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彼女の声を。

作者: 天川 奏

 液晶画面を上に向けて置いていたスマートフォンが、見慣れたロック画面を見せて光る。

 なんだろうと画面をスクロールして見ると、メールの通知のようだった。

 ただ、今はテスト期間。

 ここでメールを初めて、会話が止まらなくなって勉強が全くできていないというのがオチになる。

 それに、今頃急ぎのメールをしてくる友達もいないだろうと思い、差出人も良く見ず、そのままスマホの電源を切った。

 

 ◌○◌○◌○◌○◌○◌○◌○◌


 ___『助けて』


 なぜ僕は、あのとき、彼女の声に気づかなかったのだろう。

 僕なら、いくらでも気づけたはずなのに___


 ◌○◌○◌○◌○◌○◌○◌○◌


 彼女は高校一年の夏、この高校に転入してきた。


 「初めまして、雨野(あまの) 奈津(なつ)です。宜しくお願いします……」


 そう自己紹介をした彼女の声は、透き通ったように綺麗で、それでいて癒されるような、優しい声色だった。

 それに、クラスの男子達が反応しないわけがない。

 少し長めでふんわりとしている髪。窓から入る風に撫でられるそれに、太陽の光も反射していた。

 肌は白く、掴めば壊れてしまいそうに細い。

 指定された席で静かに本を読む彼女の姿は、誰が見ても、絵になっていた。


 「ねぇねぇ、何で本ばっか読んでるの? 俺らと話したりしない?」

 「ちょっと、やめろよ。ねぇ雨野さん、俺と一緒に話さない?」


 男子はいつも、下心のある態度で彼女に話しかける。

 だが僕は、そんな彼女には興味がなかった。

 そもそも、僕が元から女子に興味がなかったからなのかもしれない。


 そんな彼女と僕は、ある日の席替えで隣の席になった。

 静かに本を読んでいるだけでも目立つ彼女と、ほとんど目立たず、影すら無いんじゃないかと思えてしまう僕との組み合わせは、勿論妬まれたりもした。

 

 「えっと、橋場くんだよね」


 「そうだけど……」


 「私、雨野って言うの。宜しくね」


 そんな周りの視線にも構わずに接してくれた彼女は、なぜか他の男子と喋らないような事も、僕には沢山話してくれた。

 多分彼女にとって、僕は周りと比べて下心もなく、話しやすかったんだと思う。

 女子を全く意識しなかった僕にとっても、彼女は一番話しやすい存在になった。


 「橋場君っていつも一人で本読んでるのね」


 「うん、本が好きなんだ」


 「あははっ、私と一緒」


 話の中でも、好きな本について語り合うことが、一番盛り上がった。

 新作を買ってきて読んでは、感想を聞かせて交換しあう。

 学校がつまらないと思っていた僕に光をくれたのは、彼女だった。

 連載にしようと思っていたものですが、続きを書くことができなかったので、短編で一度投稿しました。

 よろしくお願いします。

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