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蘇生させて犯人見つけてボコります

第3話 蘇生させて犯人見つけてボコります


俺は今、夜の町で張り込みをしている。なぜかと言うのはこれからの話を見ればわかる。


寒さに震えながら目的の人物を待っていると、頭の上で騒がしい声が2人分聞こえてきた。


「ちょっとマリナ!いい加減私で遊ぶのをやめなさい!」


「えぇいいじゃん、シェルナっちちっちゃくて可愛いんだもん!それにこんな体で出来ることってこれくらいしかないし~」


「だからって私で遊ばないで!」


頭の上でシェルナと死んだはずのマリナがぎゃあーぎゃあー喚いていて張り込みに集中できない。


どうしてこうなったかは、俺がマリナの死体を目撃したところまで遡る。



「マッ……マリナ!!?」


俺はすぐさま駆け寄るとマリナを抱き起こした。直に触ると、肌は冷たく、カチカチに固まっていたのでこれがいわゆる死後硬直なんだと思った。指を首に当て脈を診てみるがやはり感じられなかった。だがそんなこと見なくても、お腹に突き刺さった剣と地面に広がり、赤黒くなった血だまりで一目瞭然だった。


ショックだった。肩を見るとシェルナも知り合いが死んでしまったので呆然としていた。死神だからこそ思うところがあるのかもしれない。


俺はマリナを抱えてすぐにギルドに走り出した。もしかしたらギルドならどうにかなるかもしれないという僅かな可能性に欠けてだ。町の人からは奇異の目で見られたがそんなのに構ってられなかった。


ギルドに着き中に入るときはすでに他の受付嬢と見知らぬ中年の男性が集まって話し合っていた。


「はぁ……はぁ……お願いします!マリナを救うことはできます!」


突如マリナを抱えて現れた俺に全員が驚き、その後悲痛な面持ちになると、下を向きながら首を横に振った。


わかっていたことだった。でももしかしたらあるかもと思ったけど、そんなに都合よくいかないようだ。俺は崩れるように膝を着くと、目から止めどなく涙が零れてきた。


「大丈夫か少年……辛いと思うがこっちに来てくれ。それとマリナを運んで来てくれてありがとう」


中年男性が励ましつつ、俺を支えながら集まっていたみんなのところに連れてきた。


俺が来るとみんなが口々に「ありがとう」と声を掛けてきてくれた。俺は涙を流しながら頷くことしかできなかった。


「少年、君を疑っているわけではないんだか、昨日の夜どこにいたか教えてくれるか」


アリバイの確認だとすぐにわかった。俺は大声で「俺がマリナを殺したっていうんですか!」とわめき散らしたかったが、それはダメだと思ってすこし頭を振ると、冷静になることができた。


「昨日はギルドで騒ぎを起こしたあと、クエストで疲れていたのでそのまま宿に戻って寝ました。アリバイを証言してくれる人はいません」


人はいませんが女神はいますけどと口に出来たらなぁ~なんて思っていると、


「そうか了解した。すまないな辛いときにこんなことを聞いて、自己紹介がまだだったね、私はここのギルドマスターガナサルだよろしく」


「F級冒険者ヤクモ・オボロです。こちらこそよろしくお願いします」


俺とガナサルは握手をした。それにしてもこの人がギルマスかぁ~、かなり強いな、この状態でも俺が死魔法を使うことは出来ないだろ、それほどの差がある。多分だが、鑑定をしようとしてもばれてしまうだろうな。


ガナサルの強さに驚愕しているまに握手は解かれて、ガナサルは受付嬢達から昨日の騒ぎのことを聞いていた。


俺はバレないようにシェルナに小声で話しかけた。


「シェルナ気分は大丈夫か?」


「え……えっえぇ大丈夫よ。大丈夫……ごめんね動揺しちゃって。笑っちゃうでしょ?死神なのに死体見ただけでこんなに落ち込んじゃって」


「はぁ~また自分のせいだと思ってんだろバカ」


シェルナが自身の気持ちを見透かされて戸惑った顔を向けてきた。


「これはお前が悪いわけないだろ。こんな突然起こったことにまでお前のせいなら、そこらのガキが転んで怪我を負ったこともお前のせいなのか?違うだろ、今回のことも俺の例えもお前じゃない誰かのせいであり、自分のせいだ」


