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W WORLD I    ※投稿休止中  作者: 織音りお
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第1章 第3話「出会い:風音ver.」

第2話に引き続き、きららと風音の出会いの話です。風音の抱える人間性にも着目して読んでいただけると嬉しいです。

 「じい、早くしてよ!わたし、もう行っちゃうわよ!」

 一人目の“運命の魔力者”、カザネ・アルジャン改め神宮寺風音は、がらんとした寺の中に向かって大声を張り上げた。

 

 ーーーーーーしかし、答える声はない。慌ただしく廊下を走る音だけが、広々とした寺内に響いている。

「もうっ」

 風音はため息をついて、上がり框に腰を下ろした。

 風音がこちら側、つまり人間にとって“表”の世界に来て、早三ヶ月。もう大分こちら側の生活にも慣れてきた。来た時は一面が銀世界だったこの街も、今ではすっかり春の装いだ。まだ風は少し冷たいけれど、街のあちらこちらに色とりどりの花が咲いている。境内に植えられた木々も光を浴び、砂利のすきまから顔を出した名も知らぬ草花さえ、その生命をめいっぱいに輝かせていた。


 平和だ、と風音は思った。


 自分の育った国も、昔はこんな感じだったのだろうか。以前、母から聞いたことがある。アルジャンの国は、昔は緑豊かな広々とした国だったと。富が多いわけでも、都市が発展していたわけでもなかったが、民は幸せに暮らしていたと。空には鳥類やペガサスやドラゴンが自由に飛び交い、広い草原にはいろんな生き物がかけたという。


「わたしも見たかったなあ・・・・・・」


 風音は、少しずつ荒廃していく世界しか知らなかった。生まれた時から、どの国も内乱や魔獣の暴動に手を焼いていた。アルジャンの国では大きな内乱は起こらなかったものの、闇の瘴気で国の一大産業である作物の育ちが悪くなっていたし、民の中にはどこか鬱々とした空気が流れていた。マルデードが力を増している世界だから、当然といえば当然かもしれない。

 風音は、ため息をついておろしたてのローファーで足元を蹴る。ずっ、と靴底が擦れた音。

「あ、いけないいけない」

 その音に慌てて靴底を見ると、わずかにこすれた傷跡がある。風音はちょん、と触れて唱えた。

「《ファスト・リペア》」

 たちまち、触れたところに小さな魔法陣ができ、銀色の光が傷跡を包み込んだ。かと思うと、一瞬にして光は消える。傷跡は跡形もなく消えていた。

「美人でお嬢様な編入生が、こすれたローファーを履いてはいけないものね」

 うんうん、と一人ごちて、風音は大きくのびをした。


 今日から、風音はキャバリー魔法学校に編入する。編入試験は(風音的には)割と簡単だった。人間が学んでいるらしい主要4教科だか5教科だかのテストと、魔法学入門、実技試験が行われたわけだったが、どれも危なげなくクリア。人間の魔法学校のレベルはどんなものかと多少緊張していたけれど、はっきり言って、(あくまで風音的には)簡単というか拍子抜けだ。算術?数学?だか何だか呼び方は曖昧だが、数字や記号や図形でちりばめられた教科はちょっと難しくて楽しかったけれど(あくまで風音的な話である)。魔法学と実技試験にいたっては本職だし。三ヶ月こっちのことを勉強すれば何とかなるなんて、人間の子どもが学ぶ学問はなんて簡単なのやら(だからそれはあくまで以下略)。


 ふう、と風音は息をつき、おもむろにバッグから手帳を出した。

 今から探さなければいけない“運命の魔力者”は、残り六人。既に分かっているのは自分と、もう一人はビリー・カクタスとかいうカクタス王家の縁者らしい。らしい、というのは話に聞いただけで、実際に会ったことはないからだ。メドウ女王いわく、数年前にこっちの世界に来て、世界中を転々としながら他の魔力者を探しているのだとか。力は強いけど気ままな子だから困るわ、と女王はよく愚痴をこぼしていた。

