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スタンピード発生したので武器を手に入れます

第5章 スタンピード発生したので武器を手に入れます


その日は朝から都市は喧騒に包まれていた。


大半が荷物をまとめて樹の獣国、地の王国に逃げる人だかりで溢れていた。


俺は町を宿の窓から見下ろしながら昨日の出来事を思い出し始めた。いつもの回想だ。飽きないでくれ。



マリナと約束をしてから2日がたった。その間クエストを何回か受けたが、前みたく瞬殺はしなくなってくれた。


むしろ連携をたくさんしたいと言い出したので、今まで以上の魔物と戦闘を行った。これなら瞬殺時代の方が優しかったかもしれない。……まぁ弱い俺が悪いんだけど。


その日もクエストを受けるためギルドにやって来ると、すこし遅れて後ろから慌てた様子の冒険者がやって来た。


「ギルマスー!大変だ、スタンピードが起きやがった!!」


冒険者の叫びにギルド内は静寂に包まれた。訳がわからないのでマリナに聞こうと横を見ると、マリナが顔面蒼白になり固まっていた。仕方なくシェルナに振ることにした。


「どゆことシェルナ、教えて?」


「えっとね、確かスタンピードってのは迷宮から魔物が溢れる現象のことだったはずよ。管理されていれば起きないけど、未管理だと起きるはず」


なるほど、だからみんなしてさっさと管理下に起きたかったわけだ。低ランク迷宮ならともかく高ランク迷宮がスタンピードを起こすと止められないから。でもギルドの見解じゃあ、あの迷宮まだ暫定Aランクじゃなかったっけ?それなら全員で対処すればなんとかなるんじゃ……


「ヤクモ君、事はそう軽くないんだよ」


先ほどまで黙っていたマリナが俺とシェルナの会話を聞いて混ざってきた。


「どういうこと?」


「ヤクモ君の考えは全員ででしょ?でもね好きこのんで命を投げ出そうとする冒険者は少ない、多分だけど10分の1もいないんじゃないかな」


「っ!マジかぁ~それじゃあ無理ゲーじゃね?」


「無理ゲー?まぁ無理なのはそうだね、しかもさ、スタンピードが起きたのが、昨日暫定Aランクに測定されたところだから尚難しいね」


マリナが言うには、Cランクがスタンピードを起こすと、Aランクパーティーが最低5組は召集されるらしい。


俺はAランク迷宮だとどれくらいなのか聞いたが、前例がないらしい。というのも、昔は高ランクから踏破しなければならないと女神達に言われていたらしく、高ランクが初期に全て管理下に置かれ、あとから低ランクを踏破しようとしていたら、そこがスタンピードを起こしたらしい。だから高ランクでのスタンピードは歴史に載ってないらしい。


どうしたものかと考えていると、静寂だったギルドが囁きが次第に謙遜になり、最後は怒号にまで発展していった。


「Aランクのスタンピードなんて嘘だろ!?」


「だけど嘘をついているように見えないが」


「だったらさっさと逃げるぞ!今ならまだ間に合うはずだ!」


「おいお前!スタンピードが到達するまでどれくらい猶予があるんだ?」


伝達係の冒険者への質問に、ギルド内の冒険者全員が示し合わせたように静かになり、固唾を飲んで伝達係の返答を待った。その息の合わせかたを今から起きる戦いに向けてほしい。