シェルナのうじうじ雰囲気がすこし緩和されたのがわかった。すると何かに気が付いたようだ。俺は気が付かなかった。


「だからなシェルナ」


「だまれ」


えぇ~、人がせっかく慰めようとしてるのにだまれって、俺は肩を落とした。するとなにやら焦ったようにシェルナが呟いた。


「ヤクモ、さっさとここを離れて私の指示通りに動いて!早くしないと間に合わなくなっちゃう」


「……!了解……あのすみません、今日宿に戻ってもいいですか?こんな状態じゃあクエストにいけないので」


出ていくのが不自然にならないような理由を述べると、ガナサルと受付嬢達は顔を見合わせて頷きあったあと、優しい笑みを浮かべて了承してくれた。


俺はそのままギルドを出るとシェルナが指示する方向に走り出した。



シェルナに言われるまま走り続けると、ギルドから区画を3つほど離れた宿にたどり着いた。


「ぜぇーぜぇー……ここに……何があるってんだ……はぁーはぁー」


「いいから早くなかに入って」


くそー、人使いの荒い死神様だぜ。


なかに入ると、なにやら大屋さんらしいお婆さんが雇った人に荷物を運ぶように指示していた。お婆さんが俺を見つけると、なにやら考え出して、すぐに答えにたどり着いたのか手を叩いた。


「あんたマリナちゃんの知り合いかい」


「……!!マリナの知り合いって、ここにマリナが住んでいたんですか!」


話してみると、マリナはここに住んでおり、今運び出していたのはマリナの荷物らしい。宿ではよくあることらしく、冒険者がいつ死ぬかわからないため、死んだとわかったらすぐさま部屋を空けるため、荷物を部屋から運んでもいいと決められているらしい。これは冒険者に限らず宿泊者全員に適用なようだ。


「荷物はいいから部屋に行きなさい」


シェルナが急かす。とりあえずお婆さんにすこしだけ部屋に入ってもいいか訪ねると、了承してくれたので部屋に入った。


中は荷物がほとんど運び出されておりベットと机だけが残されている感じだった。


部屋で1人にしてもらうと、シェルナが部屋の中心に飛んでいき、何かを探すように辺りを見だした。


「確かここら辺から……!ヤクモベットの下にある物取って!」


「ベットの下?いったい何が……?なんかトランクみたいなのがあるな」


取り出してみると、古いトランクみたいだ。開けてみると中には冒険者が使う軽装の防具と双剣が納められていた。


「これってマリナの物か?冒険者装備一式みたいだけど」


「これならいける。ヤクモさっさとこれ持って行くわよ!」


「ちょっ!待てよ」


俺はトランクを持ち急いでシェルナを追いかけた。て言うか勝手に持ってきてよかったのかな?これいわゆる泥棒なんじゃあ。


「大丈夫よ、トランクは周りから見えないようにしておいたから旗から見ればあんたは手ぶら」


さっすが、それよりもさっきから俺は何をやっているんだ?説明もなしに走り回っているけど、そろそろ教えてほしいもんだぜシェルナよ。


「あとすこしだからとにかく走って」


「へいへい」


俺は走り続けて自分が泊まっている宿にやって来た。


「なんでここなんだ?」


「部屋に行くわよ」


部屋に入ると、シェルナがトランクをベットに置くように言ったので置いた。するとシェルナはトランクに触れつつ、集中しだした。


「我が名はシェルナ、死を司りし女神、我が声触れし者よ、今ここに顕現せよ“魂呼び”」


魔法を発動させると、へやのなかが薄暗くなり、小さな光の粒が漂いだすと、トランクに集まりだし、人の形に形成されていった。終わるとそこには死んだはずのマリナが浮いていた。


