マリナの過去と父の夢
第4話 マリナの過去と父の夢
「せぇらぁあ!」
マリナが雄叫びと共にオークの首を双剣で切り飛ばした。
そのまま空中で一回転して着地すると、棍棒を振り回しながら迫っていた別のオークに接近すると、足を斬り、膝を着かせ、後ろに回り込むとそいつも首を斬り飛ばした。
俺はというと、それをすこし離れたところで観察していた。というより最近のクエストはこんな状態だ。
獲物を見つけるとマリナがすぐさま抜剣して獲物を狩ってしまう。つまりマリナが強すぎる。
このままでは俺はただの寄生プレイヤーではないか!なにか打開策はないのか、そうこう考えているとマリナがオークの討伐部位を持って戻ってきた。
「これで今回のクエストも終了だね!」
「……あの~マリナや、俺最近なにもやっていないんだが、それはダメだと思うんだよ。だから俺に戦闘は任せて欲しいんだ」
「あぁ~ごめんね、私昔の勘を早く取り戻したいからもっと上のクエストを受けたくて急いじゃった」
マリナがてへぺろって感じで、ミ○キーみたいな舌のだしかたをして謝ってきた。……かわいい。じゃなくて!
「それこの前もいってたじゃん。いろいろ理由付けるけどさ、俺が危なくて心配なだけってことはないのか?マリナは元A級だから心配なのかもしれないけど、戦わないと自分の経験にならないんだって」
俺が目指しているゴールは変な甘さを与えられてはたどり着けない場所だから。もっと強くならないといけないんだ。
「ヤクモ君……本当はこの前ガナサルさんに言われたあのことが気になって」
「あれですか」
確かにあの時伝えられた事実と予想は焦りが募り、急ぎたくなる理由には当然だった。
だからいつも口うるさいシェルナに予想を確認してもらうために今、別行動をとってもらっているんだ。
「焦るのはわかるけど、焦りすぎると足元がみえなくなるよ。だから着実にいこうよ。級が低くてもガナサルは受けられるって言ってるんだから」
マリナを説得しつつ、俺は3日前のことを思い出した。
◇
マリナとパーティーを組んでから数日が経過した。
さすがは元A級冒険者なだけあって、素人の俺とうまく連携を合わせてくれるため、スムーズに魔物を倒すことができていた。
そのおかげで俺はトルトがいたC級冒険者になることができた。……最速でC級に上がれたとのことだ。……やったぁあ、自分でなにかの最速記録出したの初めてかも!
昇級が嬉しくて内心はしゃいでいると、ギルドの出入口にあわただしく1人の冒険者が飛び込んできた。
「大変ですギルマス!」
「どうした、そんなに慌てて」
「ゴロナ森林にある山の中腹に、未発見の迷宮を確認!」
冒険者の叫びにギルド内が騒がしくなった。
「なぁマリナ、なんで迷宮が発見されただけでこんなに騒がしくなるんだ?……マリナ?」
返答がなく振り向くと、マリナはなにやら思案顔をして考え込んでいた。
「ゴロナ森林……山の中腹……お父さんが言っていた場所と大体同じところに迷宮……」
「マリナ、大丈夫か?」
心配になり声を掛けてもマリナは一向に考えることをやめようとはしなかった。困惑していると、伝令に来た冒険者と話していたガナサルが俺を手招きしていた。
「すまないな、お前に言っておきたいことがあってな」
「なんですか?」
「マリナのことだ。多分マリナが近いうちに2つ無茶なことをするかもしれん。そうなったらお前に抑え役になってもらいたいんだ。頼めるか?」
なるほど、ガナサルのお願いは、今のマリナの状態に関係しているんだろう。……確かになにか危険なことをするかもしれない空気がひしひしと出ている。まるで周りが見えなくなった美晴みたいな感じだ。
……なぜだろ、美晴のせいで荒太が命の危機に合っていそうな雰囲気が感じられる、ここんとこ毎日。……よし、無視しよう。
「わかりました。なんとか止めれるように頑張ります」
「すまんが頼んだ」
ねぎらうように肩を叩き、ガナサルはギルドの奥に戻っていった。俺もマリナのとこに戻ると、マリナは考えことを止めていた。代わりと言ってはなんだが、なにかを決意した瞳を覗かせていた。
ガナサルよぉ~、近いうちじゃないよ、今日だよ、今日なにかしでかすつもりだよ!……まさかこの事をわかっていて俺に今日言ったのか、とんだ策士だなあの人!
