それぞれの準備
松田班、甲田班に分かれての準備は続く・・・
「ごめんくださーい。」
「いらっしゃい。」中から出てきたのは不適な笑みを浮かべる怪しげな老婆・・・ではなく、エプロンを着た30代後半であろうメガネをかけたごく普通の男の人だった。ひとつ特徴を言うとすれば・・・雰囲気が優しそう、だ。
「あのぉ・・・ここって・・・?」桐生さんは続けて訪ねる。
周りを見回してみるとウツボカズラのような食虫植物や、ドデカい花などが咲いている。どれも全て値札が就いているから商品なんだろうが。
「ここはね、見ての通り花屋だよ。」
「見ての通り・・・ねぇ。」僕は首をかしげる。
「まず僕の格好や人相が花屋と物語ってるだろう。」男は胸を張って答える。
「普通そんな風に自分で言わないと思うのですが。」
「まぁ細かいことは気にしないでくれ、奥に来てくれれば普通の花屋だって納得してくれるから。」そういうと店主であろう男性は店の奥へと僕らを案内していく。奥へ行くにつれ奇妙な植物からだんだんと華やかな植物に切り替わる。レジ周辺はさながらお花畑のようだ。
「どうだい、納得してくれたかな?」
「ええ、でもなんで花屋なのにこんな入りにくい、いえ、ごめんなさい、外装を花屋っぽくしないの?花屋なら鮮やかな花を入り口におくべきよ。怪しい店だと思われるじゃない。」桐生さんが珍しくまともな意見を、あ、いや、それについては僕も同感だ。
「じゃあ逆に質問するけど外装が紫や入り口すぐに食虫植物があると何で怪しいと思うのかな?」男は優しく僕らに問いかけた。
「・・・だって普通お花のイメージって言ったら黄色やピンクや赤とか鮮やかな色じゃない。」
「ならウツボカズラの花は鮮やかじゃないのかい?確かに地味で小さな花だけど集まって咲いていて、僕は鮮やかだと思うよ。それに花言葉は[絡みつく視線]って言うんだ。僕は視線に引き寄せられてお客さんが入ってくるようにという意味も込めて入り口付近で売っているんだ。」男は力説した。
僕らは思わず感心して聞いてしまった。
「でもそれじゃ普通にお花を買おうとしてこの商店街に来た人は花屋だと気づかずにここを通りすぎてしまうんじゃないかと。」差し出がましいようだが僕は率直な意見をぶつけた。絶対普通の人は怪しい店だって思うし、ましてやお花を買おうという人が来るとは思えない。
「だから僕はこの店を商店街に開いたんだ。」男はいう。
「全く意味が分からないわ。」僕らは首を傾げる。
「商店街ってのはいろんなお店、いろんな人が関わり、助け合いながらやっていると僕は思うんだ。道の角にぽつんとオープンする店とは訳が違う。そこには当然横のつながりがある。それは店同士でもあり、もちろんお客さんとのつながりもある。だからお客さんは気軽に商店街の他の店の店員に[あそこは何の店?]って聞くことができる。そうしてお客さんは本当に花屋?という疑念を抱きながらも怖い物見たさで店に来てくれると思うんだ。それに、商店街ってのは買い物が楽しいところじゃないといけないと思ってる。遊園地だってメリーゴーランドっていう華やかなアトラクションもあればジェットコースターっていう激しい物もあるし、おばけやしきなんかもある。それぞれがそれぞれの役割があると思うんだ。商店街も同じ、八百屋っていう元気な所もあれば、喫茶店って言う落ち着ける場所もある。そうして成り立っていると思う。」僕らはいつしか真剣にこの男の言葉に耳を傾けていた。
「でも今時商店街なんてはやらなくてなぁ・・・仲間はみんな撤退していって、シャッターが増えてきたのが寂しいんだ。今じゃ栄えてたときのお客さんや黒魔術がどうとか言う一部のマニアしか来てもらえなくて。この先やっていけるか不安ってのもあるんだ。」僕の考える商店街もここにある気がしていた。
「家のじいちゃんも昔は栄えてたって言ってましたが、どんな感じだったんですか?」僕はなんとなくそのころの商店街を復活させたいという思いがあったが、その思いがいっそう強くなった。