「あれ?……ここどこ?確か私殺されたはずじゃ」


マリナも困惑しているようだ。俺もそうだ。わからないとはやった本人に聞いてみよう。


「どういうことだシェルナ。なんでマリナが幽霊みたいになって出てきているんだ?……どうした!大丈夫か!」


向き直るとシェルナは肩で息をしていた。かなり疲れているようだ。


「問題ない……今の状態だとかなり疲れるから、これに関しては死魔法の効果」


詳しく聞くと、死魔法はその名の通り死を与えもするが、練度を高めれば死を操れるらしい。そこまで行くと内包する魂や大気中を漂う魂にも干渉出来るらしい。


ちなみに魔物には死霊がいるらしいがそいつは別件のようだ。


今回行ったのは、死んだ人はその人物の思い入れのある物品の近くに魂がすこし残留するらしく、残留した魂の核に散ったのをかき集めたらしい。


へぇーさすがだなシェルナは。そんなことも出来るのか、それならそうと早く教えてくれればよかったのに、はっはははっー。


………………まさか忘れてた?そんなわけ……いやそうだなこれ、だって俺の心ようだようで尋常じゃない汗かいてるぞおい!


「しょうがないじゃない、かれこれ2000年近く使ってないんだから!だいたいねあんたは」


「あの~ヤクモさん、私何がなんだかわかんないんだけど早く教えて?」


またシェルナと口論しようとすると、隣から待ったがかれられた。というかマリナのこと忘れてた。おいそこ、自分だけじゃないって顔するな!


「あーえっとねマリナ、これは……その……なんというか……とりあえず座っていい?」


マリナとシェルナが空中でずっこけた。



マリナには俺が異世界からシェルナに呼ばれたこと、数ヶ月前に起きた勇者召喚のやつらと知り合いなこと、シェルナが封印された死神なこと、5年後までにかなり強くならないといけないことを話した。


「そうなんだ、まさかヤクモ君が勇者だとは思わなかったよ!それでシェルナちゃんが死神で普通の人には見えないと、独りごとが多いと思ったらそういうこと。いやーてっきり友達が出来ないから空想の友達と話しているんだと思ったよ!」


はっはっはっはー!って笑われたが俺そんな風に思われてたんだ。すんげぇー恥ずかしい。


口調に関しては、今までは受付嬢の話し方だったらしくこちらが素らしい。


「それよりもマリナ、お前を殺したのは覚えているか?」


今は俺のギルドでの見られ方よりも大切なことを聞いた。


「あぁ~それなんだけどね、記憶が曖昧っていうか、いまいち思い出せないんだよね。なんか見知ったやつだった気がするんだけどどうかな?」


「いやっどうかなって、俺がわかるかっ!」


「やっぱり?えへへ~!」


えへへ~じゃねぇよ!たくなんで俺の周りには忘れることが得意な女子ばっかり集まるんだよ!


「私は違うわー!とおりぃやぁあああー!!」


「ヘブシッ!」


シェルナのドロップキックが顔に炸裂した。そのままベットに倒れこみながらあることを考えた。


「なぁ、1つ思い付いたことがあるんだか聞いてくれ」


「「……?」」


ここは1つテンプレを意図的に起こそう。それから数日後の夜の張り込みまで話は戻る。



「むっ!何か八雲が頑張っている気配が。あと個人的にうらやましい状態なような」


「荒太ぁーー!こいつを何とかして!私もう走れないからぁ!」


「グゥオオオオオオオオオオ!」


俺と美晴は迷宮『ゴーレム洞窟』の最深部にあるボス部屋で、クワトロゴーレムと対峙していた。


クワトロゴーレムは普通のゴーレムに肩から生える腕が追加され、死を除く全魔法耐性がかなり高く、地魔法を受けたときすこし体が治るスキルを持った魔物だ。ランクはCのようだ。


現在俺と美晴のレベルはそれぞれ35と38である。クワトロゴーレムは40なので苦戦はするがなんとか倒せるくらいだが、今はなぜか美晴が追いかけ回されるということが起きている。


すでに1時間走り続けた美晴は汗を滝のように流しまくっていた。額には血管が浮かんでいるので、そろそろ感情が爆発しそうなようだ。何とかしなければ俺もヤバい。


「炎よ貫け“炎槍”」


炎で出来た槍を飛ばすが、直撃しても表面が黒ずむだけで効いているようには見えない。先程からいろいろやってはいるがどうも効果が薄い。こうなったら直接叩き込んでいこうかと思っていると、とうとう小さな火山が噴火した。遅かったかぁ~。


