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第159話 見崎神奈の人間関係 1

 例えば、あの日、あの時、空が割れなかったとしたら、俺は一体、どのような人間になっていただろうか?


「大体、似たような奴になっているんじゃね?」


 記憶の中。

 学生服を着た俺は、無責任に、現在の俺に応える。

 俺は適当な答えを非難するように睨んだ後、そもそも、そういうことは絶対に起きないのだと、断定するために言葉を紡いだ。


「現在の俺の肉体は、美少女仕様なのですが?」

「いや、空が割れなくても摩訶不思議はある世界だっただろうが。だったら、ハル関係の何かしらで美少女になることもあったんじゃねーの?」

「…………うわぁ、ありそうだと納得してしまえるのが嫌だ」

「ハルの周りの美少女たちに邪推されて、散々な目に遭いそう」

「あいつらがそのままだった場合、そうなるかも……いや、そうなるなぁ」

「元の肉体に戻れないと、精神が女性よりになるから、そのまま雌落ちエンドもあり得る仕様だぜ?」

「それだけは絶対に嫌だ」

「シン先輩の事は好きな癖に」

「あれは好きにならない方が珍しい」


 過去の俺と、現在の俺。

 微睡の中で、俺たちは鏡合わせのように語り合う。

 冴えない男子高校生と、絶世の美少女。

 あまりにも不釣り合いな鏡合わせだけれど、中身は釣り合っているから問題ない。


「まー、美少女関係の事は置いといて、だ。それ以外にもさ、色々あっただろ? 大戦とか。あれで俺ってば、大分、方向性が変わったと思うんだよね? かなり荒んでしまったし。だから、普通に生きていくパターンと、大分、性格が変わっているんじゃないかと思う」

「そうか? そのまま生きていた場合でも、経験するだろ、戦争――――そう、受験戦争という無慈悲な戦いが」

「おい、一緒にするなよ」

「受験戦争を突然のインフルエンザによって乗り越えられなくなった俺! 滑り止めを受けようとした際、次から次へと巻き起こる不運! そして、浪人決定!」

「え? そんなん起こるの? ねぇ、そんな逆奇跡みたいなことあるの?」

「不運にも浪人となってしまった見崎神奈! 彼は、露骨に荒み始めて、勉強よりもバイト重視の生活へとシフトしてしまう」

「露骨に荒んでも、フリーター専念になるだけなのか」

「ふらふらとバイトを転々とする彼の眼前に現れたのは、なんと、道化師姿の美少女! 彼は危うく命を失う所を、救われたことをきっかけに非日常の扉を開くことになるのだった」

「え? そこでクロエなの? なんであいつが異能伝奇の始まりみたいな流れで、ヒロイン面

して出てくるの?」

「は、ははははは、それはな、俺。結局のところ、俺という存在は――――」


 揺らぐ、虚像が揺らぐ。

 夢の中で、戯れに分裂させた俺の可能性が、戻っていく。

 自覚している癖に、聞きたくない本音(真実)だけを残して。


「××にとってのマクガフィンなんだよ。そういう、宿命なんだ」


 現在の俺は、揺らぐ過去の俺へ、虚像へ手を伸ばす。

 待ってくれ、まだ消えないでくれ。

 俺はまだ、その答えを納得できたわけじゃないんだ。だから、だから、もう少しだけ、馬鹿みたいな仮定の話を。


「もう、夜明けは過ぎた。早く起きなさい、見崎神奈」


 無情にも揺らぎは止まらず、俺の指先すら触れることなく虚像は消えた。

 そして、俺の手は何も掴むことも、触れることも無く空を切る――――はずだったのだが、こう、ふにっ、という柔らかい感触が。


「ひゃんっ」

「ひゃん?」


 柔らかい感触と、聞き覚えのある誰かの声に引っ張られて、俺の意識は完全に覚醒した。



●●●



「だ、駄目じゃない、駄目じゃないですけど……そ、その! 朝ですから! 休日ですけど、これから朝ご飯ですから! だ、だから、するのでしたら、その、短く……」

「………………ん、んんん?」


 ふにふに、もにゅにゅん。

 寝ぼけた頭で右手を動かすと、何やらふわふわとして柔らかく、なおかつ低反発な何かを掴んでいる感触がしていた。

 恐る恐る目を開くと、リズが顔を真っ赤にして俺を見下ろしている。

 俺の手は、そんなリズの胸元に思いっきり収まっており、控えめに言っても、言い逃れが出来ないほど胸を――いいや、おっぱいを掴んでいた。そりゃあもう、がっしりとした鷲掴みだった。


