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第7話 黒竜よ、眠れ 5

 現在から三百年と少しぐらいの昔。

 とある街に、人よりも頑丈で、力が強い少年が居ましたとさ。

 彼は農家の息子として、日々、人の三倍以上の食い扶持を稼いでいたのですが、ある日、彼の街に魔物の大群がやってきました。

 今でこそ、篝火で街を囲み、火を絶やさず、魔物を遠ざける魔物払いの方法が確立されていますが、当時は運悪く光主様の休眠期間だったので、篝火の量が世界全体で足りていなかったのです。そして不運なことに、彼の街の篝火は……魔物の大群を退けるのには足りなかったのです。

 昼間ならばともかく、陽の差さない闇の中で、人々は魔物相手に為す術がありませんでした。一人、また一人と、魔物に殺されていきます。そう、光りあるところでは絶対なる力を誇る我々人間ですが、夜を跋扈する魔物相手には到底敵いません。

 そう、その少年を除いて。


「人間、舐めてんじゃねーぞ、おらぁあああああん!!?」


 少年は鍬を振り回しながら、次々と魔物を葬り去っていきました。

 その力は到底、人間の物に思えません。ついでに少年の狂暴性も、人間の物とは思えません。少年は町の人間を守るよりも、魔物を皆殺しにすることを優先に戦っていました。

 そして気付くと、少年はほとんどの魔物をぶち殺していました。もちろん、その頃には町の人間も皆死んでましたが、少年はあまり気にしていませんでした。少年はちょっと、人間としての感性がおかしかったのです。

 そんな少年が最後に戦った魔物は、今まで戦った魔物よりも格段に強い黒竜でした。


『愚かで脆弱な人間よ。ここに屍を晒すが――――』

「うっせんじゃ、ボケェ!!」


 黒竜は人間よりも遥に強い魔物なので、正直、人間を見下していました。

 少年が他の魔物と戦っている時も、『くくく、我の元まで辿り着いて見せるがいい』としたり顔で待ち構えているぐらいには慢心していました。

 そして、ものの見事に不意打ちを食らい、戦いのペースを少年に奪われてしまいます。


『貴様ぁ! 卑怯だぞ!』

「卑怯は敗者の言い訳よぉ!!」


 少年と黒竜の戦いは長く続きました。

 それこそ、夜が明けて、陽が昇ってしまうほど、長く。


『う、ぐぐぐ、おのれ……この我が、人間風情に……』


 黒竜はとても強い魔物です。

 陽の光を浴びても消滅しません。長時間浴びても抵抗して、生き延びることが出来ます。けれど、夜の時に比べると格段に弱くなってしまうのです。

 対して、少年の肉体は陽が昇ったと同時に即座に怪我が癒えてしまいました。流石に疲労はすぐに抜けませんでしたが、それでも、弱った黒竜に止めを刺すのには十分な力は残っています。

 黒竜は当然、死を覚悟しました。

 人間をたくさん殺した黒竜が、人間を憎む黒竜が、人間に見逃される可能性など無いと思っていたのです。また、情けを掛けられるなんて御免だとも。


「おい、お前――――強いじゃねーか、俺と組めよ」

『…………は?』


 だからこそ、少年の提案は黒竜にとって思いもよらなかったのです。


「昼間に強い俺。夜に強いお前。組めば、つまり、最強じゃねーか? なぁ、おい。一緒にテッペン目指そうぜ?」

『…………馬鹿な。光と闇、二つの王に逆らうとでも? そんなもの、ただの自殺志願――』

「だったら、お前はずっと誰かの下で生きるのか? なぁ、おい。いいのか? 俺は嫌だ。だから、誘っている。お前は、どうだ?」

『…………我は』


 その後、彼らの間にどんな会話があったのか、知る者は居ません。恐らく、相当恥ずかしい台詞を散々交わし合ったのでしょう。彼らは、他の者がどれだけ尋ねても、その時のことを口にはしませんでした。

 ただ、確かなのは少年と黒竜は共に契約を交わし、徒党を組み始めたということです。

 彼らが交わした契約は二つ。

 お互いが、対等であると認めること。

 そして、契約を交わした相手が『下がってしまった』場合、躊躇わず殺すこと。

 彼らにとってその契約は、お互いがお互いを最大限に尊重し、また、信じているからこそ結んだ物でした。


「ふーっはっはっは! 黄昏一族のお出ましだぁ!!」

『我らに下る者は生かせ! 抵抗する者は殺せ! 女子供は無視しろ! なに? 女子供に殺されそうになった? 馬鹿が! そんな雑魚など我らの一族には要らぬ!』


 彼らは光も闇も恐れずに、好き勝手暮らしました。

 立身出世と言えば聞こえは良いかもしれませんが、次々と人間の町と、魔物の集落を襲い、めぼしい人材や資材を奪っていく姿はまさしく、蛮族です。

 当然、光と闇、二つの勢力からそれなりに討伐対象として兵や刺客を向けられるのですが、彼らは強く、まったく寄せ付けません。そうなってくると、人間や魔物の中にも、彼らの強さに惚れて、進んで彼らの下に集まる者も現れ始めました。

