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あの夏

作者: 白皙さん

 今日は高校最後の夏休みが始まる日、いくらレベルの高い高校だからって課題が多い事以外憂鬱に顔を歪める奴などいないだろう、俺を除いて。俺は今年も来た夏に顔を歪る。






 ーー俺は夏が嫌いだ。彼女を消しさったこの夏が。






 中学、自分で言うのもあれだが俺は頭が良かった、それもテストで毎回満点を取ってしまう程に。

 俺の隣の彼女は明るい性格、頭はけっこう良いらしい。



 1年の中間テスト、彼女はテストが返されると、すごーい!と言われまんざらでもなさそうに笑っていた。放課後になり、教室に誰もいなくなって俺も帰ろうとすると彼女がひょっこり戻ってきて、その手には教科書と数十枚のプリントを持っていた。誰もいるとは思っていなかったのかこちらを見て微かに目を見開いていた。俺がそのまま教室から出ようとすると、


 「あわわわっ、ちょっと待ってっ!」

 「何?」

 「悪いんだけどちょっと勉強を教えてもらってもいいかな?」


 と少し困った顔をして俺に言う。


 「お前がそんなに勉強してたとは意外だな、だけど他を当たってくれ。」

 「待って!」

 「…はぁ、何?」

 「ご、ごめんなさい、でも!絶対に行きたい高校があるの。」


 教室にある時計を見ると帰るのには少し早い時間。


 「…少しだけなら」


 そう言うと彼女は嬉しそうに笑っていた。




 その日から俺は放課後、彼女に勉強を教え続けた。

 彼女は飲み込みも早く、メキメキとテストの点数を上げていき、俺も教えがいがあって結構楽しんでいる。

 さすがに3年もあれば俺への扱いも慣れたらしく冗談も言える仲にまでなった。


 俺が3年前のことを思い出そうとしていると彼女が机から顔を上げてくすくすと笑っていた。


 「どうした?」

 「んー?なにがー?」

 「なんでそんなに笑ってるんだよ。」

 「えー、べっつになんでもないよー。」

 「3年前とは大違いだな、前の方が可愛げがあったぞ。」

 「何を言うかっこの私のどこが可愛くないだとっ。」


 彼女は腕を大きく回しわざとらしく怒る。


 そこだよ。


 だがそんなことを言うと話しが脱線してしまう。

 俺はぐっと堪えて話しを戻す。


 「で、なんで笑ってたんだ?あとそこ違う。」

 「え、これどうするの?」

 「こっちの公式。」

 「おお、ありがと。んにゃ君もボーっとするんだなーってね、まあ、私とは長い付き合いにもなるしねー。」

 「3年だけだろ。」

 「たかが3年、されど3年だよ。」

 「…そうだな。」



 机にむかい、ときせつこちらに質問をしてくる彼女に答えて間違えている問題を指摘する。すると彼女は嫌な顔をせずに(むしろ嬉しそうに。)間違えていたところを直してく。室内には遠くから聞こえる運動部の声と蝉の鳴く声、そして彼女が文字を書く音だけが響いていた。この時間が心地良いと感じ始めたのはいつからだっただろうか、俺は彼女を見つめながら最初に勉強を教えた日を思い出していた。あの日はどんな日だたっか、3年前の事など覚えているはずも無く思い出すことをやめた。そうしている間に全て終わったらしく彼女は、


 「終わったー!」

 「お疲れ、じゃ。」

 「えっもう帰っちゃうの?早くない?」

 「本屋寄ってく。」

 「なるほど、じゃあ途中まで。あ、これあげるよ栞。」

 「どうも。」


 それは青い鳥が入ったシンプルな栞だった。


 はっきり言って俺は帰りたくない。家に帰っても両親は仕事でいないし、帰ってきたとしてもさも自分が正しいと言うようによりレベルの高いところえ行くように、それがお前の幸せなんだとだれも頼んでいないのに熱弁してくる。べつに俺も逆らうことはしない、逆らったら逆らったで面倒になるだけだから。


