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軽くフィクション・飛  作者: 高岸げひら
5/5

(スキージャンプ・飯野佳那)

 本当は、あのアニメの青い電車(サキちゃんに言わせると「たしかに中身は電車だけど、見てくれは汽車だよ」)みたいに、そのままずっと空を飛んでいたい(これもサキちゃんに言わせると「あれは本当は飛んでいるんじゃなくて、透明なチューブの中を走っているだけ」)。

 永遠に、着地しなくて良ければいいのに。


 いくら、リスクを削ぎ落として、海外のマスコミから『助走マネキン』(いい意味で、だとは思う)と揶揄されるくらい姿勢をブレさせずに踏み切りまで持ってきて、最高に気持ちのいい、地面から解き放たれた時間を味わう至福があっても、その後必ず訪れる、もう、リスクの範疇ではない、恐怖の瞬間、着地。

 解き放たれていた私に、再び一気に重力が襲いかかってくる瞬間。

 昔、テレビの衝撃映像みたいな番組でうっかり見ちゃった、当時、日本のエースだった選手が着地の瞬間に雪に板を取られて、転倒してすごい雪煙を上げながら、ランディングバーンを何十回転も転がって大怪我を負った映像。

 飛ぶ前に必ずどこかであの映像がフラッシュバックしてくる。ほんともう、律儀に。

 もう、私の中で、あの選手は何万回転して何千回雪まみれになっているか、わからない。

 そのたびに、自分に問い掛けるんだけど。

 もう、やめてあげようよって。

 でも、必ずフラッシュバック。

 そして、次に、その選手が私に差し替えられた映像が、流れる。

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 なんなら、飛んでる最中にフラッシュバックすることだってある。

 ヤバい、ヤバい、マズい、ゼッタイ。

 もし私の空中での小さな唇の動きをキリトられたら、簡単に読まれちゃうと思う。

 これが、ジャンプ台の上で座ってスタートを待ってる時だと、このまま棄権してリフトに乗ってゲレンデを下りたいって思うくらい、一瞬気持ちがしぼんでしまう。

 いつか誰かが言ってた、「分娩台に乗った瞬間にあの出産の痛みの恐怖が甦る」って感覚に通じるような。

 ヤバい、でももう戻れない。行かないと、あの至福の時間は味わえない。

 だから、飛ぶ。

 誰よりも必死で、リスクをひたすら削ぎ落としてきた自分を信じて。

 自分のためにベストのスタートタイミングを探してくれてる坂西コーチと、マリちゃん、サキちゃんと会心のハイタッチができるように。

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