 その内、少年が青年となり――――『黒剣のヴァイス』と『黒竜のアーグ』という二つ名が世界の一部でそれなりに有名になってきた頃、彼らは集まった者たちと共に、新しい街を築きました。

 一つの山を無理やり掘り進めて、大きな穴倉を作って、そこを自分たちの街としたのです。

 彼らは、自分たちの街を『黄昏の街』と名付けました。

 光にも、闇にも属さぬ者たちが集まる街として、そこそこ有名になりました。

 ――――そこまでが、彼ら二人の絶頂……いいえ、『黄昏』でした。


「ふーっはっは! やっぱり、光主も常闇もやばかったな!」

『笑い事かよ、貴様。我らの一族はほとんど壊滅状態。黄昏の街も、今や廃墟だぞ? これからどうする?』

「んじゃ、とりあえずこの場を切り抜けるってことで。それで、お互い、生き残っていたら」

『ああ、そうだな。あの時の、最初の黄昏の続きをしよう』

「ははは、いいね、決闘だ。存分に殺し合おうじゃねーか……だから、死ぬなよ?」

『お互いにな』


 因果応報。

 いえ、恐らくはそれですらないのでしょう。

 ただ単に、彼らは二人の王たちが許す範囲で遊ばされていただけでした。だから、彼らがその範囲を逸脱すれば、当然、罰が下されます。

 光と闇の秩序を乱す者には、光と闇、両方の勢力から滅ぼされるのです。

 天より降り注いだのは、破滅の光。

 血の底より湧き上がったのは、尽きぬ闇の軍勢。

 それらは瞬く間に、彼らの黄昏を壊し、崩し、消し去っていきました。

 どれだけ彼らが強かろうとも、所詮、何物かの掌の上に過ぎなかったのです。何が良かったとか、悪かったの話ではありません。

 ただ単に、足りなかったのでしょう。

 世界の理を超越するための、何かが。


「があああああああ!!!」

『おおおおおおおおおっ!!』


 それでも、彼らは最後の最後まで、抗いました。

 抗って、抗って、抗って、そして。


「あら、粗野の割には根性のある良い男じゃない。こいつ、貰っていくわ」


 光主に近しい立場にあった『恐るべき魔女』は、『黒剣のヴァイス』の奮闘をとても気に入り、己の婿として迎え入れました。

 そう、秘薬を使い、それまでの記憶を全て消し去った、まっさらな状態にした後で。


『は、はははは、耐えた! 耐えたぞ、我は! はははは! どうだ、生き延びたぞ、我は!? さぁ、決闘だ、ヴァイス! あの時の続きをしよう……ヴァイス! どこだ? どこに居る? 我が生きているのだから、貴様も、絶対に』


 『黒竜のアーグ』は狂いました。

 破滅の光に抉られた大部分の肉体を、湧き出た闇の眷属を食らって補充した所為です。黒竜はその肉体の大半を既に、常闇の支配下に置かれていたのでした。

 だから、常闇は黒竜を殺してやることはせず、許してやることもせず、己に逆らった愚か者の末路として、その場に留めておくことにしたのです。

 狂わせたまま、来ない待ち人をいつまでも待つ、愚かな竜として。

 なので、『黒竜アーグ』は狂ったままです。

 ずっとずっと、報われないままです。


 ――――けれど、光と闇に逆らった愚者の末路なんて、大抵、こんな物よ? ねぇ、愛しい、私の子供たち。



●●●


「とまぁ、こんな話を大婆様から言われるのが、うちの一族のならわしでして」

「うっわぁ」

「ちなみに、大婆様なのですが、少なくとも百年以上前からずっと美少女のままの姿という。もう、なんというか、明らかにあれですよね!」

「もう、魔女じゃん。隠そうとしてないじゃん」

「ですよねー!」


 リズは一周回って、振り切ったような笑顔だった。

 だから恐らく、こいつは止まることはないのだろう。それを確認するまで、決して止まらないし、確認したのならば尚更、止められるわけがない。

 リズという少女は、黒剣の他にも、祖先の罪と、約束まで背負っているのだから。

 行き着くところまで、行ってしまうのだろう。

 きっと、かつて『黄昏を目指した少年』のように。

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