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サンちゃんトリートメントの時間です

遅くなりました。すみません

「あぁいい天気だな」

 俺は朝日を浴びながら伸びをした。いろいろ吐き出せたおかげで心の引っかかりがなくなった感じで気が楽になったのだろう。

「おはようヤクモ君。起きてる?」

「さっさと起きなさいヤクモ。こっちはお腹空いちゃったわよ」

 扉の向こうからマリナとシェルナの声が聞こえてきた。どうやら迎えに来てくれたようだ。

「わかった。すぐに向かいます」

 俺は服を着替えた顔を洗うと、食堂に向かった。食堂に着くとそこには先に行っていたシェルナとマリナ、他に美春と荒太がすでに席についていていた。俺も食事を貰って席に向かった。

「おはようみんな」

「「「「おはよう!」」」」

「早いな、昨日あんな話したから眠らないで考えているのかと思ったよ」

「そういうのはサンちゃんが勝手にやってくれるから」

 そう言って後ろを指差す美春につられて振り返ると、廊下からノロノロフラフラした足取りで誰かが向かってくる。というかサンちゃんことサンライズ・フォン・キラリスが目元に深い(くま)と寝癖をつけて歩いてきた。

「おはようございます皆様」

「「「「「おう……おはようサンちゃん」」」」」

 もう一国の王女とは思えない姿で現れたサンちゃんに一様に顔を引きつらせる面々。

 そりゃこの国の王女様が、国でもてなしている勇者の前で、その勇者の友であり昨日恋人だと言った俺の前で、その俺に着いてきた仲間とその神の前で取っていい、見せていい行動ではない。

「…………サンちゃん、御髪失礼するね」

「え?」

 俺は懐から取り出した櫛を持ってテーブルに着いたサンちゃんの後ろに回った。

 戸惑いの声を上げるサンちゃんを無視して俺は、サンちゃんのブロンドヘアーを優しく持つと手慣れた感じで髪を溶かし始めた。

『…………』

 その光景に他の面々も、当のサンちゃん、それに付き添ってきた護衛の騎士に侍女が唖然とする中、そんな空気気にしないで続ける俺。

「最近手入れ怠ってないかサンちゃん。ちょっと痛みかけているよ、どんなに忙しくてもここは怠っちゃだめだよ」

「は、はい」

「侍女さんも」

「ははははははい!サンライズ姫様萌えし訳ありません!」

 顔を真っ青にしながら深々と頭を下げて謝るなら侍女さん。どうやら自分でもわかっていたが、仕事を中断させることもできずにズルズル引きづっていたことが暴かれ、しかも主君の目の前でだったのでその際だろう。

