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第48話 オウルの翼 1

 俺がかつて戦った敵、機械眷属について説明しよう。

 機械眷属とは文字通り、機械神デウスによって生み出された眷属たちの事である。

 下級、中級、上級という区分があり、下級は基本的に、小型から中型の虫やら動物やらを模したデザインとなっている。感情は希薄であり、命令に従って邪魔な人間を抹殺したり、生体バッテリーととして活用するために捕獲したりする存在だ。

 中級は下級に命令を下す指揮官として、何故か人っぽいデザインをされている。感情や知性もそれなりにある。ただし、体の一部が余分に多かったり、獣や虫の一部になっている奇妙な出で立ちだった。理由は知らない。多分、機械神の暇つぶしによる物だろう。

 上級は量産型ではなく、ほとんどワンオフなのでデザインに偏りはない。性能は、下級や中型とは一線を画し、上級が一体居るだけで、街一つが軽く消滅する。

 機械天使に関しては、大まかに言えば機械神の眷属であるので、機械眷属と言えば機械眷属なのだが、ちょっとした特別枠なので、それはまた別の機会に。


 さて、要するに何が言いたいかと言うと、俺は機械系の相手に対してかなりの戦闘経験を持っているということだ。何せ、俺たちの住んでいた国を支配しやがった超越者が機械神という、数多の機械を操る、人類に反逆した被創造物の手本みたいな存在だったからである。

 経験上、機械系の相手はよほどの高性能でなければ駆動音が聞こえるので、事前に存在を察知することが可能だ。どれだけ犬や猫、あるいは猛禽類など、野生の狩人たちの姿形を真似ようとも、その静かなるハントを真似ることは機械には難しい。

 ただ、鋼鉄の肉体を持つ機械生命体は大概、物理的な攻撃に対して、生身と比べて大分強い耐性があるので、猟銃はもちろん、ナイフや普通の剣などは全く歯が通らない。


「雷どーん」


 そのため、機械系の敵を屠るための最適解はずばり、電撃によって回路ショートさせることである。水をぶっかけてショートさせるという手段もあるが、敵によっては防水加工をしている可能性もあるので、やはり、電撃が安定している。


「ほい、ほいほいっと」


 というわけで、機械系の敵が蔓延る施設内で俺は、『紫電の杖』を振い、次から次へと湧いてくる暴走した工業用ロボットたちを破壊していた。

 ドリルを持つ人型のロボット。

 資材を運搬するための貨物運送ロボット。

 他にも警備用の非殺傷の銃器を携えた戦闘用のロボットなどが姿を現したが、すぐに俺が放つ紫電によって動きを止めていく。


「オウル。これで何体目だっけ?」

《種類を問わないのであれば、合計で百四十六体目です》

「そうか。結構壊したなぁ」


 俺は現在、放棄された工業施設に侵入している。

 かつて、栄華を誇った人類の叡智の一端。最終戦争後にも、運よく、あるいは、運悪く残った、稼働し続けている工業施設。

 既に施設内に生命を持つ存在は居ない。ただ、命無き鋼鉄の従事者たちが、命令された行動を続けるだけの、文明の残骸。されど、最終戦争を生き延びた人類たちにとって、この施設の機械類や技術データは貴重な物になるだろう。

さぁ、狂った機械の監視を潜り抜けながら、見事、価値ある宝を奪い取れ。

 そういう設定のダンジョンらしいのだ、この工業施設は。

 ――――『閉空塔・第1階層』は。


《ミサキ。本来、想定されている攻略方法と違うようですが、よろしいのですか?》

「いいの、いいの。どうせ、第1~5階層まではご丁寧に『探索者』ごとに別空間を用意しているみたいだからさ。節度を持って暴れれば他人に迷惑は掛かりません」

《節度を持たないと、空間を崩壊させますからね、貴方は》


 失礼な、確かにちょっとテンションが上がり過ぎればそういう傾向はある。ゲームに熱中し過ぎて、コントローラーをぶち壊すようなノリで、空間を壊してしまうこともある。だからこそ、あえて最初に敵を呼ぶ系の罠に盛大に引っかかって、敵を全て倒してからゆっくりと探索しようとしたのだ。とっさに、空間をべきっと壊してしまわないように。


「異界渡りとして、このダンジョンの管理者には敬意を払って行動しているつもりさ」

《意図されたコンセプトとは真逆の方向で、無双している現状だと、管理者を小馬鹿にしているようにしか見えませんが》

「大丈夫。フシとツクモから『ダンジョンの階層を丸ごと一つ潰しても、なんだかんだで許してくれる』甘い管理者だって聞いているから」

《なんて嫌な確信犯》


 良いんだよ、まともに探索してもすぐに終わってしまうから全然楽しくないんだ。だから、仕事ではないにしろ、俺は俺なりに楽しみを見つけながら行動をしていくのだ。例えば、やり込み過ぎたゲームを再び遊ぶ時、いろんなルールを勝手に付けて楽しみ方を変えるような、そんな気分で。


「よし、大方片付いたかな?」

《合計二百六十六体でしたね》

「んんー、オウル。この残骸を持って帰ったら『博士』は喜ぶと思う?」

《量は多いですが、質が低いので微妙かと》

「じゃあ、放置で」


 俺は稼働するロボットを全て破壊したので、悠々と施設を見学して回る。

 大きなディスプレイに施設内の見取り図や、ロッカーには何故か隠されてあった大型の工具、レーザー銃と言ったロボットへの対抗手段。さらには、職員のコンピューターを漁ると、稼働しているロボットの一部を止めたり、警備ロボットの巡回ルートのデータなどが分かる仕様になっていた。

