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第59話 未来の値段 5

毎日更新二か月突破。

大丈夫、虚無らない。完結まで頑張りませう。

「…………」

「あの」

「…………」

「ミユキ? その、さぁ」

「…………ずりぃわー。くっそ、ずりぃわぁ!」

「こっちを思いっきり睨みつけるのは止めてくれる?」


 現在、俺とミユキは共に、施設の浴場で体を洗っていた。

 浴場は、インテリアよりも機能性を重視した、スポーツジムにあるようなシンプルな物。ユニットバスが一つと、シャワーを浴びられる場所が三つほどある。専用の入浴施設ほど広くはないが、子供が五人ぐらいは同時に入れそうな程度の広さはあるようだ。

 俺はその浴場で、指定されたシャンプー、リンス、ボディソープ、化粧水などを並べてきっちり肉体の手入れをしているのだが……その様子を、隣でミユキが睨みつけてくる。


「使いたいんだったら、いくらか融通できるけど?」

「違う、そっちじゃねぇ! いや、使えるなら、使うがよ!」

「ほれ、使ったら返してくれよな?」

「あ、ああ、悪い――――じゃなくて!」


 ぺちーん、と何故か俺の背中を叩いて、ミユキは文句を言って来た。


「ずるいだろ、おい! なんだよ、それ! アンタ、あれだけ実力がある癖に、どうしてこんなに綺麗な体なんだ!? 普通、もっと筋肉が付いてごつごつするだろ!? なんでこんなに、柔らかくてすべすべしてんだよ、おい!」

「くすぐったいわ、もう。この肉体は体内に存在するナノマシンが常に最善の状態に整えようとするから、傷跡とかが残らないんだよ。後、細腕に見えても中身は頭のおかしい技術が詰め込まれたアンドロイドだぞ? こんな細腕でも、その気になれば岩も砕けるし、刃物も薄皮一枚以上は通らねぇさ」

「なんだそれ、なんだそれ……」


 ぺたぺた、むにゅむにゅと、ミユキは遠慮なく、この肉体を触ってくる。

 正直、くずぐったい以上に恥ずかしいのだが、俺もミユキの裸を見てしまっているので、これで相殺ということにしておこう。

 やー、本当は一人ずつ入る予定だったんだけど、神父さんから「仲がよろしいのなら、一緒に入ってください。お湯がもったいないので」とか言われちゃったから、仕方ないな。


「し、しかも、なんだ、この顔……」

「ちょい、近い近い」

「仮面で隠しているから、どんな傷跡があるかと思ったら、なんだこの、人の心を無理やり掴んで、魅了して来るような美貌は!」

「有象無象を魅了して、抵抗する気力を奪ってから殺すための美貌だよ。普段は目立つし、周囲に悪影響を与えるから、仮面を被ってんだ。ま、流石に風呂の時は外すけどな」

「見て損したのか、得したのかわけわかんねぇ!」

「泣くなよ」

「泣いてねぇよ!」


 なんかこう、ミユキの女としての部分がこの肉体に嫉妬しているらしい。

 だが、そもそも、この肉体は超越者が作り上げた最高傑作の一つ。スペックを比べようと思う方がおかしい。それに、美しいからと言って幸せになれるとは限らないしなぁ。この本来の肉体の持ち主も、俺が首を切ってやったし。