「…………ふー」


 状況を理解した俺はまず、ゆっくりと右手をおっぱいから離す。大きすぎず、小さくもない美乳の感触は離れがたい物があったが、そのまま離さずにいると行き着く所まで行ってしまいそうなので、理性をフル稼働させて手を離したのである。

 そして、目を開いたまま、体の力を抜いて無抵抗状態へ。


「いいだろう、殺せ、リズ。俺は君に、それだけのことをしてしまった」

「や、あの、大丈夫です、ミサキさん! その、他の男の人だったら嫌ですけど……」


 もにゅもにゅと言いよどむリズ。

 ここは追及するべきなのか? スルーして話を流すのが正解か? それとも、このまま二度寝した方がいいのだろうか? ううむ。


「リズ」

「あ、ひゃい?」


 悩んだ末に、俺は決断した。

 リズの細くもしっかりと筋肉がついた腕を掴み、そのまま、手の位置を俺の胸にまでもって来させる。

 もにゅん、という奇妙な感触が自分の胸に伝わる。

 リズの小さな手の先が、俺の胸に当たっていた。いや、当てるように、俺が動かした。


「これで、お互い様ってことじゃだめかね?」

「は、はひ! 大丈夫です! 大丈夫ですけど! その」

「ん、何かな?」

「もっと、揉んで良いですか?」


 俺は微笑んで、リズに告げた。


「好きなだけ揉みなさい、減るもんじゃないし」

「わぁい!」


 そして、俺は数分後、とても後悔するとになったのである。

 まず、寝起きということで胸に下着を付けていない俺は、ダイレクトに感触が伝わる。そう、機械天使のボディならば、夜、窮屈な思いをせずとも綺麗な形を保てるのだ! 機械天使の肉体は常にコンディションを最善まで整える。そのため、夜はブラをしてなくても大丈夫だし、普通に生活をしていても肌つやが保たれる。

 だが、機械天使の肉体は美しいだけでは無い。有事の時には、ナノマシンが状況に合わせて性質を変化させ、時に、素肌で相手の刃を受け止め、銃弾を受け止めたりも可能となる。痛覚も鈍化するので、戦いには非常に有効だ。

 逆に、日常的な動作の時はナノマシンが臨機応変に対応し、皮膚や肉が柔らかさを取り戻したり、体の感覚が敏感になったりするのである。


「ふっ……ん、ちょ、ひゃ! あ、あのぉ、リズさん?」

「えへへへー、なんでしょーか? ミサキさん」

「いくらなでも、揉み過ぎ――んんっ、ま、待とう、そんな? そんな本格的ひぃ!?」

「駄目です……これはけしからんおっぱいです……人を駄目にします……責任をもって、私が処理しなければ……」


 つまり、素晴らしい揉み心地である俺の胸にはまったリズが、かなりねちっこく俺の胸を揉みしだくので、色々と健全な交流がピンチなのである。


「み、ミサキさんは普段って、その、どうしているんです? 一人で、一人でしているんですか? このけしからん胸で」

「ま、待とう、待とう!? おかしいテンションになってる! リズ! 君ってそんな人格だった!? エロスに人格が汚染されてない!?」

「本当は男の人なのに、女の人の体で戸惑いながらミサキさんが色々している姿……えへ、想像すると、その、何か火照って…………いいですよね? ね? この流れだったら、しますよね? 普通!」

「テンションが! テンションが! がっつく思春期男子みたいになってるぅ!?」

「この体を許されて、押し倒さない野郎は居ませんよ!」

「君は女子だろうが! 後、朝ご飯! 朝ご飯が冷めちゃう!」

「………………ううっ」

「そんなに苦悩する!? 苦悩しながらも何故、俺の胸を揉む!?」

「ご、ご飯を、ご飯を食べましょう! ミサキさん! 私の理性が無くならない内に!」

「よかった! まだ理性が残ってたんだな!?」

「ご飯食べてから、一回、抜かせてください!」

「駄目だ! 割と、頭の中、残念なことになってらっしゃる!」


 人類の夜明けはとっくに過ぎて。

 死にかけていた管理者や、光主もきっちり助けた後。

 あらかたの復興作業が終わり、そろそろ一息ついても誰からも文句を言われないような、そんな休日。

 晴天なれど、涼やかで、誰かと触れ合うのには最適だった、休日の朝。


「えへへ、ミサキさん! 今日はずっと一緒にいましょうね!」

「ああ、そういう約束だしな」


 俺とリズは寄り添うようにベッドから立ち上がり、冷たい水を求めて洗面所へ。

 さぁ、身支度を手早く整えて、美味しい朝ご飯を食べよう。

 リズの笑顔を見ながら、美しい朝を堪能しよう。

 世界を救った俺たちには、それくらいの休暇は許されていると思うから。

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