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サークル発足!

※書道は基本的にやりません。この教室が学園物で言うところの部室みたいなものです。

春、それは出会いと別れが訪れる季節。そんな季節に俺は新しい出会いをした。

俺はこの春、新しいことを始めようと思い、ある書道教室に通うことにした。教室名を[桐生書道教室]という。生徒は自分を含め5人という小さな教室だけど、皆それぞれ必死に?腕を磨いている。そんな小さな書道教室のなかにあるサークルがあった。むしろ僕が立ち上げてしまった直接の原因であると言っても過言ではないのだが。僕はそのサークルの一員となってしまったことで人生の路線を大きく脱線してしまうことになるとはこのときはまだ知らなかった。

始まりは僕が書道教室に通い初めて半年がたった頃だった。

「・・・というわけなのよ。」

相変わらずここの書道教室はただの生徒の雑談の場になっている。書道というものは本来静かな場で行うものだが、ここはいつもうるさい。集中できないのである。

さっきから自分の書いている[し]の字がげじげじになってしまっている。

「集中できないので、声のボリュームを少し下げてくれませんか?」

「松田君はまじめだねぇ~」この人はこの桐生書道教室の娘さんで桐生美砂という。僕より一つ年は上なのだが、そんなことは微塵も感じさせない典型的なおてんば娘である。

「まじめというか、僕はただ、書道教室に書道をしにきてるだけです。」僕はまじめにやらない桐生さんにいらいらしながらも冷静に答えた。

「それをまじめだというのよ!考えてもみなさい、学習塾に学習をしにきてる人がどれだけきていると思っているの?」

「大半はそうなんじゃないかと。」

「そうなのよ、いやな世の中になったものだわ、学習塾で遊ぶ子がもっと増えないかしら。そしたらこの世はもっと楽しくなると思うの。」相変わらず言ってることが酷い。とても書道教室の娘の話とは思えない。

「もとからそういう世の中です。むしろ僕はそっちのがいやな世の中だと思いますよ。しかるべき場所ではしかるべきことをすればいいんですよ。」

「だからね、私考えたの、サークルを作ればいいんだ!って。」

「あのぉ、人の話聞いてますか?これではPTAの方々に顔向けできませんて。」

「何を言ってるの、遊びを学びとすればいいのよ。よく言うじゃない、通信教育のうたい文句で、[遊びながら学べる]って。」桐生さんの顔はこれでもかというしたり顔だった。

「それはそうですけど。実際何をするサークルを作るんですか?」興味はないのだが、どうせもう今日は集中できそうもないので話につきあってみることにした。

「よくぞきいてくれました!ふっふっふそれはだね松田君。・・・・・・!」桐生さんはまっすぐこっちを見ている。これほどまでに女性に見つめられると、桐生さんといえど照れる。

「・・・・・・・」まだ見てくる。

「溜めますね。・・・もしかして何も考えてなかったんじゃ・・・。」まさかそっちのパターンじゃないよな。

「そう、まさにそう!いや~さすが松田君だね、わかっていらっしゃる!」

「威張るなよ!」

「だっていつもろくに話し聞いてくれないから、急に真剣に聞き返されても、続き考えてないのよ」俺の責任なのかよ!

