ギルドでぼっちになったので脱出しを目指す
第2話 ギルドでぼっちになったので脱出しを目指す
やっべぇよ、テンプレみたいに冒険者になったらぼっちになっちゃったよ、泣きてぇよおい。
肩ではシェルナが寝ていた。ちなみにシェルナの姿は俺以外には見えないし、声も聞こえないらしい。
とぼとぼと朝に冒険者ギルドに向かうと、昨日受付で知り合った受付嬢のマリナが出迎えてくれた。
「あっヤクモさん、おはようございます、早いですね他の冒険者の皆様はまだ来ないのに」
「おはようマリナ、いや昨日みたいに絡まれたくないんだよ」
「あぁやっぱりそうですよね、あのあとも大変だったみたいですし」
俺はそうだったんだとばかりに頷くと、マリナはおかしそうに微笑んだ。それにつられて俺も笑い、ギルドに二人の笑い声が響いた。
笑いつつ俺は昨日のギルド登録時のことを思い出した。なぜかって?それは読者のためであり、反省を忘れないためだ。
◇
商業都市サコラは、地の王国と樹の獣国をつなぐ中間地点にある都市だ。なので二国の物品があり、かなり大きな都市に成長し今でも成長し続けている。
獣国は強者が多く集まるので、獣国に入る前に腕試しとしてサコラの近くにある迷宮に挑戦しようというものが多く、冒険者ギルドも毎日大忙しなのだそうだ。
この話は今受付のマリナから聞いたことだ。俺のギルドカードができるまでシェルナとカウンターで話していると、ひとりぼっちの独り言が多いやつでかわいそうと思ったらしい。
おいシェルナ、お前他の人に見えないのかよ、俺はこの世界の人は妖精をたくさんみてるからお前は珍しくないと思っていたのに。目をそらすな、こっち向けごらぁ!
シェルナは言うの忘れていたのとばかりに顔を反らし、何も聞こえませんよと風に耳も塞いだ。
「それにしてもお兄さん、ひょろひょろだけどそんなんでやっていけるの?」
「ははっ、大丈夫だよ俺こう見えても強いよ?ここに来る前も草原でグレーターウルフを倒してきたばっかりだし」
グレーターウルフを倒した話をすると、いつの間にか騒がしかったギルド内が静まり返っていた。どういうことかと思ってマリナを見ると、信じられないといった感じで口を開いていた。
「お兄さん本気で言ってる?」
「おぉ本気だよ?レベル30はここら辺では平均的くらいだろ?」
「あのですね、グレーターウルフって20体ぐらいの集団で行動する魔物なんですが、それを全部一人で倒したんですか?」
20体?俺のときは1体だけだったが、まぁ嘘はつかない方がいいだろ。
「いんや、俺が相手したのは1体だけだったよ、話を聞く限りそいつははぐれだったのかな」
俺の答えでこちらを見ていた冒険者達は、なんだよ驚かせやがってとばかりにまた騒ぎだした。
「そうだったんですか、びっくりしました、一人で集団を倒したのかと思っちゃいまして、集団のときはランクBにあかるので、でも1体を倒しただけでもすごいですよその年で単独討伐は最速記録じゃないですかね」
それからマリナと雑談を続けていると別の受付嬢が俺のカードを持ってきてくれた。
「おめでとうございます、これであなたも冒険者です。ランクはFから始まります」
カードを受け取ったあと、マリナからギルドでの決まり事を教えてもらった。
ーギルド内での私闘は禁止、行った場合数ヶ月の謹慎
ー犯罪やクエストの不正行為は冒険者資格を剥奪のち衛兵行き
ー都市に入るときはカードを見せるだけで他の手続きは無用
など他にも決まり事があるようだが、マリナが言うにはこの三つは破ってはならない三原則らしい。胸に刻もう、うん。
他にもランクや迷宮のことを聞こうとマリナに質問しようとしていると後ろから肩を叩かれた。振り向くと、同い年くらいの青年とそのパーティーらいし、同い年くらいの女性2人と青年1人がいた。
「なんだ?」
「マリナが困っている、さっさと解放してやれ」
えっ?まじで、俺迷惑クレーマーみたいになってんの!
