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リーダーとして

※本当に全く書道が関係なくなります。

次の日僕は午前中に退院ができ、医者からは安静にしているよう言われたが、桐生さんが心配なので午後は書道教室に足を運ぶことにした。

「こんにちはー」

下駄箱を見る限り、今日は誰も来ていないようだ。

「あら、松田君、熱心ね。そんなに書道が好きなら私の跡を継いじゃえばいいのに」

「あ、師範、どうも。いや、僕は・・・」書道という国を代表する文化を勤しむ方がそんないい加減でいいのか。

「冗談よ。でも本当に松田君が書を仕事にしたいなら真剣に教えてあげるわよ。」トゥルルル・・・トゥルルル・・

「はいはーい、あら、あたしのヒール?もうしょうがないわね、すぐ行くわ!ごめんね~松田君、今日は教えてあげられると思ったんだけど、パーティがピンチみたいで戻らなきゃいけなくなっちゃったの。」

「はぁ・・・。あの、桐生さんは?」一瞬本物の師範っぽいと思ったけど・・・いつもの師範だった。

「千春?千春なら部屋にいるわよ。行ってみたら?あ!そういえば最近あの子部屋から出てないわねぇ。何かあったのかしら?といっても部屋から出ないのはあたしも一緒だけどね。」師範はそう言いながら笑っていた。

「そうですか、ははは・・・行ってみますよ。」師範の言葉はいつも苦笑いをさせられる。実の子が心配じゃないのか?とはいえ人の家のことを考える前にまず自分をどうにかしないとな。とりあえず桐生さんの部屋に行ってみる。

僕は桐生さんの部屋の前に来て扉をノックする。が、音沙汰がない。呼びかけてみる。

「桐生さん、松田です。さとしに事情を聞いて、心配で来てみました。」

「あんたもう大丈夫なの?」小さい声だが扉越しに桐生さんの声がはっきりと聞こえた。

「ごめん!!!」僕は扉の前で深々と頭を下げた。

「何言ってんのよ、・・・むしろ謝るのは私の方だし。」桐生さんの声はだんだんと小さくなっていった。

「でも、ああいうときは僕が止めるって約束したから!」

こんなに真剣にものを言ったのはいつ以来かな。と思うくらい真剣な顔で扉に言い放った。

「ばっかじゃないの!」と同時に扉は開かれた。

「さっさと全員集めなさいよ。さっさとミーティングを始めるんだから。」口調は相変わらずきつかったけど、なんだか桐生さんが優しい目をしているように僕には見えた。

「は、はい!」桐生さんの凄みに思わず敬礼してしまった。

「・・・今度はちゃんと止めなさいよ。」桐生さんは去り際に小さな声で僕にそう言った。

「今度は必ず。」言いながら僕は自分にも言い聞かせた。

さて、しんみりする時間は終わった。みんなを集めよう。

って誰の連絡先もしらねー。

自分がなぜ今ニートなのかわかった気がした。いやいや、納得してる場合じゃない。とりあえず・・・ここで待とう!

僕は書でもしながら待つことにした。わかってます。わかってますとも。書道教室にいながらのこの発言、おかしいことくらいは重々承知してますよ。気分はさながら喫茶店のようだ。書道喫茶、いいんじゃないかな。ウェイトレスさんは書道家の格好をした黒髪の子で~、髪は~一本に束ねてて~。

「うんそうそうこんな感じ。」目の前にはポニーテール姿で書道家の格好をした桐生さんがいた。

「なにがこんな感じ!なのよ。」ばっちりメイクされた桐生さんは妄想からぽろっとこぼれでてしまった僕の発言に問いかけた。

「いやいや、何でもないですよ。ええ、なんでもありませぬ。」思わず[ぬ]とか言ってしまった。

「桐生さんこそ、そんな格好をしてどうしたの?」

「師範の娘であるこの書道家の私が、書道教室で書道家の格好をしてなにかおかしいわけ?」

「全くもっておかしくありません。」また意味もなく敬礼してしまった。

「まぁいいわ、今から私が我がサークルの活動方針を書き記すからよく見て参考にしなさい。」

そういうと桐生さんは墨を擦りだした。ひとまず変な妄想について忘れてくれたようで助かったー。

「で、こんな感じってなに?」

ガンガン覚えていらっしゃる。

「え!あ、いや、師範も若いときはこんな感じだったのかなぁーと、ね。」苦し紛れだった。

「お母さん?んー着てたんじゃない。実際に見たことはないけど。いろいろな舞台で書いてたみたいだし。事実、この服があるってことは書いてたんでしょう。」ふぅ・・・なんとかごまかせた。