「こんのぉくそやろぉがあぁああああああー!部屋に入ったときから追いかけてきやがって何がしたいんだごらぁ!」


多分だが、美晴が一番強いのを本能でわかったから先に排除したいんだよ思うよ美晴。だから、


「落ち着け美晴!頼むから危ないことはしないでくれ!主に俺に向けて!」


荒太が厚顔するが美晴は聞く耳を持たず、怒りに任せて魔法を放った。


「降れよ光の剣よ、雨になりて我が敵を突き刺せ“光剣雨”!」


「ちょっ!美晴、規模考えて!」


普通なら直径5mの魔方陣が現れそこから光剣を降らせる魔法なのだが、美晴はボス部屋の天井約300mを多い尽くすほどの巨大な魔方陣を出現させた。


当然魔方陣の下には雨が降る。当たらないのは発動者だけ、ということは、


「俺いるぅううううー!当たる!死ぬ!死んでしまうぞ美晴!」


「あはっはははははぁ!!死ねやぁああゴーレムぅううう!」


俺のこと完全に忘れてやがる。でも本当にヤバい、このままじゃあ明日の朝刊に載ってしまう。「勇者、仲間に魔法で殺されるてしまう」って大々的に載ってしまう。それだけは防がなければいけない!


剣の雨はただ下に落ちるだけだか、美晴がスピードをマックスにしているのでかなり早い。


ズッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


と音とともに光剣がゴーレムに着弾していく。


「グゥオオオオオオオオオオ!」


ゴーレムがうなり声をあげた。俺はというと避けたり、逸らしたり、打ち消したりと高速で行った。


「ぬぅおぃりぁああああああああああああ!!」


雨があがると初めてゴーレムが膝を着いた。体のあちこちが陥没しひび割れ、黒煙を立ち上らせていた。


「チャンス……破壊の衝撃よ“はとうし”」


「光と闇よ捻れて大槍となれ“光闇槍・螺旋”」


「だから俺がいるぅううううー!しかも対角線状だからまだ」


「死ぃねぇええええええええええ!」


「投げないでぇえええええ!」


ヤバいヤバいヤバい!死ぬぞ、どうすれば……こうなったら。


「“破闘掌”!」


俺は空間に掌を叩き付けた。そして大槍の対角線から脱出した時に、大槍がクワトロゴーレムに直撃した。


「グゥオオオオオオオオオオァアアア!」


クワトロゴーレムは回転する大槍を4つの腕でがっちりと掴み込みそのまま握り潰そうとしていた。だがまた美晴が俺のことを考えずにやってしまった。


「炎が効きにくいからって私をなめんじゃぁねぇえ!奈落の業火よ我前の全てを」


「あの~美晴さんや、我前の全てって俺もいるんだけど」


俺の厚顔はやはり聞いてくれなかった。


「焼き消せ“業滅炎”!」


美晴の手に小さな火球が出来た。出来てしまった。


火球は美晴からすこし離れると、圧縮していた業火を解き放った。


大槍と格闘していたクワトロゴーレムも、クワトロゴーレムを貫こうとした大槍も、美晴が放った全てを滅する業火に飲まれてしまった。


俺はというと、地面を陥没させて穴を作るとそこに入り、蓋とドーム状の壁を五重にして配置した。


