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第104話 勿忘草を摘みに行こう 11

復活したと思いきや、思ったより重傷で病院送りという。

とりあえず、一区切りついたし、洒落にならない体調のあれでしばらく更新ストップです。

大丈夫そうだったら、28日から更新再開です。長期入院だったら、活動報告で詳しく連絡しまする。

まー、多分、死にはしない類の奴だと思うのでご心配なく

「はっはー!」


 陽光と共に降って来たのは、聞き覚えのある不敵な声。

 眩さに目を細めながら、見上げると、愉快そうに声を上げながら見崎が空を滑空しながら降りて来た。


「いやぁ、前から一度やってみたかったんだよなぁ!」


 滑空しながら、見崎が無造作に腕を振るうと、ガォン! という奇妙な音と共に真っ白な巨人は一瞬で消し飛ばされた。

 お、おおお、早過ぎない? 強すぎない? ラブボスを一撃かよ?

 などと俺が驚いていたら、いつの間か再び、濃霧が俺達の周囲に集まってきた。


「んなっ」


 しかも、濃霧は再び霧の巨人を作り出す。一体や二体どころではなく三十体以上の霧の巨人が、村を埋め尽くしていった。

 まずい。いくらあの見崎と言えど、これだけの数を相手にするのは、


「――――圧倒的な暴力で、ホラーを台無しにしてやるの」


 困難だ…………と心配した俺が馬鹿だったらしい。

 滑空を終えて、地面の降り立った見崎は優雅な動作でぱちんっ、一つ指を鳴らした。

 たった、たったそれだけのワンアクションで全ては事足りた。


 ガガガガガガガガォンッ!!


 例えるのならば、巨大な獣の牙が空間ごと、巨人の群れを食い荒らしたような有様だった。

 丸ごと消去するのではなくて、乱暴に、けれど、確実に巨人に致命的な一撃を……『三十体以上の巨人全てにほぼ同時』で与えていた。

 時間にしてみれば多分、三秒にも満たない間だったと思う。

 たったそれだけの時間で、俺はもう見崎の事を心配するのをやめた。

 だって、そんなことをするだけ、時間の無駄だろ? 

見崎は無尽蔵に湧き出てくるような霧の巨人を全て、指揮者の如き腕の動きのみで殲滅している。しかも、見崎の動きにはまるで消耗しているような疲労が見えない。


「どれだけ戦力を補充しようが、無駄だ。お前が何者であるかも、お前の力の根源に何があるのかも俺は知らん。だが、これだけは理解している」


 渦巻くように集束する霧の襲来を、空間ごと破壊することで易々と制している見崎。あいつは、この場に居ない何者かに語り掛けるように、言葉を続けた。


「お前はもう既に、敗北しているんだよ。俺じゃあない。田辺平蔵というヒーローに……お前が恐らくは『玩具』や『犠牲者』だとしか思っていなかった一般人に、お前は負けたんだ。だから、どんなに足搔こうとも無意味だ」


 思わず顔を覆いたくなるような恥ずかしい言葉を、本気の口調で紡いで、見崎は己の――いいや、俺達の勝利を宣言した。


「お前自身が負けを認めている時点で、全ては負け惜しみにしかならない」

【――――――】


 やがて、見崎の宣言を受けると霧の集束はぴたりと止んだ。

 霧の奥に潜む、悪意持つ何者か観念して、悪あがきを止めたかのように。


「…………ふん、干渉を嫌って黒幕は手を引いたか。まぁ、いい。後で嫌というほど戦う宿命にあるみたいだからな。今は逃がしてやるよ――ただし、慰謝料としてお前が奪ったこの村の何もかもを返してもらうがな」


 霧の動きを止めて見せると、次に、見崎は虚空に向けて何かを掴むように腕を突き出した。

 ぐぐぐ、と視えない何者かの心臓でも抉り取るかのように手を動かすと、そのまま力強く『ぐわしぃ!』と鷲掴みにして、『何か』を豪快に引きずり出した。


「掌握完了」


 ぐしゃり、と熟れた果実を握りつぶすような音が響く。

 それが、それこそが、この悪夢の終わりだった。


「…………あぁ」


 ごーん、ごーん、と厳かな鐘の音がどこからか聞こえる。

 先ほどまで猛威を振るっていた濃霧は、いつの間にか消え失せていた。朝霧が陽光に溶けて消えてしまうかのように、あっさりと、最初から何も無かったかの如く。

 だが、俺は気づいた。

 霧も晴らし、黒幕とやらも見崎が追い払った。

 それでもなお、何か、醜悪な何かの塊が、俺達の目の前で蠢いていることに俺は気づいたのである。


『アァ……ナンデ、ナンデ、ワタシガ……』


 それは、例えるのならば、失敗した粘土細工に近しい。ただし、肌色の肉塊は間違いなく、人肉の色をしていたし、手足もぐちゃぐちゃに歪曲して、変な部分が肥大化し、逆に細っているような有様だった。