「猶予は……長く見積もっても1週間、短くて……3日だと思われます」


「根拠は?」


「……迷宮から溢れた魔物共はこちらに一直線向かってこず、両森林に生息する魔物共を集めて向かって来ているからです」


伝達係は絶望的な答えを言った。また、しばらくギルド内が静寂に包まれ、それから慌ただしく動き始めた。


「逃げるぞ!早くしろ!」


「おい置いてくな!」


「なんだってこんなときに!」


マリナはすこしは残ると言っていたけど、見た感じ誰も残らないだろう。


ギルド内がもぬけの殻になるまでそう時間はかからなかった。


「お前達は逃げなくていいのか?」


ガナサルは未だにギルドに残っている俺達に訪ねてきた。


「いやぁ~普通は逃げるものだけどもさ、今回はちょっと無理なんだわ、なんたってあの迷宮にはマリナだけじゃなく、俺も行かないといけない理由ができてしまったから」


俺の返答にガナサルは目を見開いて硬直し、マリナに視線を向けるも、マリナも本当だとばかりに首を縦に振った。


「……それはマリナのためか?」


「いんや、俺の目的のためさ」


堂々と答えると、ガナサルはすこし考えたあとため息をつき、マリナは微笑むだけだった。


「……俺は今から領主に事を伝えて、都市に避難勧告をだす。長く見積もって5時間後には慌ただしくなるだろうから、やることがあるならその間にやれ」


「「了解」」


ガナサルの親切さに感謝を述べ、俺達は町に駆け出した。



まず俺達は宿に戻り、有り金全てを持って出て、道具屋に向かったが、無駄足だった。なぜなら逃げ出した冒険者達が道中の安全のため回復薬等を全て買い漁っていったからだ。俗に言う、大人買いと、爆買いをしていったのだ。……どこの中国人だ。


そのため、早々にマリナが武器屋に行くことを薦めてきたのでそうすることにした。


武器屋は道具屋程ではないが、半分ほど品物が無くなっていった。


「次はあんたらか、今日はどうしたってんだ」


武器屋の親父も冒険者達の行動に不穏な気配を感じているようなので、今朝の事を話した。


「マジか!そんなことが起きているとは思わなかったぜ、……そうかスタンピードがな、それは逃げるしかないか、お前さんらも武器新調して逃げんのかい?」


「いんや俺達は残って戦うよ、ちょっと用事があるからさ」


「なにっ!?」


親父が信じられないと言った感じで見つめてきた。でもこればっかりは仕方ない、シェルナとの約束のために必要なことだからな。


「そうか……ちょっと待ってろ」


そういうと親父は店の奥に消えていった。暫くして、親父が刀を2つ持ってきた。両方共異彩を放っていた。


片方は柄と鞘が純白、ところどころに赤く線が入っており、もう片方は真逆の漆黒であり、こちらは金色の線が入っていた。


だが何より目を引いたのは鞘から刀身を見せないように、抜かせないようにしている鎖だった。


「親父、それは?」


「昔あったつう死の国の将軍様が使っていたっていう姉妹刀さ」


俺はたまらずシェルナに目を向けると、シェルナは何かを思い出しているかのように涙を流していた。


「……どうしてそれを俺に?」


「初めてお前さんが来たとき、店の奥にあったこいつが震えて自ら抜けようとしたのさ。だからお前さんが一流になったときに祝い品としてやろうかと思ったが、今日を逃したらダメかと思ってね」


親父は照れ臭そうにそっぽを向いた。


「わかった、そういうことなら貰うよ、料金は」


「そんなもんいらん、だが鞘から抜かないと約束してくれ」


「どうしてだ?」


「そいつの刀身には死魔法を強制発動させるらしい。だから抜いたら最後鞘に納めるか、手放した時点で代償が発動しちまう」


「あぁそれなら大丈夫、俺スキルに死魔法持ってるから代償なしよ」


またまた親父が固まってしまった。シェルナには拳骨落とされるし、マリナはやれやれと言った感じで額に手を置いていた。


…………あれ?これって言わない方がよかったのか?


「あぁ~そうか……よし俺はなにも聞かなかった。その刀はお前さんにやる、スタンピード頑張れよ。死なない程度にな」


聞かなかった振りをしてくれるみたいだ。やっぱり最高な親父だぜ。あと死なない程度にか、そうしますか。世の中命あっての物種だしね。


「わかったよ、また会おうな親父!」


俺達は親父にお礼をいい武器屋を後にした。



次は防具屋にやって来たが、店のなかはもぬけの殻というほどに防具が無くなっていた。


「次は誰だ、こんなに買っていったら1週間は店を閉めないといけないじゃねぇか!」


防具屋の親父に逆ギレされた。どうやら冒険者達が道具屋のように片っ端から買い漁っていったようだ。そして防具は道具みたくすこしの時間でたくさん作れるものではないから、作るにしても買うにしてもどうしても時間がかかってしまうと嘆いているようだ。