「大丈夫ですよカーミラ。これは王女である私から言うべきでした、貴女が気負う必要はありません」

「サンライズ姫様」

 サンちゃんのフォローでゆっくりと顔を上げる侍女さん事カーミラさん。これでいく分かは気が楽になったようだ。

「これでよし。これで少しはマシになっただろう?」

 そう言ってサンちゃんをクルッと前に向けた。そうすると他の面々が息を呑んで固まった。

 まぁ俺も自意識過剰ではないがかなりうまいと思っている。あの3人はかなりのクセ毛なので、かなり丁寧に、でも素早くやらないといけないので、寝癖程度では俺は躓かない。

 サンちゃんの髪は寝癖でゴワゴワになっていたのが、なんということでしょう、サラサラのストレートヘアーになっているではありませんか。

 これが俺の十年以上の研鑽のたわものだ。

「すごい……あそこまで酷かった寝癖が……こんなに……カーミラもこんなにするまで時間がかかりますのに」

「姫様、失礼します……そんな、こんな短時間でこんなに……私自信が無くなります」

 カーミラさんがガックリと項垂れる。まぁいままで時間をかけて丁寧にやっていたのをこんな短時間で終わらせてしまったのだからやるせないだろう。

 そう思っているとカーミラさんがガバっと顔を上げてこっちを見てきた。

「あのヤクモ様。私に櫛のやり方を教えてもらえませんか!」

 カーミラさんがグイグイとくるのでちょっとあとずさってしまった。

「い……いいですよ、それくらい。後で部屋に伺いますのでよろしくお願いします」

「はいっ!!」

「……」

 ヤバい、かわい……。

「ヤ~ク〜モ~~?」

「「……」」

 どうやら3人に嬉しくしてしまったのがバレてしまっていたようだ。後でなにか言われるだろうな。

「よかったですねカーミラ」

「はい姫様!」

 そんなことは露知らずに喜ぶサンちゃんとカーミラさん。

「そんなことより早く飯食って今日からのことを話し合おう」

『は~い』

「おう」

 それから和気あいあいと喋りながら楽しく食事を終えた俺達はそれぞれの部屋に準備しに戻ったが俺と美春、シェルナ、マリナはサンちゃんの部屋に向かった。

 部屋に入るとサンちゃんとカーミラさん、それに護衛の騎士がすでに待っていた。

「おまたせサンちゃん」

「おまたせ~」

「「失礼します」」

「皆様お忙しい中来ていただきありがとうございました。早速ですがお願いできますか」

「あぁそうしよう」

 俺は椅子に座るサンちゃんの後ろに回ると櫛を持ってカーミラさんにわかりやすく、でも素早く、でも丁寧にやり始めた。

「ここをこう……でもこうしないとだめ」

「なるほど……こことここはどうすのですか?」

 俺は最初は櫛だけを使ってやっていたのだが、心に燻る美容師魂が燃え出してしまったのかついこんなことを言ってしまった。

「あのカーミラさん………トリートメント、やらせてもらえませんか」 

「……?トリートメント……ですか?なんですかそれ?」

「?……あぁこっちではそう言わないのか」

 俺はカーミラさんの言葉の意味がわからなかったので美春を見るとアイコンタクトで教えてくれた。それでこっちではトリートメントと言わないとわかった。

「なら……えぇと、髪のこのツヤはどうやって維持していますか?」

「えっとですね、魔法で穢れを取り除いたり、そうでなければ水で行っています」

「う〜んそっかないか。なら俺が持っているものを使うよ、これと同じものは今のところ見たことないから何個かあげるよ」

「ありがとうございます!でもそれは大丈夫な物なのですか?」

 まぁ当然の質問だと思った。姫様の侍女として。

「これは乳液と言うんですが、生産方法は企業秘密で、でも人体に影響は全く無い」

「…………わかりました。責任は私が持ちます」

「カーミラさん!」

 カーミラさんの物言いに騎士が抗議の声を上げる。

「責任は私が持つと言いました。それにこんな白昼堂々そのようなことをする方でもありませんし、それを信じてあげれない私達はさらにダメだと思いますよ、セルリー様」

 セルリーと呼ばれた騎士は苦渋の顔をした。

 確かに騎士として、王女を守る者として危険だと思う物を王女に触れさせるわけには行かない、でもそれは見知らぬ商人とかが出した物ならわかる、だが今回は俺が出した物だ。この国で抱える勇者2人が絶大な信頼を寄せている俺が出した物を拒否することは、つまり美春と荒太を疑うことになる。それはとても良くないことだ、しかも当の本人である美春の前で。

「……申し訳ありませんでした皆様」

 セルリーは深々と頭を下げた。でも顔は見えないが納得入っていないようだ。?なんでわかるかって?そんな雰囲気がガンガンに漂っているからだ。それは他のみんなもわかっている、だってわかりやすいから、従順な騎士ほどわかりやすいやつはいない。

「大丈夫だよ。気にしないで、こういうのは慣れっこだからさ」

 美春は苦笑いながらも許そうとしていた。俺はそれを見て、堪らなく怒りを覚えた。


次、八雲怒るかも

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