でも俺にマリナを止める権利はあるのか?すでに眷族として縛り、あまつさえ追いかけていたことも縛ったらマリナに申し訳がたたない思いがある。
「そんなことないわよ。ていうか今のマリナ、すこし変だから止めないととんでもないことしでかすかもよ」
シェルナが頭の上から警告してきた。まぁその通りになるかもしれない。でも……
「でもすこしの間は様子を見ておこう。俺達から聞いて止めるより、マリナから話してくれてどうするか決めた方がいいだろ?」
他人がどうこう言おうと、最後に決めるのは自分自身なのだから。
俺はクエストを探すことにした。なるべくゴロナ森林側でないクエストを……
◇
その結果、マリナが討伐対象を瞬殺してしまう、俺が理由を問うということが毎回おきてしまい、パーティー仲が最近よろしくない。なので、シェルナにゴロナ森林の迷宮に向かって貰い、戻ってきたら説明をしてくれる約束を取り付けた。早く帰ってこないかなぁ~。
だがシェルナがいない間、マリナとの進展が無かったわけではない。(恋愛ではなく)
マリナもなにも言わずに俺を振り回す手前、バツが悪いみたいなようで、断片的に話してくれた。
迷宮に潜りたいこと、父との約束とのこと、なんとしても誰よりも速くその迷宮を攻略しなければいけないことを話してくれたが、大事な部分はやはり話してくれなかった。
ギルドでもその間、迷宮に斥候を送り、戻ってくる前にベテランで組んだパーティーを準備していた。
マリナも参加しようとしたが、元A級でもブランクが長く、メンバーからは外された。
やはりというべきか、メンバーを外された夜マリナは大きな荷物を持って迷宮に向かおうとしたので、羽交い締めで止めようとしてもすり抜けられ、腰にしがみついても俺を引きずりながら行こうとしたので、最終手段の使徒命令で宿に戻した。だか、一瞬命令にも逆らいかけたのでかなり恐怖した。
3日目も無茶をさせないためにクエストに引っ張ってきたが、案の定こうなったというわけだ。……こうなったらガナサルにマリナを連れていってくれるように直談判するしかないかもしれないと考え出したとき、遠くから俺達を呼ぶ声が聞こえてきた。
「……リナ……クモ……マリナ~!ヤクモ~!戻ったよ~」
「「シェルナ!」」
迷宮調査に向かったシェルナがふよふよと飛んでくるのが見えた。心なしか疲れきった様子だか。
「いや~大変だった。何が大変って迷宮がまぁ~広い!階段が見つからない見つからない、ていうかなんであんな広いの!あんな広くなるんなら横じゃなくて縦に広がれや!」
1日しかたってないのに愚痴がハンパないんだけどどうしたらいいんだ。
「とくにあの階層が本当に……」
まだ続くか!なんか行きたくなくなってきたなぁ~。
それから2時間シェルナの迷宮愚痴をマリナと一緒になって聞かされた。なだめるのが大変だったよ。なだめなかったらまだ聞かされていた可能性があるな。
シェルナを伴ってサコラに戻った俺達は、ギルドにクエスト達成の報告後、宿にすぐさま戻った。あの件を聞くために。
「よしっマリナ、約束通りシェルナが迷宮調査より戻って来たので、話してくれるな?」
マリナは諦めたように頷くと、ぽつぽつと語りだした。
◇
私は商業都市サコラで生まれた。母は専業主婦で父は冒険者をしていたの。
5歳になったら、父が武器の扱いを教えてくれたわ。訓練は辛かったけど、私も冒険者になりたかったからあまり嫌というわけではなかった。