「なんかごめん」


「たく、迷宮が発見されたからって浮かれやがって、そんなんだとすぐに死んじまうぞ」


親父よ、迷宮は合っているんだか目的が間違っているよ。俺は武器屋と同じ事を防具屋にも教えた。


「マジか!なんてこった、早く荷物をまとめねぇと!」


俺達をほっぽって奥に荷物をまとめに向かおうとしたので襟首を掴んで止めた。


「ちょい待ち、客ほったらかしでどこ行こうとしてるんだよ」


「客ってこんな状態と状況であんたらになに売ればいいんだよ」


まさにその通りなのだが、そこを何とかするのが商売なのだと思うんだよ。


「そんなこと言ったって、売れるものなんて」


「いわく付きでもいいよ?」


親父が横目で店の奥を見た。やっぱり有るんだどこにでもそういうのが。無言の圧力をかけると親父はしぶしぶ奥に取りに行き戻ってくると、軽装と少々の装飾品を持っていた。


軽装は黒を基調にした軍服に似ている物と太ももまであるコートであり、風でなびいたときに見えるコートの裏地は赤く、それがかっこいいと思った。


装飾品は、指輪、腕輪、ネックレスといった感じだった。


指輪は赤、青、緑、黄、白、紫の色がきれいに円のように並んだ六角型の宝石が嵌まっている物だった。腕輪は2つ有り、1つは森林と獣が書かれたレリーフの物、もう1つは雲が空を覆い、雨と雷が降り注いでいる様子を書かれたレリーフの物だった。ネックレスは指輪にある緑と似ている色だが、こちらは緑というより翡翠に似ている感じの宝石が付いているだけのシンプルな物だった。


「軽装はいわくつきだが、装飾品は欠陥品だ」


どういうことか聞いてみると、軽装は武器屋のように着たら死魔法が強制発動されて脱いだら終わりの物らしいが、これに関しては同じ理由でクリア、装飾品は指輪は炎、水、風、地、光、闇魔法が、腕輪は樹、雷魔法が、ネックレスは癒魔法が使用可能になるらしいが、なぜか魔法が使えなく、着けると逆に持っている魔法が弱まってしまったことがあったらしい欠陥品らしい。


「注意事項は俺はもう返品を受け付けないから、そのつもりで」


親父も売れないものをもう持ち続けたくないらしい。チャンスだと思い押し付けたみたいだが、俺にとっちゃあ嬉しい物ばかりだ。


「了解、会えたらまた会おう」


「こんなことしか言えないが、気ぃつけろよお前ら」


なんだかんだ言って根は好い人なようだ。心配までしてくれるなんて嬉しい限りだ。親父に手を振り、俺達は装備関連は終わった。



昼になると町はパニックになりかけたが、早めに聞いていたのだろう、衛兵がパニックになる前になんとか抑え込んでいた。


俺はというと、その様子を宿の窓から見下ろしていた。横ではマリナが装備の手入れをしていた。


「ちょっとヤクモ君、買ったばかりとはいえ確認くらいはした方がいいわよ。特に刀に関しては錆びているかもしれないのに」


俺は姉妹刀に視線を向けた。俺も何年も抜かれていないならそうなっているかもしれない疑念を思ったが、持ってみたらその疑念は比喩というものだった。なぜかわからないがそんなことはあり得ないとわかったのだ。