「罰として、何をやるサークルを作るのか、明日までに考えてきなさい!」罰ってなんだ罰って!どんな先生でも今の会話の流れ上、俺には丸をつけるだろう。

仮想先生「ウフフ、松田君すごいわ、100点よ。」僕はそんな妄想をした。

「もし思いつかなければ、私に相談してもいいわよ。テレフォンか、オーディエンスかフィフティフィフティというう選択肢があるわ!っていうアドバイスをしてあげるから。」

その前にその選択肢を選択するための選択肢をよこしなさいよと思いながらも僕は相手が年上と言うことを考慮して、素直に従うことにした。

「そこまで言われたら何か考えるしかないですね。そういえば今日師範はいないんですか?」

「お母さんは今日MMOやってるんじゃないかな。」

「MMO?」

「ネットゲームよ。ここ半年くらいはまってるのよ。」

「だからなかなか姿が見えなかったんですか。ってそういう問題じゃない!」詐欺だ、詐欺だ!こちとら毎月月謝払ってるんだよ。

「書道家としての仕事はいいのかよ!」当然答えはNOしかないはずなのだが、返ってきた答えは俺の予想の斜め上を言っていた。

「確かにお母さんは、どのMMOにも書道家って職業がないことをなげいていたわ。だから私は僧侶としてみんなの回復役としてがんばるわ!とも言っていたよ。」

「だからってなんの[だから]なんだよ。というか、いいのかよそんなんで。」いいわけないんだけどね。

「大丈夫よ、提出さえしてくれれば丸付けや手直しはしておくって言ってたから。」

「そう、まぁそれならいいけど」あくまでも最低減ね。

「そういえば今日さとしは?」

「甲田くんなら今日は草野球で教室には行けないって言ってたわよ。」

「そうなんですか。」じゃあ今日は俺一人か。

「そういえば何で草野球っていうんだろうね。実際に草で野球やってたのかな?」相変わらず天地を揺るがすほど超絶にどうでもいい話ほど目を輝かせる人である。

「草でバットやボールを作ってプレイしてたってこと?」それはいくらなんでもないだろう。

「私はアカツメクサはファーストだと思うなぁ。」

「えっ!そういう意味?」この人の考えはまるで予想できない。

「当然でしょ。だって草野球なのよ。草がやらなきゃだめじゃない。球だから草と言うより球根だわ!あ、わかってるとは思うけど球根に手はないわよ。」

「わかってますよ!」あの人は僕のことをバカにしてるのかあの人自身がバカなのか。未だによくわからない。

「そうよね、松田君もそう思うわよね。アカツメクサはやっぱりファーストよね。」

「ははは、そうですね。」意味が分からないしめんどくさいので、ひとまず話を合わせておくことにする。

「そろそろ終わりの時間ね。」その言葉に反応して僕は腕時計を見る。気づけば午後7時。この教室は7時で終わりになる。と、こんな風にこの書道教室は通信教育でもいいような感じである。ただ、退屈はしない。それに月謝は安い。それは師範自信が、ろくに教えられていないというのを自覚しているからだとか。それもどうなんだろ?と、初めは考えたのだが、師範を見ているうちにそんなことどうでもよくなった。慣れというのは怖い、まるで世界中の書道教室がこうであるかのような気さえしてくる。そもそも書道だし、もちろん世界と言うのは冗談、そのくらいと言う意味である。けど僕は退屈しないこの教室が好きだ。退屈をしないのは桐生さんがいるおかげと言うのが腑に落ちないところなのだが、そこだけは桐生さんの魅力なのかもしれない。あくまでも[そこだけ]という言葉に嘘偽りはない。

そんなわけで僕は教室を後にした。

「ただいまー。」僕の家は至極普通の一軒家である。姉が一人と両親というありきたりな核家族である。

「あんたいい加減この先どうするか考えなよ、いつまでもニートじゃしょうがないでしょ。」毎度のことながら姉からのきつい一言である。玄関開けた瞬間に罵声ってどんなプレイですか?

「正確に言うとニートじゃない。ちゃんと書道教室通ってるし。学んでるんだからニートじゃないよ。」苦し紛れに言い返す。

「書道教室って言ったって遊びでしょ。」普通なら真っ向から否定するところなんだが、あながち間違いではないので強くは否定できない。

「遊びじゃないし、日々うまくなってるよ。」師範がネットゲーム三昧なので実際うまくなってるかどうかもわからないのだが・・・

「じゃあ何、書道家にでもなるつもり?」今日の姉はいつもより一段とグイグイくる。

「どうしたの姉ちゃん、今日いらいらしてる?」終わりが見えなそうだし、ここはなんとか話を逸らそう。

「そうなのよ、会社の上司がね、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ・・・。」姉ちゃんのマシンガン、時にショットガンのようなグチが30分続く。こんなこと聞かされたら余計働く気なんて起きないっつーの!そういうこと考えないのかね、この姉は。

さんざんグチをいい、すっきりしたのか姉は自分の部屋に帰っていった。何だったんだ・・・。

「これだけで今日の体力の6割は使ったよ。グチ聞き料として給料払ってほしいよ、全く。」僕はベッドにダイブし、そのまま眠りについた。

次の日、いつもと同じ昼1時に起きる生活。こんな生活じゃだめだ!昨日の話もあるし、僕は焦っていた。だから今[働きなさい]なんて何があっても言っちゃいけないのです。そんな言葉はいらないので仕事をください。なんてニートの誰もが思っていることである。