その頃父は森林や草原に出没する魔物狩りの依頼をしなくなっていて、迷宮一筋に変わっていた。多分だけど前に迷宮で良いことがあったのかもしれない。
そうなると必然的に父の帰りは数日ごとになっていた。だから父が戻って来たとき驚かせようと訓練を頑張った。自分で言うのもなんだけど、私には才能はあった。父を追い越してしまった。訓練で父に勝ってしまったんだ。
それから父は私とあまり接しなくなり、訓練も一緒にしてくれなくなり、迷宮攻略で家を空けることが多くなった。普通は酒とかに溺れて、家族に手を上げるって聞いたけど、父は違った。父が迷宮に行っている間に母が聞かされた話では、父は私に負けたことで私にどう接したらいいのかわからなくなってしまったと聞いたそうだ。
悲しかった、悔しかった、でもそれ以上に父を追い詰めてしまったのが嫌で嫌で堪らなかった。
だから迷いを振り払いたくて訓練を続けた。勉学もその頃になると少しずつやっていた。本当は、近くの王国にある学園に通えればよかったけど、収入は父に頼るしかなかったので、無理だった。なので、近所の昔学園に通っていた人が持っている教本を借りて勉強した。他にも、骨董品を売っている場所で、お小遣いを貯めて買ったりした。
それを5年間続けたある日、父が大慌てで家に飛び込んできた。
「マイサ!マリナ!俺やったよ!」
私は母と首を傾げて父を見つめた。母も驚いていたが、私はひさしく話しかけられたので母以上に驚いた。
「あなた、どうしたのそんなに慌てて」
「あっ……あぁすまない……ふぅ~、実はな、未発見の迷宮を見つけることが出来たんだ!」
「「えっ!」」
父の告白に私と母は驚いた。なぜなら、近年での迷宮発見は数十年に一回の確率までになっていたからだ。100年前ならそれほど驚かれはしないと言われていたらしいが、すでに世界中に未発見の迷宮は存在しないとまで言われている世間なのだ。でも父が迷宮発見でこんなに喜んでいるのは、
「ギルド法に未発見迷宮を見つけた者は、最初に探索の権利と冒険者達が迷宮で稼いだ分の10分の1を分け与えられる。ただし自身を除いた最初から10組までの分とすると言われている」
一旦区切った父は私に向き直り、再度嬉しそうに微笑みながら言った。
「それだけ貰えれば、マリナ、お前を学園に入れることができるんだ。俺はもうお前に教えることができないから、学園に入れたくて頑張ってきたが、とてもじゃないが生活を切り盛りするしかできず、マリナと何を話していいかわからなくなり、遠ざかってしまった。ふがいない父を許してくれ」
「お父さん」
父をこれまでの想いを聞いて私は、なにも言えなくなってしまった。横を見ると母が慈愛に満ちた目で、私に深々と頭を下げている父を見ていた。
お母さんはこの事を知っていたのだろうか?……いやたぶん知らないだろう、だけど母は昔から勘がよく、父のこれまでの行動と私が知らない間に話していた事を聞いて、結論にはたどり着いていたのだろう。……全くお母さんには敵わないなぁ~。
「マリナ、許してくれないか?」
父のことを忘れていた。想いに更けている間、ずっと頭を下げ続けていたみたいだ。……許してもいいけどその前に、
「許して欲しかったら、明日買い物に付き合ってよ。ちょ~と高いのかいたいなぁ~」