 人間ではなく、人間の失敗作と言った方が正確だ。


「ヘーゾー……あのね、あれは――」

「いい。大丈夫だぜ、沙耶。ちゃんと……じゃないけど、なんとなくわかる」


 心配そうに俺の顔を覗き込む沙耶を制して、俺はその『何か』に近づいていく。


「間違っても触るなよ、平蔵。お前を縛っていた呪いはもう晴れたが、そいつは穢れの塊だ。触るのは良くない。つーか、消し残しみたいな奴だから、俺が片付けておくぞ?」

「いいや、これは、こいつだけは、俺がやらねーとさ」

「そうかい。んじゃ、どうにもならなくなったら助けてやるさ」

「はは、そうなったら、遠慮なく頼むぜ、見崎」

 大丈夫だ、今の俺は一人じゃない。

 沙耶が居る。

 見崎が居る。

 沙耶とは長い時間を共に過ごした仲で、言わなくても大体、言いたいことや伝えたいことは分かる。例え、久しぶりの再会だったとしても。

 見崎の方は出会ってから丸一日も経っていないというのに、妙な信頼感がある。不思議だ。こいつにだったら、遠慮なく背中を預けられる、そんな安心感がある。

 だから、大丈夫だ――――俺はもう、独りぼっちの獣じゃない。


「母さん」


 俺が呼びかけると、その何か……いや、おそらくは『母親の成れの果て』らしき物体は、びくりと痙攣してけたたましく喚き声を上げた。


『ナンデ! ナンデ! ナンデ、オマエダケェ』


 醜い快音。

 動物の断末魔の如き喚き声を、俺は知っている。

 そして、知らない。このみっともない喚き声を上げていた人物が、どのような末路を得たのか、俺は知らない。つか、知りたくねぇ。知りたくも無かったぜ。

 でもまぁ、多分、ろくでもない有様になっているとは思ったけど、まさか、こんなところでこんな様になっているとな。


「ヘーゾー。これはもう、駄目だよ。悪夢の手先によって死者の魂に、人間の『嫉妬』という穢れをありったけ注ぎ込まれた呪いの塊なの。だから、もう、助けられない」

「別に、助けたいとは思わない。むしろ、ざまぁみろって思うぜ。一番の理想としては、二度と俺の前に現れず、何処かで適当に消えてればよかったんだけどさー……いいや、会ったなら、会ったで、一つだけ言いたいことがあったんだよ」


 助けたいなんて毛ほども思わず、むしろ死ね! さっさと地獄に落ちろ! という感想しかない。

 どんな経緯で、こんな有様になっているのかにも、興味は無い。

 ただよ? クソッタレなこの母親に、一言だけ言ってやりたかったんだ、昔から。


「おい、母さん」

『ナンデェ! ナンデェ! ワタシハ――』

「ありがとう」


 そうだ、本当にこれだけは言いたかった。


「俺を産んでくれてありがとう。アンタがどれだけ最低最悪だったとしても、クソみたいな幼少期を送らせやがったとしても、これだけは感謝している。だから、ありがとう」


 恨み言なんて阿保らしい。

 末路を嗤うのも面倒だ。

 けど、俺は俺のために、俺の心残りを失くすために、唯一、母親に感謝していることだけに対して礼を言った。

 ずっと、自分で自分を縛り続けて来た呪いを解くために。


『…………ナン、デ? ■■ぅ』


 俺が礼を言うと、何故か、母親の末路は姿形を崩して、霧になって消えて行く。

 まったく、意味不明だ。とりあえず、礼を言ったら、思いっきり石でもぶつけて倒そうかと思ってたんだけど、勝手に消えてくれて何より。

 …………ああ、本当にわっけわかんねぇわ。

 今更、本人が覚えてすらいない名前で呼ぶんじゃねぇよ、クソが。


「……ヘーゾー」

「うい、大丈夫だ」

「ん、でも一応」

「…………やっぱり、沙耶には勝てないなぁ」


 全然平気なつもりだったのに、沙耶に触れられた瞬間、一気に脱力した。

 小さくて、温かい手の感触。

 懐かしくも、ずっと求めていた温かさ。


「当然だよ。だって、私はヘーゾーよりもお姉さんだもの」

「土地神様と年齢で競う気はねぇよ」

「んもー、女性に年齢の話は禁止って言ったでしょ?」

「先に振ってきたくせに」


 今度は、この繋がりを忘れないようにしよう。

 例え、沙耶から手を離して来たとしても、何度も、走って繋ぎに行こう。

 俺はもう、この温かい繋がりを忘れない。

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