「そうだ、昨日の桐生さんの件考えておかないと。・・・・・・・・だめだ、思いつかない。」

散歩でもしてリフレッシュすれば何か思いつくかな。

僕は寂れた商店街を散歩する。5軒の内4軒はシャッターがしまっている。

ここも昔は栄えてたって死んだじいちゃんが言ってたっけな。どんな商店街だったんだろう。ア○横みたいな感じだったんだろうか。むしろ商店街のイメージはあそこしか浮かばないし。

「そうだ、ここで商売をやってみるってのはどうだろう。」それなら働いてるから働けと言われないし、桐生さんの件も果たせる。一石二鳥じゃないか。そもそも一つの石で二羽の鳥を落とすなんてとんでもない命中率と運が必要だよなー。そんなこと本当にできんのか?ちょっとやってみるか。

「そりゃ!」やっぱ一羽にすら当たらないか・・・。これ以上は動物愛護に反するからやめておこう。でもやってみてわかった。どう考えても無理だ。たぶん僕だと百石一鳥でも無理だ。一蝶ならもしや・・・。まぁそんなことはさておき、何か商売をするサークルを作ればいいと言う提案にしよう。

さて、書道教室へ向かうか。下駄箱にはヒールが入っていた。今日はすでに誰か来てるようだ。

「こんにちはー。」

「あら松田君、こんにちは。」糸井さんだ、いつ見てもきれいだなー。

「糸井さんも来てるんですね。」

「今日は他の習い事も休みだから。」糸井さんは才色兼備な美人さんである。どうやらいいとこのお嬢様らしく、毎日習い事で大変なようだ。

「他の習い事ってどのくらいされているんですか。」

「お茶でしょ、お花でしょ、お裁縫でしょ、絵でしょ、お琴でしょ、バレエでしょ、弓道でしょ、落語でしょ、剣道でしょ、空手でしょ、スイミングでしょ、テコンドーでしょ、潜水でしょ、・・・・。」その後も糸井さんは指を折りながら続けた。

「す、すごいですね。」広く浅くと言うレベルではないな、広大で浅くと言った方が合致するか、浅いかどうかも定かではないけれど。っと待て待て、他がすべて休みだから来るって言うのはつまり優先順位で言うと一番下ってことなの!!・・・もっともである。

「なーに鼻の下のばしてんのよ。」

「桐生さん。いたんだ。」お転婆娘の登場である。糸井さんとは真逆の存在といっても過言ではない。

「いたもなにもここはあたしの家だっての。あんたここの文字が見えないの?ここは[桐生書道教室]」

「わかってますよ。」

「あんた、昨日の宿題忘れてないでしょうね。」桐生さんはギロッとこっちを向き、言い放った。

「もちろん、しっかりと考えてきましたよ。」

「この書道教室で宿題がでたなんて初めて聞いたわ。」糸井さんが目を丸くして言う。

「実はですね、僕に課されたこの宿題は書道とは全く関係ないんですよ。」

「そうなんです?」

「ちわーっす。」下駄箱の方から男の声がする。

「あら甲田君じゃない、今日は野球はお休みなの?」もう僕の話には興味をなくしたのか、桐生さんは甲田に夢中である。

「休みではないですが、文武両道のため、文の方も鍛えるためですよ。」さわやかに言う甲田に桐生さんは分かりやすいほどにきゅんきゅんしている。甲田さとし、高校の頃の同級生でよくつるんでいた。卒業とともにいっさい連絡を取ってはいなかった。前からこの書道教室には通っていたらしく、僕の方が後から入った形で、それからまたつるむようになった。今は草野球の助っ人としてこの辺を周り助っ人料で生計を立てている。本人は草野球選手と自称しているが、もちろん確かな職に就いているわけではないので・・・、つまりニートだ。

