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W WORLD I    ※投稿休止中  作者: 織音りお
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第1章 第5話 「蟲の襲撃」

 円形の広い中庭を抜けて東棟に続く小路に入ると、辺りは一気に静かになった。一年生から六年生までの各教室がある本館から少し北に位置するこの小路は、教材倉庫や魔法武器庫の陰になって、いつも薄暗い。東棟に用があるのは専ら研究者のため、授業の終わった放課後は人通りも少なかった。


「雲井さんは、東棟に行ったことはあるんですか?」

 風音が左横を歩くきららに尋ねた。

「それが、入学した時に一回と、研究見学で一回だけなんですよねー」

 なかなか行く機会も理由もないし、と付け加える。

「えっと、でも、今年からは毎月東棟で授業があるんですよ」

「あ、伺いました!確か、魔法研究学でしたよね?」

「そうそう!それです!」

 

 学校の中庭からだろうか、風に乗ってきた桜の花びらが、ひらりひらりと不規則にまわりながら落ちていく。いつの間にか花の盛りは過ぎてしまったらしい。よくよく見れば、あちらこちらに薄いピンク色の吹き溜まりができていた。やがて全て散りゆき、初夏の香りとともに木々も新緑に染まっていくのだろう。

 

 何やら考え事をしていた風音が、ふっと首をかしげた。

「ところで魔法研究学って、何をするんでしょう?」

「え、ええと、それは内容ってことですよね?」

 バカ何質問してんのあたし⁉︎

「あ、そうです」

 風音はくすりと可笑しそうに微笑んだ。

 

 あああああ笑われた!!!


「あ、ええと、あたしも先輩から引いた話でしか知らないんですけど」

 恥ずかしさで俯き加減になりながらも、足りない頭で賢明に言葉を探す。

「魔法研究っていうか、何だろう、魔法薬とか魔力活性化とかの実験っぽいですよ。あたしたちの魔力も高める方法があるとかって。詳しくは分かんないんですけど」

 すみません、と苦笑。

 今の質問が島原だったら、「知らないし、何かの研究じゃんー?」とか何とか適当に返すところだ。まあ、そもそも島原は授業に興味なんてないだろーけど。

 さすが編入生、勉強熱心・・・!

「いえいえ、ありがとうございます。魔法薬かあ・・・魔法による怪我や障害への治療法も研究が進んでいますしね。“極限魔力化装置”とか“星屑の飴”も興味あって!なんか楽しそう!」

 風音は、目をキラキラとさせて語り出した。編入してきてまだほんの数時間ではあるが、明らかに一番イキイキしている顔だ。

 きららはその様子を畏敬の念を持って見つめる。

 そもそも何の話をしているのかさえ分からない。とりあえず、頭の出来は根本的に違うような気がした。




***




 そんなこんなで、二人は東の外れ、温室に差し掛かった。 

 ここには幾つかの温室が連なって建っているが、二つほど温室を通った先には、バラの花で彩られたアーチが三十メートルほど続いていた。今が盛りとばかりに、色とりどりのバラの花がアーチの曲線に沿って咲き誇っている。静けさとレンガで造られた小路も相まって、アーチをくぐると別世界のようだった。

 

「素敵・・・・・・物語にでてきそうなところ」

 ふいに立ち止まり風音が呟くと、きららはパッと瞳を輝かせて振り向いた。

「神宮寺さんもそう思うっ⁉︎実はあたしもっ、」


 ーーあ、今。


「ってあああああ!すみませんっ、ついタメ口でっ!」


 ーー勢いよかったわ、すごく。


「いいですよ、そんなの。雲井さんが話しやすい話し方で。わたしのことも、ぜひ風音と呼んでください」

 慌ててパニクりそうなきららに、風音はさらっとそう言った。

 表面ではあくまで爽やかににこやかに。

 内心では、さっきから笑いが止まらないのだけれども。

 

 だって絶対、本気でわたしのことお嬢様だと思ってるじゃない。

 いや、まあ学校のすべての人にお嬢様だと思ってもらおうとはしてるけどね?