さすがに鎖は外そうと思ったが、鎖は刀の一部のようで取れないこともわかった。諦めて軽装のほつれを直そうと思ったが、こちらもそういうものはなかった。


という訳で絶賛暇中というわけだ。なのでもう一度外の様子を見ようとすると部屋のドアをノックされ、返事をすると女将さんが入ってきた。


「ごめん女将さん、俺達が残っているから逃げられない?そういうことなら出ていくけど」


「スタンピードと戦うって本当かい?」


「……うん」


女将さんの有無を言わせない雰囲気に冗談を言えなかったので大人しく頷いた。


「勝ってくれとは言わない。それでも今日から1週間でいい、なんとか防衛してくれないかい?」


女将さんはいきなり土下座したら、そんなことを言い出した。


どういうことか聞くと、1週間後に女将さんの夫の墓参りがあるらしい。そして今年は冬にいけなかった分手を合わせたかったらしい。


聞いていると宿の看板娘の子も部屋に入ってきて必死の形相で頭を下げてきた。


「う~ん、宿の防衛は無理だよ」


「「っ!?」」


女将さんと看板娘は驚いたが、それでもなんとか説得しようとしてきたので、それを遮って続けた。


「俺達は宿ではなくこの都市を守らないといけないから、宿だけの防衛は無理、でも都市のなかに入っていれば勝ってに守るからそれでいい?」


「うっふふ、えぇありがと」


俺はなんか照れ臭くなったので再び窓を見出した。


その様子を後ろから生暖かい視線で見られているのを気付きながら。



私はスタンピード発生の知らせで慌ただしくなった夜、久々に魔剣ライブラと夢の中で再会した。


「あら久しぶりねライブラ、この数年使わなかったから拗ねているかと思っていたわ」


「ふん!その通りだが、今回はそれとは別のことにかんしてだ」


「別のこと?」


ライブラは複雑な顔をしていた。そしてなにやらイメージしだすと、手に今日八雲が手に入れた姉妹刀を出した。


「その刀がどうかしたの?」


「こいつらとは昔殺りあったことがあるんだ、大戦時にな」


ライブラの告白に私は驚いた。大戦時に殺りあったと言うことは、あの姉妹刀も名刀か魔剣に区分されているかもしれないからだ。


「まさしくその通りだ、こいつらはどちらも魔剣だ。しかも精神汚染や傀儡化もしてくる厄介なやつらだ」


「そんなっ!早くその事をヤクモ君に教えないと!ライブラ、早く私を目覚めさせなさい!」


「それは無理だ」


「どうして」


「俺が目覚めさせたとしても、お前の体には使徒命令での眠りも付けられているから起きること事態無理なのさ」


私はなんでヤクモが命令を使うのに気づかなかった悔しかった。そしてどうしてヤクモ君がそんなことをしたのか、考えた。


「んなもんあいつが始めからあの姉妹刀が魔剣だとわかっていて、お前から聞いた試練に挑むつもりだったんだろうよ」


なんて事はない、答えはすぐ近くに合ったようだ。私の過去の話のせいで、魔剣についての説明をしてしまうとは。まぁ仕方ないかな。不可抗力だし。


「お前を通して見ていたが、あの小僧、今頃あの姉妹刀の試練を受けているだろうな、昼間になにもしていなかったのは、していなかったのではなく、出来なかったが正しいだろう」


「出来なかった?」


「あぁ、あいつはお前と違って弱い、それは魔力量もだ。俺様は挑戦者を誰でも受け入れるタイプだが、あの姉妹刀は一定量の魔力を流さないといけないんだろうな、だから小僧は2本分の魔力を溜めていたのさ」


だからなにもせず、1つのことに集中し続けていたのね。


「そっか、なら私が今することはヤクモ君が勝つことを祈るだけかな」


今向かったところで試練を止めてしまってはいけない。だから祈るのだ、ヤクモ君が勝っていつものように私の前にやって来るのを!


(たしかにそうだが、俺様は双剣という括りで2本で個だが、あれは姉妹刀、つまり1本で個同士だ。はてさて小僧は生き残れるか)


ライブラの杞憂をマリナは知らない。



俺は姉妹刀の両手に持ち、部屋の中央に佇み、魔力を集中させていた。


試練前に姉妹刀の事を何か知っていそうなシェルナに聞こうかと思ったが、


「それは勝利祝いにしてくれない?まだすこし待って欲しいの」


またもや昔の事を思い出しているようだが、今回は大丈夫そうだ。これまでの経験で立ち直れるようになったようだ。


「了解、そんじゃ行ってくる」


「行ってらっしゃい」


シェルナに見送られて、俺は集中させた魔力を姉妹刀に一気に流し込んだ。そして俺の意識はブラックアウトした。


目を開けるとそこは、光が降り注ぐ青空が広がっていた。横を向くと地平線が見えた。多分反対側も同じく、建物も何もないのだろう。


「やっぱり来たね~」


「うんそうだね~」


声がした方を向くと、そこには2人の美少女がなにやらこそこそ話していた。


1人は白髪に白と赤が折り混ざったワンピース姿で、もう1人は黒髪に黒と金が折り混ざったワンピース姿だった。よくよく観察すると、白い方が姉で先に喋り、黒い方が妹で後に喋っているようだ。


なんで俺が出会う人以外が美少女ばっかりなんだよ。シェルナ然りこの子ら然り、あれか俺をロリコンにしたいのか?