「ふふっ……敵わないなぁ~、わかった払える分買ってあげよう」
「やった!」
最後だけ猫撫で声で言うと、降参とばかりに両手を上げて了承してくれた。昔から父は、私と母のお願いにめっぽう弱いのだ。
その日はとてもよく眠れたのを覚えている。
次の日、私は父と買い物に出掛けた。父は装飾品店や服屋に行くものだと思っていたようだが、私はまっすぐに冒険者専用店ではなく、裏市と呼ばれる場所に向かった。
裏市はぞくにいうスラム街との境目にある場所だ。表では出せない呪いの武器、危険な魔剣、等々を出してある。
「マ……マ…マリナぁ!な…なぜこんなところを知っていて、そして我が物顔で歩いているの!?お父さんと話していない間にいったい何が!……ま…まさか悪い男に騙されて……すぐそいつを連れてきなさい!原型も留めずに張っ倒してやる!!」
やはりというべきか、父が心配し過ぎて半狂乱状態になってしまった。まぁ仕方ないけど。
「とりあえず落ち着いて!そんなに揺さぶったら吐いちゃう!」
「おぉすまん……しかし本当にどうしてこんなところを知っているんだ?」
父が肩から手を離して落ち着いてくれたので、説明を始めた。
私が裏市を知ったのは偶然だった。
私が夜に買い物をしに町を歩いていたら、スラムのゴロツキ3人に拉致されたの。
「ちょっと待てマリナ!拉致されただと!?今すぐそいつらを」
「お父さん話が進まないから黙って」
「ぐぅうう~、すまん」
それで拉致されかけたけど、私強いから、人目が無くなったところでそいつらをコテンパンにのしたの。まぁそれからそいつらは子分みたいにこきつかっていたら、そのうちの1人が私に、裏市に掘り出し物が入ってきたって言ってきたの。
最初は罠かなって思ったけど、どうも違うみたいだから、一緒に行ったの。行ってみると、まぁたくさんの表にはない物品がたくさんあったわ。大体がガラクタだったけど、中には希少品や業物もあったから、それ以来定期的に来るようになったの。
「そうだったのか、母さんは知っているのか?」
「言えるわけないじゃん!言ったらなにされるかわかったものじゃないわよ!だから内緒でお・ね・が・い・?」
父は苦笑しつつ了承してくれた。……やっぱりこれには弱いなぁ~。
私は一直線に目的地まで歩き始めた。すこしして、裏市の奥にある小さな建物に着いた。
「おじさ~ん、いる?」
「…………合言葉は」
「月は影巫女」
合言葉を言うと扉が開き、無精髭を生やした中年男性が入れてくれた。
「今日も武器を見に来たのか?」
「ううん、今日はとうとう買いに来たよ!」
中年男性は驚いたあと、父と私を交互に見たあと納得が言ったように頷き、私に優しい笑みを浮かべ、肩に手を置いた。
「嬢ちゃん、ここではよくあることだから気にするな、でもやり過ぎには気を付けろよ」
「おじさん、なにと勘違いしてるか聞かないけど、違うんだからね?こっちはお父さんだから」
「まぁまぁそういうプレイもあるが、ここに来てまで続けなくても」
「だから違うからね!」
それからおじさんの誤解を解くのにえらく時間がかかった。
お詫びとして、今から買うのを値下げしてくれるようにしてくれた。おじさんにいつも見ていたある物を持って来るために店の奥に向かった。
紹介が遅れたが、あの中年男性の名前はフオルン・ベックといい、裏市内でも数少ない良質な物品を扱う人物だ。裏市とスラム街ではかなりの有名人であり、方方に顔が利く人物だ。
