アフロ、まな板、シベリア
「ただいまー!ふぅ~、寒い寒い~」
勢い良くドアを開けて帰宅した彼女はアフ子、この家の娘だ。
装いはモコモコしたダウンジャケットに、下はかなり厚めの防寒ズボンととても暖かそうだ。髪型は、もちろんアフロ。
それもそのはず外は絶賛ブリザード、雪の壁立ちふさがるここは港も凍りつくシベリアだ。
この寒さではただかぶるだけのフードなど役に立たず、より頭に密着するアフロヘアーで凍えるような外気をシャットアウトするのが常識だ。
更にこのアフロヘアーは取り外すことが可能。その日の気分とコーディネートによって色や形も様々に使い分けることができるのだ。
アフ子は雪の被ったアフロを自室に放り出し、部屋着に着替えると居間へ向かった。
ソファーに寝転がり置いてあった週刊誌に手を伸ばしたアフ子の耳にザク、ザクと野菜を切る心地よい音が届いた。
「母さん、今日の夕飯は何?」
空ではないが何か物を入れるのには十分な腹具合のアフ子には、献立を聞かずにいることができるわけがなかった。
「今日の夕飯はアフ子の大好きなシチューよ。それも、じゃがいものたっぷり入ったやつ」
そう、彼女は朝昼晩三食シチューでも三日くらいまでなら問題ないレベルのシチュー好き。じゃがいもも、好きな食べ物の中で六位くらいに入る。
そんな嬉しい事を聞いてしまってはいてもたってもいられず、用がなくとも台所に入ってしまうのは人間の性というやつだ。
少しでも早く鍋の中の宝物を見たい、そんな気持ちが彼女を動かす。
しかし、それは絶望への一歩一歩を踏みしめているのと同義だということをアフ子は気づいていなかった。
そして台所に立ち入ったアフ子は見てしまう。見なければ幸せだったその光景を。
「か、母さん・・・。それ・・・」
「え?なに?」
「それ・・・。それ・・・」
「ん?なにかおかしいものあったかな?」
「私の・・・」
「私のお気に入りのアフロ・・・」
あろうことか、彼女の母はアフ子のお気入りのアフロをまな板として使っていたのだ・・・!
楽しんでもらえたら何よりです。