第69話 初心はダンジョンアタックと共に 4
ミユキの弟であるオウカは、今までずっと病床に伏していたとは思わぬほどの活躍をしていた。
「命無き、機械人形たちよ――安らかに、眠れ」
オウカが転生して手に入れたのは、『冬』に関係する魔術を扱う能力だった。
主に、凍結、終焉、停止などの属性が強く反映され、対象の熱を奪い、凍らせたり、または相手の動きを阻害、停止させたりするなど、後方支援としては破格の魔術である。
特に、非生命体や、機械など自意識が乏しい存在相手だと、その魔術は無類の強さを誇り、オウカが魔術で降らせた雪に触れただけで、電源を落としたかのように機能を停止させることもできるのだった。
そのため、機械系の相手に対する豊富な経験値がある俺と組めば、もう閉空塔における機械系のエネミーは恐れる必要などなくなっていた。
「ちっ! ミサキさん、あまり魔術干渉が上手く行きません。それと、上空からのレーザーによる掃射が来ます!」
「オウカ、空気中に氷の粒子をばら撒け。オウル。ばら撒かれた氷の粒子の振動を操って、上空からの砲撃を全て曲げろ。ミユキは俺の援護射撃――今の内に、あの馬鹿でかい要塞を墜落させる」
「わかりました!」
「了解」
「ヘマするんじゃねーぞ!」
だが、新人類が用意するダンジョンも攻略が楽な物ばかりではない。
特にこの上層との境界線である第99階層は、俺達にとって中々攻略が難しい階層になっていた。
何せ、この階層の舞台は『空中』である。
地面など存在せず、青の空と白色の雲が入り混じる中で、俺達は転移した先にある小型の飛行船を操って、巨大な飛行要塞率いる戦闘機の編隊を全て落とさなければならないのだ。
「――――しぃっ!」
俺は亜音速で飛行し、すれ違いざまに錬金刀で作り上げた刃を一閃。飛行要塞を守護する戦闘機を一機、切り落とす。その後も、休むことなく、鬱陶しい蠅共を切り裂き、次々と空から落としていく。
『ギィアアアアアアアア!!』
落とす度に聞こえる悲鳴は、切り落とした戦闘機そのものが鳴いているのだろう。
何せ、戦闘機と言っても完全な機械ではない。機械と生身の部分が交じり合った機械生命体。かつて戦った機械眷属に近しい、悍ましき飛行生物が、俺達の相手だ。
姿形を例えるのであれば、エイがよく似ている。そう、海の中を泳ぐあれだ。あれが、そのまま空を高速で飛行し、なおかつ、普通の戦闘機ぐらいの大きさで、時折、レーザーを撃ってくるのだから、洒落になっていない。
完全な機械であれば、オウカの魔術で問答無用に機能を落とせるのだが、半端に生身も混じっている所為か、残念ながら、そこまで効果は無いようなのである。
だからこそ、今が俺とミユキのがんばり時だ。
『クォオオオオオオオオオオン』
飛行中の俺の肌を震わせたのは、要塞から伝わって来た咆哮だ。
飛行要塞もまた、戦闘機と同じく、機械生命体である。
そのボディは背景の空よりもなお深く、青い群青色で、そして、巨大だった。全長三キロほどもある巨大なクジラ型の飛行物体、それが敵対している要塞だ。要塞であるので、当然、生半可な攻撃は通じないし、口を開く度に戦闘機を補充して来る鬼畜仕様。
加えて、ボディの表層には数多の砲台が取り付けられており、実弾、レーザー、複数属性による魔力砲など、多種多様な方法でこちらを撃ち落とそうとしてくる。
「喧しいんだよ、デカブツがぁああああああああああっ!!」
そして、それらの砲撃を一身に防ぐ――もとい、迎撃しているのがミユキだ。
ミユキは現在、背中に一対の黒い翼が生えている。と言っても、それは本当に肉体が変化しているわけではなく、魔導具によって生み出された魔力によって編まれた翼だ。その翼は、ミユキの意思に従い、幾千もの黒色のエネルギー弾を放ち、クジラ型の空母からの射撃をほぼ全て迎撃していた。