「それより、さっきの宿題って何なのですか?」

「桐生さんがこの書道教室でサークルを作ろうって言い出して、何をやるか考えてこい、って宿題だったんです。」なぜなのかわからないが、桐生さんが誇らしげである。

「それで松田君は何をしようと思ったのですか?」こんなにくいつきのいい糸井さんは珍しいなと思ったが僕は平然と進める。

「商売をしてみようと思うんだ。」

「あたし料理できないわよ。」横から桐生さんが口を挟む。何で食い物や限定になるんだよ。

「てことは桐生さんが作った料理をおまえが売ると。」

「松田君だけじゃないわ、この書道教室全員でやると言うのがこのサークルのルールよ。」全員ってのはいつ決まったルールなんだよ。

「と言うか料理から離れなさいよ。」

「じゃあ俺も混ざっていいのか?」こんな何をするかも決まってないサークルに進んで混ざりたいのか、さとしよ・・・。

「と言うことは私もですか?」

「当然!!!」どこまでもまっすぐな瞳だ。・・・屈折しろ。

「では、私も頑張らせて頂きますので宜しくお願いします。」糸井さんは腕をまくり始めた。

「そして、私はまず何をすればよろしいのですか?」

「商売かぁ、武器屋とかどうだ?」人のこといえないが、こいつの脳味噌は残念だ。

「もっとこう現実味があるものにしようよ。」

「んーじゃあ金物屋さんか?」

「刀なら、剣道の師匠に聞けば・・・」

「糸井さん、甲田の話はおいておきましょう。話しを戻そう、もっとこう誰もが気軽に立ち寄れるような・・・。」

「コンビニとかにすればいいんじゃないの?」桐生さんが

まともなことを言うと僕の思考は一旦停止してしまうのだ。

「ねぇ松田君、聞いてる?」桐生さんが僕をのぞき込んでくる。近づいてくる甘い香りにハッと意識を取り戻した僕は、桐生さんにうなずいた。

「よし、それでいこう。」

「ちなみにどこでやる気?」そこまで考えてなかった僕が浅はかだったと誰が攻められようか?

少し考えた後、閃いた。

「あの商店街でやらない?」

「いやよ、あんな寂れたとこ。」

「あの商店街、昔は栄えていたと聞きますね。」

「そう、僕が目をつけたのもそこなんだ。僕たちの手であの商店街を蘇らせてみない?」

「いいなそれ、すっげーわくわくするな。」

「楽しそうですね。」

「そういうことならあの商店街でもいいわ。あの商店街を桐生商店街にしてみせるわ。」桐生さん、悪い顔だ。

「それで、コンビニというと、具体的に何を販売しますの?」

「刀か?」

「いい加減武器から離れろよ。」

「あたしたちの書を販売してみるってのはどう?」なんでそんなに自信満々なのか小一時間問いつめたい。

「誰が買うんだよそんなもん。」

「ファンよ。」

「桐生さんファンなんていらっしゃるのですか?」

「当然よ、この桐生千春がどんだけネットの地下アイドルやってると思ってるの?」

「どれだけってまずやってるのすら知りませんよ。」

「ん?さとみ・・・あ、もしかして桐生さんの二つ名ってあのチハルンですか???」

「ええええええっ、こ、甲田君知ってたの?」あわてふためく桐生さんってのも珍しい。

「そりゃあもう、僕らのアイドルですから。まさかこんな近くにいたなんて、驚きですよ。」

「松田君、つまりそういうこと、だから売れるの。」

「そういうこと!じゃないですよ、果たしてその手の方々がリアルで姿を現すでしょうか。彼らは現代の忍者なんですよ、通信販売じゃないとだめですよ。」

「この国にもまだ忍者がいらしたのですか?」糸井さんも習い事のし過ぎでねじが飛んでいるようだ。

「例えですよ、例え!」

「考えてみたらそれもそうね。リアルはリアル、ネットはネット。両方のアイドルになってこそ真のアイドルだわ。」どこまでも前向きだ。

「さすがチハルンです。」

「おまえは黙れよ。」

「と言うわけで、結局何を販売しますの?」今度はルートを間違えないようにせねば、またループになってしまう。

「うちの実家、趣味でラムネ作ってんだけど。それ売ってみるのはどうだ?」

「甲田君、裸・胸なんてはしたないです。」糸井さんは胸を隠すような格好をした。

「どんな発想だよ。」にしても恥ずかしがる糸井さん、かわいいなぁ。

「糸井さん、誤解ですよ、ラムネっていうのは飲み物でして・・・。」必死にラムネの説明をする甲田。シュールだ。

「そうと決まれば、まずレイアウトをどうするか決めましょ。」桐生さんは半紙の上に筆で四角を書き、コンビニのレイアウトを書き出した。贅沢な半紙の使い方である。本物の書道家に見られたら怒鳴られそうだ。そんな師範は相変わらずネトゲ三昧なのだが・・・あ、来た。

