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第170話 道化師は嘲笑う 4

昨日、体調不良で更新できなかったことを深くお詫びします。

季節外れの風は、ヤヴァイ。

あ、お詫びとして今日は二回更新します。次は、23時の更新です。

※追記:予約投稿のつもりが、通常投稿してしまったので、次話は投稿済みです。

    作者の阿呆と罵りつつ、物語を楽しんでくださいませ。

 あまりにもスケールが違う話に、俺は眩暈を覚えた。

 神話というレベルですらない。

 そういう尺度でさえ、測りきれない世界の真実。

 さながら、箱庭ゲームの登場人物になってしまったような、自身の矮小を自覚させられる恐怖。コズミックホラーという言葉が、当て嵌ってしまう状況。

 鍛え上げた自らの力さえ。

 仲間たちとの絆さえも。

 圧倒的な破壊の前では無意味だと、突き付けられたかのような気分だった。


「くふふ、そもそもどうして人間が超越者に覚醒するのか、わかるかい? それはだね、全世界にばら撒かれた破壊神の因子に過剰反応してしまったからさ。普通に考えて、精神の逸脱程度で世界を滅ぼす力など、手に入れられるわけがないだろう? 従って、正しく覚醒者である超越者は全て、破壊神の影響を受けているのだよ」


 超越者。

 まともに相対することが馬鹿らしい相手。

 今まで、幾度も俺が戦い、屠って来た強敵。

 それが、そいつらがまさか、おまけ程度の存在? 死んだ後の影響でしかない? なんて、悪い冗談だ。笑えない。笑えないが――――代わりに、理由が分かった。


「そうか。あの『導師』が俺に執着する理由、それは」

「うん、その通り。超越者殺しという異名を得ているからだ。つまり、破壊神の因子を殺す者。やぁ、人類の中に隠れ潜む破壊神を殺す存在としては、ぴったりだねぇ?」

「…………あの『導師』はテロリストでは無く、全世界を救済へと導く存在だったと? あいつの方が、俺たちよりも正しかったとでも?」

「違うよ、カンナ君。これは、正しいとか正しくないとかの問題じゃない。善悪の問題でもない。多いか少ないか。そして、長いか短いかの単純な問題に過ぎないのさ」


 価値観が逆転する。

 正しさが揺らぐ。

 だが、それでも自分のやって来たことに後悔はないと、歯を食いしばって耐える。


《ミサキ。これ以上の問答は危険です。あいつは嘲笑の超越者。いくらミサキでも、これ以上の問答は取り返しがつかなくなります》

「忠言感謝するぜ、オウル。だけど、取り返しならもうつかなくなっているんだ。だから、言えよ、クロエ。まだ、言っていないことがあるだろ? そう、『導師』がこの世界に超越者を引き連れて来た理由を! 案外、それこそがこの行き詰った状況を打破できる鍵なんじゃねーのか?」

「くふふ、相変わらず勘が良いなぁ、カンナ君は。まぁ、でもそうだとも。先に言ってしまうが、君の考え通りだよ」


 俺の意地を望ましいと受け入れる様に、クロエは楽しげに笑う。

 嗤って、笑って、そして、何でも無いように告げた。


「この世界に、破壊神の魂を持つ者が居るんだよ。『導師』はそれを探し出そうとして、失敗した」


 それは、絶望の理由であり、同時に希望へと繋がった。

 現状、唯一出来る破壊に対する対処法。

 滅びから逃れるための、実現可能な手段。

 破壊神の再殺へと。


「超越者をたくさん引き連れていったのは、未覚醒であろう破壊神の魂を呼び覚ますためだろうねぇ。覚醒しきれていない状態なら、あいつ単独で殺しきる自信はあったんだろうけど、残念。どうやら、資格が無かったみたいでね。あいつ自身も今はそれを理解しているからこそ、カンナ君を救世主とやらに仕立て上げようとしているんじゃないかな?」

「…………はた迷惑極まりない話だな。だが、感謝するぜ、クロエ」


 俺は速やかに覚悟を決めた。

 大丈夫だ、何も問題ない。

 たった一度限りならば、俺は何者にもなれる。なんだって出来る。

 だから、頼むぜ、オウル。


《………………探査、完了しました。人類生存可能な領域、全てを探査したところ、動作反応が見られた地点が一つ、存在します。ですが、ミサキ、これは――》

「転送してくれ、オウル。頼む。もう、手遅れになりたくないんだ」

《――――了解しました》


 予想は当たった。

 破壊神の魂を持つ者が存在しているとして、現在が『予行練習』としてこの有様になっているとしたら、すなわち、俺たちを除いて、動いている物が破壊神の魂を持つ物だ。

 流石に、この俺が破壊神の魂を持つ物というオチは無いだろうが、その場合は、速やかに自殺すれば問題はない。

 そして、破壊神の魂を持つ者がどれだけの力を持っていようとも、問題ない。

 一度限りならば、殺せる。

 そうだ、今こそ、その時なんだ。


「情報提供感謝するぜ、クロエ。だが、俺は『導師』とやらの試練をのうのうと待つつもりも、絶好のチャンスを逃すつもりもない。救世主になんてならずとも、世界なんて片手間で救ってやるよ」