「お待たせ嬢ちゃん、いつものだ」
フオルンが持ってきたのは一対の双剣だった。
「マリナこれは?」
「魔剣ライブラ、お父さんも聞いたことはあるよね」
「っ!!これがあの?」
父は驚愕し、双剣をまじまじと見始めた。
魔剣ライブラは死神大戦(シェルナを崇めていた死の国を滅ぼした戦争)で、数々の味方を救ったと言われる剣だ。
文献によると能力は、傾いた天秤を操るらしいが、詳細はわからない。ただ、死魔法を無効化したと言い伝えられている。
「これは本物なのか、だとしたら精霊国が黙っていないぞ」
父が青ざめながら質問してきた。
確かに、大戦時ライブラは雷の精霊国の英雄が使っていたが、今はその所有権を放棄したも同然な状態なので、マリナ的にはとやかく言われたくないと思っていた。
「あぁそんなことなら気にするな、一応偽装はしているが、バレたとしても精霊国は奪えないよ」
父は訳がわからず首を傾げたので、フオルンの代わりに私が説明をした。
曰く、精霊国はライブラを自ら破壊したと昔に言ったらしく、今さら手にしても取り扱いが客観的に悪いため。
曰く、精霊国はライブラを酷似しすぎたためライブラから永久呪術を受けたため、ライブラは使用不可らしい。
と言うことだと父に説明し、父も納得出来たようだ。
「そういうことか、なら……大丈夫なのか?」
「うんうん、大丈夫大丈夫。それよりお父さん、買って欲しいのこれなんだけど、買う前にやらないといけないことがあるの」
「あぁわかっている、頑張って来なさい!」
父の応援に私は力強く答えた。
今から行うのは魔剣を手にする上で避けては通れない、試しの儀である。やることはただ1つ、魔剣と戦い勝つことのみ。
今までも何回か、この魔剣に挑んでいった屈強な冒険者を見てきたが、どれだけ強くても勝つことは出来なかった。それを見続けた私は、訓練をいままで以上にキツくして、力を磨き続けた。それもすべてこの日のために。
「嬢ちゃん、儀式が始まったらもう止められない、勝利か降伏、はたまた死ぬまで止められないぜ。覚悟はいいか?」
私は力強く頷く、迷いのない目を向けて。
「俺から言えるのは1つだけだ、死ぬなよ」
「死ぬつもりはないわ」
私は微笑みながらフオルンに語りかけ、覚悟をきめて2人が見守るなか双剣を掴み、魔力流すと、双剣のつかから儀式の術式が組み込まれた線が、腕を伝い体全体に廻ると私は倒れた。
◇
「ここが心層世界、試練を行う場所」
あたりは黒一色に覆われており、今立っている下にも伸びている感じなので、まるで私が空中に立っているような感覚になっていた。
「……ふむ、ここに驚かないところを見ると、豪胆なのか、誰かに聞いたのか」
声がした方を振り向くと、そこには1人の青年が立っていた。
「あなたがライブラ?」
私が問かけると青年はくつくつと笑いだした。
「おかしなことを聞く、俺様がライブラでなかったらなんだと言うんだ」
どうやら魔剣ライブラの人格のようだ。……剣だから剣格かな?
そんなことを考えていると、ライブラはいつの間にか天秤を取り出していた。
「なにそれ?」
「試練で使うあるものを出すための天秤であり、俺様を最強足らしめる天秤だ」
なるほど、文献にある操る天秤は、あれのことを指していたのですね。……となると今あの天秤は何を測っているの?