 きちんと堅実に探索を進めて行けば、大体の人間ならば解決できそうなダンジョンである。


「丁寧な造りだよなぁ、尊敬するぜ」

《クソみたいな攻略をした後だと、ただの挑発にしか聞こえませんよ、ミサキ》

「いやいや、ガチで尊敬しているし、羨ましい。俺も初ダンジョンとかは、これくらいに丁寧で分かり易い仕様だったらなぁ」


 基本的に、俺のダンジョンアタックはほとんどの敵をスルーして、ボスの首を落とすだけの単純なお仕事だったからね。途中で何度か罠に嵌って死にそうになったけど。その分、罠の解除や警戒の経験ががりがりと上がった物だよ。それ以上に暗殺の経験値が上がったけど。


「ふんふん。まずはこのカードキーで部屋のロックを解除。その後は、はいはい、ロッカーの扉に貼ってあったヒントでパスワードを解除して、このパソコンから最深部に繋がる防壁を上げるように命令する感じか。よぉし、やるぞー」

《敵は適当に片付けたのに、真面目に探索はやるのですね》

「こういうのは結構楽しい」

 探索系のゲームは結構好きなんだよね、俺。しっかりと小物や背景が作り込まれていたりする作品だと、より楽しめる。この工業施設も、中々作り込みが素晴らしい。

 錆びて劣化した部分と、そうでない部分の違い。

 ロボットが良く通る通路は清掃され、本来、人が通るべき場所は朽ち果てて、埃が積もっていた。一歩進むごとに埃が舞い、硬質的な音を響かせる廊下。切れかけた照明。


「ここが第1階層のゴールか」


 そして、進んだ先にあったのは認証タイプの転移ゲートだった。

 三重に降ろされた防壁の先には、小さな小部屋と、その中央に鎮座する端末が。この端末のディスプレイに手を置くと、クリア扱いされて、次の階層へと転移するらしい。

 もしくは、リタイアの意思を示せば、自動的に『閉空塔』の外へ転移させられるのだとか。


《思ったよりも時間がかかりましたが、進みますか? ミサキ》

「もちろん。今日中にさっさと5階層まで終わらせるさ」

《なるほど。では、私も微力ながらサポートしましょう》

「おう。いつも頼りにしているぜ、相棒」


 俺は素直にディスプレイに手を置き、起動した転移術式に身を任せた。



●●●



「おめでとうございます、ミサキ様。我々が運営を開始して以来、第5階層までの最短攻略時間となっております。つきましては、レコードホルダーとして記念写真を撮りたいのですが、よろしいでしょうか?」

「いいけど、仮面は取らんぞ」

「構いませんよ」


 第1階層を突破してから、おおよそ一時間後、俺は残りの四つの階層を攻略した。

 この『閉空塔』では、第5階層まで挑戦する探索者ごとに別の空間を用意されている。加えて、用意されるダンジョンはランダムであり、外で情報を用意しても役に立つかどうかは分からない。

 ちなみに、俺の場合、残りの四階層は生物兵器が潜む洞窟だったり、廃墟の街だったり、謎の神殿だったり、延々と続く長い直進の通路だったりした。

 どれもまともに攻略すれば、相応に時間がかかりそうなダンジョンであるが、情報探査に秀でたオウルと、空間を支配する権能が合わされば、突破は容易い。内部空間を把握したら、次の階層に進む部屋に転移したり、ボスを倒せばいいだけだからな。


「はい、チーズ」

「いえーい」

「…………仮面だと笑顔かどうかわかりませんね!」

「大丈夫、仮面の下はメッチャ笑顔だよ、俺」


 第5階層から転移した先にあったのは、大きなエントランスホールだった。

 そこには、俺以外の探索者も多数存在しており、また、受付には同じ顔をした美形の女性たちが、探索者たちと何やら受け答えをしている様子。かく言う、この俺に対応してくれている受付の人も、他の女性と同じ顔だ。


「ついでに粗品をどうぞ。一粒食べるだけで、一日分の栄養素をしっかりとれる栄養剤をワンケースです。ダンジョン内でのお手軽な食事にお勧めの一品ですよ?」

「ほう、じゃあ、折角だから頂こうか」

「その他、最低限必要な物資はエントランス内の受付で用意しておりますので、ダンジョンで集められるメダルで交換が可能です。是非、これからの探索のため、積極的なご利用を」

「そうだね、何か必要な物があったら買うとするよ」

「ええ、その時は対応させていただきます」


 クローン技術による複製人間かもしれないが、少なくとも、対応してくれる受付の人はしっかりと人格を所持しているので、気味悪くは感じない。筋骨隆々の山賊面の大男と交渉して、物資を手に入れていた昔のダンジョンアタックに比べたら遥かにマシな気分だ。


「ミサキ様、この後はいかがなさいますか? 次の階層への転移も可能ですが、探索者専用のカプセルホテルなども御座いますが。もちろん、防犯に関しては我々が保証します」

「ふむ。それじゃあ、ひと眠りしてから先に進むとするよ。あ、シャワーとかはあったりするのかな?」

「もちろん。男女別に、それぞれの個室を用意しております」

「はっはっは、それりゃいい。致され尽せりだな」


 受付の存在。

 探索を補助する、宿泊施設。

 ダンジョン内で流通させている貨幣。

 これらはあまりにも、探索者にとって都合の良い存在だ。けれども、間違いではない。何も矛盾していない。


「そんなに、アンタらの主人である新人類は、この塔を攻略してほしいのか?」

「ええ、もちろん――――是非に」


 何故ならば、このダンジョンの管理者は探索者たちに攻略させるために、運営しているのだから。

 新人類から、旧人類への試練であり、また、救済の糸であるのだから。

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