「そんなことより、変わったコンビニ思いついたの?」

「それについてはみんなが集まったら話そうと思ってる。」

「ほぉ、自信があるみたいね。楽しみにしてるわ。」そう言うと桐生さんはテンションがあがったのか墨を擦るスピードを上げた。

「逆に桐生さんは何か考えたの?」

「いくつか考えたわ。まず私が目を付けたのは防犯よ。」桐生さんにしてはまともだ。確かに昨今異常気象やら天変地異が頻繁に怒る時代だ。防犯グッズを多数コンビニに用意するってのはうなずける。取り入れた方がいいアイディアだな。

「まずはレジの下に木刀を用意するの。本当なら真剣でもいいのだけれど誰もがみねうちを使えるわけじゃないからね。カラーボールなんて甘いのよ。私なら砲丸にするわ。」墨を指さし棒のように使いながら体全体を使って説明を続ける。おかげで周りは墨が飛び散っている。いや、今重要なのはそこじゃない。

「店の防犯かよ!」思わず口に出してつっこんでしまった。

「そう、防犯が大事なのよ。ただで物を得ようなんて許さないわ。売上金の理論値と実の売上金は必ず同等にするの。万引きは重罪よ、極刑よ!そもそもなんで商品の盗みに限って万引きっていうの?呼び方を変えて一線を引いてしまうから犯罪色が弱まるのよ。全て窃盗っていいなさいよ。」論点がずれてしまっている。・・・は!暴走が始まってるのか。

「ストーップ!!!」僕は大声を出してすばやく墨を持っている手をつかんだ。

「ちぃーっす。」

「遅くなりまして申し訳ございません。」

「千春ー!この前は言い過ぎたわ、ごめ・・・」

甲田、糸井さん、水月さんがタイミング悪くこの桐生書道教室にやってきた。後から聞くに、どうせ僕にはメンバーを集められないと思い、全員に連絡していたそうだ。

「松田、お前なにやってんだ?」

「キャーーー、は、破廉恥です。」

「ふーん、2人ってそういう関係だったんだ~。」

今の現状を冷静に分析してみると確かにそうとらえられても仕方ない。

書道教室内のレイアウトは学校の教室の様になっており、中央奥に師範の席があり、向かい合うように生徒の席がある。桐生さんはいつも師範の席に座っているため、玄関からは、僕が桐生さんに襲いかかっているように見える。

「ば、ばか、どきなさいよ!」僕は桐生さんに蹴りとばされた。俺は回転しながら宙を舞った。あぁ・・・これがあの交通事故の時にスローモーションになるって言うあれかぁ。桐生さんの蹴りは想像以上に強かった。

「自業自得だな。」甲田は吹っ飛んだ僕を見て言う。

「誤解だよ!」

「松田君はそんな人だと思わなかったのに・・・。」い、糸井さん・・・。

「よくやったわ松田君、千春もいい年なんだからたまには異性との絡みの一つも必要なのよ。」水月さんは笑いながら言う。

その後小一時間かけてみんなの誤解を解いた。糸井さんはまだ少し疑っているようだが・・・。まぁ時間の問題だろう。我慢我慢。

「さて、そんなわけで第一回、コンビニ研究会のミーティングを始めるわよ。」

「この変態が言い考えがあるみたいよ。」乗っけから酷い扱いだな。というかリーダー僕じゃなかったの!?司会進行とか向いてないからいいけど。

「来週この地区でバザーがありまして、まずはそこに出てみようと思います。軸となる商品は前々から話していた通り甲田家のラムネです。後は各々家から売れそうな物を持ってきて下さい。まずは営業スキルの向上を図ろうと思います。」よし、噛まずに言えた!