「なんか変なこと考えているね~」


「うん気持ち悪いね~」


くそ~変なやつと思われてしまった。荒太助けてくれ。


「ねぇねぇ、お兄さんは私達に挑戦しに来た人?」


「私達を手込めにしに来た人?」


「いやいや、手込めにはしないから、試練を受けに来ただけだから!」


このまま流されてしまってはロリコンのレッテルを張られてしまうので、必死に弁明した。


「ふぅ~ん、それよりお兄さんってライブラちゃんと知り合いなの?」


「ライブラちゃん元気?久々に遊びたいの!」


やはりというべきか、この姉妹刀は魔剣ライブラより格段に強いようだ。


「昔ライブラと互角だったって聞いたんだけど、今の聞くとまるで遊んでいただけみたいに聞こえるけど」


「「うん!ライブラちゃんといっぱい遊んだよ!とっても楽しかった!」」


「戦っては」


「「えっ?そんなことしてないよ?」」


姉妹は何を言われているのかわからないと言った感じで首を傾げた。


可愛そうだなライブラ、マリナの過去話での口調だとかなり本気で戦っていたようだったけど、そう思っていたのはライブラだけだったみたいだな。


「はぁ~……ねぇ2人とも、試練受けてもいいかな?」


「うんいいよ!」


「遊ぼ遊ぼお兄さん!」


「何をすればいいのかな?」


「「私達を見つけて!」」


そういうと2人は陽炎のように揺らめきながら消えていった。


「試練スタートかね、見つけてって言っても、この広大な空間を探さないといけないのか」


とりあえず俺は右側に真っ直ぐ行くことにした。


だが、前に歩く前にすぐさま後ろに飛び退きながら全速力で逃げ出した。


なぜかって?だって目の前に熊が現れたら誰だって逃げるでしょ。さっきまでなにもなかった空間にいきなり出現したので、距離を取って逃げ出したが、たしか熊って逃げるやつを追う習性がなかったっけ?


…………ほっ、よかった熊は追ってきていなかった。…………代わりにバッファローの大群が追ってきていた。


「なぜだぁあああああああああああああああああああああ!!」


観察するとバッファローは魔物のようだ。多分だがさっきの熊もそうだろう。そして試練はこのいきなり出現する魔物達を掻い潜って姉妹を見つけないといけないという訳みたいだ。


「そんなことより武器、武器をどうにかしないと倒せない!」


たしかマリナの試練ではイメージすればそのイメージに剃った物が出せた。ここもそうかもされないので右手にいつも使う長剣をイメージしたが、なにも出てこなかった。


どうやらイメージとは違う方法なのか、イメージが弱いから出現できないのかわからなかったので、逃げるのに意識を集中させた。魔力による身体強化と魔法は使えるみたいなので、追い付かれる心配は少なくなった。


「くそこんな状態で見つけろだなんてどうしたら……ん?」


何か違和感を感じ振り向くと、追ってきているはずのバッファローの大群が消えていた。


「どういうことだ?」


試練の内容が全然わからなかった。暫し呆然と立ち尽くし、変化を待ってみたが、熊とバッファローは現れず、振り返っても新しい魔物が現れる気配はなかった。


(一定間隔で配置されてあるのか、あの姉妹から離れたからか)


考えても答えは出てこないので、とりあえず戻ってみることにした。だが今度は歩きではなく全速力で駆け抜けることにした。


「うしっ!そんじゃ……レディ……ゴッ!」


大きな波紋を起こしながら駆けると、後方と前方にバッファローの大群が出現した。


「やっぱり一定間隔か!……なら押し通る!」


迫るバッファロー達に恐怖を感じつつ、それを押し殺して駆けた。


そしてぶつかる寸前に足に強化を集中させて高く跳躍した。一回転しながらバッファローの大群を飛び越えて着地すると、後ろから、ゴドゴォン!とたくさんのぶつかる音が響いてきた。


振り向くと、バッファロー達が正面衝突しており、あとからくるバッファローが前のバッファローを天高く弾き飛ばしながら進んでいた。


「うわぁやっば!巻き込まれないうちに逃げるか」


俺はバッファロー達を尻目に駆け出した。


暫くしてすこし先に熊魔物が出現した。


「グルルルルルルルルルルゥ……グルァア!」


熊は大きく振りかぶると、何もない空間に爪を振り下ろした。


俺は嫌な予感がしたので思いっきり真横に飛ぶと、さっきまでいたところが爪の形に大きく抉れた。


(風?……いやそんな気配ではなかった、ということは空間を抉ったのか?)


