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第169話 道化師は嘲笑う 3

 破壊と滅亡の話をしよう。

 破壊神と呼ばれる、高次元の神性存在が生まれるまでの経緯を語ろう。


「ここは寂しい。だから、誰かを招こう」


 最初。

 原初と呼ばれる、光すら存在しない地点に、その知性生命体はあった。

 始まりに存在していた誰かには、不思議なことに数多の知識があった。数多の能力があった。それは全能には及ばずとも、大抵の事であればなんでも可能にしてしまう能力だった。

 そして、不思議なことにその誰かは、最初から自分以外の存在を知らないはずなのに――そう、『他者』という存在を知る余地が無いはずなのに、それを知っていた。故に、それを求めた。独りぼっちが寂しいという心の動き……のような物があったので、他者を造り始めることにしたのである。

 幸いなことに、その誰かには全能には及ばなくとも、それに近しい力がある。

 だから、創った。

 世界を。

 生命を。

 文明を。

 自分以外の他者を、たくさん、たくさん、それこそ数の概念が無意味になるほどの数を造り、始まりの誰かは、創造神となった。


「おかしいな? たくさん作ったはずなのに、誰も『此処』に来ないぞ?」


 創造神となった誰かは、たくさんの世界とたくさんの他者を作ってから不思議に思う。

 自分の場所に、誰も来ない、と。

 創造神は考える。

 創造神は全能に近しいので、もちろん即座に理解する。時という概念すら必要なくなるほどに即座に。考えるとほぼ同時に理解するので、ひょっとしたら考えるという行為は創造神には当てはまらないのかもしれないが、ともかく、理解した。

 高さが、足りていないと。

 創造神が高みにあり過ぎて、誰も自分の事を知覚できないのだと。


「そうだ。なら、高くなるようにしよう」


 故に、創造神は作った。

 他者が。

 魂が。

 多くの生を繰り返し、高みを目指すためのシステムを。

 それが、輪廻による魂の循環である。


「可能性を決定する。いずれ、他者が、『此処』に至れるように」

「はいさー、了解」

「…………えっ?」

「運命設定完了。ではでは、さようなら」


 輪廻のシステムは、創造神が作り上げた多元世界よりも低い位置に設定した。死した生命の魂が、自然に輪廻へ引っ張られていくように。

 なお、その過程で【いつの間にか居た誰か】である運命神と、創造神は初遭遇するのであるが、以後、創造神がどれだけ力を尽くして、運命神を探そうとも見つけることは出来なかった。

 創造神の力を以てしても、運命神が何者なのか知ることはできなかった。

 どうやら、輪廻に加えられた運命というシステムは創造神の領分すら外れた、何かの力が宿ってしまったらしい。

 けれども、既に賽は投げられた。

 もはや、創造神ですらそのシステムを止めることは出来ない。

 運命に従い、生命は輪廻を繰り返す。

 何度も何度も。

 無限すら超えた世界の中で、あまりにも多すぎる生命が輪廻を繰り返して。

 そして、ようやく一つ、高次元へと至る準備を終えた魂が出来上がった。

 エンブリオ。

 漆黒の卵。

 可能性の雛型。

 それに到達したのは、とある人類の魂だった。

 彼の魂は驚くことに、全て人類という知性体で生命を体験しており、その全てが悲劇で終わった魂だったのである。


「なんと可哀そうに。『此処』まで来たら、優しくしてあげよう」


 創造神は待ち望む。

 エンブリオが孵化するまでの時間は、エンブリオが出来上がるまでにかかった時間に比べれば瞬きにすら及ばないほど僅かだというのに、創造神は一日千秋の想いで待っていた。


「あ、あぁあああああああああああああああああああああっ! なんだ、『此処』はぁ!!? ふざけるなぁ! ふざけるなぁああああああああああっ!!」


 しかし、待ち望んでいた高次元の同類は既に、発狂していた。

 怒りに狂っていた。

 孵化の過程で知った、己の運命に。

 魂が巡って来た悲劇の連続に。

 その原因が、創造神と呼ばれる誰かによる物という、真実に。


「俺たちは! 私たちは! お前たち(神々)の玩具じゃない! そんな物に成り果てるぐらいならば! 全て、そう、全て! 壊してやる! それが、我が役目! 我が使命! 我が権能ぉ! 破壊神は、『此処』に顕現するっ!!!」


