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W WORLD I    ※投稿休止中  作者: 織音りお
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第3章 第3話 「凍てつく記憶」

霙谷椿みぞれどにつばき、氷魔法の使い手。

彼女が人を避け、偽善的な態度を嫌うのには、彼女の過去に理由があった。


魔力があるせいで煙たがられ、その強さで煙たがられて。

あたたかかった思い出さえも、今はもう、凍てつく過去に埋もれてしまった。


これは、そんな彼女の過去のお話。

 霙谷椿みぞれだにつばきは、困惑していた。


 ーどうして編入生さんが私に用ありなの。


 椿は、丁寧に折りたたまれた白いメモ用紙を再び広げた。メモの中には、美しい文字が並んでいる。


 『はじめまして、突然のお手紙すみません。わたしは、先日編入してきた神宮寺風音と申します。今回このようなお手紙を差し上げたのは、霙谷みぞれだにさんの御実家、霙谷みぞれだに医療機器さんの話を伺いたく思ったからです。本日六時に寮まで伺ってもよろしいでしょうか?ご都合がよろしければ、少しお時間いただけると嬉しいです。 A組 神宮寺風音』


 メモ用紙は、まさに帰寮しようというところ、靴の中で見つけた。いや、見つけた、というより踏み潰した音で気がついた、というのが正直なところだ。

 漫画とか映画とかなら、靴を履く前に気がついてドキ!っというのが正しいシチュエーションなのかもしれないけど・・・・・・。


 ーでも、普通いちいち靴の中まで確認するかっての。ど田舎なら虫が入り込んでるかもしれないけどさっ。


 椿は内心でプリプリと怒り始める。

 

 大企業の令嬢である椿は、もちろん田舎で育ったわけでも、田舎に屋敷を構えているわけでもない。

 ただ、この学校に入る前は、庶民だった母方の父母の家にしょっちゅう遊びに行っていたから、田舎の様子は割と知っている。令嬢としてはだいぶ珍しい。

 椿は、どちらかというと田舎ののんびりした空気の方が好きだった。


 ー第一、今日は山のように課題がある。


 数学の課題も、加えて先週の化学の実験レポートも書かなくては。魔法薬の小テスト勉強だってしなきゃいけないのに。

 椿としては、貴重な自分の時間を初対面の編入生相手に使いたくはなかった。神童とか何とか、とりあえずすごいと噂の編入生だ。ただでさえ苦手な数学に、今日もきた頭痛で消耗が激しいのだ。見知らぬ相手と二人で話す余裕はゼロに等しい。


 ーさぁ、無視して課題をちゃっちゃと片付け・・・ー


 ピンポンパンポーン


 椿が自室の扉に手をかけた瞬間、寮内放送の音楽が鳴った。


「301号室の霙谷みぞれだにさん、ご面会の方がいらっしゃっています。どうぞ一階フロントまでお越しください。繰り返します、」


「・・・・・・」


 廊下を通りかかった数人の女子生徒が、椿をちらっと見て、何事もなかったように通り過ぎていく。

 扉には、301の文字がはっきりと書かれてはいる。


 周りに聞こえないように、ちっ、と小さく舌打ち。

 

 ーさっさと話終わらせればいっか。


 そして椿は、半ば諦めたように階段に向かった。

 



***




 椿の魔力は、生まれつきだった。


 物心ついた時から屋敷の中には椿専属の魔法教師がいたし、同じように魔力者であった叔母が椿に魔力の制御方法なんかを教えてくれていた。両親は魔力は持っていなかったが、椿のためにその分野についてもいろいろ調べたらしい。ここ、キャバリー魔法学校に入れたのも、この学校がトップクラスの設備と環境があるからだと聞かされた。


 とは言え、本人は、この学校が好きではないのだが。


 椿は、その生まれ持った魔力の強さで少し周りに煙たがられていた。

 表面には出していなくても、分かる。

 親戚も、椿に魔力のことを教えてくれた叔母も、そして両親さえも。

 

 ある日、椿は聞いてしまった。

 夜中に、叔母と母が話しているのを。

 

 ー“あの子は何だか怖いわ。ちっとも愛想良くないし。だからかしら、属性魔法もあんなに人を寄せ付けないものだもの”


 ー“私も魔力がないから、正直どう扱っていいか分からないのよ。だから、寮のある魔法学校にでも行かせようかと思って”


 その一週間後、椿はキャバリー魔法学校への受験が決められた。

 椿はもちろん、楽々と受験を突破した。

 椿の合格の知らせに、両親も叔母も、椿を褒め讃え、喜んだ。

 けれど、椿はちっとも嬉しくはなかった。

 

 作られた笑顔で、すごいわ、流石ね、なんて。

 私はあなたたちの心を知っているのに。

 自分たちの都合よく、娘を遠くにやれるのが嬉しいだけでしょ?私の存在が煙たいだけでしょ?

 そんな笑顔で、嘘まみれの言葉で語るな。

 

 そして言われるがままにこの学校に来て、年一回しか両親には会わない生活が始まってもう五年目だ。たまに父親は顔を見せるが、母親は父兄参観にも顔を出さない。

 椿も椿で、家族にはもう愛想をつかしていた。


 そんな椿を受け入れてくれたのは、母方の父母だけだった。

 祖父母も魔力者ではなかったが、椿の魔力を恐れることはなかった。むしろ興味津々で、よく魔法を使って、とせがまれていたものだ。

 だから椿も、祖父母の前でだけは臆せず自由にできた。

 祖父母の家の庭に氷の彫刻をいくつも作っては、展覧会と名付けて祖父母を招待したり。氷の家を作って、中で三人で鍋をつついたり。

 普段は“冷たい”“人を寄せ付けない”とレッテルを貼られる氷の魔法も、祖父母家ではなんのことはない、祖父母を楽しませることのできる魔法になれた。


 ーけれど、もう。


 五年間、一度も祖父母の家には行っていない。

 二人は、椿がこの学校に行くのを最後まで反対してくれていた。だから、両親、特に母親にとっては邪魔な存在だったのだろう。


 ー“椿、もう、あの家に行ってはダメよ。あなたは立派な魔力者になるんだから。しっかり学校で学んでいらっしゃい”


 そんな偽善だらけの言葉で、椿は祖父母の家に行くことを禁じられた。

 そして祖父母も、母から何らかの圧力でもかけられたのだろう、二度と遊びに来なさいね、と誘ってはくれなくなった。


 ーこんな学校で五年も過ごした自分には、恩を忘れたような自分には、きっともう、会いたいだなんて思ってない。


 そうして人と関わることを避けるようになった椿には、もう、自由な拠り所はない。

 氷の魔法も、今はただ、凍てつくような魔法だけ。冷たくて、誰も寄せ付けない。

 年々強くなっていく魔力は、その冷たさを一層増すだけだった。


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