「残るは火、水、氷、地、光、そして闇、か」

 手帳に記された六つの文字をそっとなでる。そして、雲一つない真っ青な空を見上げた。

「本当にここにいるのかしら、ね・・・・・・」

 寺を吹き抜ける風が、肩にこぼれる黒髪を弄ぶようにかすめていった。




***




「神宮寺風音と申します。よろしくお願いします」

 一通り自己紹介をして頭を下げ、やわらかく微笑む。そして、風音はさりげなく教室内を見渡した。風音の編入した五年A組の生徒たちは、どこかソワソワして落ち着かない。そればかりか、男子生徒全員の目は輝いている。反して女子は・・・一部を除くとどうやら、風音の与えた第一印象はよかったようだ。


 ーーーーーー予想通り。

 

 風音は心の中で笑った。

 確かにわたしは可愛いと思うし?どうやら七年ぶりの編入生らしいから、騒ぎたくなる気持ちも分からなくもないけれど。外見と能力で、自己紹介して微笑むだけで、男子からも女子(一部除く)からもこんなに歓迎されると笑いたくもなる。女子の一部だって、オトメの心理とかいうものが原因なんでしょう。妬み嫉みからくる敵意は向こうの世界でもあったし、何度も受けてきたからわかる。

 講師だって似たようなものだ。神童のように歓迎する人もいるし、わたしのような高魔力者を煙たがる人だっているのだろう。


 魔法使いも人間も単純だ、と風音は思う。

 簡単に信用して、裏切られる。あの手この手で信用させては、裏切る。いつだって、自分を一番守りたがる。それを認めずに、姑息に偽善を装う。

 浅はかで、強欲で、結局はみんな自分のことばっかりで。

 そんな身勝手さには、はっきり言ってもう飽き飽きしていた。


 今回、わたしに課された使命だってそうだ。約束の地がここだとか、マルデードを止めるには八人の魔力者が必要だとか。信じられるかすら怪しい言い伝えを信じて、国王たちはわたし一人に命じた。

 どうして、ビリーはこの地に送られなかったのか。

 どうして、わたし一人に命じたのか。

 疑問に思うことはたくさんある。そして疑問が増える度に、なおさら不信感が募ってしまう。


 だから、わたしは自分以外信じないことにした。

 うまく関係はつなぐけれど、誰一人として信用はしない。時には自分を偽って、欺いて。この使命だってそうだ。“運命の魔力者”として使命を果たそうとする姿勢は見せるけれど、他にいい道があれば、きっとわたしはその道を選ぶだろう。こちら側にきたのも、この道が今は一番安全で、自由だからという理由でしかない。


 「風音さん、じゃあ席についてください。今、名前順に座ってもらっているから、あなたの席は真ん中の空いているところ、あそこね」

 岸紀香、といったか、担任の女教師がにっこりと笑って席の方を指し示した。

「はい」

 もう一度にこりと微笑んで、風音は席に着く。周りに座っている生徒たちには、「よろしくお願いします」と一言を欠かさない。好印象を手にいれるのに大切な術の一つだ。

「よろしくっ!」

 前の席の茶髪の男子生徒が、満面の笑みで返してきた。

 ーーーーーーふうん、なかなかかっこいい顔。けどちょっと軽そう。

 話しやすいタイプではあるわね、それに人気者、と即座に相手を分析する。

「よっ、よろしく、お願いしますっ」

 そう言って緊張したように返してきた隣の子は、金に近いふわふわの髪の女子生徒だった。

 ーーーーーーあれ、待って、この感じ・・・

 少し不思議な気を感じて、風音はまじまじと隣の子を見つめた。普通の、あくまで普通の、むしろどちらかといえばお馬鹿そう・・・・・・。あまりにまじまじと見つめてしまったからか、その子は緊張したようにビクッと体を震わせた。

「あ、ごめんなさい。素敵な髪の毛だなって」

 とっさに弁解して、にっこり、ともう一度微笑む。彼女ーー雲井きららは、風音の言葉に驚いたのか目をまるまると見開いた。

「あ、ありがとうございます!」

 少し照れた顔を見ながら、まさかね、と思う。

 まさか、こんなにすぐ見つかるんだったら、あまりにもあまりすぎて。


 でも、ちょっと、興味は惹かれた。


 手始めに学校案内でもしてもらう態で近づいてみるか、と心に決めて、風音はもう一度深く腰掛けた。

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