「質問です。あなたが試練の相手ではないのですか?」
「俺様が?バカなことを言うな、俺様が戦えば誰も俺様を扱うことができないだろうが。だからお前が戦うのはお前自身とだ」
するとライブラの持つ天秤に変化が起こった。先ほどまで片方に傾いていたのが、徐々に平行になっていき、完全に平行になったとき、左右の受け皿のところに光の玉が出現し、ライブラと私の間に飛行していき、合わさると徐々に人の形になっていき、光が収まると私がそこにいた。
身長、服、手の傷等々鏡合わせのように同じだが、1つだけ違うのは、髪が赤色ではなく青色なところだ。
「そいつのスペックは今のお前と同じだ。その自分自身に勝つことができたなら俺様を使う権利をやろう」
ライブラは意地の悪い笑みを浮かべているが、私的にはこんな簡単なことでいいのかと思ってしまった。……物足りなかったらあいつに相手して貰うか。
「わかったわ、時間制限はあるの?」
ライブラは首を横に振る。
「それじゃはじめましょ」
私は腰を落とし、手に愛用の双剣をイメージした。すると光の粒子が集まっていき双剣を形作っていった。双剣の出来栄えに感心していると、相手の私も同じく双剣を形作っていった。
「誰から聞いたかわからんが、いいイメージだ、ほぼ本物と同じくらいの具現化はなかなかお目にかかれないな」
そりゃどうも、こちとら毎日振っているんだ、こんなの目を瞑ったってできるわよ。
「はぁあああっ!」
「おっと!」
相手の私(これからは分身体)が斬りかかってきたので、バックステップで避け距離を取った。
(斬りかかり方も同じと、さてさてどうしたものかしら)
悩んでいると分身体が畳み掛けてきた。袈裟懸け、薙ぎ払い、切り上げ、突きと放ってきたので、ステップと半身になりながら避け、最後の突きは片方で反らし、もう片方で薙ぎ払いをしたが分身体も空いている片方で押さえた。すこしの間鍔迫り合いをするが、同時に後方に飛んだ。
私は息を整えるが、分身体はそんな素振りが全くなかった。
「なるほど、そういう訳か」
「気付いたか」
私は恨めしそうにライブラに流し目をした。今までどれだけの強者が挑んでも負けていった理由がわかってしまったからだ。
「こいつら、息が切れることも、疲れることもないんでしょ。体の状態が作った時から変わらない。だから負けない、こちらが疲れきってしまうから」
ライブラは正解とばかりに拍手を送ってきた。……ムカつく。
ライブラの方ばっかり見ていると分身体からまた仕掛けられてしまった。
今度は突きを主体にした攻撃だったので、剣を当てて反らすしかなかった。剣同士がぶつかるも、反らすだけなので軽い音がこだまするだけだった。
分身体の攻撃を反らしながら、私はライブラにあることを聞いた。
「ねぇ!……この勝負って勝つ……くっ……方法は相手を…殺すこと…でもいいの!」
「あぁ、だがどちらも死んだらその時点で失格だ。だから死魔法なんて使わせないよ。…………こいつも他と同じか」
最後の呟きは聞こえなかったが、私の質問にライブラは落胆したように答えてくれた。思うに、今までも同じことを何度も聞かされてきて、過去に何度かやられたのだろう。まっそんなことはしないがな!
「それじゃあ決めますか」
私は分身体の突きに剣を当てて、後方に流すようにし、もう片方で接近した分身体に袈裟懸けを放った。分身体は驚きつつ、突きで前のめりになった体勢から無理やり横に跳び引いた。が、足に浅く傷を負わせた。
「もう少しか」
分身体は無理な体勢から跳んだのでまだ立ち上がっていなかったので、畳みかけるように攻撃を始めた。
分身体は転がりながら立ち上がるチャンスを探しているみたいだけど、そんな時は訪れさせないために頭と首元に集中的に狙った。なので、頬、肩に裂傷が多数できていったが、決定打を打てずにいた。
すると、分身体が持っていた双剣が一瞬揺らめき、愛剣から魔剣ライブラに変わってしまった。
「それあり?」
分身体の反則みたいな出来事に私は呆気に取られていると、分身体がその隙に体勢を立て直し、私から距離を取った。