「あら、今日はたくさん来てるのね。」

「お、お母さん!!!」

「師範!!久しぶりですね。」

「あら、甲田君じゃない。それに糸井さん、松田君も。」

「師範、お久しぶりでございます。」

「こんにちは。」

先生に対しこの反応は普通ではあり得ないんだが、それくらい久しぶりなのだ。

「何々?おもしろいことやってるみたいじゃないの?」その前にあなたは仕事しなさいよ。

「あたしたちサークル作ったのよ。」

「サークルって何の?」

「商売をするのよ。」

「で、何を売るの?武器、防具??薬草とかの道具屋???」さすがゲーム脳。

「違うわよ、ラムネを売るの。」

「食玩はどうするの?」今度はそっちか。

「ないわよそんなの。」

「何いってるの、食玩あってのラムネでしょ。」

「師範、そっちのラムネじゃなくて、飲むほうのラムネです。うちの実家で作ってるんですよ。」

「そう、私もできることがあったら手伝わせてもらうわ。」

プルルル、プルルル・・・師範の携帯がなる。なにやら深刻な話しをしているようだ。

「ごめんなさい、せっかくみんな来てもらってるのに・・・、パーティが今大変みたいなのよ。僧侶のあたしがいないと回復役がいなくて、急だけど戻るわね。」いったい何をしにきたのか。師範はまたネットの世界へ帰っていった。

「さて、話しを戻すわよ。」一つ咳払いをして桐生さんは話し始めた。

「せっかくだから誰も見たことのない斬新なレイアウトにしましょ。ハイみんな、意見出して。」いつもながら知らず知らずの内に仕切り出す人だ。

「こんにちはー!」この声は水月綾みなずきあやさんだ。この書道教室に通う最後の一人だ。

「珍しいわね、みんなそろってるなんて」

「アヤ、あんた最近全然こなかったわね。何やってたのよ。」

「あたしはあんたと違ってずーっと家にいるような暇人じゃないのよ。あたしには彼氏もいるし、バイトもしてて忙しいのよ。」バイトといえど唯一この書道教室で就業しているまとも人だ。

「あたしだって忙しいのよ・・・漫画読むのとか!」桐生さん、張り合えてないって。

「糸井さんは今日習い事はなかったの?」

「はい、今日はなにもなかったので。」

「聞いたでしょ、この書道教室はね、みんな優先順位で言うと下の方なのよ。つまり暇人が来るところなのよ。」

「水月それは言い過ぎだろ!」甲田が水月にストップをかける。

「ご、ごめん・・・」詳しくは知らないのだが、甲田は水月の命の恩人らしい。それ故、いつもツンツンしてる彼女も甲田にだけは素直だ。

「みんな落ち着いて!それで桐生さん、レイアウトはどうなさいます?」糸井さんが場をなだめる。さすが僕のエンジェル。

「この書道教室に通ってる以上、このサークルに入ってもらうわよ。」

「何言ってるのよ、あたしはここに書を習いにきたのよ。」

「甘いわね、今はサークルの時間よ、だからあんたも私たちに協力するの。」桐生さん[甘いわね]の使い方間違ってるよ。

「はいはい、で、何をするサークルなの?」

「商売!」桐生

「何の?」水月

「ラムネ」甲田

「飲み物の?」水月

「そのようです」糸井

初めて一回で伝わった。なんか感動するな。

「で、斬新なレイアウトなんかないの?」

「レジが5つとか。」

「あんたバカじゃないの、その5つに何の意味があるのよ、経費がかかるだけじゃない。」わかってます、意味がないことなんて自分自身が一番わかっていますとも。それでも自分なりに斬新さを考えたんですよ!