「昔って言ってもそんなに前じゃないさ。盛り上がってたのは10年前くらい、までかな。あの頃は週に一回福引き大会があったり、商店街主導のお祭りがあったりにぎやかだったなぁ。」男は過去を懐かしみながらその後もしばらく僕らに過去の商店街のことを教えてくれた。
「実は僕らもそのうちこの商店街で商売をしたいなって思ってて、そのために協力できることがあれば・・・と。」
「んー、仲間が増えるのはうれしいんだけど、ここでの商売で生計を立てるのは現状かなり厳しいと思う。応援はしたいけどオススメはできないなぁ。それに、君たちは商売に携わったことはあるのかい?」男は圧力を強くかけてくる。
「えーと・・・これからあるバザーが初めてです・・・。」
「だから私たちはそのために商売のヒントを得ようと思って、調査に来ているんです!」僕が弱気になっているのに対し、男の言い方が気に食わなかったのか、強気に言い返した。
「調査をする事はとてもいいことだと思うよ。でもね、僕はやっぱり実際に経験をつむ事ってのがそれ以上に重要だと思うんだ。いきなりやったって成功するはずがない。そのあてはあるのかい?」
「で、ですからバザーを・・・」
「では質問しよう。バザーは自らがすでに持つ商品がつきたらおしいまいだ。売るという部分ではなんら通常の商店と変わらない。でも商売には仕入れるって行為があるんだ。そのあては?」
「あります!なんなんですかさっきから!嫌みばっかり!応援なんてする気ないじゃないですか!もういいです。お客さんもいないみたいだし、こんなとこじゃ調査になりませんから。行きましょう松田君。」といって男に舌を出して[べー]をしたあと男の言葉に意気消沈する僕の手を掴んで出ていこうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。すまない、怒らせる気はなかったんだ。この商店街を復活させたいって言うその覚悟を聞いてみたかっただけで。僕だってそりゃあ復活させたいさ。今後の生活もあるし。だからちょっとね。大人げなかったよ。」男は急にペコペコ頭を下げ始めた。
「だからね、そのバザーが終わったら僕の店で修行してみないかい?もちろん君たちの頑張りによっては給料も出すよ。」
「いやです!」桐生さんはきっぱりと断って出ていこうとする。その返事を聞くと男は走り出し、僕らの進行方向を妨害するかのように目の前に立ちはだかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。嫌われちゃったなー僕。実はね、僕の店が君たちみたいにこの商店街復活のためのプロジェクトの先導をきろうと思ってたんだよ。だから君たちと思いは一緒なんだ。
ここでの経験は必ず君たちにとってプラスになる。いやしてみせる。だから僕と一緒に頑張ってみないか?いや、頑張ってくれ!」男はまた頭をさげる。
「んー、どうしよっかなー。まぁあなたがそこまで言うならやってあげましょう。では、よろしくお願いします。えと・・・」桐生さんはすでに上目線だ。おそろしや。
「ありがとう。あ、自己紹介が遅れたね。僕は古川真[ふるかわまこと]。」いつの間にか立場が逆転している。
「古川・・・店の名前の古って字と関係があるんですか?」僕はふと気になって訪ねた。
「あぁそうさ、古は古川の古、でもってフランス語で花のことをフルールっていうんだ。それをかけて古ーるって名前にしてある。」男は胸をはって言う。センスがいいんだかわるいんだか。
「私は桐生千春。この人は松田・・・なんだっけ?まぁなんでもいいか、好きに呼んであげて。」よくないよくない。
「あと糸井ってのと水月ってのと甲田君がいるわ。全部で5人、バザーが終わったら世話になるわね。みっちりしこんであげてね。」なんで他人事なんだよ。あんたもだろ!