「その買い手の主軸となる年齢層はどの辺なの?」水月さんが鋭い質問を出す。

「恐らく幼稚園で行うバザーだから園児の母親が多いんじゃないかな。」

「つまり25~35歳の女性に人気が出そうなものってことね。」こう言うことに関しては水月さん、強そうだ。

「ん~・・・難しいですね。私あまりショッピングとかさせてもらったことがないので、トレンドとかがわかりません。」糸井さんらしい。

「大丈夫よ、私が流行ってやつを教えてあげるわ。千春もそういうの疎いんでしょ?一緒に教えてあげてもいいわよ。」ものすごい上から目線だ。にしてもこの2人の関係性が未だによくわからない。ライバルなのか?でもなんのだ?まぁいいや。

「おあいにく様、あたしって流行を体で体現してるところあるし。むしろ流行が具現化したのがあたしっていっても過言じゃないわ。」何とかして言い返したいにしても

無理がある。

「それは過言だろう。」甲田が言う。

「甲田君が言うなら、・・・過言です。」桐生さんは照れている。ってなんだそりゃ。そこで照れるのかよ。惚れた男と一般庶民と言えども扱いが違いすぎだろう。

「とにかく、あたしは流行に強いの。」

「俺は結構はやりとかよくわかんないな。着るものとかいつも助っ人にいくチームのユニフォームだし。」確かに今日も崎沼ゴールデンタイムスというチーム名のユニフォームを着ている。新聞会社のチームなのか?というか話が横道に逸れそうだ。といううか逸れている。ここはリーダーっぽいとこを見せるチャンスだ。

「とにかr

「せっかくみんな各自商品を持ちって販売するなら、勝負をしましょう。」結局僕の声はかき消され、桐生さんに全てもって行かれた。

「みんなで力を合わせてバザーに挑むのではないのですか?私はてっきりそういう進め方かと・・・」さすが糸井さん、いい人だ。

「糸井さん、これは互いが蹴落とし合う勝負じゃないのよ。みんなで切磋琢磨して、高めあいながらがんばろうってことなのよ。」桐生さんは演技をしているのがばればれなくらい大げさに言ってみせた。

「そういうことなのですね。私もみなさんの足を引っ張らないようにがんばります。」糸井さん・・・切磋琢磨とか関係なしに、桐生さんは言われっぱなしで悔しいから、水月さんに勝ちたいってだけなんだ。

「ゴホンッ!と、とにかく、みんながんばろう。」なんとか最後だけは締めることができた。僕はただそれだけで満足だった。

近々の方針がきまり各自解散の流れになった。が、僕は桐生さんに呼び止められた。

「松田君待って!あたし、絶対にアヤに勝つ!」桐生さんの目からは炎がでて・・・はいないんだが、それくらい真剣な目をしていた。

「そ、そう・・・なんだ。がんばって。」

「何言ってんのよ。あんたもあたしに協力するのよ。」桐生さんは僕の肩を掴んで言う。

「でも僕は僕でリーダーとして1位になりいし。」まるで桐生さんがリーダーみたいになってるけど、ここはちゃんとリーダーとしてみんなに認められるチャンス、負けられない。

「バカねぇ、リーダーって言うのはみんなを支えるのが役目なの。だからあんたは5位でいいの。今はあたしが困ってるの、支えられなければいけないの。」桐生さんの勢いに、つい[うん]と言ってしまいそうになる。でも今はリーダーなんだ。リーダーとしてそう簡単に引き下がるわけには行かない。

「桐生さん!みんなも同じ条件での勝負なんだ。だから桐生さんの考えで行くなら、僕はみんなを支えなければならない。一人だけ見方するなんてフェアじゃないよ。」僕は堂々と桐生さんにものを言ってやった。

「わかったわ。じゃああたしと勝負して決めましょう。あたしが勝ったらもちろんあたしを全力でサポートする。あたしが負けたらそれなりに私をサポートするがいいわ。」

「なんだそれ、どっちもサポートするって答えは変わらないじゃないか!」

「嘘嘘、冗談よ!勝っても負けてもあなたは私を全力でサポートするの。」何がどう冗談なのか僕には到底理解できなかった。

とはいえこれ以上何を言っても無駄なようなので、僕は素直に従うことにした。

「で、具体的に僕は何をすればいいの?」

「まずはマーケティングリサーチよ!」

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