「たく美晴のやつキレると周りが見えなくなるのを治せと行っているのに……八雲早く合流してくれ!」


俺はため息を付きつつこの世界のどこかで頑張っている親友に小さなお願いをした。


それから数時間ボス部屋は焼却炉のように火が永遠と燃え続けており、美晴の高笑いだけが響いていた。


ちなみに、クワトロゴーレムは最初に当たった炎ですでに倒されていたのを荒太と美晴が築くのはだいぶ経ってからだった。



なぜだろう……荒太に美晴の理不尽が止めどなく降りかかっている気配が飛んでくる。……うん、次合ったら謝っとこ。


荒太の苦労を察しながら、俺はマリナが殺されてからとある噂を事件現場を中心に広めていた。


「本当にこれで犯人がわかるんですか?」


マリナが心配そうに俺の耳元で呟いた。


ちなみにまだ幽霊状態でいてもらっている。シェルナからマリナの生き返らせ方を聞いたときは副作用に頭を悩ませたが、マリナ本人がそれを了承したのでよかった。


「いやー以外と簡単に私は生き返るんだね~。マジビックリ」


なんて軽く言って笑っていた。肝が座ってんなぁ~。


「わかるかわかんないけど、現場に戻って来るかも知れないってだけだよ」


そう俺は刑事ドラマのテンプレを使って犯人を見つけようとしてみている。


というかなんとなく犯人はわかりそうだけど、確証がないから行っているだけだ。


それから俺達は昼間は噂を流し、夜は現場を張り込む生活をしていると、数日後の夜にそいつは現れた。


「うん?……誰か来たみたいだな」


「また通行人じゃないのぉ~。ふぁああ~」


シェルナが欠伸をして眠ろうとしていると、マリナがデコピンをした。


「なにすれのまひなぁ~」


「通行人とは様子が違うみたいよシェルナっち、なんか探してるっぽい」


俺はまさか引っ掛かるとは思わなかった驚きと、テンプレを起こした嬉しさでガッツポーズをした。


そうこうしていると、犯人とおぼしき人は地面に這いつくばりながらなにかを一所懸命探していた。


「暗くてわからないが、でもマリナは見れるだろ。行ってくれるか?」


「了解ヤクモ君」


マリナはふわふわと飛んでいくと人影のところで止まり、じっと観察しているようだった。


しばらくして戻って来ると、なにやら落胆していた。


「彼だったよ」


「そうか」


マリナの答えに俺とシェルナは見合ったあと肩を落とした。


予想通りの犯人であり、呆れを通り越して失望した。


「よし、なら結構は3日後ってことで、そこであいつの度肝を抜いてやる」


「「ラジャー!」」


さぁ裁判の時間だ。言い逃れ出来ないように完全に堀を埋めてから挑んでやる。俺は負けることはしたくないんでね。



C級冒険者のトルトはギルドに向けて歩いていた。ギルマスからの緊急召集を掛けられたからだ。


トルトは暑さとは違う汗を掻きながら向かっていた。


(大丈夫、大丈夫なはずだ!あのとき誰もいなかったしへまもしてない!大丈夫、大丈夫なんだ!)