「い、勢いのあるお嬢さんだね。」古川さんは苦笑いをしてこっちをみる。
「あはははは・・・。」こっちを見るんじゃないよ。と思いつつも下手なことは言えないので僕もただただ苦笑いをした。
「さ、今日の調査はここまでにしましょう。勉強になったわ、ありがとう古川さん。」そういって僕と桐生さんは花屋古ーるを後にする。
「ただ斬新なだけじゃダメなのね。意味がある斬新さにしないとだめなのよ。松田君、予定変更!明日明後日は今日の考察とレイアウトに使いましょう。」桐生さんの前では予定なんてあってないようなものだと僕は胸に刻んだ。
その日、甲田班は・・・(甲田視点)
「千春にはぜっっっっったいに負けないわよ。キャプテン頼んだわよ!」似たもの同士、お前ら一歩も譲れないのな。
「って俺がキャプテン!?聞いてねーよ!」
「だって今初めていったから。」なんでここのお嬢様方はかってなんでしょうね。
「却下!」俺は冷静かつ堂々と言った。
「何でよ!だってあなた男じゃない!」
「男だから何なんだよ。それは大義名分としては認められないね。」なんでもかんでもそんなことがまかりとおるならば、この世の男の大半はすでに鬱病だろうよ。
「わたくしは甲田さんでいいと思いますが。」
「やっぱりそうよね、殿方には手腕を発揮していただかないとね。どうする?多数決にする?」
「そんな開票率0%で当確が出るような無駄な勝負はしねーよ。」
「あら、そう。もしかしたらあたしが寝返るかもしれないわよ。」悪い顔してやがる。
「それこそ意味わかんねーから!それにそこまで言われてやらねー男はいねーよ。」
「では、改めて宜しくお願いいたします。」糸井さんはつくづく現代人の香りがしない人だな。
「千春に負けたら承知しないから。」水月はこわこわだな、こりゃ負けたら全部俺の責任にされそうだな。けど、俺だって負ける気はさらさらねーっての。
「さて、俺らはどう進めていくかな。昨日チハルンのブログ読んだら、どうやらあっちはマーケティングリサーチってのを調べてるみたいだけど。」
「あんたまだそんなの見てるの?」
「そりゃチハルンは俺らのアイドルだからな。ってそれはおいといて、どう進めてくかだよ。」
「そうねぇ・・・」危ない危ない、危うく変態扱いされるところだった。
「宣伝はどうでしょうか?父にお願いして日本の全テレビ局をジャックしてもらって一定時間つねに来るバザーの宣伝をいれてもらえるようわたしから頼んでみます。」このお嬢様はさらっととんでもないことをいう。
「宣伝は言い考えだと思うけど、そこまでしてもらうのはちょっとね。日本の経済バランスを崩しかねないというか何というか・・・。気持ちだけ受け取っとくわ。」
「キャプテン、あんた絵は描ける?」
「俺が持つのは筆じゃなくて、バットだ!」
「話にならないわね。」
「なんだと!」
「まぁまぁ喧嘩はしないでください。わたし絵の方も少々心得がありますので、お役に立てるかと。」さすが糸井さん、万能選手。
「じゃあ糸井さんにチラシのデザインは任せるとして、私はネットを使って、脳筋なあんたは足でチラシをばらまくのよ。」もうお前キャプテンでよくねと思わざるを得ない。
「てかこのメンバーだと脳筋キャラが薄れる!中性を入れてほしいぜ。」いやまじで、これじゃ普通の主人公的な語り口になっちまうから。主人公がたくさんいるお話なんてうまく行くはずがないのだ。そもそも主じゃなくなるしね。もちろん、どこぞやの幼稚園は桃太郎10人に対し鬼が1人だ。むしろそれでうまくいってるなんて話はきっと異世界の話だ。
「なに言ってんのむしろあたしが中性でしょ。ペーハー7よ、ペーハー7!」
「悪い、日本語でしゃべってくれ!」意味が分からない。もちろん別にここぞというタイミングだからって大いにバカキャラをアピールしてるわけではないですよ。たまたま
水月から高度な言葉がでてきただけであってね。
「中性の中の中性って事よ」ばかねぇと言いたそうな顔をしている。
「まぁ男女という意味ではな。」
「そういう意味で言ったんじゃないわよ!」
「まぁまぁ落ち着いて。」やっぱり糸井さんがなだめる。が、なだめるだけで話がちっとも前に進まない。
「わ、わたし、とりあえずチラシの絵をかきますから。す、すめましょうよ、ね、ね。」水月も俺もなんだか申し訳なくてうなずいた。
「そうと決まればさっそく・・・素振りでもしながらチラシができるのを待とう。」俺はバットを片手に外に出て
「あたしは・・・ってまちなさいよ!野球ばか!」
「野球バカ!か、いいなそれ。そうだ、俺が野球バカだ。てなわけで素振りやってくる。」俺は胸を張り外へ出ていく。
「はぁ・・・まぁいいわ。チラシができたら否応なしに歩き回ってもらうわけだから。さて、あたしは・・・どうしよ。」考えてみると千春に対抗するためだけにこの企画、いや、サークルに入ってしまったといっても過言ではないわけで。というかそこまで気合いが入ってるわけじゃないわけで。もちろんそんなあたしにリーダーシップを取れるわけないわけで。
「ブログでも書きますか。せっかくだから宣伝くらいしておきますか。」とかいってるとどんどん気持ちも冷めてくる。横を見ると糸井さんがいろいろ悩みながらチラシを作成している。
「なんでこんな必死になるのかねぇ。・・・あそっか、なんか家の事情がどうたらとか言ってたっけ。」はぁ・・・なんかどんどんやる気がなくなっていく。そこまでやる気があったわけではないけど。
「ふぁ~~~」あくびが出てきた。なんか糸井さんに申し訳ない。というかさっきから外が騒がしい。男の[すみません]って声が聞こえる。あとじいさんらしき怒鳴り声も
。ちなみにここは甲田の家であり、草野球で稼いだお金で借りている平屋一戸建て。よくそんな雀の涙ほどの稼ぎで一戸建てなんて借りられるな。ここはそんな土地が安いの
かね。そもそも論として草野球ってお金もらえるの??