 かくして、創造神と破壊神の争いは始まった。

 創造神は、荒ぶる破壊神を何とか宥めようしたが、そもそも事の元凶が何を言おうとも全く無意味。破壊神は、その名の如く世界を破壊していく。創造神が造り出すよりも、圧倒的に速いスピードで。どうやら、破壊神は創造神と違って、破壊に特化しているが故に、その一点のみ、創造神を凌ぐようになっているようだった。

 そのため、最初の終わりは意外と早く訪れた。


「も、もう、やめ――」

「これで全部だ! 全て壊した! はははっ! 後は、自分も壊せば、それで終わりだ!」


 破壊神は全ての世界を壊した後、自らの命も壊した。

 自分という存在を残すことさえ、創造神にとってプラスに働くと知っていたが故の、徹底的なまでの嫌がらせである。

 創造神はしばらくの間、時間にして数億年ほど何もない場所で悲しみに暮れていたが、ふと思い直す。

 失敗したのならば、やり直せばいい。

 失ったのなら、造り直せばいい、と。


「今度は優しい同類を造ろう。そのための、世界を造ろう」


 創造神は繰り返す。

 世界を造り、生命を造り、文明を造り、輪廻を造り上げた。


「あーあ、こうなってしまったかぁ。じゃあ、しょうがないねぇ」


 輪廻を造り上げた時、運命神の嘲りが聞こえたが、気の所為だと思った。

 ――――気の所為では無かった。

 創造神は繰り返し果てに、壊れたはずの存在を見た。


「俺たちは、私たちは、破壊神。破壊を司る者。貴様がどれだけ世界を作り出そうとも、その全てに我が破壊の因子は存在する。絶望しろ、貴様の場所に行く魂など存在しない。存在させない」


 壊れたはずの破壊神は、それでも、高次元の存在だ。

 自らを破壊する際、条件付けで復活することを決定しておくことぐらい、他愛もない。

 何故ならば、形が存在するものは必ず壊れる定めにある。故に、存在しているならば、破壊神の因子から逃れることは出来ない。

 全ての世界に存在する知性体は、その時がやって来れば、破壊神の因子に影響されて、強制的にエンブリオへと変えられてしまう。

 されど、それは高次元への進化としてではなく、高次元から全世界を滅ぼすための爆弾としての加工である。

 全世界に存在する、全ての知性体は世界を滅ぼす爆弾へと変えられる。

 それらは、滅びたはずの破壊神の覚醒によって起動し、再び、世界を滅ぼす。世界を滅ぼすために、破壊神は目覚めるのだ。

 何度も、何度も。

 創造神が世界を創り続ける限り、何度でも蘇って、世界を滅ぼす。

 その名の通り、破壊を司る神として、正しく世界を破壊する。

 例え、その正しさが無数の命を壊す物だったとしても、破壊神は止まらない。止めない。創造神が折れて、諦めるまでは。


「あははは、ちょっと面白くなってきたぞ」


 度し難いのは、悲壮な決意を秘めた破壊神の覚悟ですら、創造神にとっての楽しみにしかならなかったということだろうか。

 折角、造り上げた世界やシステムを壊されるのは、正直、気に入らない。

 けれど、その不快が良い。己に不快を与える『他者』との争いというのは、創造神にとってはとても新鮮で、得難い快楽を与えてくれる遊びになっていた。


「じゃあ、こうしよう」


 だからこそ、創造神は手駒を作った。

 数多の知性体の中の――――人類というカテゴリーに潜伏する破壊神の魂を見つけて、覚醒するよりも先に、砕くために。

 創造神の手駒が、全世界崩壊よりも先に破壊神の魂を破壊できれば、勝ち。破壊神の魂は、再び砕け散って人類の中で数百億年間ほど眠り続ける。

 創造神の手駒を上回り、破壊神が全世界を破壊したら破壊神の勝ち。破壊神は再び砕け散り、創造神は新しく世界を創り始める。


「楽しいなぁ、破壊神」

「諦めろ、創造神」


 創造神は、破壊神との争いをゲームとして楽しむ。

 破壊神は、創造神との争いを復讐として遂行する。

 二柱の争いは止まることなく、ずっと続けられている。

 世界の存亡を巻き添えにして。

 ずっと、ずっと。

 そう、現在に至るまで、ずっと。

 これが、言ってしまえばなんてことはない世界の真実。

 神話と呼ぶには、あまりにもお粗末な二柱の争い。

 寂しがり屋の子供と、壊れた復讐鬼の争いこそが、世界が創られ、滅びる理由だった。

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