トルトは先程から「大丈夫、大丈夫」と念じるように呟きながらギルドに向かっていた。通りすぎる通行人はトルトの異様さに進んで道を開けた。


トルトがギルドに着くと、中から大勢の冒険者の喧騒が聞こえてきた。中に入ると冒険者達に一斉に睨まれた。


たじろぎつつカウンターに向かうと、今日の召集に来ると書かれていたメンバーがすでに揃っていた。


来たメンバーは、俺、トルトの元パーティー、トルトそしてガナサルの6人だ。


「遅かったなトルト」


「すみませんギルマス、ちょっと昨日の疲れが抜けてなくて」


「そうか……ならこれより、受付嬢殺人事件の裁判を始める!」


トルトはそこで初めて召集の理由がわかった。


「ちょっ……ギルマ」


「今から誰からの異論も認めない!発言出来るのは俺が名指ししたやつだけだ!」


ガナサルはトルトがなにかいう前に全ての要求を突っぱねた。


それからガナサルは今回の事件の詳細を語ったあと、召集したメンバーに話を聞いていった。


トルトはなんとか平常でいようと頑張っている様子だったのですこし笑えた。内心でだが。


全員に話を聞き終わると、ガナサルが俺に目配せをしてきたので、切り札を投入した。


「ギルマス、お願いがあります」


「なんだ?」


「実はこの事件について、証言を述べたい人物を連れてきたので呼んでもよろしいですか」


ガナサルは予定通り了承すると俺は、奥の方で待機していた彼女を呼んだ。


彼女がギルド内に現れると、すでに知っているガナサルと受付嬢以外から驚愕の声が挙がり、ギルド内は騒然とした。


いや、声を挙げていないやつが1人だけいた。


トルトだ。


トルトはあり得ないっといった表情をして固まっていた。それもそのはずだ、何せ現れたのは幽霊状態ではない、足を浮かせず地面に立って歩いているマリナだったからだ。


微笑むマリナの右手の甲には俺と同じ紋章が刻まれていた。


そうこの日のために俺が生き返らせた。


この説明は昨日の夜に遡る。俺はトルトを追い詰める切り札としてマリナを蘇生させようとしていた


やり方は以外と簡単で、俺はシェルナの使徒なので、マリナを俺の眷族にすればいいとのことだった。


拍子抜けしていると、シェルナが眷族の説明をしてくれた。説明を聞いた俺はマリナを眷族にするか迷ってしまった。


何でも眷族にすると、まず使徒の命令は絶対らしい。頭では抵抗しようとする命令でも体が勝手に動いてしまうらしい。……これを聞いてしまうと、クラスのオタク連中が気になってくる。絶対悪事にというか自分達の欲望を叶えるように動きそうで怖い。


次に眷族にしてもらった使徒の加護をいただけるらしい。つまりマリナも死魔法が使えて、効かなくなるわけだ。うんこれはいい。これは健全だ。


問題は最初の絶対命令だ。くそ~こんなこと知られたら不味いことが起こりそうだ。主に美晴において。


どうしようかと考えていると、マリナが肩を叩いてくれた。


「大丈夫よヤクモ君、他の人は嫌だけど、ヤクモ君ならいいよ」


マリナが茶目っ気たっぷりにウインクしたので、なんだか考えているのがバカらしくなってきた。


「わかった、覚悟があるなら俺はもうなにも言わないよ。……それじゃ始めるよ」


マリナが力強く頷いたので、俺は両手をかざして眷族化を始めた。


「契約において、汝マリナは使徒である朧八雲の眷族となり、主シェルナを共に救え」


詠唱が終わるとマリナの体に異変が起こった。


体の周りが光だし、透けている場所が無くなり出したのだ。そして体中が極光に包まれ、弾けた場にはマリナが霊体ではなく、ちゃんとした肉体で現れていた。全裸で。


「「……へ?」」


「大成功」


シェルナから不吉な声が聞こえた。まさか、あいつ……


「狙いやがったなシェルナ」


「狙ってないわ。だって考えてみなさい、霊体の服は死ぬ前の記憶のをイメージして着てるだけなのよ。ここに蘇生させたらイメージの服なんて消えるに決まってんじゃん!」


シェルナが愉快に説明しながら笑いだした。


ヤバい、ヤバいぞ朧八雲!なんとか誤魔化すことを……そうだ俺は見てないと言い切らねば!


「マリナ!見てない、見てないから許してく」


「ひっ…………ひぎゃあぁああああー!!こっち見ないでぇええええええ!!!!」


「ペプシっ!」


マリナに思いっきり殴られた。それもそっか、言い訳しようとして振り向いちゃったからなぁ~。でもこれだけは言いたい!眼福眼福。しかとこの目に焼き付けたぜ!……グサッ!


俺が嬉しそうにしていると、シェルナに目突きされた。


「うぎゃああああああああああ!目がぁああ……目がぁあああ!」


「うるさいわよ変態、マリナの体見てずっとニヤニヤ気持ち悪いのよ」


仕方ないじゃないか!お前の貧粗な物よりマリナの豊満な物を俺は見たいんだ!


「このゲスが!」


顔面にドロップキックを喰らい、顔のパーツが中心にめり込んでしまった。


「私が恥ずかしい状況なのに忘れられてる!」


やっべぇ忘れてたマリナのこと。こうなった原因なのに、とりあえず謝ろう。


「すまんマリナ、俺もこうなるとは思わなかったんだ。ほんとごめん」


「うん、大丈夫だよ。そっちこそ大丈夫?とくにその顔」


俺は大丈夫だよと親指を立てた。


「でもこれであいつを追い詰める切り札が現れた。明日打ち合わせ通り頼むよ」


「任せなさい。きっちり落とし前つけさせてあげる」


ということがあり、今に至るわけだが、昨日のことを振り返っているといつの間にか裁判が最終局面になっていた。ヤバい乗り遅れた!


