05
始まりこそとんでもないものだったが、王妃さまと過ごす時間はとても楽しいものだった。どうやらお母さまとは姉妹のように育ったらしく、幼い頃のお話からお父さまと恋に落ちたときのお話し、私を身籠ったときのことなど今まで知らなかったお母さまのお話しを沢山聞くことが出来た。お父さまからお母さまのお話しを聞くこともあったが、王妃さまのお話しだと今まで知らなかったお父さまのお話しも聞けてなんだか凄く新鮮。
ただ…時々背筋がぞわりとする感覚はなんだろう…?
王妃さまに気圧されてでもいるのだろうか。例え前世の記憶があろうともそれは平々凡々な女でしかなく、今世に至っては屋敷から出るのが2度目の幼女。…勝てるわけはあるはずもなく、並ぶことすら畏れ多い。後ろに控えるには未熟過ぎて、出来るならば遥か下から見上げていたい。それほどまでに彼女は遠い。そんな私の心中など知らず、にっこり笑う王妃さまは本日も薔薇の如く麗しい。その素敵な笑みに何故だかまた背筋がぞわり。……そんなに私は未熟だろうか。まだ5歳だもんな。未熟だわぁ。
ほんのり温かい紅茶を一口飲んでほぅと息を吐く。それをにこにこと眺めてくる王妃さまに、僅かなミスも許されないと努めて慎重にカップを置いた。
音よ出るな……!
まぁ、小さな私にはまだちょっとこのカップは重くてカチャと小さな音が立ちましたけどね。微笑まし気に見られてつらい!とりあえずうふふと笑って誤魔化しておこう。
「そういえば、コーデリアちゃん」
「はい」
「最近、魔法の練習頑張っているんだって?」
「はい!」
あれ、なんで知ってるんだろう?
お父様から聞いたのだろうか。え、まだ杖ないと微妙なのしか使えないのに。
「あ、あの、でも、まだ杖がないと…あの、全然、ほんとうに全然、上手にできなくて」
なんとなく気恥ずかしくなって顔が赤くなっているのが分かる。膝の上で指先を絡ませながら、せっせと言い訳を吐き出してみるけれどこれ以上どう言えばいいだろうか。
「っ、そんなことないわ!」
ばぁんと勢いよくテーブルに両手を置いた王妃さまに驚いて身体がびくりと跳ねた。
いや、だからそれマナー的にやっちゃ駄目なことだよ!誰かに見られたりでもしたらと慌てて辺りを見回してみるけれど、控えている使用人たちはノーリアクションだ。私だけが一人おろおろしている。え、なにこれ私が可笑しいの?
「こんなに小さいのに毎日毎日真面目に練習してるじゃない!子ども用とは言え、大きな杖を持ち続けるのは大変でしょうに。難度の高い雷魔法を一生懸命…まったくうちの馬鹿息子に見習わせたいぐら……いいこと思い付いたわ」
語尾にハートでもついていそうだと思った。
荒々しかった王妃さまの様子が急に変わってしまって私はついていけない。立ち上がっていた王妃さまに釣られてとりあえず私も席を立つと両手をがしっと掴まれた。お、王妃さま力強い……。
「コーデリアちゃん、魔法上手になりたいかしら?」
「あ、えと、はい!」
「そうよねそうよね。じゃあ、王宮で勉強しましょう」
「はい?」
「そうと決まったら早速連絡しなくちゃ」
ち、違う!
今のはいは肯定のはいではなくて疑問の…ってうわぁ!
私の手を掴んだまま王妃さまが走り出したので、強制的に私も追い掛ける形になってしまった。私のものより倍以上重たそうなドレスを着ているというのにその足捌きは非常に優雅だ。むしろ私は引き摺られ過ぎてもはや足が浮いている。わぁ、王妃さま力持ちー……。王宮でこんなことしたら怒られるよね!?
「あ、あの…おうっっっ!?」
噛んだ。そりゃそうだ。