 ここまで素直に信じて、多分普段は使わないであろう敬語を頑張って使って、ちょっとボロを出しただけで慌てている姿を見るとさぁ。

 なんだか、もう、可笑しいというか可愛いわ。


 くく、と声を殺して笑いながらきららを見つめる。

「え、えっと、わっかりましたっ・・・!じゃああたしも、きららでも雲井でも何でもっ」

 まだちょっと慌てながら、照れたようにそう言ったきららはどこか嬉しそうで。風音もふっと微笑んだ。

「よろしくお願いします、きらら」

「うっ、うん!よろしくね、かっ風音・・・ちゃんっ」

 たどたどしい呼び方ではあったものの、その言葉に風音は満足そうにうなずいた。


『・・・・・・ヂヂヂッ』


 その時、ふいに背後で不気味な音がした。


「えっ、今の、何」

 きららがぱっと後ろを振り向くが、そこには何もいない。


『・・・・・・ヂヂヂヂヂヂッ』


 今度はさっきよりも大きな音がした。低くてガサついた、羽音のようなこれは。

 風音は一瞬だけ気配を感じた。小さいけれど、この場に相容れない異様な気配。

 一体、何がいるっ⁉︎


『ヂヂヂィッ!!』


 音とともに、一段と気配が強くなった。

「か、風音ちゃっ・・・」

 きららが風音のブレザーを掴んで、怯えたように後ずさった。

 風音は全神経を研ぎ澄ませる。ますます強まる気配で、その居場所が分かるかもしれない。

 

 この気配は・・・何⁉︎

 気分まで悪くなるような感じだけどっ。

 ここが静かであたたかみに満ちた空間だとしたら、その空間すべてを飲み込んでいってしまうような。得体の知れない、黒い気配。気がつけば、朝は明るかった空もいつの間にか分厚い曇に覆われている。

 

 明らかにこの世界のモノじゃないけど、だとしたら何で。


『ヂヂヂヂッーーーーーーーーーーターゲットカクニン』


 違う、これは闇の魔獣だ!


 風音が気配の居場所を掴んだその瞬間、視線の先の大きなバラがみるみるうちに黒く濁ったかと思うと、中から無数の蟲が飛び出してきた。それは瞬く間に二人の目前に広がっていく。

 黒光りするハネにとがった下顎。さっきからしている不気味な音は、蟲の羽音か。

 なんて冷静に分析している場合じゃない。

 この蟲の大群は、確かにあっちの世界の住人だ。それも風音がいたところなんかじゃない。闇と憎悪から生まれた空間。まさにマルデードの支配する一帯の・・・!

 

 それがどうしてここにっ!


「まさか、わたしを狙って・・・⁉︎」

 風音の脳裏を一つの顔がかすめた。だが、即座に違うと頭を降る。正体がバレるなんて、そんなことは絶対。

 そうしている間にも、蟲たちは増え続けている。

 そして・・・・・・!!


『ギュンッ』


 鋭い音とともに、突然一匹が襲いかかってきた。

 怯えて足のすくんだきららを庇いながら、風音は間一髪でかわす。

 

 大丈夫、動きは見える。動体視力はいいんだから。


『ヂヂヂヂヂヂッ』


 風音に襲いかかってきた蟲が吸い込まれていくように大群の中に戻っていく。

「・・・しょうがないっ」

 こんな数の蟲が相手じゃ正直キツいが、早く消さないときららが危ない。戦闘が長引けば、一人でもこの数が大変なわたしには守りきれなくなる。ここしばらく戦闘系の魔法は使ってないけど、ギリギリなんとかなるか。

 いや、何とかするんだ。


「風よ・・・・・・」


 小さな声で呟くと、風が流れを変えて風音の周りに集まり始めた。そのまま一歩前に出て、体の芯に力を入れる。そこに全神経と全ての力を集中させる。

 前髪が集まってくる風になびいて、足元からはゴウ・・・という音が聞こえてきた。

 

 よし、いける!!


 その瞬間、蟲たちの羽音がピタリと止んだ。


「え、何」

 

 その一瞬の集中力の途切れが致命的だった。


『ギュウンッッッッッ‼︎‼︎』


「っ⁉︎」

 空気を切り裂くような鋭い音とともに、大群となった蟲たちが一気に襲いかかってくる!

「風よっ」

 必死に右手を向けて神経を集中させる風音に、蟲たちは容赦なく向かっていく。


 ダメだ、間に合わないっ‼︎‼︎


 風音はとっさにきららを庇おうと手を伸ばした。

 蟲たちはもうすぐ目の前に迫っている。

 きららを庇うのも間に合わないのっ⁉︎


「きららっ、伏せてぇ‼︎‼︎」

ものすごく中途半端なところで終わっていますね…。


さて、この後二人はどうなってしまったのか。

次話は明日投稿予定です!

読んでいただけると嬉しいです( ´ ▽ ` )ノ

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