序章
8人の“運命の魔力者”が、“表”と“裏”の両世界を救うため、果てしない闘いを乗り越え成長をしていく物語です。魔法学校を舞台にした“表”の世界編と、扉を開けて最終決戦に向かう“裏”の世界編で長いシリーズになりますが、お付き合い頂ければ嬉しいです。
いま、世界は2つ存在していた。分かりやすく言えば、これまで人間が生きてきた“表”の世界には、相反した“裏”の世界があった、ということだ。“裏”の世界の住人は、“表”に住む人間や動物とは違っていた。人間が、時には伝説や憧れとして、時には恐れの対象として思い描いてきた、いわば想像上の存在だった。人間と同じような体型であっても、超能力者ー或いは魔法使いのように不思議な能力を有していたし、一括りにしてきた“怪物”や“魔獣”も、姿かたち様々に棲んでいた。彼らはそれぞれのコミュニティを築き、“表”の世界同様、“裏”の歴史を紡いできたのである。そんな2つの世界は互いに交わるはずもなく。住人たちは、それぞれ唯一無二の世界の一員として生きていた。
しかし100年前。“裏”の世界で大いなる災いが生まれた瞬間、両世界に歪みがうまれた。大いなる災い、その名はマルデード。闇に堕ちた種族を従え、後に“裏”の世界の一大勢力となる魔法使いである。彼が世界に生まれ落ちた時、暗雲が立ち込め、雷鳴とともに天空に亀裂が走った。それが最凶の厄災《オミナス・カラミティー》の始まりであった。天空の亀裂は、彼が歳を重ね、力を増すごとに広がり続けている。その裂け目は、もう天空の四分の一ほどに達しようとしていた。
マルデードの力は“表”の世界にも影響を及ぼした。それが、両世界をつなぐ扉の出現だ。極寒の地や、パワースポット、森林の奥。更には名高い観光名所にまで、扉は世界各地に現れた。その扉を通して、魔の力が“表”に浸透した。闇の気配が周りを腐蝕し、怪物や魔獣が棲みつくようになったのである。人々は、その事実をすんなりと受け入れることはできなかった。当たり前と言えば当たり前かもしれない。いきなり現れた空間の歪み。そこから漏れ出る、魔力や闇、そして得体の知れない存在。受け入れることができずに、必死で自らを騙した。あれは奇怪現象だ、ヤツらは超人なだけだ、と。自分たちでは対抗し得ない力、それを認めなくないばかりに。魔の力による不思議な現象は祟りや呪いだとされ、魔の力を宿したものは忌むべき対象となった。
しかし、“表”でも魔力を宿した子供たちが産まれてくるようになり、状況は一変する。扉から漏れ出た魔の力が、人を介し、少しずつ新しい命に宿り始めたのだ。彼らの得た魔力は、“裏”の世界の魔法使いが持つものと相似していた。人々は恐れを抱いた。彼らが、向こう側の世界からくる、害なすものと同じかもしれないと。魔力は、普通の人間を傷つけるものだと。魔力を持った子供たちは忌み嫌われ、時にはひどい扱いをされた。人間の敵だと罵られた。しかし、その間にも天空の亀裂と闇の気配は刻一刻と広がっていく。扉から現れる、怪物や魔獣たちも増えていくばかりだ。このままでは、“表”の世界は“裏”の世界に蝕まれてしまう。いつしか、人々はそれらに唯一対抗できる手段として、子供たちの魔力を鍛えることを考えた。同じ世界に産まれ、同じように害なす存在を恐れる彼らは、味方であると信じて。彼らなら、闇の気配を封じ、怪物や魔獣と同等に闘えるのだと信じて。
そうして作られたのが、現に言う魔法学校と、その上位組織である魔法専門機関だ。世界各地に支部が置かれ、“表”産まれの魔法使いが闘いの術を学んでいる。政府や人々の手厚い保護と援助を受け、今では国を超えた一大組織となった。手のひらを返すような扱いの変化は、まさに人間の身勝手なところだ。しかし何にせよ、忌むべき対象であった“表”産まれの魔法使いは、平穏を守る希望の存在となった。この、世界の平和を守るために・・・・・・。
ーーマルデードは100年たった今も、少しずつ両世界を蝕んでいる。すべてを闇で覆いつくし、自分を生み出した、そのすべてを滅ぼすために。