「まったく、言っておくが綺麗すぎると逆に好感度が下がる場合もあるんだからな? 綺麗は綺麗で、大変なんだよ」

「ああ? なにそれ、自慢?」

「本来の肉体でもないのに、自慢も何もあるかよ」

「…………んん? ということは、アンタも転生者なのか?」

「微妙に違う。俺の場合は、元の肉体はまだ残っている。もっとも、異界渡りとして働く時はこっちの肉体の方が都合良いから、渋々使ってんだよ」

「そ、そうか」


 俺が事情を明かして弁解すると、ようやくミユキは落ち着いたのか、恥ずかしそうに距離を取って、自分の体を洗い始める。


「それで、その、アンタの本来の肉体ってどんな感じなんだ?」

「言っておくが、お前の方が可愛いぞ、絶対」

「うっぜぇ! そういうのは気にしてねぇから! ほら、さっさと言え!」

「別にいいけどさぁ」


 じゃぶじゃぶと、俺も体を洗いながら答えた。


「冴えない感じだぜ、黒髪で。一応、筋肉質だけど、前は運動不足だったな。お世辞にも良い体型とは言えなかったもんだぜ」

「ふんふん、それで?」

「ちょいと大きな戦いに参加した所為で、割と傷跡が残っている。それ自体は別に勲章みたいなもんだから、気にしてないけど」

「…………ふぅん」


 ミユキは神妙な顔で、自らの体を見下ろしている。

 ちょっと肋骨が浮いているぐらいの、痩せた少女の肉体。その肉体には、肋骨の下、脇腹から太もも辺りにかけて、大きな傷跡が残っていた。


「別に、アタシは乙女って柄じゃねーけど。でも、そういう風に考えられるアンタは、ちょっと羨ましいと思う」


 つつつ、と傷跡に指を這わせて、ぽつりと呟くミユキの姿は、どこかいつもよりも元気が無さそうに見えた。どうやら、あいつなりに何か思う所があるらしい。

 ただ、ここら辺で勘違いを正して置かないと、後々、痛い目に遭いそうなので、そろそろ素直に種明かしと行こうか。


「まー、流石に俺とお前では考え方が違うからな、仕方ないと思うぜ?」

「……それはつまり、弱い奴ほど、うじうじ悩むって言いたいのか? ああん?」

「いいや、そうじゃない。単純な性別の違いを言っているんだ」

「あん?」

「だって、俺。元々の性別は男だし」

「…………あ、お、ああ、あああああああっ!!?」


 しゅばっ、と一気に俺から距離を取るミユキ。

 おいおい、顔を真っ赤にして性犯罪者を見るような目で睨むなよ、楽しくなってきそうだ。


「へ、変態! 変態! こ、こんな美少女の肉体に魂をぶちこんで、なおかつ、平然とアタシと一緒に風呂に入るとか! どんなレベルの変態なんだよ、こいつ!?」

「安心してくれ、ミユキ。この体は女性体だから、同じ性別の君には発情しにくい感じになっている。だから、襲われるとかそういう心配はしなくていい」

「あああ!? 誰が、変態ですら欲情しない、貧相な肉体だって!?」

「落ち着け、ミユキ。変な方向に話が拗れてきている」

「うっさい、この変態!」


 ミユキは涙目で俺を罵倒しつつ、やけくそ交じりに俺の目の前に体を晒して来る。

 ええぇ? 俺はとりあえず、精神は男だと自白したので、気まずい感じに目を逸らした。


「やっぱり、アタシの体は鶏ガラみたいな貧相で! 女として見てないんだろ!? そうだよな、こんな醜い傷跡がある女なんて! 変態ですら願い下げだ!」


 しかし、逸らしたら逸らしたで、ミユキはさらに面倒な方向に話を拗らせている。ううむ、体にコンプレックスを持っているのに、目の前に最上の美貌を持つ美少女が現れたかと思えば、その中身が実は男という事実を認識する過程で、思考がショートしたのだろう。

 もはや、自虐しているのだか、自爆しているのだか、分からない状態になっている。


「待て待て、さっき俺が目を逸らしたのは気を遣ったからだ。男にじろじろ見られるのは嫌だろうと思って、目を逸らしたんだよ。むしろ、がっつり見て良いなら、見るぞ、おい」