「道、作ったぞ、おい! 突っ込め、ミサキぃ!」
「おうよ!」
そして、ミユキがクジラ型要塞の射撃を制限し、一瞬の空白地帯を作る頃には、俺は既に準備を終えていた。
「錬金刀、切断範囲拡大っ!」
魔力で構成する刃を、長く、長く、そして、薄く、薄氷よりもなお薄く研ぎ澄ませる。
それは、物質化すれば即座にひび割れるほどの脆い刃。
されど、たった一振りでクジラの中枢に達するほどの長さを持つ刃だ。
だからこそ、こいつは振り下ろす一瞬のタイミングで物質化しなければならない。
「しぃっ!」
俺は呼気と共に、刃を振り下ろす。
一瞬の実体化と合わせて、俺は『切断』の属性を刃にエンチャント。
これにより、魔力の刃はどれだけ薄かろうが、脆かろうが、触れれば何もかもを切断する刃となった。
そう、空気抵抗すらも意に介さず。
飛行要塞の名にふさわしい、何重にも展開された魔術防壁を切り裂いて。
「刺身にするには、身が不味そうだな、まったく」
堅牢を誇るはずの飛行要塞は、一刀の下に墜落した。
●●●
「ぜぇ、ぜぇ……ね、ミユキ姉さん。ちょっとしんどくない? ねぇ、俺って割と転生したばっかりなんだけど、上層一歩手前はしんどくない?」
「気合いが足りてねぇぞ、オウカ。アタシなんか、あれだけの射撃を全て防いでもまだまだ余裕よ」
「ミサキさんとオウルさんから貰った魔導具のおかげじゃん! なにあの無尽蔵の魔力による射撃! ずるくないですか!?」
「あれは一応、カラクリがあってだな、無尽蔵じゃなくて周囲から魔力を略奪しているんだよ。最小限の魔力で、他の魔力を奪って、エネルギー弾にしてんの。だから、やり過ぎると恐らく、新人類から怒られる」
「基本、ダンジョンに負担をかけていく物ですからね、あれは」
俺たちは現在、小型の飛行船内部で休憩している。
飛行要塞を落としてしまえば、後は残りの戦闘機を全て落とすのは造作なく、第99階層のクリア条件は見事に達成した。
一応、次の階層に進むゲートは飛行船内部に出現しているのだが、流石に、あれだけの大規模戦闘を繰り広げたので、体力や魔力が回復するまで休憩することにしたのだ。
「しかし、たった一週間でよくもまぁ、ここまで来られましたよね、俺達。ぶっちゃけ、俺は足手纏いにならないように必死で、途中からよく覚えてないんですが」
「はっ、この異界渡り共が真面目にやれば、一日で上層に着けたっての」
「だーかーらー、それをやろうとすると新人類がガチで怒るんだって。俺とオウルも制限内で頑張っているじゃん。戦力アップのために、ミユキに魔導具だってあげたじゃん」
「それはありがたいと思うが、手加減した上にお守されていると思うと、なんかムカつく」
「だったら、もっと強くなることを推奨します、ミユキ」
一週間。
それが、俺達パーティが閉空塔第99階層まで攻略するのにかかった時間だ。
元々、ミユキは第95階層辺りまで単独で攻略していた猛者だったので、そこまでは攻略法の分かったダンジョンアタックであり、安定性もあった。だからこそ、ここまで早く上層手前まで攻略出来たと言えるが、何の経験もないはずのオウカが恐るべき早さで成長し、パーティの守護対象から、後方支援担当へ格上げしたのも少なくない要因だろう。
転生した肉体には、ある程度の戦闘経験や魔術知識などが備わっているようなのだが、それでも、死にかけの病人から一週間でここまで成長できるのは、異常だ。天才と呼ぶのも躊躇うほど、オウカは尋常ではないスピードで成長している。