「そんなこと認められるか!その偽物が俺を犯人だと言っても証拠にはなるわけないだろが!」


「さっき証明したようにこの子とマリナの霊魔紋は一致しているんだよ。それ以上の証拠がどこにある!」


霊魔紋は読んで字のごとく、霊体に流れる魔力の波長のことらしい。これは指紋みたく人それぞれ違うらしい。だから本人確認によく使われ、事件で現場に魔法の痕跡があればそれを採取して犯人とおぼしき者の魔力と検査を行うらしい。


こっちで科捜研みたいなことできること驚いていると、トルトが狂ったように喚きだした。


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁああ!そんなわけない、そんなことが起きるはずがない!そうだこれは夢なんだ!だってそうだあのとき俺はちゃんとマリナを殺したんだから」


なんか勝手に自供してくれた。意外と楽だったな、それともこいつがバカなだけか?


「だからお前は偽物なんだぁああー!」


トルトが狂乱状態で腰の剣を抜き、マリナに斬りかかった。


だが、ガナサルが立ちはだかり、トルトの剣をかわし手首を掴むと投げ飛ばした、みたいだ。俺も周りの冒険者達も、投げ飛ばされたトルトも、ガナサルの動きが速すぎて見えなかった。


全員が呆然としていると、ガナサルがトルトを睨み付けながら言った。


「トルト、お前を拘束して衛兵に突きだす。異論のあるやつはいるか」


もちろんいるはずもなく、トルトはガナサルに命じられた周りの冒険者数人に連行されていった。その間も「夢だ夢だ」とうわ言のように呟いていた。


「ありがとうヤクモ君、おかげで無事に終わることが出来た。心から感謝する」


深々と頭を下げて感謝を述べられたので、なんか恥ずかしくなってきた。


「いえ気にしないでください。俺に偶々策が有っただけなのでそれを提示しただけです」


「それでも、その策のおかげで早期解決ができた。それに……マリナも生き返った」


あっ!これに関して説明するの忘れてた。どうしよう~。


「えっとですねガナサルさん、これには……その……なんと言いますか」


「言えないことがあるんだろ?」


顔を上げると、ガナサルはわかっていますよといった顔をしていた。よく見ると周りの受付嬢達も。


「冒険者には少なからずそういう者もいます。なのでこちらから詮索することはしないルールになってるから安心しなさい」


よかったぁあ~!聞かれたら不味かった。最悪衛兵に連れてかれて処刑も有り得たくらいだな!はぁ~よかった。


「すみません、家の諸事情でして、誰にも教える訳にはいかないんです」


もっともらしい嘘にしておいた。それで納得してくれたのでよかった。


ガナサルは次にマリナに向き直った。


「マリナ、君はこれからどうするんだ」


やっぱりマリナのこれからか。生き返った訳だし、受付嬢に戻ってもいいんだが……


「私はヤクモ君と冒険者をやっていこうと思います」


「え?」


「やはり」


ガナサルはわかっていたように息をついた。


えっガナサルさんや、マリナがそうするってわかってたの?教えてくれてもいいんじゃない?ねぇ~ねぇ~!


「諦めてなかったのか」


「はい」


諦めてなかったのかってなに!早く教えて!


「うるさい黙ってろ」


すみません、黙ってます。


シェルナに睨まれたので静かにすることにした。


「やっぱり私は夢を諦めたくありませんでした。怪我で引退していてもどうしても、でも今回の事件で怪我も治りました。それにヤクモ君との契約で、いっしょに頑張って行かないと、だからお願いします!」


マリナが深々と頭を下げた。2人の間に緊張感が漂いだした。するとガナサルが緩い空気を出すと、負けましたとばかりにマリナのお願いを了承した。


という事で、俺にパーティーメンバーが出来ました。



そこはサコラからすこし離れた山肌に合った。正確には隠されてあっただ。わずか10階層しかない未発表迷宮の、最下層にあるボス部屋の主が目覚めるまでだが。


「ぐぅるぁああああああああああああああああああああっ!!」


何度目かになる雄叫びにより、埋まっていた山肌の土が崩れ落ち、迷宮の門が現れた。


まだ門には結界が作動しており、中から出ようとしている魔物を食い止めていた。


結界に攻撃している魔物達は、どれもが世間からA級に分類されているやつらだった。


そして門も、長年地中に埋まっていたため、所々にヒビがあり魔物達が結界を攻撃すると、少しずつ広がっていた。


八雲達は災禍が少しずつ近づいているのをまだ知らない。

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