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天使と科学準備室  作者: えんぴつ
〜天使との出会い〜
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プロローグ

つたない文章ですが、読んでいただけたら幸いです。

 柔道部員募集中

 吹奏楽部員募集

 サッカー部へ!


 玄関先で押し付けられたチラシをなんとなく机に広げてみる。


 入学式を終え、帰宅しようとした僕を玄関先で待ち受けていたのは、まさかの勧誘の嵐。

 ドラマや漫画で見る勧誘を、未だにやっている学校があることに驚いた。

 でも、一瞬だけ可愛い先輩に強引に勧誘されないかな?とドラマのような展開を期待したのは確かだ。


「君!一緒にバトミントンしない?」

「ぜひ、鉄道模型部へ!」

「部活、見学していかない?」


 笑顔の先輩達に、くどい程に声をかけられた僕は、作り笑顔で丁重に断り続けた。

 人ごみが嫌いな僕は、勧誘の人混みに揉まれ、体力を大幅に削られていた。

 エンプティーマークが点滅する僕の身体に、エネルギーチャージをするため僕は、教室に戻り、誰もいない教室から、窓の外の喧騒を見つめていた。


 お世辞にも体格や運動神経がいいとは言えないし、コミュニケーション能力の少し乏しい僕を勧誘したところで、入部した後に苦労するのは、僕にチラシを押し付け来た先輩達だ。

 聞きたくもない外の喧騒を聴きながら、誰もいない教室で時間を潰すのに飽きた僕は、ふらりと教室を出た。


 まっすぐ伸びる廊下には、誰もいない。


 太陽に照らされた蛇口から滴り落ちる水滴。


 どこかの写真集にでも載っていそうなその風景に、思わず両手で四角を作りカメラマンの真似事をしてみる。

 こんなことを一人でしても、虚しいだけ。

 我に戻った僕は、再び誰もいない廊下を歩き始めた。


 女子達の楽しそうな声。

 女子ってなぜか、友達を作るのがとても早い気がする。

 そんなことを思いながら、廊下を歩く。


 ぼんやりと長い廊下を歩いていると、ひとつだけ開け放たれた扉を見つけた。


 科学準備室


 そう書かれたドアを横目に、瓶や器具が棚に並ぶ室内を覗くが、人気はない。

 暇つぶしになる物はないか室内を探索するため、足を踏み入れてみた。


 不気味に並べられた試験管には、何か得体の知れない液体が少し入っている。

 ガスバーナーが一人寂しく卓上に置かれており、今の自分を見ているかのようで、なぜか僕の心は痛む。

 少し埃っぽい室内をゆっくり探索する。


 しばらく室内をうろついたところで、僕の目に飛び込んできた風景に、思わず足が止まってしまった。


 開け放たれた窓から吹き込む風に、なびく黒髪と桜の花びら。


 優しい太陽の光に照らされる白い肌。


 ぼんやりと遠くを見つめる綺麗な瞳。


 そして、細い首から提げられた一眼レフ。



 誰もいないと思っていた部屋に人がいる。



 そんな感情で足が止まった訳ではない。


 綺麗。

 天使ってこの世に居るんだ。


 そんな感情が、僕の小さな心を満たしていた。


 自然と先程と同じように、手をカメラに見立てて、指で作った四角から天使を覗く。

 クラスの女子が着ていた制服とは思えないほど、鮮やかな胸元を飾るリボンとひらつくスカート。


「カシャ」


 なぜか自分の口から出たその擬音に、僕は驚く。


「うぉぉぉ」


 擬音に驚いた天使から、低い声が上がるとともに、天使は、こちらを見つめて固まる。


「すみません。驚かせてしまって」

 慌てて謝罪する僕を見つめる綺麗な瞳に、吸い込まれそうになる。

「君、盗撮した?」

 制服の上から胸元を抑えた天使。

「してません!綺麗な風景だなぁと思って、手でカメラの真似事したら、思わず声が出ちゃって…すみません!」

 恥ずかしさと申し訳なさから、思わず視線を床に落とす。

 その時に、初めて天使の履く上履きに入ったラインが赤いことに気付く。


 この高校の上履きは、学年によってラインの

 色が違う。


 僕ら新一年生は、青色。

 二年生は、赤色。

 三年生は、黄色。


 そんな、信号のようなカラーの色分けのされたこの高校の上履きは、上履きを見るだけで学年が分かるようになっている。

「なるほどね。一年生、頭を上げて」

 透き通る声にゆっくりと頭を上げる僕。


 カシャ


 頭を上げた僕の視線に一眼レフが飛び込んで来たと同時に聞こえてきたのは、本物のシャッター音。


 「うぉ」


 不意を突かれた僕は、変な声を発し仰け反ってしまった。


「仕返し」

 満面の笑みを浮かべながら、天使はそう呟いた。













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