あわててマリナを見ると、マリナは苦笑しながら首を横に振った。それで俺はこの青年が声をかけてきた理由な感ずいたのでマリナに近いて耳元で呟いた。
「この青年はあれか?君に好意をいだいているのか?」
「えぇ、前々から誘われていてちょっと迷惑しているの。この年齢でランクCだからすこし天狗になってるの」
なるほど、ランクCってことは俺より3つ上か、なまじ強いとなろとなんでも自分の思い通りになると思っているわけだ。めんどくさい、それに思ったらこれよくある絡まれパターンじゃないかよ!ヤバイよこのままいくと……
「おい!無視するな、マリナに近くんじゃねぇ!」
そういうと青年は俺に拳を振り下ろした。
おいギルド内の私闘は禁止じゃないのかよ。見るとパーティーメンバーは驚き止めようと駆け寄っているが、その前に拳が俺に到達する方が早い。避けようかと思ったが、後ろにはマリナがおり、避けると当たる形になるので、避けず受けることにした。
バキッと音とともに飛ばされカウンターの中に突っ込んでいった。くそ痛ってぇ、鑑定して俺とだいたい同じくらいのレベルだったから大丈夫かと思ったら、以外に飛ばされたぜ。
「ちょっとトルト!ギルド内での私闘はダメだって知っているでしょなんで手を出したの!!?」
「だってこいつマリナから全然離れないし、俺のことを無視しやがるから」
トルトと呼ばれた青年は慌てて弁明しようとしているが、どこからどうみてもトルトだけが悪かった。
「や……ヤクモさん!大丈夫ですか、いま癒魔法を掛けますから」
マリナが俺に癒魔法を掛けてくれた。それを見ていたトルトがまたもや不機嫌になっていったが、仲間に引っ張られていったので気づく者はいなかった。
ギルドを出ていくトルトパーティーに向けてマリナが声を張り上げて叫んだ。
「明日必ずギルドに来て下さい、そのときに今後の方針をお伝えします。来なかった場合はパーティー全員の冒険者資格を数ヶ月無効にしますので!」
マリナの声がギルド内に響きわたり、トルトパーティーの面々がびくりとし、そそくさと立ち去っていった。
「いててっ!ひどい目に遭ったぜ。マリナ、あいつらはこれからどうなるんだ?」
「来なかった場合は先ほど言った通りなんですが、来た場合は1週間の資格無効でしょう」
「ふ~ん」
まぁそれくらいが妥当か、それにしてもさっきからテンプレに捕まるな、こうなってくると登録時最後のテンプレは……
「でもさっきの攻撃を避けれなかったのを見られてしまいましたね」
「うん?どういうことだ?」
マリナが可哀想に俺を見てきた。
「冒険者は実力が全てです。ですのでグレーターウルフを討伐できても、公衆の面前で弱いところを見せてしまったので、パーティーに誘う人が出てこないと思いまして」
振り向くと、ギルド内にいた冒険者達が揃いも揃ってこちらを見ていなかった。謙遜に耳を傾けると、さっきのことで俺を誘わないでおこうという話が聞こえてきた。
なぜだ、なぜテンプレをこんなにも通ってしまうんだ!
俺は膝から崩れ落ち四つん這いになった。マリナが駆け寄り肩に手を置いて励ましてくれた。すこし気持ちが楽になった。シェルナは笑い死ぬくらい爆笑していた。あとでとっちめてやる。
こうして八雲の冒険者登録はテンプレを通り終わった。
◇
「ん?なんか八雲がぼっちになったような?」
「美晴!変な電波受信しなくていいからこっちに集中して!」
八雲がギルドでぼっちになった頃、美晴と荒太はキラリス周辺にあるC級迷宮『ゴーレム洞窟』にて、ゴーレム数体と戦闘をしていた。
ゴーレムは無機物に魔力が溜まり、近くの敵意を感じた者に攻撃をする魔物の類いである。進化すると自我を宿すが、できた当初は自我がなくただ暴れる存在だ。魔法やスキルで作ることもでき、それは製作者の命令には絶対服従する。
迷宮でできた魔物達は迷宮にあるコアを守っているので、このゴーレム達の製作者は言わば迷宮であり、命令はコアを守れだ。
だがこの迷宮みたいに攻略されたのは、コアに魔道具を取り付け管理することができる。ちなみにこの魔道具は量産が出来ず女神達が迷宮の数の分しか作らせないようにしているらしい。
迷宮の知識を再確認していると、ゴーレムの拳が振り下ろされてきた。
「危なっ!我が身を守れ“光壁”」
突き出した手を中心に亀の甲羅のような形をした光の壁がゴーレムの拳を防いだ。
「ナイス美晴、炎よ我が拳に纏え“炎拳”」
荒太がゴーレムに向けて、炎を拳に纏わせて思いっきり殴り付けた。
ゴーレムは壁に激突すると魔石を残して粉々に崩れ落ちた。
「よっしそんじゃ荒太、どんどんいこうか!」
「了解、美晴!」
2人がゴーレムを倒しきるのにそれほど時間はかからなかった。
それから数回同じくらいの戦闘をした2人は迷宮を後にして、ギルドに寄り、八雲と迷宮の情報を聞き、城に戻っていた。