「店員がいらっしゃいませじゃなくて、お帰りなさいって言ってあげるとか。アットホームみたいだろ。」

「んー、松田君と違っていい考えだと思うけど、それじゃ某喫茶みたいになるから、んー・・・」扱いがえらい違うな。

「そもそもなんであんたは斬新さにこだわるのよ。」さすが水月さん、ここの誰もが聞けなかった質問をしてくれる。

「全国にコンビニがいくつあると思ってんの。4万5千以上あるのよ、同じじゃ勝てないじゃない。」

「確かにそうね。」

「と、言うわけで、明日までにそれぞれが思う斬新さをA4サイズの用紙にまとめてくること。」桐生さんはそういうとテーブルの上にA4の半紙を叩きつけた。

って半紙かよ!

「あのぉ、申し訳ないのですが、明日はお花教室が・・・。」

「そうだ、そのお花も売ればいいのよ。」そうだ!じゃねーよ、まぁでも[お花]って生けた後どうするんだろ。あまりに無縁すぎてよく知らないなぁ、売るってありなのかな?

「えぇぇ・・・」

「桐生さん、糸井さん困ってるし、そんなに急がなくてもいいんじゃない?みんなの予定が合うときで。」

「そうよ、みんなあんたみたいに暇じゃないのよ!」キツい気もするけど水月さんの言うとおりなんだよな、僕は暇だからいつでもこれるけど。

「そうよね・・・。ごめんなさい、さすがに自分勝手すぎたわね。」

やっぱり桐生さんが謝るってのはなれない。

「郵送でもかまわないわ。」

そっちか。まぁらしいって言えばらしいんだけどね。

「甲田は大丈夫なのか?」草野球とかあるし。

「金が稼げるんだろ?だったら草野球なんてやる必要もないしな。俺はかまわないぜ。」

「あたしは行けるときしかいかないわよ。」

「わたしも忙しいので。いつもとまではいかないです。で、でもできるだけ行けるようにいたします。優先順位も最上位にもっていけるようにします。」糸井さんはまるで桐生さんに訴えるかのように答えた。

「糸井さん、あなたなんでそんなに必死なのよ、千春が怖いから?だったら気にしないで、あたしがかばってあげるから、大丈夫よ、無理しなくても。やりたいことをやりなよ。」水月さん的には桐生さんの思い通りになるのは面白くないのかなぁ、なんだか水月さんも必死に見える。

「そうですよ、糸井さん。無理しなくても・・・。」できれば僕としては毎日来ていただきたいという下心が喉からでそうではあるのだが、ここは糸井さんの為だ、うん。

「そうじゃないんです。私、自分から何かを始めるって今まで一つもなかったんです。今している習い事は全て母親の強制みたいなもので・・・。糸井財閥の一人娘としてこれくらいこなして当然みたいにいつも言われて。確かに中には面白いものもありました。でもやらされているという感じは拭えなくて・・・。だから、だからこそ!私、自分で何かをやってみたいんです。迷惑でしたら・・・その・・・」

「迷惑なわけないじゃない!あなたも重要な人員の一人。欠けてはだめなの!この5人でやることに意味があるの。」桐生さん、その調子、もう少しで引き込める!あ、いやいや断じてやましい気持ちなどないぞ、桐生さんがかっこよかったからついつい・・・ね。

「はい!どこまでできるかわかりませんが、よろしくお願いします。」そういうと糸井さんはニコッと笑った。その笑顔に僕は糸井さんに79回目の恋をした。

「はぁーーーぁ、これじゃあたしが悪者みたいじゃない、面白くない。いいわ!あたしも行ってあげる。千春の暴走を止められるのはあたしだけだからね!」ありがとう水月さん、こちらとしては願ったりかなったりです。

「なんか面白くなってきたな、がんばろうぜ。」さとしよ、お前は気楽でいいなぁ。

「ところで桐生さん、コンビニっていうのにラムネだけでいいの?」これじゃラムネ屋だしね。

「当然だめよ。だれか家庭菜園やってないの?」

「・・・」みな顔を見合わせる度首をふる。

「じゃあ青果は私が担当するわ。」桐生さんは自信満々に言う。

「ちょっと待ってください。青果っていうとまるでスーパーって感じじゃないですか?」止めてまで言う問題じゃないかなぁとも思ったけど、まじめに活動するんだから当初の目的は忘れないようにしないと。と思って言ってみた。

