(スキージャンプ・飯野佳那)
変な話、してもいい?
きっと、私の顔の皮って、まわりの、あ、ジャンプをやってない子たちより、絶対少し厚くなってると思うんだよね。
まだ、目のまわりとかはゴーグルがあるからいいんだけど、顔の下半分はさあ、モロに飛んでる時、冷たい風を受けてるから、きっと、厚くなってる。と思う。
ついでに大きな大会だと、しかもナイターだと照明も浴びちゃうし。
あ、それ、あんま関係ないか。
私、なんで、飛んでるんだろう。
環境?それはあると思う。
大いに。それはもう大いに。
ユキグニに生まれて、車でちょっと行けばスキー場がいくつもあって、なんか気が付いたらスキーを履いてた。
おにいちゃんが地元のスポーツ少年団とかに入って、子供用の小さいジャンプ台で飛んでて、「佳那もやってみ?」みたいな話になって、言われるままにジャンプ台に入ったら、なんか飛べて、おじいちゃんとかもすごい誉めてくれて、それが嬉しくて、もう一回飛んだ。
ホントに、きっかけって、それだけ。
ミスチルの歌じゃないけど、もう一回もう一回と、飛んだ。
その流れで、私も少年団に入って、学校のあとは飛ぶのが日課になっちゃった。
で、今に至る。
ただ、そのままいつの間にかスキー板が長くなってジャンプ台が大きくなった感じ。
日本だけじゃなくなったし。
ただね、本当に、怖いの。
でもね、飛んでる時は、気持ちいいの。
地面から、解き放たれてる、みたいな。
でもね、これは飛ばないと分からないと思うけど、スキージャンプって、着地する斜面はものすごーい大きい壁に見えるの。
何回飛んでも。
夜とか、暗闇に、壁。ホントヤバいと思う。
このまま、あの、大きな壁にぶち当たって、私、ぺちゃんこになっちゃうんじゃないかって、本気で思う。
そう思って飛んでたらね、たぶん信じないと思うけど、ちょこっとだけ、不思議な力が使えることに気付いたの。
着地の瞬間を、ちょこっとだけ、伸ばせる。
ちょこっとだけ、本当に、ちょこっとだけ、なんだけどね。