「今日も八雲は活躍してなかったね」
「あいつのことだから目立ちたくないんだろ。それに俺達が召喚されて1ヶ月ちょっとじゃないか。それじゃ有名にはまだなれないよ」
荒太の考えに美晴は納得した。
「それじゃ気長に頑張って、八雲の情報が来るか、八雲自身が来るのを待ちますか」
「そういうこと」
2人は迷宮での立ち回りを相談したがら帰った。
◇
荒太と美晴が迷宮をあとにした頃八雲はまた大草原に来ていた。というのもギルドでマリナとずっと雑談しているわけにもいかないので、初心者向けのクエストを三つ受注して貰い、こなすために来ていた。
受注したのはゴブリン10体の討伐、一角ウサギ5体の討伐、薬草十束納品であり、全部こなせる場所が大草原なのだ。
「やっと異世界来ました感が出てきたぜ」
すこし泣けてきた。いままでは暗闇に放り出され、狼に腕を切断され、少女に土下座後自虐を聞き、使徒になってプロポーズして、地上に来たらまた狼に追いかれられて腕を噛まれて、ギルドに行ったらぼっちになると、なんでこんなことに?やっべぇよ考えたら涙が止まんなくなってきたよ。
「うわぁ~変なことで泣いてる。きもっ」
シェルナがディスってきた。いままでのことほとんどこいつのせいなのに、おいだから顔を背けるな、たくっ。
そうこうしながら歩いていると、目的の薬草の群生地が見えてきた。
「さてとさっさと終わらせて次に行きますか」
俺はギルドから借りたナイフを使って、根を取らずに薬草を伐っていった。数分後目標分が取れたのでそこを後にした。
周囲を警戒しながら歩いていると、近くの茂みから角を生やしたウサギが俺に突貫してきた。あわてて避けるとウサギはそのまま止まろうともせずに走っていった。
「って、ちょっとまてやぁああああ!」
俺もウサギを追いかけて走っていった。幸いレベルがあかっていたので難なく追い付いて、一緒に走りながらウサギの胴体にナイフを突き刺した。ウサギはびくりとしたあと動かなくなった。
「ふぅ~なんとかなったか。えぇと確か回収するのは角だったかな」
ギルドを出るときにマリナから教えてもらった、今回のクエストは魔物の討伐部位を思い出しながらウサギを角を根本から折った。
「聞いてた通りに折りやすいなぁ~」
もっと折りにくいと思ってたよ。見た目に反してパキッって取れたし。
角を袋に入れ立ち上がると、またしても一角ウサギが今度は数体俺に突貫してきた。今度は四方から来たので、十分に引き付けてからジャンプした。そしたらウサギ達は自分達同士の角が刺さって死んでしまった。
いやいやいやいや、低脳過ぎるだろ!こうなることぐらいわかるだろ。それともあれか?この世界の住人はこんなことしないのか?どっちなんだ。
ウサギの間抜けさに俺はすこし頭を抱えてしまっが、すぐに最後の依頼のゴブリンを探しに歩きだした。
しばらくして、タシナ森林からゴブリンの集団が出てくるのが見えた。先頭にはゴブリンの集団を統率しているような進化個体ホブゴブリンがいた。
鑑定を掛けたが個々のレベルは今の俺よりも下だが、集団となると勝てるかどうかわからなかった。どうしようかと考えていると……
「そのナイフに死魔法を纏わせて切ればいいじゃない。そうすれば一撃必殺で決めることができるわよ?」
そんな手があったのか。でもなんでさっきはこの方法をしなかったんだ?忘れてたのか?
「いいえ、ただ単純にあなたのレベルが足りなかったのよ」
俺のせいでした。疑ってごめんチャイ。
「そんなことよりさっさと決めるか」
俺は集団に近いていきギリギリまで近くと早速ナイフに死魔法を纏わせると、一気に集団に駆け出すと、まずホブゴブリンの喉元を切り裂いた。いきなり頭を殺されて混乱するゴブリン達を反撃させずに全滅させた。
終わると息も絶え絶えになっていた。何でだろ?
「そりゃそうよ、魔法を纏わせたままずっと戦ってたんだから、魔力が無くなるに決まってるは」
シェルナが呆れながら呟いた。
「そういうなって、とりあえずクエストは全部完了だな」
ゴブリンの討伐部位の耳を回収して町に戻ることにした。
町に戻り、ギルドに戻っていきドアを開けると、昨日とは違う喧騒が響いていた。なにやら受付でみたことあるやつが揉めているみたいだ。
めんどくせぇと思いながらクエストの報告のため受付に行くと、案の定絡まれた。
「だからなんで俺が……うん?……てめぇ昨日の!」
「マリナ、手続きお願い」
「了解……タイミング最悪ね」
マリナがからかうように呟いたので肩を落としながらため息をついた。それが気に触ったのかまた絡んできた。
「お前俺をバカにしたな今」
なんでそうなるんだよ!どんだけ自意識過剰なんだよ、何回目かわかんないけどもっかい言うわ本当にめんどくせぇええええ!