だとするととんでもない力だ。この見渡しのいい空間だから回避出来るものの、周囲を木々や岩々に囲まれて視覚外からやられたら、一撃必殺の技だと思った。


俺は当たらないために動き続けることにした。というより大きく迂回しながら抜けようと思ったのだ。バッファローのように大群が出てくる気配もないのでそうしようとしたのだが、途中で透明な壁に激突してしまった。


「いっでぇえ!……いつつ、やば……っぶな!」


止まることがわかっていたかのように攻撃が飛んできた。熊は仁王立ちの姿勢から足は動かさず、顔と手だけをこちらに向けていた。どうやら壁は熊を起点に横に張られており、熊も動くことは出来ないようだ。


それでも厄介なのはかわりないのだが、俺は動きつつどうするかを色々思考しだした。


思考しているので動きが小さくなってきたので、攻撃が苛烈になってきたが、軽やかなステップでギリギリで避け続けた。


熊が疲れるか見ていたが、疲れる様子はなかった。イメージで剣を作ろうと、どれだけ意識を集中させても無理だった。


「う~ん何か他に使える物は……うん?これは……」


何かないか探していると、腰にいつも下げているナイフがあることがわかった。ここは夢の中のような場所のはずなのに、ナイフがあるのは変だった。


もしかしてと思い探ると、案の定薬と長剣以外のいつも身に付けている装備があることがわかった。


(謎が深まるな、メイン武器以外が装備したままある……いや何か違う……あっそうかこの格好はこっちに来るときに着ていた物だ)


なんとも危ない試練だ。試練を受けるときなど自分が一番安心する場所で行うし、心の準備をするに当たって装備とかは外すものだ。今回俺はただ忘れただけなのだが、それが功を奏したようだ。


「だけど、新しく手に入れたやつでないのがネックだな。装飾品も……このネックレスだけか」


装備はいつもクエストに着ていく軽装であり、今回買ったものではなかった。装飾品はネックレスのみだったので、今使える魔法は死と癒だけだった。


「決め手がない。さっきから死魔法を使おうとしているが発動する気配すらない。癒は使えるみたいだけど」


手に翡翠色が涌き出るように現れ、転がったときにできた擦り傷を治した。


相変わらず熊は空間を抉るが、俺は軽やかに躱し続けているが、永遠には無理だ。1つ策はあるが、俺としてはめんどくさくてやりたくなかったが、そうも言っていられないので、しぶしぶ実行することにした。


「はぁあ~……痛いのはイヤなんだけどなぁ……纏え炎よ“炎剣”、吹けよ風渦となりて巻き起これ“風渦巻”」


手にしたナイフに炎を纏わせたのち、渦状の風をナイフの周りに作ると、意図して渦が炎を巻き取り、火炎旋風の小型版を作ることに成功した。


「ここまではよしっと、いっくよぉ~……魔法合体“火旋風”」


足に強化を集中させて、地面すれすれを走りながら熊に接近すると、さっき作った合体魔法を叩きつけた。


「そりぃぁあああああああ!」


バコォン!……ブォオオオオオ…………ボフン。


熊に当たったのち粘るも、最後には消えてしまった。


暫しの沈黙。熊もどうリアクションすればいいのかわからず固まり、俺はせっかく作ったのがこの程度の技だったのがショックで固まり、なんとも言えない状況になってしまった。


副作用で炎に包まれるのと、風に切り刻まれているが、大したことはなかった。そして熊が同情するかのように肩に手を置き、道を譲ってくれた。涙でそう、というかすこしでてるけど。


熊の好意に感謝しつつ通った。しばらく歩いて振り向くと熊はいつの間にか消えていた。俺は心のなかで熊に敬礼しつつ先を急いだ。


それから走り続けても魔物は出てこず、あの姉妹も見つからなかった。


「う~んこっちじゃないのか?だとするとどこに……うぐっ!」


周りを見渡していたとき、いきなり頭に痛みが走った。


よろめきながらも立っていると、足下が揺らめき下に落ちた。


「ぐっ……かぼぉ……ごぼぼぼぼぼぼっ」


落ちたところは水の中だった。驚いて空気を無駄に出してしまい死にかけています。


(ヤバイな、このままじゃ溺れる。浮上しようにも体が動かない)


体は金縛りのように指先すら動かなくなってしまったので、浮くどころかどんどん沈んでいっている状態だった。


諦めかけていると水の中なのに水飛沫が上がり、水の中から一転して空中に放り出された。


「なんでだぁああああああああああああああああ!!」


今度は自由に動けるが、動けるからといって何をできるかわからなかった、というか考えようとしたときなにやら透明な壁を潜る感覚が起き、周りにドラゴンの群れが現れたのだ。


