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第55話 未来の値段 1

 世界は理不尽に満ちている。

 時に、意味もなく殺されて。

 時に、意味もなく救われる。

 あるいは、被害者であったとしても、加害者に狙われてしまったというだけで、周囲の反感を買うことも稀によくあるのだ。

 そう、例えば、超越者に狙われた異界渡りとか。


『遺憾である』

『極めて遺憾よ』

『ちょっとどうかと思うねー?』

『ぶっちゃけ、なんて真似してくれたんだよ、テメェ』

『由々しき問題であります』


 終末世界――[ろ:123番]世界を管理するのは、たった一つのコンピューターだ。いや、コンピューターのように見える何かだ。

 それは、滅びゆく世界から隔離された空間に存在しており、無数のディスプレイが存在する小さな管理室に存在する、一台のノートパソコンである。それが、恐らく存在の核である。何にも知らぬ者が見れば。無防備なノートパソコンに見えるかもしれないが、周囲に薄く、けれど、何億もの層を重ねた概念防壁が張られてあった。


『異界渡り、貴様の存在を受け入れたのは、無害だからだ』

『滅びかけの旧人類にちょっかいを出すなら、構わないの』

『積極的に、新人類を減らさなれば、スルーするつもりだけどさぁ』

『超越者はやべぇだろうが、おい』

『軍法会議にかけたら、即座に銃殺でありますな』


 複数の音声が出るのは、たった一つのノートパソコンのスピーカーから。

 けれど、無数のディスプレイからは声の分だけ、異なる人の姿を映し出している。

 厳格なスーツ姿の中年男性を。

 高貴なドレスに身を纏う、若々しい婦人を。

 極めてラフな部屋着姿の、幼い少女を。

 ボロボロの囚人服を着せられた、荒々しい男を。

 中性的で、性別不明の軍人の姿を。

 それらは全て異なる人格であるのだが、独立しているわけではなく、あくまで根底は一つの存在から派生しているので、意思は統一されている。

 つまり、いちいち文句を言われるのにも、五回ほど似たようなことを繰り返されるので非常に鬱陶しくて面倒なのだ。


「ちっ、うるせーな、反省してまーす」

『こいつ!』

『反省してねぇぞ、おい!』

『ぶち殺すぞー? 殺しちゃうぞー?』

『宣戦布告であります』


 俺は理不尽な嫉妬が大嫌いなので、呼び出された当時から露骨に態度に出して不機嫌を現していた。

 んだよ、ちゃんと倒したじゃん。暴走していた最終兵器を鹵獲して、おまけに超越者クラスの魔術師から干渉を遮ったじゃん。きっちり、自分がやれる範囲内で責任を取ったじゃん。これで、文句言われる筋合いなどありませぬ。


『本来であれば、問答無用でこの世界から叩き出すところだ』

『しかし、貴方の異名は超越者殺し。数多の異世界の中において、それを成し遂げてなお、生存している数少ない英雄』

『その戦闘データを提出すれば、今回の件は不問とするよー』

『管理者として、対策は取らねぇといけねーからな、苦肉の策って奴だ、くそったれ』


 ぶつぶつ、ぴかぴか、音声とディスプレイで俺を責めるノーパソ管理者であったが、なるほど、俺をここに呼び出した本命の理由はそれか。

 やはり、管理者にとって超越者の存在はよほど鬼門らしい。


「…………ふぅー、やれやれ」


 なので俺はわざとらしくため息を吐くと、肩を竦めて見せた。


「お願いします、が聞こえないなぁ、終末世界の管理者さん?」

『………………ブチコロ』


 おおっと、怒りのあまりディスプレイの映像が止まって、音声だけで対応して来たぞ、このノーパソ管理者め! はははぁ、さては管理者の中にたまにいる、ちょいと器が小さめで、人類とコミュニケーションが可能な癖に、すぐにレスバトルで負ける敗北者さんだな?


「そもそもさぁ? 世界を管理する存在がさぁ。仮にも他の世界からの干渉を通すって、どういう事なの? セキュリティガバガバじゃない? 危機管理足りなくない? いくら、滅びかけて、他の異界渡りからほとんど観測すらされていない終末世界だからって、もうちょっと気を使った方が良いと思うだけどぉ」

『終末言うなぁ! まだ終わってない! 終わってないぞ! だって、新人類居るもん!』


 ディスプレイの中で、幼い少女の映像が動き、甲高い声がきんきんと響く。

 なるほど、他の人格はフェイクで、それが根底か。


「その新人類も、旧人類とのお遊びに夢中じゃん。つーか、何であれ、あんな気質なの? 倒されるのを待っている魔王気取りが多すぎるぞ。しかも、期待かけ過ぎてぷちっと潰しちゃうタイプの奴」

『知らんわ! そもそも、新人類がポップしたことも予想外だわ! 折角、魂を輝かせる絶好の後進が見つかったと思ったのに、いつまでもお遊びを止めないしぃ』


 いじけた声を出す管理者。

なんなのこいつ、駄目過ぎない? 


