だがさっきよりスピードでていてプラマイゼロだ!」
八雲が汗を流しながらベヒモスを動かし続けている。でも私達が乗るベヒモスは最初の方とは違い、ヒビが全体に広がり、走るたびに外装がバラバラと崩れていっている。それを築一直していっているのだから集中は段違いだ。
「八雲!右に円を描くように回り込め!そのまま直線に進めば城壁に辿り着く!」
「了解!」
荒太の指示に従い右に旋回する八雲。
ヒビが入っているので外の音も聞こえてくる。怒号が飛び交っているから立て直そうとしているのか、それともこっちの動向に気がついてすぐに攻撃してこようとしているのかわからないけど、
「ギリギリかな?」
「間に合せるさ」
私の小さな呟きに八雲が答えてくれる。こっちの考えを読んでなのか、それともこんな小さな呟きも聞き逃さなかったのかわからないけど、こういうところが好きなんだな。
「荒太!数秒持たせろ!」
「はっ!?…くそっ、動かせないぞ!」
「いい!崩れないように維持だけしてくれ!慣性の法則で進む!」
「わかった!」
荒太に任せた八雲が天井に飛び上がると天井をぶち抜いていった。
『は?』
いきなりのことで3人とも間抜けだ声を上げて、荒太なんて任された制御を止めてしまうほどに。
「制御!」
八雲が指から魔力の糸を伸ばして、ベヒモスの要所要所を繋ぐと、そこから魔力の糸を張り巡らせて繋げていった。
「この直線で決めるっ!」
一瞬で糸を張り巡らせた八雲が一気に魔力を高めた。
糸で繋がっているベヒモスにはさっきより早く魔力が浸透していき、初動がスムーズに行えた。それからスピードに一気に乗っていき駆け抜ける。
「止めろぉおおおおおおおおおおおお!」
「障壁展開しろぉおっ!」
「何としてもここで潰すんだぁあああああああああ!」
ベヒモスの外側に周りの魔法使い達が魔力を練り上げて、私達の行く手を阻もうとしてくるけど、その前にベヒモスが駆け抜けていく。
障壁を張られようとしていても、張られる前にベヒモスが駆け抜けるので魔法が発動しない。
「このままあと数百メートル」
「こいつなら数十秒」
「サンちゃんに念話飛ばしておく」
私は念話でサンちゃんにあと少しで到着するから、タイミングを見計らい、門を開けてほしいと送った。だけど、
「えっ、うそ!?」
「どうした?」
「サンちゃんから念話飛んできたんだけど、門開けられないって」
「は?なんで」
「門に敵が張り付いているからだって」
「いや、まぁそりゃ……そうなんだが。それをなんとかしておいて……出来ないかぁ」
そりゃそうか、あそこにサンちゃんがいるからそれに見合った戦力がいるとしても、城壁に張り付いている敵を引き剥がして、更に門をタイミングよく開けるなんて事ができる戦力が揃っていない。ただでさえ軍事面で弱小なのだから。
「うーーーん……どうするの八雲!このままじゃ中には入れないよ!」
「だったら選択肢は一つしか無いだろ!」
「?……なに!、うおっ!?」
すると八雲はいきなりベヒモスのスピードを上げた。
だんだんだんだんと早くしていく、ベヒモスの修復も間に合わないほどに。
「……まさか」
「城壁なんてものは飛び越えるためにある!」
何やら意味不明なことを言う八雲。
「ばかなの?」
「バカか」
「バカなんですか!」
「バカモノーーーー!」
流石のシェルナも堪らず八雲の胸ボケから出てきて叫んでいる。まぁそれだけバカなことなんだけど。
「あれが見えんのかヤクモ!ベヒモスの数倍の高さのある城壁だよ!万全のベヒモスならともかく、こんなボロボロのベヒモスじゃ、飛び越えるどころか城壁にぶつかって木っ端微塵だよ!」
珍しく喋りまくるシェルナ。そんだけ怖いということだろう。
「見えてるに決まっているだろう?だからこそ胸が踊る!これを飛び来れられたら俺は壁をまた一つ抜けたということ!」
「いや、ほんとに壁を抜きそうになっているんだよ物理的に。ところで八雲」
「なんだ?」
「飛び越えられる勝算は?」
「1〜2割くらいかな」
『ひっっっっっくっっ!!』
とてつもなく低かったぁあああああああ!!
「やめなさい八雲!あんたいつも勝算高めでしか勝負挑まなかったじゃない!」
「そうだそうだ!なんたって今回に限ってそんな!」
「ヤクモ様!やめましょう!私まだ死にたくないです!」
「私は外にいるからもっと危険じゃない!それに小さいんだからこんなことやめてぇえええええええええええ!!」
「お前ら……俺を信じないのか?」
『信じない!』
「言われても……もう決まっちゃったし、もう城壁目の前だし」
『……えっ!…………とまって(れ)えぇえええええええええええええええええええええええええ!!』
私達の訴えを通ることなく、ベヒモスが強く踏み込むと浮遊感が私達を襲った。
「……あっ、ヤベ」
浮遊感に目を回している私の耳に八雲の小さな呟きが聞こえてきてしまった。
「なにがあっ」
ドコォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンン!
八雲に問いただそうとしたとき、とてつもない衝突音が響いたと同時に、衝撃が襲ってきた。
それからなにかに叩きつけられる感じがして、意識が遠のいた。
次回も頑張ります