「嘘だ! 本当は気持ち悪いって思っているんだろ!?」

「思ってねーよ、俺はお前みたいな痩せすぎの生意気な女子でも、きっちり頂ける性癖の持ち主だ! あまり自虐が過ぎると、食べちゃうぞ!?」

「やってみろ!」

「宿を借りている身の上でそんな真似できるか、ばぁーか! 妥協案を出せや!」

「ああ、良いだろう、考えてやる!」


 ぎゃあぎゃあと、俺とミユキが言い合い、互いに妥協点を探った結果。


「じゃあ、俺がお前の傷跡を舐めれば納得するんだな?」

「言っておくが、嫌々やっても分かるんだからな! そういうのは、きっちり分かるんだからな! 短く、べろって舐めただけじゃ信じないんだからな!」

「よろしい。では、中身が男のこの俺に、その手の挑発をしたこと後悔させてやる」

「はんっ! やってみろ!」


 何故か、俺がミユキの体を舐め回すことになってしまった。

 しかも、傷跡の所を重点的に。

 おいおい、大丈夫だろうか、これ? 神父さんから怒られない? でも、コンプレックスに悩む少女を救うために必要な行動だからな、うん。

 俺はそういう理由で自身を納得させると、躊躇わず、ミユキの体に顔を近づけて、べろりと舌を這わせた。


「ひ、うっ」


 びくん、とミユキの体が震えるが、構いやしない。

 まずは一舐めした後、ゆっくりと舌先で傷跡の皮膚をなぞる。他の皮膚とは違い、ちょっとぼこぼこした感触が、舌先に伝わってきた。


「よ、よく、我慢する――」

「んちゅっ」

「なぁっ! ふ、にょ!?」


 ただ舐めるだけじゃつまらないので、傷跡を味わうように唇で吸い付いて、ちょっと悪戯。ちゅう、ちゅう、と何度か悪戯した後は、しっかりと敏感になった肌を舌で弄ぶ。


「や、やめ、もうわかったから! やめろ、この!」


 逃げ出そうとするミユキの体に密着して、抱き付くように拘束。

 さらに、逃げ出そうとした悪い子にはお仕置き、ということで、肌に残らない程度に甘噛み。がぶがぶ。


「あうっ、あ、あっ」


 ぐりぐりと、ミユキの肋骨の感触を指先で楽しみながら、傷跡を舌でなぞる。

 何度も、何度も、何度も。

 ミミズが這いつくばったようにも見えるそれは、けれど、選ばれし聖者に与えられるスティグマを連想させるように、奇妙な美しさも感じる。

 その美しさを、ケダモノのような欲望で汚し、舌先から少女の肌のほのかな味わいを感じるという背徳的な喜び。


「だ、だめ、だめだから、あやまるから――――んひぅ!」


 腕の中で、びくびくと震えるミユキの体を愛おしく思いながら抱きしめて。

 俺は、ゆっくり、ゆっくりと、舌で傷跡を舐めとるように、舌を這わせ続けた。

 この生意気な少女が、二度と勘違いをしないように。

 暖かな水音を、浴場に幾つも響かせて。


「あ、あふ、あうああ……」


 ついには、ミユキがびくびくと体を痙攣させて、気絶するまで堪能してしまったのである。

 ふふ、これで少しは俺に秘められた獣性の恐ろしさを思い知ったかね? 後、傷跡ぐらい、性欲のスパイスだってはっきりとしただろう、まったく。

 だが、ここで問題が一つ。

 この気絶させてしまったミユキだが、中々起きないのだ、マジで。いくら体をゆすっても、恍惚とした表情で涎を口の端から垂らしている状態だ。とりあえず、命に問題がある状態ではないが、エロス的に大問題だぞ、これ。


「なぁ、オウル。気絶したこいつの体を洗って、服を着させてくれない?」

《端末禁止令なので、ご自分でどうぞ、変態》

「…………今回ばかりは何も反論できねぇな、うん」


 その後、俺は自分で気絶するまで弄んだ少女の体を洗うという、とてつもない変態としての経験を積んでしまった。

 さて、ミユキが目を覚ました時、土下座何発で許して貰えるだろうか?

ブックマーク、評価感謝です。

少しでも面白い物を継続して書いて行けるように、これからも出来る限り止まることなく書き続けたいです。

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