故に、ついついミユキも調子に乗って上層の手前まで攻略を進めてしまったのだ。
「強くなるっつっても、技術は割と頭打ちだぜ? アンタらから貰った魔導具で多少はマシになったが、これ以上強くなるには、転生しかないだろうよ」
「そうか? 転生も一つの手段だが、他にもいろいろ手段はあるぞ? 無理にその肉体から鞍替えしなくてもいんじゃないか?」
「肉体をころころ変えている奴に言われたくねぇ! つーか、やめろ! 名残惜しむようにアタシの背中を撫でるな! 骨の感触を確かめるな、この変態!」
「ぶっちゃけ俺は、ミユキはそのままの肉体の方が素晴らしいと思う。必ずしも、美形になる必要は無い。美形よりも、少しぐらい傷のある肉体の方がそそられるし」
「性欲の対象にするな! この、自分は予備の肉体でも美人の癖に!」
「これは製造者の趣味だから、どうしようもないんだよ……俺だって、普通に男の肉体が良かったんだけどなぁ」
そう、肉体。
この肉体はあくまで予備の物だ。黒色殲滅の忌まわしくも、規格外の性能を誇る物ではない。それは現在、本体の俺が使っている。
分身である俺が使っているのは、ホーム出身の異界渡りに支給されているタイプの物だ。
元々の素体は、量産型の機械天使を改造したものであり、普段使いしている物と比べれば、かなり出力は落ちている。それでも、魔力を練れば空中を音速で飛行するぐらいは出来るし、常人とは比べものにならないほどの怪力だって発揮することが可能だ。
可能であるが……やはり、上層に挑むとなると不安が残る。
「とりあえず、大分急いで攻略して来たことだし、次の階層を登録したら、直ぐに地上に戻るってことでいいか?」
「ふん、まだ言いたいことはあるが、アタシはそれでいい」
「俺も同じく」
「私はミサキの判断に従います」
現在、ミユキがオウカを連れてダンジョンアタックをしているのは、ひとえに、己の経験を少しでも多くオウカに伝えたいためだろう。自分がやって来たことを、弟と共有する。そして、弟がどんな反応をするのか、先に進みたいと思うのか、それとも、大多数の探索者と同様に、安全を重視で生活していくことを選ぶのか、色々と観察しようと思っていたのかもしれない。
それが、思いのほかオウカの成長が早く、ついつい姉としての威厳を見せるために先へ進み続けてしまったが故に、第99階層への到達だ。
流石にそろそろ、地上に戻って休憩した方が良い。
これ以上の強行軍は、誰にとっても良い結果は残さないはずだから。
「次の階層に着いたら、アタシが『ルームキー』を発動する。そうすれば、第100階層の入り口を登録して、居住区のセーフハウスに転移。後は地上に戻るでいいな?」
「おう、施設にたくさんお土産を買って行こうぜ」
「俺は食べ物関係の土産を担当しますんで」
「オウカ、お前は転生してから食欲が増したなぁ」
「死にかけの状態から健康になったら、誰だってそうなるよ、ミユキ姉さん」
そして、俺達はゲートを使って第100階層まで転移した。
油断はしていなかった。
休憩中は気を抜いていたかもしれなかったが、ゲートで転移する頃には全員、きちんと戦場として持つべき心構えを備えていたと思う。
「「「「ようこそ、我らが領域へ! 歓迎しよう、盛大にな!!」」」」
だから、敗因は想定不足。
そう――――『ラスボスが四体同時に、突然ポップして来る』という理不尽を、想定しきれなかった俺の慢心こそが、敗因だった。
10日分の更新を忘れていたことに気付いた駄目作者がこちらです。
ええ、なので明日は22時と23時に二回更新します……ストックがいつの間に増えていて、「わぁい、妖精さんの仕業かなー?」の一瞬でも呑気に考えていた己の愚かさよ。