そして分身体に負わせた傷がみるみる癒えていく……というより時間が戻っていくかのように無くなっていった。
戦いは始めに戻った感じだ。いや、私が疲れたため若干不利になった感じだ。
(なるほど勝てないわけだわ、どれだけ傷を負わせても体の状態が戦闘初期に必ず戻ってしまう、こちらがどんどん不利になっていくだけ。……やれやれ歴代の使い手達はどう攻略したのか。何人か前あたりに死魔法の道連れを使った人以外はだけど)
分身体は魔剣を胸の前で交差すると、私に接近してきた。私は受け止めようと思ったけど、剣同士の格が違うため、受けることを諦め、こちらも攻撃のため両手を広げ、地面スレスレを分身体に向け滑空し、すれ違いざま分身体の刃が私に当たる前に分身体の両足同時に斬りつけた。
正面に分身体を捉えようと振り向くと、背中に焼けるような痛みが生じた。どうやら浅くだか斬られたようだった。
だが、こちらの方が深く斬りつけることが出来たようで、分身体は未だ振り向くことができずにいた。……まぁすぐに塞がってしまったのだけれど。
「このままじゃあらちがあかない、自傷覚悟で行きますか」
私はため息を付きつつ、魔法使用のため魔力を練りだした。分身体も同じ事を始めた。
「「纏え炎よ“炎剣”」」
同時に同じ魔法を使用し剣に炎を纏わせたが、分身体は両方に対し、私は片方だけに省略した。
「疾しれ雷よ“纏雷”」
追い抜くために私は初の試みである2属性同時使用を行った。
「さらに魔法合体“炎雷剣”」
双剣に炎を纏わせ、その周りに雷を疾しらせた二重構造にしてみた。
「はぁあああああああああああああっ!」
分身体に接近し怒濤の攻撃を叩き込み始めた。
最初は反撃してきた分身体だが、途中から守備に全力を注ぐようになっていった。
仕方ないことだ、分身体は剣の格は上でも纏わせているのは炎のみであり私は2つなのだから。
だが、私の剣は打ち合うごとに亀裂が生じていった。仕方ないので、大技を決めるため分身体の魔剣に今まで以上に強く打ちつけて、分身体をバンザイの状態にしたのち、双剣を十字にして押し当てて、一気に振り斬った。
「そりやぁああ!『炎雷十文字』!」
分身体が大きく吹っ飛んでいき動かなくなってしまった。
「勝者マリナ、これにより俺様の所有権を認めてや」
「ちょっと待ったぁあああ!」
「……なにか不満か?」
口上を遮られたライブラが不機嫌そうに眉を寄せてたずねた。
「私と勝負なさい」
「はぁ~?」
「あなたの所有権は私にあるんでしょ、だったら最初の命令は私と勝負しなさいよ!」
堂々と言うと、ライブラが困ったといった感じに頭をガシガシ掻き出した。
「~~っ!……わかった仕方ない」
すこしして折れてくれた。やったね!
「早くやるわよ!」
急かす私を見たライブラは心底嫌そうしながら、手元に魔剣ライブラを具現化させた。
「卑怯とは言わせないぞ、もともとこいつは俺様であり、俺様はこいつなんだから」
「わかっているわ」
だからこそ私はこいつに戦いを挑んだのだ。魔剣ライブラを一番知っているのはこいつなのだから、これから使う者としては、こいつから技術を盗んでおきたいと思ったのだ。
「合図は私から。……よーい……始め!」
私は始める前に足に貯めていた魔力を足裏から噴射し反則的に加速すると、体の横に双剣を十字に構え、ライブラの前に到着すると思いっきり振り抜いた。
「『炎雷十文字』!さらに重ねて、炎よ雷と合わさり我敵に突き刺され“炎雷槍”」
全力の新技、新魔法の波状攻撃で仕留めにいった。耐えきれなかった双剣は粉々に壊れてしまい、霧散していったが私はやったと思っていると、徐々に煙が晴れていくき、そこには無傷のライブラが立っていた。
「なっ!?」
さすがに無傷だったのがショックだったので、呆然としているとライブラに接近を許してしまった。
「はっ!」
「ぐふっ!…………がはっ!」
ライブラに魔剣の峰で脇腹を打ち払われて、真横に吹っ飛ばされ空間をバウンドしながら転がっていき、止まったところで喉から競り上がってきた血を吐いた。
「俺様の勝ちでいいな」
「くっ……くそっ!」