「……………」


なにも言えなくなった。喋ったら気付かれて死んでしまう、まぁ喋べらなくても気付かれたけど。


こちらにドラゴンが飛んでくるのが見えたけど、また壁を潜ると、今度は雪山に落ちるのではなく立たされていた。


「寒っ!……ここが終着なのか?」


暫く待っても壁を潜る感覚は起きなかったので、あの姉妹が連れてきたかったのはここなのだとわかった。


「さてと探す前にどこか洞窟はないものか……おっ、あそこにするか」


遠くの岩肌に洞窟らしき場所が見えたので雪を掻き分けながら急いで向かった。


洞窟に到着すると、すぐさま炎と樹魔法を使い焚き火を作り暖を取った。副作用で炎に包まれ、植物が生えてきたが、今の状況では有りがたかった。


体の震えが治まってきたので、焚き火にしている樹を松明の代わりにして、洞窟に奥があるか調べることにした。


だが、すぐに行き止まりになった。


「う~んこれからどうするべきかぁあっ!……のわぁああああああああああああああああ!!!」


これからの事を考えようと壁に寄りかかったとき、壁を透過して隠されていた坂道を転がり落ちていった。


「痛っつつつつ…………かなり転がって来たけどどこだこ……こ…は」


立ち上がり前方を向くと、すこし先に祭壇のような場所に2つの巨大な水晶があり、その中にさっきまで探していた姉妹が一糸纏わぬ姿で眠っていた。


「おいおいどうなってんだこれ?最初にあった姉妹は偽物だったのか?それとも幻影か何かか?」


見ているだけではなにもわからないのでとりあえず祭壇に行くことにした。


門番みたいな奴が現れるかもと身構えていたが、なにも起きず祭壇に到達し、そのまま水晶に触れた。


「……これでいいのかな?見い~つけた」


ピキッ…………ガッシャアァアン…………ドサッ。


触れた水晶はヒビが触れている手から広がっていき、全体を覆うと水晶が粉々に壊れ、姉妹が八雲に降ってきたので優しく抱き止めた。


「こんなとこ誰かに見られたら絶対誤解される。ただでさえマリナにロリコン疑惑かけられているのに」


とりあえず姉妹を壁際に横たえて、軽装の下に着ていた服を錬金術で毛布にして姉妹を包むようにした。


それから手がかりを探して祭壇に戻ると、水晶があった場所や祭壇自体をくまなく調べていった。


「う~んこれとって不思議なとこはないか、これなら俺以外でもちゃんとして挑めば誰でも行けそうだが、なんでいままで誰にも使われていないんだ?」


「「それはね、持ち主が使うんじゃなくて私達が使うからなんだよ!!」」


「っ?!……ぐあっ!……あぁああああああああああああ!!」


壁際にいたはずの姉妹がいきなり横にいたと思うと、頭を挟むように掴まれ精神汚染を仕掛けられた。


脳みそをかき混ぜられるような痛みにさらされ続けていると、姉妹がなにやら喋りだした。


「それにしてもここがバレるなんてね」


「うんわからないように偽装してたのに、運がいいみたいだね」


「頭良さそうだから私達が本物じゃないってバレるかもしれなかったね」


「危なかったね、だからこんな強引な手段を取るしかなかったけどね」


「「あははははははははははは!!」」


そういうことか、さっきまであった小さな疑問はそれが原因だったか。


だから試練突破者がいなかったのか。刀を使っている人はいてもそれは刀を振る人形だったからか。多分だが傀儡化もしてくるなこいつら。そうじゃないと常時発動の死魔法で使用者がすぐに死んでしまう。傀儡にすれば死んでいても動かせるからだいたいは戦い続けられる訳か。


「て……めぇ……らぁ一体……なにも…んだ」


「私達?」


「私達はねぇ」


「九柱の女神様が」


「あの姉妹を封印するために作った」


「迎撃機構」


「なんだよ」


「なんでそんな……ものがあ………んだよ!ひき……は……なせば…いいだろ」


「女神様方がそれをしないわけないでしょ」


「だけど運命力が強固なのか必ず一緒になっちゃうから」


「それならずっと一緒にいさせて」


「封印させ続けた方が楽だと決まったそうよ」


「「……あらそうなの、だったらお礼をしなくちゃね?」」


「「…………え?」」


精神汚染をしていた姉妹が驚いたように振り返った。そこにはさっきまで壁に寄りかかっていた姉妹が、いつの間にか着替えて仁王立ちしていた。


「そんなどうして」


「まだ起きるには時間がかかるはずなのに」


「あらあらそんなに驚かれても」


「こちらだって自身の神が近くにいれば早く起きるものです」


「ましてや神の使徒が試練に来ており」


「しかも身に付けていた衣服をかけてくださったのですから」


「「起きないわけにはいかないでしょ?」」


ははっ、そう言われるととても嬉しいが、だいたいシェルナのおかげじゃね?


