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内緒ですが恋愛結婚です  作者: 樫本 紗樹


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初めての夜会

 サラは初めての王城に緊張すると思っていた。しかし馬車でのクリフォードとのやり取りで、むしろどうやって緊張をしたらいいのかわからない状況になっていた。

「別にいいじゃん、口付けくらい」

「口紅を直せないから駄目」

「帰りならいいの?」

「寝室まで待ちなさいよ」

「えー。さっき帰った時も頬に口付けしてくれなかったのにー」

「それは口紅がつくから出来ないと説明したでしょう?」

 クリフォードとのやり取りにサラは疲労を感じていた。馬車に乗っている時間は大した時間ではないはずなのだが、王城へ辿り着く前に体力を使い果たしそうな気さえした。

 そんな不毛なやり取りを繰り返している間に馬車は王城へと辿り着きゆっくりと止まった。従者が踏み台を置き扉を開ける。クリフォードは拗ねた表情のまま降りるとサラに手を差し伸べた。彼女はそこに手を添えてゆっくりと馬車を降りた。彼はすかさず彼女の腰に手を回す。彼女はそれを抓った。

「腰でいいって言ったじゃん」

「歩き難いのでせめて中に入ってからにして下さい」

 クリフォードは渋々腰に回していた手を離し、腕を出した。サラはそこに手を添えて王城へと入っていく。彼女は初めてなのでどこに向かっていいのかわからなかったが、彼が迷いもせずに歩いて行くのでついていった。

 暫く歩いて辿り着いた場所は大広間だった。一瞬では数えきれないくらいの人達がいてサラは頭の中に叩き込んだ貴族名簿を必死に広げ始めた。しかしクリフォードは誰かに挨拶するわけでもなく大広間前方の壁際へと移動していく。

「挨拶は宜しいのですか?」

「誰にするの?」

「お仕事でお世話になっている方やお義姉様でしょうか」

 サラの言葉にクリフォードはつまらなさそうな顔をする。

「仕事は部屋に籠って書類整理しかしてないし、姉達は俺を認識していないのに挨拶をするわけがない」

「御一人でお仕事をされているのですか?」

「そうだよ。たまに父上の手伝いはするけど基本一人」

 サラは大広間を見渡した。これからクリフォードを立派な政治家にする為に人脈を広げなくてはいけないと思って必死に名前を覚えて臨んだわけだが、その手がかりとなる誰かさえいないとは思っていなかった。

「お義父様もいらっしゃいますよね?」

「父上は陛下の側にいると思うよ。今日の着替えも執事が取りに来たでしょ?」

 アルフレッドは屋敷に戻っていなかった。その執事はよく着替えを運ぶ為に出入りしているので、その持ち出しが普段着なのか正装なのかまでサラは把握していない。

「御邪魔でなければお義父様の側に行きたいのですけれど」

 クリフォードは心底嫌そうな顔をサラに向けた。

「それはわかってて言ってる? 父上の側にいたらすぐに帰れないよ」

「えぇ、わかっています。私は貴族の皆様の顔を覚えて帰るのが本日の課題ですから、その為にはそれが一番早いと思いまして」

「誰が決めたの、その課題」

「家宰以外にそのような事を私に言う者がいると思われますか?」

 クリフォードはため息を吐いた。

「どうせ父上の差し金だろう? 俺が人の顔を覚えるのが苦手だからってサラを使うとか、別にそんなの適当にしておけばいいよ」

「適当というわけには参りません。クリフォード様が嫌だと仰るのでしたら、私一人でお義父様の横に控えて対応させて頂きますので、先に帰って頂いて結構ですよ」

 クリフォードが反論しようとした時、大広間に式典開始の合図である音楽が流れ始めた。騒がしかった大広間は静まり返り、厳かに式典は始まった。宰相による開会の辞の後、国王の挨拶があった。サラは初めて国王を目にした。式典は爵位の高い者が広間の前方、爵位が下がるほど後方になるのは暗黙のしきたりである。本来なら男爵家出身であるサラは前方など見えない位置にいるはずが、今や壁際とはいえ前方で国王の表情が見える位置にいる。彼女は改めてこの結婚で自分の地位が上がった事を実感し、それに負けないように頑張っていこうと決心した。

 国王の挨拶の後に乾杯をして歓談の時間となった。サラはクリフォードに微笑みかける。

「では私はお義父様に挨拶をしに行ってきますね。クリフォード様は御一人で帰られますか?」

「行くよ。サラを残して帰れるわけないし」

 クリフォードは渋々サラと共にアルフレッドに近付く。それに気付きアルフレッドは笑顔で二人を迎えた。

「御無沙汰しております、お義父様」

「あぁ、サラさん。明日は屋敷に帰ろうと思っていたんだよ。この前約束した話をしに」

「本当ですか。それはとても楽しみです」

 サラは本当に嬉しくて微笑んだ。お茶会に出かけなくともアルフレッドと話をしている間はクリフォードから解放される。しかも話は好きな政治経済の話である。勿論横で聞いていたクリフォードは明らかに不満顔である。

「折角だ。私の知り合いを紹介しよう。これから夜会で度々顔を合わせる事になるだろうから、挨拶しておいて損はないだろうし」

「是非お願い致します」

 サラは笑顔で応えた。クリフォードはつまらなさそうな表情のまま彼女の腰に手を回す。

「クリフォード、もう少し表情を作れ。そんな顔をしていたらサラさんに愛想を尽かされるぞ」

 クリフォードは驚いた顔でサラを見る。彼女はにっこりと微笑んだ。彼は相変わらず言葉以外の物を読むという事は苦手としていたが、この笑顔は逆らってはいけないと本能的に感じた。彼は渋々表情を柔らかくしてアルフレッドに向き合う。

「わかりました。お付き合い致します」

 この後アルフレッドに紹介されるままクリフォードとサラは何十人と挨拶をかわした。彼女は頭の中の貴族名簿と顔を一致させていき、彼はぎこちない表情を作っていた。その間中彼の手は常に彼女の腰にあったが、彼女はそれを仕方なく受け入れていた。

 挨拶をした中にはクリフォードの姉達三人もいた。サラは別に彼女達と仲良くなりたいとは思っていない。ただ、彼を次期ウォーグレイヴ家当主として認めて欲しいだけである。しかし話に聞いていた通り、姉達はクリフォードの方を見ようともしなかった。父親に呼ばれたから仕方なく付き合っていると言う態度を隠す様子もなく、これはなかなか大変だなと感じていた。

「リリー様、また是非お茶会に呼んで下さいませ。刺繍は出来ませんけれど」

 リリーのお茶会は政治家夫人の集まりである。本来の趣旨であれば彼女の得意分野であるし、クリフォードの為にもなるので付き合いを続けたかったのだが、刺繍の一件から誘いは止まっていた。ただ参加した二回は本来の趣旨と離れた話だったので、本当に政治家夫人の集まりが政治について話すのかどうかはわからないのだが。

「あら、もうお茶会なんて懲りたかと思いましてよ」

「刺繍は才能がないので懲りていますけれど、お茶会自体は参加したいと思っています」

「そう。ではまた気が向いたらね」

「えぇ、御待ちしております」

 こうして挨拶は記念式典が終わるまで続けられた。


 この夜、クリフォードが寝室でサラにしつこい程口付けをして、何度も彼女を抱いた事は言うまでもない。

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