俺が何も言い返さないのを自分にビビっているんだと思ったトルトは上から目線で説教を始めた。まぁ聞き流すけど。
「そうだ新人は先輩をうやまらないといけないんだ。それと先輩の言うことには従わないといけないからな」
うわぁ~見習っちゃいけない先輩に入りそうなウザさだわ。早く終わんないかなぁと考えていると、マリナが報酬を持って戻ってきた。やったぁ!解放される。
「これが今回の報酬になります。合わせて1000ゴールドです」
「あれ?計算が合わないんだかどういうこと?」
朝確認のとき計算したときより上がっていたので聞いてみた。
「あぁそれは、ホブゴブリンの分が追加されてるです。ヤクモさん、倒したけど討伐部位持ってきてなかったから、その分減ってますけどね」
なるほどそういうことか。俺は納得して報酬を受け取り、宿に帰ろうとすると呼び止められた。
「ちょっと待て、まだ話は終わってないぞ!」
トルトに肩を捕まれた。というかまだ話してたんだ。
「マリナもなんでこんなやつと話すんだ。俺とはこんなに話を続けてくれないじゃない!」
おっと凄いなこいつ、避けられていることがわからないのか。鈍感系主人公でもそうされたらわかりそうなもんなんだか。
「本当にマリナの気持ちに気づいてないみたいよ彼」
肩のシェルナも呆れながらマリナに詰め寄っているトルトを見て呟いた。
俺もさすがにマリナが可哀想になったのでトルトとの間に割って入った。
「マリナが迷惑がってんだろ、いい加減にしろ」
「昨日からなんなんだよお前は!俺とマリナの仲を邪魔しやがって!マリナもお前みたいなやつと話すより、俺みたいに将来S級冒険者になる俺と仲を深めた方がいいんだよ!」
やっぱりこいつかなり自己中なやつだな。周り見てみろよ、マリナは引いてるし冒険者達も思うところがあるのか、不機嫌な目線を向けているのに気づかないのか?これでS級とは笑わせる。
「てめぇ何笑ってんだ!このバカにしやがって!」
俺はどうやら笑っていたようだ。顔に出るとか恥ずかしっ!それよりもまた殴りかかってきたよ。今回はどうしよ、避けるか、受けるか……よし今までの鬱憤を込めて殴り飛ばそう。
決めた俺は迫る拳を右手で逸らして、左手で脇を思いっきり殴り付けた。そしたら綺麗な放物線を描いて冒険者達が囲んでいたテーブルに落下しそのまま動かなくなってしまった。
するとギルド内で歓声が挙がったが、俺はそれどころではなくマリナに慌てて確認した。
「どっどどど……どうしよマリナ!これは俺が悪いのか、悪かったら資格停止なんだよな!どれくらいなんだ、今受け取った金で持つくらいなのか、これなくなったら無一文になっちまうから、どうしよぉおおお~!!」
「ぷっ……あはっはははははぁ!やっぱ面白いねヤクモさん」
「いや笑い事じゃなくて」
「大丈夫ですよヤクモさん、私がギルマスに掛け合ってみますんで、それにここにいるみんながヤクモさんが悪くないって証言してくれますから」
マリナの後ろにいた受付嬢達が親指を立てて微笑んでいた。
ヤバい泣きたい。俺異世界来たら涙脆くなったのかな。それともこのダメ女神の使徒になったせいかな。肩から「吹っ飛ばすわよ!」って聞こえてきたが気のせいだろ。
「でも明日ギルドですこし事情を聞かれると思うんで来てくれますか?」
「わかりました。それでは今日はもう宿に戻っていいですか?」
「えぇ……それと守ってくれてありがと」
マリナがカウンターから乗り出して俺の頬にキスをしてくれた。後ろから冒険者達の口笛やら怒声が聞こえてきたが、気にはならなかった。よく見るとマリナの顔がすこし紅くなっていた。今の俺もそうかもしれない。肩のシェルナもニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「それじゃあ失礼します!!」
恥ずかしなったのでその場からそそくさと俺は逃げ出した。
でも俺はもう少しいてマリナと話していればとあとになって後悔した。肩越しに見た手を振っているマリナを見た最後だったからだ。
次の日、ギルドに向かう途中で人だかりを見つけたので見に行って見るとそこには死んだマリナが横たわっていた。