本当はまだやれるといい放ちたかった。だけど手足に力が入りずらく、立ち上がることさえ出来なかった。悪態はつけるのに。
「安心しろ、コンビネーションはよかった、ただ相手が悪かったな、俺様はこいつの能力で熱に傾いていた空間を冷却するために最初は放った技を真逆の属性にした」
真逆、つまり水と地、雷は地が生んだ岩に吸いとられ、炎は水と接触して蒸発してしまったというわけね。
やられてしまった、能力は知っていたはずなのに、失念していた。いや、失念というよりそんなこと起こせないという思い込みが起こした敗北だった。
「だか、俺様だからこそ防げたと言える。だから認めよう、お前が主だと、貴様が死ぬまで戦い抜くこと誓う」
もともと試練でも何でもない戦いだったが、ライブラが好印象を持ってくれたようだ。
私は痛みを堪えながら差し伸べられた手を取った。
◇
「それから私は試練の間、ライブラの心層世界から現実に戻ってくると、お父さんに泣きながら抱き締められた。すんごい心配されたみたい、それから魔剣を購入して帰宅するときにお父さんから見つけた迷宮の場所を聞いていたから、今回発見された迷宮がお父さんが見つけた迷宮だってわかった」
「だから自分で攻略したいのか?マリナのお父さんが攻略したんじゃないのか?」
「うんうん、攻略どころか探索もしてないと思う。だって攻略初日にお父さんが迷宮にパーティーで入っていったとき、土砂崩れが起きて迷宮の出入口を塞いじゃったの、だから……」
なるほど、だからマリナはこんなに必死なのか。迷宮の中にもしかしたら父親の遺品があるかもしれない、と思っているのだろう。あわよくば、僅かな生存の可能性にも。だが……
「そんな心構えじゃ自殺しにいくようなものだぞ、俺からは了承できないよ」
「それでも!私は……」
「……そんなに行きたいのなら、俺も着いていくぞ?幸いいく予定になっていたからな」
「え?なんで」
俺は無言でシェルナに視線を向けた。釣られてマリナも向き俺と交互に見て気がついたようだ。
「気がついたか?あの迷宮には微々たる欠片だがシェルナの魂がある。それを回収しないといけないし、魂があるということはかなりの高ランクだということだからマリナにも手伝ってもらわないといけないしな」
「ありがと2人とも」
俺とシェルナはマリナから気まずそうに視線を反らした。
なんだかんだ言った俺達はマリナを助けたいんだろう。こんな回りくどく言ったのも直球で言いたくなかったからだし。
「よしそうと決まればこれからどうするか決めるか」
それから3人してこれからの日程を決めていったのだが、2日目で破綻するとは、この時夢にも思わなかった。
◇
「はぁ……はぁ……はぁ……もう少しで出口に……」
男冒険者はあと少しに迫った迷宮の出入口にめいいっぱい手を伸ばした。が、その手が再び日光を浴びることはなかった。
なぜなら彼の横を黒い風が通りすぎ、出入口を塞いだからだ。
「ひっ……なんでだよ、もう少しだったのに……くそ…くそーー!」
彼の慟哭はむなしく洞窟内に響くだけだった。叫んだのち、再び出入口を塞ぐ魔物、ハイウルフに視線を向けた。
ハイウルフはいつでも仕留めることができたはずなのにただ黙って見ているだけだった。
(なぜだかわからないが通したくないようだ、なら隙を付いて駆け抜ければ助かる!)
希望が見え、即座に行動しようとしたとき後ろから地響きが響いてきた。
「なにが……うそだろ、逃げないと……ぐはっ!」
イノシン型の魔物が迫ってくるのが見えたので焦りながら前方を向くと、いつの間にかハイウルフがいなくなっていた。そのかわりなのか、太ももが食い千切られており痛みで膝を着いてしまった。
「はっ、早く治さないとあいつが……あいつが……ひっ!イヤだこんなところで死にた」
ズッドドドドドドドドドドドド…………パキョッ!
ハイウルフに食い千切られた太ももに、癒魔法をかけているなか、迫ってきたイノシン型魔物に突進され上半身が水風船のように破裂し、下半身は踏まれたところが地面と同化してしまった。
これにより新迷宮への先遣隊は全滅したのだった。