 本屋に行く途中、彼女は俺がどこの高校に行くのか聞いてきた。そういえばまだ互いにどこに行くのかを話していなかったか、親に言われているところに行くつもりだからその高校の名前を言うと、


 「えっ、そこ私とおんなじとこ!うっそすごい偶然!」


 嬉しそうに彼女はその場で飛び跳ねている。

 今まで親の言う通りにしていてよかったと初めて思った。


 俺の顔を覗き込み、どうしたの?と聞いてくる彼女に何でもないと返して俺は彼女と別れた。




 それからまた日数が立ち、とうとう中学最後の夏休みが始まろうとしていた。周りでは休みの間はどこに行くのか、どこに行こうかと嬉しそうに話していた。かく言う俺もこの面倒な学校に来なくていいと思うと少し嬉しくなった。彼女の方を見るとそれはそれは嬉しそうに夏休みの予定を話していた。どうやら夏祭りが1番の楽しみらしい彼女はブンブンと揺れている犬の尻尾の幻覚が見えそうなほど嬉しそうにキラキラした目をしていた。


 終業式が終わり俺が帰ろうとしていると彼女がこの夏の予定を聞いてきた。彼女は夏祭りに行かないかと誘って来たが、日にちを聞くと塾の合宿と被っているから行けないと言うと彼女は仕方がないと残念そうに笑って、


 「じゃあ、また2学期ね!」


 そう言いながら帰って行った。




 それが彼女との最後の会話になると知らないで。







 新学期、始めの違和感は俺の隣に彼女の机と椅子が無いことだった。彼女は虐められていないし、多くの人に好かれていた。ロッカーを見ても彼女の場所が無い、無くなった場所を埋めるように女子の番号が1つずつ詰められていた。俺は混乱していた。これは彼女のドッキリか何かか?でもこのクラスのだれも不思議に思っていないし先生も気にした様子もなかった。違和感が確信に変わったのはクラスメイトに彼女の名前を聞いても知らない、そいつは誰だ。と言われた時だった。


 俺以外彼女の事を誰も覚えていなかった。いや、これはもともと知らなかったのかもしれない。そんな反応をしていた。何かの冗談だと思った。混乱しながらも何気ない1日をすごし家に急いで帰えり、彼女に貰った栞を探した。しかし、いくら探してもどこにもなかった。ありえない、何なんだ。俺は、はははと乾いた笑いが込み上げきた。








 焼けたアスファルトの上を歩く。


 それからの俺は何も無かった。もともと彼女以外に友人と呼べる人がいなかったし、作る気にもなれなかった。あれから3年、いまだ彼女は戻らない。あの日、夏祭りに行けば彼女はまだここにいたのか?いや、行っていたとしても変わりは無かったのだろう。1人で黙々と生きる内にもう思い出さ無いと思っていた、6年前の出来事も思い出すようになってきた。もう3年も待った。きっと彼女はもう戻らない。あの夏、いったい彼女に何があったのだろう。


 なぜ、俺だけが覚えているのだろう。だれにも、自分に問いかけてもわからない。神など信じたことはないがこれを『神のみぞ知る』と言うやつか。まったく笑えない。


 夏がくるといつも思い出す。もう見ることが叶わない彼女の笑顔。視界が滲んでいく。ああ、駄目だな、また泣きそうになる。3年前のことなのに俺はいまだに彼女の事を忘れられない。俺はこんなに誰かとの思い出を引きずるような人間だっただろうか、それほど彼女が大切だったのだろうか。


 ふと前を見るとあの日の彼女がこちらを満面の笑みで見つめていた。驚きに瞬きをすると彼女は消えてしまう。思わず俺は自分を嗤う、彼女はいない。なのに俺はなにを期待しているのか。


 ジリジリと焼けたアスファルトの上を歩いていく。






 ああ、やはり夏は嫌いだ。

この小説を読んでいただきありがとうございました。

今回が初めての投稿になり作者は大変緊張しております。

この話しは短く、満足感を与えられなかったと思いますが、見逃していただけると幸いです。

感想から苦情も受けます。

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