だけど、それでなんとか精神汚染姉妹からの拘束から解放されたので良しとしますか。


俺はその場に崩れ落ち、横目で今後の成り行きを見守ることにした。


「貴女方がこんなに早く目覚めるとは」


「ですが目覚めた場合の対処もあることを忘れないでください」


「女神様方には消すなと言われていましたが」


「今回は緊急だったとご了承いただけるでしょう」


「「心置きなく消え……」」


「貴女方が消えなさい」


「さっきからうるさくて目障りです」


スパッン…………ゴトン……ゴロゴロ。


勝負は始まる前から決まっていた…………みたいな終わり方を見せられた。えぇ~……なんかもうちょっと戦いらしいのを見たかったなぁ~。でもこんなあっさり倒せるのになんで捕まり続けていたのか疑問やわぁ~。


「それはですね」


「私達を眠らせたのは」


「あのもの達ではなく」


「九柱の女神共だからです」


当然のように心をよんでくるわけだが、そうか女神共が、こうなってくると今回買った軽装と装飾品にも何かしてそうだな。めんどいことしやがって。それよりも気になるのが……


「あのですね」


「なぜ」


「メイド服なのかということですか」


そう、なぜかこの姉妹はワンピースではなくメイド服なのだ。色合いはワンピースとほぼ同じなのだが。


「本来はワンピースなのですが」


「あのもの達とカブルのは」


「こちらとしても」


「不本意なので」


そうですか……良く似合ってます。じゃなくて試練です。


「試練はどうするんだ?」


「……本来も私達を探し出すのが試練なのですが」


「出題した方は偽物だったこと」


「それでも私達をちゃんと見つけたこと」


「それらを踏まえて考えると」


「合格」


「ということになります」


なんか釈然としない気持ちになるのだが、けどグダグダ言うのは後にしとこ。


「了解したけど、今街がどういう状況かわかっているか?」


姉妹は首を横に振ったので、簡潔的に説明した。


「そのようなことが」


「ならば私達の出番も近いというわけですか」


なにやら戦闘狂の発言が聞こえたが、しらんぷりしとこ。


「あとお前達の見解だと、軽装と装飾品に今回のようなことが起きている思うか?」


「…………気配を探りましたが」


「貴方が言う軽装と装飾品にはそんなものがありませんでした」


よかったぁあ~。何回もこんなことやりたくないしね。


「わかった、それより試練が終了したんなら、お前達は俺の力というわけさ…………なら最初の命令、名前を教えろ」


姉妹は同時に、あぁ~といった感じに頷くと、姉だと思う白メイドから自己紹介をした。


「私は姉妹刀の姉、霊白朱刀『血銘』ともうします」


「私は姉妹刀の妹、薄金黒刀『欲祓』ともうします」


「「これからどうかよろしくお願いします」」


姉妹は礼儀正しくお辞儀をしてきた。


「よろしく、俺の名前は……」


「朧八雲、17歳」


「我らが神が異世界から召喚した使徒」


「職業は勇者と錬金術師」


「レベルは76」


「眷族に元Aランク冒険者のマリナがおり」


「戦闘では頼りっぱなしの紐男」


「……この世界にはプライバシーがないのかぁああああああああああああああああああああああ!!」


なんなんだよホントに!俺の周りのやつプライバシーを侵害しまくり!それに紐じゃねぇし!ちゃんと俺も戦っているし!


「メイちゃんにハラちゃんも俺にちゃんと自己紹介させてくれよぉおお~」


「メイちゃん?」


「ハラちゃん?」


「うん?……あぁ、メイちゃんは『血銘』だからメイちゃんで、ハラちゃんは『欲祓』だからハラちゃん」


「「…………ちゃんをやめてください」」


「うすっ、了解です!」


すぐさま敬礼して答えた。略しかたはよかったけど、ちゃん付けみたいな子供扱いはダメなようだ。すんごい勢いで睨まれた。とても怖かったぁあ~。


でもこれでやっとスタンピードで勝つための手札が揃い始めてくれた。本当は負ける戦いはしたくないが、今回は避けれないし、避けるつもりもないからな。なんとかより多くの手札を集めて、勝つために頑張りますか。


「2人とも、これからよろしく」


俺は姉妹に深々と頭を下げた。



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