そんなことを考えていると勢いよく玄関の扉が開き
「たたた、大変だ!!!庭でトスバッティングやってたら知らない家のおっさんの松の盆栽を破壊しちまって、おっさんが盆栽みたいにツンツンと全身の毛を逆立たせて、し
かも殺気をはげちらかしてこっちに向かってきたんだ。いや、頭以外だ!」甲田の言葉は意味不明だったけど内容はのめた。って、誰、トスしてたの???
「つっこむところが多すぎるのであえて一つ聞くわ。何が一番大変なの?」大変な事が多すぎて何が言いたいのかわからなかったのは確か。
「10万だよ10万!あんな雑草のどこが10万なんだよ!」あんた盆栽愛好家に袋叩きに合うわよ。
「で、10万がどうしたの?」
「弁償しろってさ。10万。残念ながら俺の稼ぎじゃ足りねーよ。どうすんだよ!」
「どうすんだって・・・あたしには関係ないわよ、1人で何とかしなさいよ。」
「俺1人で10万なんて払えるかよ!」
「だから知らないわよ!」あたしと甲田が言い争っていると、イラスト描ぎ途中の糸井さんが口を開く。
「まぁまぁお金なら私のお父さんにお願いすれば。」
「それは・・・なんか申し訳ないので気持ちだけ受け取っておくよ。」さすがの甲田でもそこは断るのね。
「で、でもそれでは甲田さんが・・・」糸井さんはお人好しにもほどがある。
「方法がない訳じゃないわ。」といってもこの人たち以外この後あたしが言う事は全員気づいているだろうね。
「今回バザーで稼いだお金で払えばいいじゃないのよ。」言いながら私はひとつため息をついた。
「そうか!その手が!」ひらめいたみたいな事やってるけど、本当に思いついてなかったのか、それとも・・・。
「それは言い考えですね。で、では私のお父さんに頼んで10万円相当、いえ、それではお得感が出ないので20万円相当の品を用意してもらってそれを10万円で売りまし
ょう!」こっちは本当に気づいてなかったみたいね・・・。
「やっぱりその考えは糸井さんに悪いわ。そもそもそれじゃ私たちが稼いだって感じじゃないし、というかそれは糸井さんのお父さんが払ってるのと変わらないよね。」
「そ、そうですね・・・ごめんなさい。でも、それではどうすれば・・・。」糸井さんの表情が曇り始める。
「大丈夫よ、糸井さんのチラシとあたしと甲田の宣伝があれば、10万くらいたやすいわよ。」言ってて無理だとわかっていた。
「そうですよね、10円万くらいであれば大丈夫ですよね。小学生のお小遣いくらいなら。」糸井さんは自分で頷き納得して笑顔になり、イラスト描きに戻る。
あたしと甲田は顔を見合わせしばらく凍り付いていた。
「できました!」糸井さんの声に合わせあたしらは解凍された。かわいい小動物の絵がちりばめられたファンシーなチラシに仕上がっている。
「どうでしょうか?」
「いいんじゃないか、かわいいし。」
「あたしもかわいくていいと思うよ。」
「さて、今度は俺たちの番だな。」この流れはやっぱり必死にならなきゃダメ?だよね。そもそも10万円の解決方法の言い出しっぺは私なんだし。私はあらゆる知らない人物の個人ブログのコメント返信欄にバザーを宣伝する内容をひたすら書きこんだ。これでは18禁内容の宣伝をする業者と何一つ変わらないな、と思いながら、いずれ時間を
忘れて無意識の内にあらゆる掲示板にも書き込んでいた。もちろんバス・トイレ板にも・・・。アウトドアに見えて実は私は千春よりインドアだし。千春と同じはいやだった
のでアウトドアを演じた。いわゆる同族嫌悪ってやつかな。一息ついて辺りを見ると、糸井さんは次のチラシのイラストを描いていた。あれ、甲田は?
「私のチラシを印刷して外に貼りに行きましたよ。」
「そう。」気づくと私は疲れてうつ伏せのまま寝てしまっていた。
その頃甲田は・・・