「大丈夫よ、コンビニって言うのは決まった面積で飲食料品を扱いかつ14時間以上営業してればあとは自由でいいのよ。」いつも思うけど、知ってる知識がおかしい。

「で、場所はどうするんだ?」甲田が確信をつく。

「私がお父様に頼めば、あの商店街を買い取ることもできるかもしれません。」さ、さすが糸井財閥の娘・・・

「す、すごいな・・・」甲田もその言葉にたじろぐ。

「しょ、商店街を買い取らなくても、まずは一軒レンタルできれば。」

「そうね、リスクがあった方が燃えるしね。」水月さん、さっきとはうってかわって燃えてるなぁ。

「そういうことでしたら、シャッターが閉まった空き店舗を一軒貸してもらえるように、お願いしてみます。」

「とりあえず今日はそんなところにしましょう。仮にもここは書道教室だから、書をしないとね。ってあんたが言わなきゃいきえないセリフよ、千春!」

「えーだってわたし、本当は書道好きじゃないんだもん。」教室の娘にあるまじき発言だな、おい。

そんなわけで、今日はその後みんなで[踏み出す一歩]という字を書いて今日は終わった。

僕は帰りに桐生さんに呼び止められた。

「松田君、今からちょっとつきあってくれない?」

「え?いいですけど。」

そういうと桐生さんは、歩いてすぐの西宮{にしのみや}公園に来た。

お互いブランコに乗ると、桐生さんが口を開いた。

「わかってるとは思うんだけど、私ってたまに病的に暴走しちゃうじゃない?」桐生さんは、夕日を眺めながらぼそっとつぶやいた。

「はい。と言っていいのかわからないですけど、まぁそうですね、はい。」

「言ってるじゃない。」

「すみません。」

「いいのよ、わたしが言い出したことなんだから。・・・でね、松田君がいろいろとちょうどいいと思ったの。」

「・・・はい?」僕には桐生さんが何を言ってるのか意味がわからなかった。

「だからね、私が暴走しちゃった時は松田君に止めてほしいの。・・・本当はさ・・・。」

「え?」

「とにかく、そういうことだから、頼んだわよ!」

「は、はい。」最後のほうなんて言ってるか聞こえなかったな。

「でね、あんたサークルのこと、どう思う?」

「いいと思いますよ、こういう雰囲気、僕好きですし。」「実は私ね、商売ってやってみたかったのよ。」桐生さんは明るく笑った。黙ってればかわいいのに。

「だからコンビニのこととか詳しかったんですか?」

「んーそれとは違うんだけどね、あれは単に雑学好きなだけ。」

「昔ね、商売がしたくて、母親の書を売ろうとして怒られたことがあるの。」

「それはむちゃくちゃだね・・・。」

「それでもあきらめられなくて、今度はそこら辺に生えてる雑草を薬草とか言って8Gで売ろうとして家族会議にかけられたこともあったわ。」

「8Gってなんだよ!」

「何言ってんの、薬草は8Gが相場でしょ。」相場ってなんだよ。

「そう・・・なんだ。というか家族会議って何なの?」

「簡単に言うと、私の行動が善か悪かを判定する会議なの。」

「悪ってなったらどうなるの?」

「もちろんふくろだたきよ。」

「えぇぇぇぇぇ、す、すごい家庭だね。」問題になってもおかしくない家庭だ。

「罪状レベルでふくろがランクアップしていくの。」

「は?」意味が分からない。

「2Lから3L、~5L、規格外って感じでね。」

決して口には出せないけど、袋叩きってその袋じゃないんだ。やっぱりこの人しゃべるとだめだ。

「あ~そうなんだ。そもそもなんで商売をやりたかったんですか?」

「なんで?かぁ、生まれながらにそういう血が流れてたってことにしておいて。」

「はい・・・。」

「じゃあ、よろしくね。また明日。」

と言って桐生さんは帰っていった。

次の日・・・

今日もいつものように遅起き。こんなんじゃだめだよな、とは思ってもやることないからしかたないんだ。という自分へのいいわけをする毎日。

