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04

今更だが、我がナイトクランツ家はこの国において公爵の位を戴いている。そんなお家の一人娘である私は産まれてこのかたお屋敷から出たのは半年前の王妃様主催のお茶会のときのみだ。あのときも結局すぐに帰ってしまったし、景色を楽しむ余裕なんて行きも帰りも最中だって無かった。この際無かったことにしてほしいぐらいだ。これが黒歴史……。


ちなみに屋敷から出たことがなかったときは自室すらもあまり出てなかった。公爵令嬢という身分は家の中であっても一人で歩き回ることを許してはくれないのだ。使用人と他愛もない話をするほど仲良くないし…人払いしてベッドでごろごろするほうがよっぽど気が楽なのだ。趣味という趣味もなかったし。


なんて寂しい人生だろうか。まだ5歳だけど。

魔法を習い始めた今となっては庭で練習したりと、屋敷内ではあるが動き回ることが増えて私にしては充実した毎日を送っている。正直TVやネットが恋しくないと言えば嘘にはなるが。……便利だったよね。


それに、今はお父様が時間の許す限り一緒に過ごしてくれている。以前は殆ど屋敷に居なかったというのに、一緒にご飯を食べてくれるし時間があれば魔法の練習も見てくれる。時折夜中に心細くなって寝室に忍び込めば━━その際、時々迷子になることについては触れてはいけない━━快くベッドに迎え入れてくれるのだ。お茶会後の数日なんて仕事を休んで一日中そばにいてくれた。


だから屋敷に引き込もっていても何も不満はなかった。えぇ、本当に。特に今日に至ってはお父さまが仕事で在宅していないこともあり自室に引き込もって極々小さな魔法をいつまで継続出来るかという些細なチャレンジをしていたから本当に。一切外に出る気はなかったというのに。


何故か今、私は王宮に居た。


いや、何故というと理由は明白過ぎるほどに明白なのだが。お父様を見送って大分経ったお昼前のこと。何の先触れもなく、それどころか何の前触れもなく、のんべんだらりと自室で過ごしていた私の前に突然王妃さまが現れた。


嘘でも比喩でも夢でもなく。

ばぁん!と王妃さまらしからぬ勢いでもって自室の扉を開かれたのだ。ねぇ、待って。5歳の私でも知ってる。それ王妃さまがやっちゃいけないことだよ。


呆気に取られる私を確認すると、すぐさま王妃さま自らの手で抱えられ、屋敷前に留められていた馬車に乗せられ、あっという間に王宮だった。しかも場所は例のお茶会のときと同じである。おうふ。

用意されていた席に座ると正面に座った王妃さまのにっこにこした笑顔が嫌でも目につく。本日も薔薇のような美しさですね。…どうすればいいんだこれ。メイドさん達は話す内容が聞こえないだろう位置にまで下がっているため、二人きりのような状況だ。


「えっと、あの……」

「なぁに、コーデリアちゃん」


蕩けるような笑顔が眩しい!


「あ、えっと」

「うん?」


泣きたい。

私の涙腺はあれ以来大分緩んでるんだぞ。

多分このまま戻らないのだろうとなんとなく思っている。そうしてその度に思い出す。前世の母が涙脆かった記憶を。あぁ、本当に泣きそうだ。


「あらあら。そうね、急に連れてこられてびっくりしてるわよね。ごめんなさいね。ついクロエと同じようにしてしまったわ」

「おかあさま……?」


お母様の名前につい意識がそちらにずれた。

仲が良いとは聞いていたが、身体の弱い母に今のような強行手段をとっていたのだろうか。この王妃さまが?……うそぉ。

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