「被創造物だから、創造主の旧人類に期待しているんだろうなぁ。その期待が的外れだったと気づけば、良くも悪くも自体が進展すると思うぜ?」

『悪かったら私のお仕事が無くなっちゃう…………じゃなくて! 超越者との戦闘データ! 対策をさっさと寄越せ! それで、そっちの縁に巻き込んだ賠償は終わりにしてやる!』

「えー、なにその上から目線。他の世界の管理者はもっと、クレバーに交渉してきてくれたんですけどぉ?」

『ぐぬぬぬ、何さ! 矮小な人間の分際で!』

「あ、矮小な人間なんで、その人間が編み出した対策とか要らないですよね。んじゃ、お疲れさまでーす」

『あ、ちょ、ま、待って! 待ってってばぁ!』


 この後、俺は思いっきりノーパソ管理者を弄り倒しつつ、自分に有利な条件を引き出していった。

 残念だが、これも商売なんだよ。


「とりあえず、あの最終兵器を鹵獲した時に右腕が切られたから、その修復を頼むぜ」

『はぁ!? なんで、私が一介の異界渡りである貴方の修復なんて!』

「…………はぁー。わっかんないかなぁ、この俺の気遣い。実はこの肉体、機械神と呼ばれていた超越者が作り上げた最高傑作の一つなんだよね。それを修復させてやるってことは、つまり…………はぁー、なんで気付かないかなぁー?」

『も、もしかして、さりげなくこの私にデータを提供しようと!? え、あ、あの、ごめんなさい。そ、そのぉ』

「いやいや、ごめん、俺も分かり辛い言い方をした。ただ、その、な? 俺にも立場ってもんがあるから、あんまりこちら側の情報を堂々と晒すわけにはいかないのさ。だからさ、修復を受けるという名目がさ、必要となってくるわけ」

『わ、わかった、貴方の修復をする! ついでに、データを解析して色々改良してあげるわ!』

「いや、余計な武装を追加するとかよりは、こう? 魂と肉体の融和性とか? 操作性を向上させるみたいな? 匠の技を感じたいんだよなぁ。極まった文明の管理者の技術を、この身に感じたいんだよなぁ」

『ふふん、矮小な人間らしい殊勝な心掛け! そこまで言われれば、私も全力でやってやる。有難く思うんだな!』


 …………商売、だけど、ええと、その、大丈夫かよ、この管理者は本当に。

 まずいな。今まで交渉して来た中で、群を抜いて気安く、なおかつ、こちらの意図に面白いほど嵌っているぞ。

 経験上、この手の取引で儲け過ぎるのは良くない。

 終末世界と言えど、本格的に世界が滅びるのは数百年後ぐらいだろうし、今後の付き合いを考えるならば、こちら側からも何かサービスをしなければならないだろう。


「あー、それで、その、超越者への対処方法なんだが、んーと」

『なんだなんだ? よくわからんが、じっとしていろよ、修復中だ』

「修復が終わったら、データとしてまとめておいた物以外の、俺個人としての意見も教えるよ、うん。その代わり、自由貿易許可ください」

『旧人類相手だったら、構わない。存分にやれ』

「ありがとう、感謝するぜ」


 話していく内に、ポンコツ過ぎて妙に毒気を抜かれてしまう。

 恐ろしくはないが、別の意味で敵対したくないと思った管理者は何気に、初めてかもしれないな。矮小な人間と見下している思考自体が、そもそも人類に近しいし。他の管理者は本当に視点からして次元が違うからなぁ。


『はははは、機械神だが知らないが、完璧のその先を目指さないとは愚の骨頂! この私が、超越者の技術を凌駕してくれよう!』

「うわぁ、物凄い勢いで魔力が消費されているけど大丈夫?」

『正直に言うと、ちょっと無理をしている!』


 まったく、管理者という奴はやはり、どいつもこいつも、油断ならない。



●●●



「すみません、一週間出禁で」

「え?」

「旧人類の方ならともかく、異界渡りの方がはしゃぎ過ぎたら迷惑なので、出禁で」

「…………はい」


 なお、新人類の方には普通に許してもらえず、一週間ほどダンジョンを出禁になった。

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