そしてやることもない僕は今日も書道教室へ。

すでに水月さんが来ていた。

「あんたもそうとう暇ね。」

「ま、まぁね。」来て早々きつい一言。

少し遅れて甲田、糸井さんも到着。

「では、今日もミーティングを始めていくわね。」

「千春はすっかりリーダーね。」

「違うわ、このサークルのリーダーは松田君よ。」

「あ、はい。って、え”え”え”えええぇ。なんで

僕なんですか?」あ、そうか!こ、これも暴走の一つなんだ!止めなきゃ。

「桐生さん何言ってるんですか!ダメですよ、勝手なこと言っちゃ。」

「ちょっときなさい。」そういうと桐生さんは僕の服を引っ張り強引に奥の部屋へとつれていった。

「どうしたんですか!桐生さん。」

「どうした?じゃないわよ!なんで素直に引き受けないのよ!」

「暴走を止めるってあんな感じでいいんですよね!」

「バカじゃないの!?全く暴走してないわよ。自覚あるわよ!ってかコンビニってあなたの考えなんだから、あなたがリーダーで全然不思議じゃないでしょ。私の考え間違ってる?」

「いえ、間違っておりません。」これはこう言うしかない。てか暴走って何?

「でしょ、じゃ、任せたわ!リーダー!さ、戻りましょ。」

またしても桐生さんに連れられて、みんなの所へ戻った。

「と、言うわけでリーダーは松田君に決まりましたー!」

「この数分の間に何があったんだ・・・?ま、いいか!では、リーダーから一言」甲田がノリノリだ。

「い、一生懸命頑張りますので、宜しくお願いします。」

「頼りないわねぇ、ま、千春よりはましだけどね。」

「どういう意味よ!」

「そのままの意味よ!」不穏な空気が流れる・・・

「まぁまぁ。」僕がそういった瞬間二人が同時にこちらを向いた。

「うるさい。」

「ご、ごめんなさい!」同時に言われるとすごい迫力だよ。

「み、みなさん落ち着いてください。・・・うぅ。」糸井さんがこの場をなだめようとしている。僕がしっかりしなと。

「桐生さん、水月さん!」

「何よ!」

「コンビニ研究会、略してビニケン、ここに発足致します!記念に乾杯!」ぼ、僕は何を言っているんだ。

「乾杯ってそれ墨汁じゃない!」

「乾杯って言うからには飲みなさいよね。」

「あのぉ・・・桐生さん・・・冗談ですよね・・・あはは・・・」

「飲・む・の・よ!」だめだ、桐生さんが暴走してる。

「ちょっと千春正気??」

「の、飲みまーす!」な、何やってんだ僕は!

「・・・あ!あんた、ばかなの!!ほんとに・・・」

・・・目を覚ますと僕は病院のベッドで寝ていた。

「気づいたか?」ベッドの横にはユニフォーム姿の男が椅子に座っていた。

「さとしか。」

「墨汁を一気飲みする奴なんて始めてみたぞ!一応口に入っても大丈夫なやつみたいだったから大事にはいたらなかったものの、倒れるんだからびっくりしたぜ、ほんと。」

「にしてもまずかった。」思い出しただけで胸焼けが。

「どんな感想だよ。」

「桐生さんはあの後どうなったの?」あれだけ気が立ってたんだ、言ってしまった自分に自己嫌悪してしまってるに違いない。桐生さんの望む形で暴走を止められなかった自分をふがいなく思う。今度あったら謝ろう。

「ふさぎ込んじまったよ。自分のせいで・・・ってな。あれから一度も部屋から出てきてないらしい。俺と糸井さんであのてこのてで引っ張り出そうと思ったけど無理だった。」

「水月さんは?」

「糸井さんと様子を見に行ってるよ。」

「そっか。」

「目を覚ましたことだし、もう大丈夫だな。じゃあ俺この後試合入ってるから行くな。」そういうと甲田は駆け足で病室を後にした。

「女性陣は誰も見舞いに来ないのか・・・。僕がもっとイケメンだったらなぁ。」とそんなことを嘆いてても仕方ない。退院までの間に今後のサークルのプランを考えてよう。

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