「……そうかい。んじゃあ、頑張るといい。私はすぐそこで見守っているよ。けれど、忘れないで欲しい。資格があるということはつまり、『そういうことなのだと』」

「お前はさ、こういう時ぐらい意味深に言わず、はっきり言えよ、まったく」


 一瞬だけ表情を消した後、クロエは皮肉げに唇を歪めて肩を竦めた。

 その大仰なしぐさに、俺は苦笑を残して、空間転移を行う。

 『導師』との因縁など知らない。

 破壊神と創造神の争いなんて知らない。

 だが、俺の大切な物を壊そうとする奴は許さない。相手がどんな大物だろうが、何の脈絡もなく、あっさりと殺してやろう。

 今だけは、超越者殺しの英雄に戻って。

 その役割を果たして見せようじゃないか。



●●●



 転移した先は、古ぼけた体育館だった。

 もう既にあらゆる物が撤去され、誰にも使われておらず、ボロボロの体育館。

 けれど、何故か、既視感がある。

 いや、何故かではない、此処は――――


「ちぃっ!」


 転移先への思案、その隙を突くように何者かの影が俺へと近づいてきた。

 死角からの攻撃。

 されど、俺にはオウルが居る。

 オウルの存在によって拡張された視界は、死角であろうとも余すところなく見ることが可能だ。つまり、背後から鋭く差し込まれそうになるナイフを弾くことも、容易。


『――――紫電・発剄』

「っつ!?」


 容易だったはずだ、襲撃者の腕に触れた瞬間、紫電の流れがこちらに及ばなければ。


「くそ、がっ!」


 機械天使の体でよかったとつくづく思う。

 この肉体は機械なれど、生半可な一撃では傷一つつかない頑強な耐性を誇る。無論、何の工夫もされていない電撃であれば、例え、この身に雷が落ちても問題ない。加えて、概念防壁を常に展開されているので、一定以上の魔力を伴わない攻撃は無意味だ。

 そう、だから本当に機械天使の肉体でよかったと思う。

 生身だったら、死んでいたはずの一撃を受けて、右腕一本行動不能となるだけで済んだのだから。


《ミサキっ!》

「心配するなよ、相棒。問題ない、何も問題ないさ――――俺が俺である限り、どんな逆境でも問題ない」


 俺は攻撃を受けると同時に、速やかに小刻みな転移を繰り返して襲撃者から距離を取った。

 小刻みな転移をするのは、転移のラグを少なくして、少しでも転移後の奇襲を防ぐため。けれども、襲撃者は俺の転移によるかく乱に付き合わず、静かにこちらを見据えている。


『…………』


 襲撃者は、奇しくも狐の面を被った学生服の少年だった。

 中肉中背。

 伸ばし過ぎた髪を、後ろで纏めている。


『行くよ』


 ノイズが混じった声。

 狐面に、本来の声を誤魔化す機能があるのだろう。

 けれど、それでも、何故だろうか、このノイズ交じりの声に既視感を覚えてしまうのは。


『韋駄天・疾走。そして、剣鬼・再演』

「ぐ、おおおおおおおおっ!!」


 俺に既視感の正体を掴ませないまま、襲撃者との本格的な戦いが始まった。

 襲撃者の攻撃は、多彩。

 空間転移では無く、宙を駆ける高速移動。

 達人の動きごと、振るった剣を再現する再演術。

 その他にも、数多の数えきれないほどの能力が次々と切り替えられ、さらには、その使い方を全て中途半端ではなく、一定以上の習熟を見せるのだから、恐ろしい。


「お、おおおおおっ! 見えているんだよ、おらぁ!」

『ぬわっ!?』


 しかし、恐ろしいと言えば恐ろしいが、この襲撃者よりも、俺は『導師』の方が手強いと感じた。

 無論、その理由は色々存在する。

 例えば、動きのどれもが一定以上の習熟はしているが、未完成であり、『導師』のそれに比べたら脅威ではなかったこと。

 例えば、襲撃者が使う能力の全てを、俺は見知っていたこと。

 例えば――――――襲撃者の動きを俺が予測出来てしまうほど、見慣れているといこと。


「異能の繋ぎより! 繫いだ後の方が、隙があるんだよ、お前は!」

『お、ごっ』


 数分ほどやり合えば、襲撃者の隙を突き、明確にそのボディへ痛烈な蹴りを食らわせてやる程度には、俺はそいつの動きを見知っていた。


『い、やぁ、驚いた。強くなったなぁ、びっくりだよ』


 すりすりと、腹部をさすりながら肩を竦めるその動作。

 俺が、異界渡りになってからよく真似ていた動作。

 ああ、むしろ、何故人目で気づかなかったんだろう?

 どうして、俺は気付いていたのに、途中までそれを認められなかったのだろう?


「……なんで、だよ? なぁ、なんでお前がここにいるんだよ?」

『んんー、何でと言われても、『そういうことだから』としか答えられないよ、僕は。というか、バレちゃったなら、必要ないよね、これ』


 襲撃者は、ゆっくりと自らの仮面を外す。

 露になったその素顔に、俺は当然、見覚えがあった。あるに、決まっていた。

 中性的な顔立ちのベイビーフェイス。

 困ったように浮かべた笑みは、他者を魅了する奇妙な安心感があって。

 幾度も、戦場で交わした視線が、今、再び交わされていた。


「やぁ、おはよう、神奈。そして、久しぶり。随分とまぁ、美人さんになったねぇ、君は」


 戦友が。

 親友が。

 ハルが。

 ――――――石神春渡が、そこに居た。

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